このポストは<やまとことばじてん>の方のポスト ”<一様収束(数学)>のやまとことば ” の続編。<一様収束>という数学用語のやまとことば探しではなく<おさまる>というやや特殊な動詞に重点をおいている。調べてみたとことろ以外な発見があった。しかもその発見の中にははなんと<一様収束>の理解に役立つものもある。もともと<やまとことばじてん>の方にあったが、日本語動詞の特徴や文法事項がよく出てくるのでこちらの方に移した。
< おさまる>をコンピュータワープロでは
収まる、納まる、治まる、修まる
と出てくる。違った漢字を使って区分するようだが、区分は明確ではない。もともとは平仮名で書けば、あるいは実際言ったり聞いたりする時はやまとことば<おさまる>の一語だ。慣用的な言い方を拾い出すと
1)これですべて丸くおさまる。
2)もとのさやにおさまる。
3)それではおさまりがつかないだろう。
4)腹の虫がおさまらない。
5)これではどうもおさまりがわるい。 この椅子はどうも腰のおさまりがわるい。
6)国王(社長)の座におさまる。 <おさまりかえっている>というおもしろい言い方がある。
7)たくさんあるがひと箱におさまる。
8)この手帳(今は携帯(電話)か)はポケットにすっぽりおさまる。
9)風がおさまる。
10)騒ぎ(混乱)がおさまる。
11)いかりがおさまる(おさまらない)
12)さいわい今日は腰の痛みがおさまっている。
13)この国はいまは問題が山積しているが昔はよくおさまっていた。
14)身がおさまる。
それぞれ<収まる、納まる、治まる、修まる>の中から漢字が選べそうだが、はっきり分けられないものが多い。このようにいろいろな意味で使われると言葉の意味に反して<おさまる>は<おさまりがつかない>ようだが、上で述べたように、つまりはやまとことばの<おさまる>なので共通項は見つけられそうだ。
1)2)3)4)5)6)7)8)はカメレオンのような多義語<おさまる>の共通的な意味(共通項)をよくあらわしているようだ。
7)8)は漢語を使うと<収納される>が該当する。
<税金、年貢を納める>の他動詞<納める>は他動詞で、納品、納品書は商売人は毎日のように使っている。<納める>のこの意味での自動詞<納まる>は使用頻度は少ない。そもそも<税金、年貢を納める>の<納める>とはどういう意味か。<そろそろ年貢の納めどきだ>というのもある。だれが決めたか知らないが、税金や年貢は<納めるべき>ものなのだ。変な言い方になるが、言い方を変えると<だれが決めたかに関係なく税金や年貢は納まるべき>ものなのだ。下線部は<おさまる>の共通的な意味(共通項)を考える上で参考になる。
漢語になるが<納得する>は<受け入れる>の意に近い。<受け入れる>は<おさまる>に通じるところがある。さてこの<納得>の<得>は中国語では<得る>の意味もあるとは思うが、ほぼ無意識でよく使われるのは<できる>の意味だ。したがって<納得する>は<できる>の意味のある<受け入れることができる><受け入れられる>の意。<得>がよく使われるのは
做得 - できる、だがふつうは<做得好-よくできる>、<做得不好-うまくできない>で使われる
覚得 - 思う、感じる、と訳せるが基本的には<できる>の意味を含んだ<思える、感じられる>だろう。
したがって
7)たくさんあるがひと箱におさまる。
8)この手帳(今は携帯(電話)か)はポケットにすっぽりおさまる。
は
7)たくさんあるがひと箱におさまる。 -> おさめることができる、おさめられる。となる
8)この手帳はポケットにすっぽりおさまる。-> すっぽりおさめることができる、おさめられる。となる
だが<おさまる>の方が簡潔でしかも純やまとことばらしい。純やまとことばらしい自動詞はほかにもあるが、英語教育の影響からか今は他動詞受け身形が多く使われているのではないか?もっともよく調べてはいないので推測。
9)10)11)<風が、騒ぎが、混乱がおさまる>は<終息する(終わる)><やむ>でもよさそう。
12)<痛みがおさまる>は治療の字からは<治(おさ)まる>でもよさそうだが<終息する(終わる)>、<やむ>でもよさそう。
