Sunday, May 12, 2019

<急ぐ>は自動詞、他動詞?


日本語の<急ぐ>は、手もとの辞書では自動詞となっている。<に急ぐ>。例が少ないが<死に急ぐ>があげらている。例をさがせば

学校に急ぐ
病院に急ぐ

これらは言い換えると

学校に急いで行く
病院に急いで行く、駆(か)けつける。

の意だ。自動詞でいいだろ。しかし、この辞書にのっている例は

結論を急ぐ
検討を急ぐ
ことを急ぐ

があげられている。<を>をとるので他動詞ではないのか?この説明はこの辞書にはない。これまた<急いで>を使って

結論を急いで出す
検討を急いでする

と言い換えられ、この方がよく使われるだろう。つまりは動詞<急ぐ>はあまり使われず<急いで>という副詞用法が一般的だ。

ことを急ぐ - これは慣用的な言い方だ。しいて<急いで>を使えば<ことを急いでする>となる。

<急ぐ>は自動詞、他動詞、はたまた自他兼用動詞?

使役的な他動詞として<急がす>、<急がせる>がある。だがいくつかの言い方がある。

太郎を病院に急がさす。
太郎を病院に急がせる。
太郎を急がせて病院に行かす。 (これが一般的だ)

花子に結論を急がす。
花子に結論を急がせる。
花子に結論を出すよう急がす。
花子に結論を出すよう急がせる。
結論を出すよう花子を急がせる。
花子を急がせて結論を出さす。-これが一般的な言い方か?<急がせる、検討させる>で使役形が二度出てくる。

次郎に検討を急がす。
次郎に検討を急がせる。
次郎を急がせて検討させる。 - これまた<急がせる、検討させる>で使役形が二度出てくる。これは一種の文法パターンだろう。これまたこの言い方が一般的か?
他動詞的な<急ぐ>と使役的他動詞の<急がす>、<急がせる>はどこが違う。

結論を急ぐ (結論を急いで出す)
検討を急ぐ (検討を急いでする)

と使役でない場合は<誰が急ぐ>のか?使役ではないので第二者(話しての相手)、第三者ではなく、第一者(話し手)のようだが、

私は結論を急ぐ。
君は結論を急ぐ。
太郎は結論を急ぐ。
我々は結論を急ぐ。
君たちは結論を急ぐ。
太郎たちは結論を急ぐ。

英文法書の下手な日本語訳のようだが、間違いではない。少し言い換えて

私は結論を急いでいる。
君は結論を急ぐ必要がある。君は結論を急ぐべきだ。君は結論を急いだほうがいい。
太郎は結論を急いでいる。太郎は結論を急いでいるわけではない。
我々は結論を急いでいる。
君たちは結論を急ぐ必要がある。君たちは結論を急ぐべきだ。君たちは結論を急いだほうがいい。
太郎たちは結論を急いでいる。太郎たちは結論を急いでいるわけではない。

とすると日常会話に近い。しかも使役ではないが<を>をとる他動詞のようだ。これはどう説明したらいいのか?

これらは見方を変えると

急ぐ <- 自分自身を急がす

と解釈したらどうか? 順序を変えると

自分自身を急がす(急がせる) -> 急ぐ

この場合<急がす(急がせる)>は使役でもいいし、もっと一般的な他動詞でもいい。そして、ここが肝心なのだが、<急ぐ>は自動詞となる。なぜなら<急ぐ>は<自分自身から発生している>行動だからだ。この見方は<急ぐ>に限らず他の自動詞だか他動詞だかよくわからない動詞にも応用できそう。

だがこの説明は<急ぐ>が自動詞説明としてはまあいいが、なぜ<を>をとる自動詞なのかの説明にならない。話は別でわけて考えておく必要がある。さらにだが、この疑問への回答はすでに上にある。つまり

結論を急ぐ
検討を急ぐ



結論を急いで出す
検討を急いでする

の<省略>と見るのだ。 <省略>はゴマカシのように見えるが、そうではない。

Do you get up early in the morning everyday?

-Yes I do.