13)<国がおさまる>は国がばらばらではなくひとつにまとまる。
14)<修まる>も他動詞<修める>が主に使われ、<学業を修める>で<身につける>の意が基本にあるようだ。修業式、修業証書(まだ使われているか)では<ある学習過程を終える>と言った意味を含んでいる。ごく大雑把には<受ける、受け入れる>と言える。今はあまりはやらない<身を修める>というのがあるが、これはいかえると<修身>で中国(哲学)由来で意味は<道徳的に合格になる>といったところだ。 <身が修まる>はほとんど聞かないが、昔は<太郎左衛門は身がよく修まっている>といった言い方があったかも知れない
さて<おさまる>の共通的な意味(共通項)だが、ネット辞典の<日本語早わかり>https://nihon-go.jpに次のような解説がある。
”
「収まる」「納まる」「治まる」「修まる」は、いずれもオサマルと読む異字同訓の語です。
「収まる」は、中にはいりきるという意味や、安定した状態に戻るという意味をあらわします。前者の意味では、「納まる」に言い換えることができます。
「納まる」は、金品が受け取られる、納入されるという意味や、ある場所や地位に落ち着くという意味に用いられます。
「治まる」は、世の中が平穏になる、痛みなどがよくなるの意味。
「修まる」は、人の態度や行いが良くなるという意味です。
”
下線部(sptt がつけた)の
ある場所や地位に落ち着く
平穏になる
は似たような意味で共通的な意味(共通項)が引き出せるかも知れない。
関連する言い方に<落ち着くところに落ち着く>といういのがある。これまた言い方をかえると<落ち着くべきところに落ち着く>だ。
2)もとのさやにおさまる。
は<安定した状態に戻る>に近い。
13)この国はいまは問題が山積しているが昔はよくおさまっていた。
は
「治まる」は、世の中が平穏になる、
相当だ。
また
9)風がおさまる。10)騒ぎ(混乱)がおさまる。
11)いかりがおさまる(おさまらない)
12)さいわい今日は腰の痛みがおさまっている。
も単に<終息する(終わる、止まる)>というよりは<安定した状態に戻る>の意といえるが、<安定した状態>が望ましいこととして(xxであるべき状態が)想定されていて<その状態に戻る>といった意識がありそうだ。
<安定した状態に戻る>よりも<安定した状態になる>の方が一般的(普遍的)で、<2)もとのさやにおさまる>は<さやにおさまる>になる。一般的(普遍的)なものは特化されたものに比べて<共通的な意味(共通項)>になりやすい。ネット辞典の例では
安定した状態に戻る -> 安定した状態になる。
ところで<やまとことばじてん>の方のポスト<一様収束(数学)>の一番目のやまとことば候補として
一様収束: そろいおさまり
をあげた。収束は<おさまること>に近いが、<おさまり>方はいろいろある。<一様収束>は数学の意味内容にとらわれなければ<一様におさまること>-><みんなそっろておさまること>でよさそうだ。<おさまる>、収束を視覚的にあわわすと
Wiki - Damped Sine Wave
だいたいこれで
9)風がおさまる。
10)騒ぎ(混乱)がおさまる。
11)いかりがおさまる(おさまらない)
12)さいわい今日は腰の痛みがおさまっている。
は見て取れる。さらには繰り返しになるがネット辞典で下線をつけた
安定した状態に戻る
ある場所や地位に落ち着く
平穏になる
が見て取れる。ところで上で書いたように、<おさまり>方はいろいろあるのだ。このグラフでは<おさまり>は(少しづつ)段々になされている。現実には突然収まるのもある。たとえば
11)さいわい今日は腰の痛みがおさまっている。
は
昨日まで痛かったのに今日はなぜか突然痛みがおさまっている。
とも解釈できる、というか多分このような状況だろう。
これに関連してネットの<一様収束(数学)>の解説で
https://mathtrain.jp/ichiyosyusoku の中に
一様収束の定義と具体例
定義:
に一様収束すると言う。
全体が一様に(一気に)収束するというイメージです。
”
というくだりがあり、<全体が一様に(一気に)収束するというイメージです>という解説がある。「一番離れているところで測った値」がくせ者なのだが深入りしない。 <一様収束(数学)>の理解は簡単ではない。<全体が一様に(一気に)収束する>は参考になるがこれが<一様収束>というわけではない。
さて上のDamped Sine Wave のグラフのような<おさまり>では説明がつかないのが初めの例文14個ではかなりある。
1)これですべて丸くおさまる。
2)もとのさやにおさまる。
3)それではおさまりがつかないだろう。
4)腹の虫がおさまらない。
5)これではどうもおさまりがわるい。 この椅子はどうも腰のおさまりがわるい。
6)国王(社長)の座におさまる。 <おさまりかえっている>というおもしろい言い方がある。
7)たくさんあるがひと箱におさまる。
8)この手帳(今は携帯(電話)か)はポケットにすっぽりおさまる。
13)この国はいまは問題が山積しているが昔はよくおさまっていた。
14)身がおさまる。
<おさまる>はそう簡単におさまらないのだ。ネット辞典で下線をつけていない<おさまる>の意味は
「収まる」は、中にはいりきるという意味
「納まる」は、金品が受け取られる、納入されるという意味
「治まる」は、痛みなどがよくなるの意味。(<痛みがよくなる>というのは変だ)
「修まる」は、人の態度や行いが良くなるという意味
7)たくさんあるがひと箱におさまる。
8)この手帳(今は携帯(電話)か)はポケットにすっぽりおさまる。
「収まる」は、中にはいりきるという意味
でよさそう。
5)これではどうもおさまりがわるい。 この椅子はどうも腰のおさまりがわるい。13)国王(社長)の座におさまる。
は
「納まる」は、(金品が受け取られる、納入されるという意味や、)ある場所や地位に落ち着くという意味で説明できそう。だが「納まる」という漢字はどうもしっくりこない。
<ある場所や地位に落ち着く>は場合によっては<あるべき場所や地位に落ち着く>が適当だ。
5)これではどうもおさまりがわるい。
は<あるべきところにないので>を言外で意識すると<おさまりがわるい>を因果関係つきで説明できる。
異端児的な
14)身がおさまる。
を除くと残るのは
1)これですべて丸くおさまる。
3)それではおさまりがつかないだろう。
4)腹の虫がおさまらない。
この三っつは
「治まる」は、世の中が平穏になる、
で説明ができそう。また上のグラフでの<おさまり>でなんとか説明できそう。だがこれまた「治まる」という漢字はしっくりこない。ところで
1)これですべてまるくおさまる。
の<まるくおさまる>とは実際どういう意味だろう?
他動詞を使った
これですべて(を)まるくおさめる。
は、これで(このようにして、このような方法で)関係者間のいさかいをすべて調整し、解決していさかいのない(正常な)状態にもどす、といった意味だ。これからすると
1)これですべてまるくおさまる。->これで(このようにして、このような方法で)関係者間のすべてのいさかいが調整され、解決されていさかいのない(正常な)状態にもどる。
長すぎるので、短くすると
これで、いさかいがある状態がいさかいのない状態にもどる。
<まる>は<まる出し>というような言い方があるが、ここは<いさかいのない状態>の象徴でいいだろう。再び長くなるが<べき>を使うと
これで、いさかいがある状態があるべきいさかいのない状態にもどる。
このポストのタイトル ” カメレオン動詞<おさまる>。<まるくおさまる>とは?" からするとここで<以上>として終わらしたいが、これまでにいくつかつけた下線の部分にある<べき>が気になるので続ける。
繰り返しになるが
だれが決めたか知らないが、税金や年貢は<納めるべき>ものなのだ。変な言い方になるが、言い方を変えると<だれが決めたかに関係なく税金や年貢は納まるべき>ものなのだ。
<落ち着くところに落ち着く>というい方がある。これまた言い方をかえると<落ち着くべきところに落ち着く>だ。
<安定した状態>が望ましいこととして(xxであるべき状態が)想定されていて<その状態に戻る>といった意識がありそうだ。
<ある場所や地位に落ち着く>は場合によっては<あるべき場所や地位に落ち着く>が適当だ。