と省略され、これで十分なのだ。はたまただが、これは話が違いゴマカシのようだ。はたまたまただが、英語では次のようにいう。

he hurried his lunch   
ランチを急ぐ -> 急いでランチを食べる。
to hurry back/home
家路を急ぐ -> 急いで家に帰る。
to hurry in/out
入(はい)るのをを急ぐ/出るのを急ぐ -> 急いで中に入(はい)る、急いで外に出る

最近の別のポスト<イタリア語の再帰動詞-3 (自動詞、他動詞)>参照。

以上とは別に

家路(いえじ)を急ぐ。

というのがある。これは

 家路を急いで帰る、戻る、行く。

と言い換えられ、これは

 家路を帰る、戻る、行く。

で<を>をとる移動動詞として説明できるだろう。だが<省略法>は同じだ。

sptt

Saturday, May 11, 2019

イタリア語の再帰動詞-4(自動詞、他動詞)


前回のポスト ”イタリア語の再帰動詞-3(自動詞、他動詞)” が長くなってきたので、続きは独立させることにした。イタリア語の再帰動詞の検討の結論の一つは前回のポストの最後に書いた。重要なの繰り返しておく。


to hurry の自動詞用法が to hurry oneself の意になる。見方を変えると他動詞 to hurry を使った to hurry oneself が自動詞の to hurry になるということだ。つまりは英語では表面上 to hurry が自動詞にも他動詞にもなるということなのだ。これは英語の大きな特徴で実際には to hurry oneself  はほとんど使われず(myself, yourself, himself, herself, themselves は長すぎる)to hurry で間に合わせている、済ませている。一方イタリア語は他動詞+si (mi, ti, si, ci, vi) の再帰用法で英語の自動詞に対応させている。日本語はどうか?答えは、日本語では他動詞/自動詞ペアで対応しているといえる。

以前に

1)英語ではなぜ自他兼用動詞が多いのか?
2)日本語ではなぜ他動詞/自動詞ペアが多いのか?

という疑問をなげかていたが、これが答えになるだろう。あるいは

 3)イタリア語ではなぜ再帰用法動詞が多いのか?

という疑問に対する答えにもなるわけだ。 



これは動詞 to hurry に限ったことではない。イタリア語の再帰動詞の検討の結論(イタリア語の再帰動詞用法の特徴)の一つで他にもイタリア語の再帰動詞用法の特徴があるはずだ。もう少し例を検討してみる。

Italian Grammar Drills (Paola Manni - Tate 著)という初級イタリア語文法(練習)書がある。その Chapter 10 は Reflexive Verbs で、次のような解説がある。

Reflexive verbs express an action reflecting back to the subject. In other words, the subject and the object  are the same within a sentence. Many verbs that are reflective in English are also reflective in Italian, but not all reflective in both languages.

この解説は間違いではないだろうが、いかにも簡単すぎる。こと(イタリア語の再帰動詞)はそう簡単ではない。この解説に続いて再帰動詞の例が英語訳つきで紹介されている。イタリア語の再帰動詞の検討には例が多い方がいいので、前回のポストの例に加える意味で、その個所をコピーしておく。

abituarsi   -   to get used to
addormentarsi  -   to fall asleep
alzarsi   -  to get oneself up
ammalarsi   -   to get sick
annoiarsi   -   to get bored
chiamarsi  -  to call oneself
dimenticalsi   -   to forget
divertirsi   -   to have fun
domandarsi   -  to wonder
farsi la barba   -   to shave
farsi il bagno   -   to take a bath
fermarsi   -   to stop oneself
girarsi   -   to turn oneself
lamentarsi   -  to complain
lavarsi   -  to wash oneself
meravigliasi   -  to be ashameed
mettersi   -   to put on, wear
mettersi a   -   to begin
prepararsi   -   to get ready
presentarsi   -   to introduce oneself
ricordarsi   -   to remember
riposarsi  -  to rest
sedersi   -   to sit down
sposarsi  -  to get married
svegliarsi   -   to wake up
vergognarsi   -  to be ashamed
vestirsi   -   to get dressed

以上はこれまたabc順で、特に区分け、分類はない。

前回のポストで取り上げた例(Collins の伊英辞典の巻末あるに再帰用法動詞の項の中の例)と重なるものが少なくない。

addormentarsi   to go to sleep
alzarsi   to get up
annoiarsi   to to get bored / be bored
chiamarsi   to be called
(chiedersi  to wonder) - これは英語の to wonder が同じ。上ではdomandarsi   -  to wonder。
divertirsi   to to enjoy oneself / to have fun
fermarsi   to stop
lavarsi   to wash / to get washed
prepararsi   to get ready
ricordarsi   to remember
sedersi   to sit
svegliarsi   to wake up
vestirsi   to dress / to get dressed

重なっているということは再帰動詞の<例中の例>、代表的、典型的な例かもしれないので、これら例を個々に少し詳しく調べてみることにする。幸い前回個々に検討した例は<fermarsi   to stop>だけだ。