5)これではどうもおさまりがわるい。
は<あるべきところにないので>を言外で意識すると<おさまりがわるい>を因果関係つきで説明できる。
(まるくおさまる)
これで、いさかいがある状態があるべきいさかいのない状態にもどる。
重要なのは<べき>は表面にでてこない、実際には使われない、言葉に出てこないが、implicit で<おさまる>という言葉の中に<べき>の意味が含まれている(内包されている)ということだ。
上で勝手に引用したネット辞書とは別に、手もとの辞書(三省堂新辞解)にあったてみた。ネット辞書と同じように「収まる」「納まる」「治まる」「修まる」の漢字による四分類があるが、解説内容は少し違う。また例が多く示されている。
”
収まる
元通りの望ましい状態に戻ったり、都合よく受け入れらたりする。
混乱(戦火)が収まる
元の鞘に収まる
風が収まる(静かになる)
汗が収まる(引く)
ものがうまく収まる(全部きちんと)
社長におさまる
腹の虫が収まらない(<納まらない>とも書く)
”
<望ましい状態>は<あるべき状態>とも言える。だが<収まる>の解説には<べき>が出てこない。
ところが他動詞の<おさめる>(これも「収める」「納める」「治める」「修める」の漢字による四分類で解説している)の解説には「収める」として
”
収める
1)その物を本来あるべき(ふさわしい)場所に入れて望ましい状態にする。
金を金庫(懐)に収める
矛を収める(戦いが終わって武器をしまう)
言いたいことを胸に収める。 (sptt注:これは上の解説内容に合わないような気がするが、日本では望ましいことなのだろう)
2)望ましい状態のものとして受け入れる。
勝利を収める成功を収める
薬が効果を収める
”
この解説では
<本来あるべき>と<べき>がでてくる。
<望ましい状態>がキーワードになっている。
2)望ましい状態のものとして受け入れる。
は依然他動詞としての説明だが(<xxを受け入れる>と<を>をとる)、内容的には自動詞に近い。したがって例文の
勝利を収める
成功を収める
薬が効果を収める
は<勝ち取る、得る>といった他動詞的な感じではなく自動詞的な感じがする。自動詞<収まる>を使うと
勝利を収める ->勝利が収まる
成功を収める ->成功が収まる
薬が効果を収める ->薬の効果が収まる
となる。間違いではないと思うが、今はこのようにはほとんど言わない。また現代語だが古語<収む>の可能形で<できる>の意味を含むようだ。これは<おさまる>のカメレオン的な面を示している。以上をヒントにすると
1)これですべてまるくおさまる。 -> これですべてあるべきところにおさまる(落ち着く)。
2)もとのさやにおさまる。 -> もとのあるべきところにおさまる(落ち着く)。
3)それではおさまりがつかないだろう。-> それでは、本来あるべきところにないので、おさまりがつかない(落ち着かない)(具合が悪い)だろう。
4)腹の虫がおさまらない。 -> 腹の虫が、本来いるべきところにいないので、おさまらない(落ち着かない、いらだつ)。
5)これではどうもおさまりがわるい。-> これでは、本来あるべきところにないので、どうもおさまりがわるい(具合がわるい)。この椅子はどうも腰のおさまりがわるい。-> この椅子は、腰の位置があるべき望ましい(あるべき)ところにないので、どうもおさまりがわるい(具合がわるい)。
6)国王(社長)の座におさまる。 <おさまりかえっている>というおもしろい言い方がある。
これは必ずしも<べき>が必要というわけではないが、
国王(社長)の座におさまる。->ついに国王(社長)の座におさまった。 これで太郎(花子)はついに本来なるべき社長の座におさまる(ついた)。
という解釈(言い換え)は可能だ
7)たくさんあるがひと箱におさまる。-> たくさんあるが本来入るべきひと箱におさまる(はいる)。
8)この手帳(今は携帯(電話)か)はポケットにすっぽりおさまる。 ー> この手帳はあるべきところの場所のポケットにすっぽりおさまる(はいる)。
と言い変えることができ、かくされていた意味もあらわす。
sptt