だいぶ前のポスト<する、やる>で次のように書いた。
”
<始末>意味からしていかにも漢語のようだ。発音も現代中国語で<shi-mo>、 広東語で<zhi-mat>。ただし、中国語圏で使われているのを聞いたことがはない。たぶん、日本語では他の漢語<顛末>の意に近い。かなりの推測だ が、<始末>おそらく<仕まう>と関連がありそう。<始末する>は<処理する>、<終わらす>だ。<始末が悪い>は<処理に困る>といった意味だ。<仕ま う>の関連語に<収める>がある。<仕舞う>の<舞う>は不適当。
”
<しまう>についてもう少し考えてみる。
本動詞としては
1.<やめる>、<おえる>、<おわらす>の意で他動詞。対応する自動詞はなさそうだが<閉める>の自動詞形<閉まる>が対応しそう。
例
店をしまう - 1)閉店する(繰り返しの行為)と、2)商売をやめる、の意がある。<閉める>。
店がしまる (自動詞)
<しまう>の連用形は音便で現在は<しまって>だが、昔はあるいは地方によっては<しまい>で、この連用形の体言(名詞)化<しまい>は今でもよく使う。
例
店<じまい>
今日の授業はこれでお<しまい>にする。
<しまい>には怒り出した。
2.中にいれておく、収める、の意だが<閉める>行為、動作がからんで<外から見えないようにしておく>といった意味が内包されている。
例
金を金庫にしまう。
ただし大事なものを<しまう>場合には念入りに<しまっておく>という複合動詞用法が多いようだ。
金を金庫にしまっておく。
これは秘密だから心の中にしまっておいてだれにも言うな。
<しめる(閉める)>は関連語には<閉まる>、<締まる>、<締める>、<占める>があるが、大和言葉(漢字をつかわなければ)いずれも<しまる>、<しめる>で、大きく考えれば、あるいは一般化を進めれば上記の1)と2)の意味に関連してくる。また<しまう>、<しまる>、<しめる>は
これは<しめ>たものだ。
しめしめ
しまった
と慣用的用法があり、相当こなれた言葉で、<終わる>、<終える>はよそよそしいところがある。
(またアクセントは違うが<湿る>がある。この<湿る>の関連語には<しむ(染む)>がある。)
さて、手元の辞書によると、<しまう>には上記の<本動詞>以外に<補助動詞>の意味、用法がある。
基本的には<しまう>に完了という文法上大きな意味があり<補助>を超えてアスペクト形成の働きがある。
接続をみると
してしまう - し終える
食べてしまう - 食べ終える
読んでしまう - 読み終える
書いてしまう - 書き終える
のように、<しまう>は<動詞の連用形(音便化する場合がある>+<て>につく。一方<終える>は<動詞の連用形(音便化がない>につく。<て>は過去(または完了)の助動詞<た>と関連があり、<XXてしまう>は形態的に完了の強調と言える。
意味も少し違う。
<し終える>、<食べ終える>、<食べ終える>、<書き終える>があらたまった(よそよそしい)感じがする以外に完了とはいいながら<終えるまで>の経過が含まれていて継続的、<線的>な感じがするのに対して<してしまう >、<食べてしまう>、<読んでしまう>、<書いてしまう>は<終えるまで>の経過は考慮されずに完了が強調されており、<点的>な完了の感じだ。
<しまう>の面白いのは、時制をからめるとある意味で意味が逆転する場合があることだ。
現在(未来)の場合(日本語では現在形で未来をあらわす/せる)
してしまう、やってしまう、書いてしまう、見てしまう、捨ててしまう、食べてしまう
中立的な<終わらせる>でも使うが、<終わらせよう>という意図が含まれている場合が多い。
過去
してしまった、やってしまった、書いてしまった、見てしまった、捨ててしまった、食べてしまった
現在と同じように中立的な<終わらせるた>でも使うが、<終わらせようとした>という意図が含まれておらず、むしろ意図に反して<終わった>の意が加わる。
これはどういうことか?<しまう>が補助ではなく重要な動詞であるわけがここにないか?
アスペクトとも関連してくるが、完了(終わる、終わらせる)には成功、不成功の区別が往々にしてある。ロシア語はこの辺(完了、成功、不成功のアスペクト)が発達しているようだが、中国語にもある。
买(買)得到 - 買った。買えた(完了、成功)。
买(買)不到 - 買わなかった。買えなかった(完了、不成功)。
戒得到煙 - 禁煙した。禁煙できた。禁煙に成功した。
戒不到煙 - 禁煙しなかった。禁煙できなかった。禁煙に成功しなかった(失敗した)。
日本語の場合結構いい加減で、<買った>が中国語のゲンミツな観点からは実際には<買えた>の意味の場合がある。一方<買わなかった>と<買えなっかた>、<禁煙しなかった>と<禁煙できなかった>では大きな意味の違いがある。
中国語に慣れていない人のために、ゲンミツにいうと、
xx を買った - purchased (bought) xx
xx が買えた - was (were) able to purchase (buy) xx
英語も日本語に近く、成功不成功を強調しなければ Hanako purchased the dress which she (had) liked. で<花子は好きなドレスを買った>とも<花子は好きなドレスが買えた>ともなる。<花子は好きなドレスを買えた>はまちがい。<が>の対格用法。
1)禁煙した - stopped smoking
日本語や英語ではこれで<禁煙できた>の意を含むことができるがゲンミツにいうと、
2)禁煙できた - was (were) able to stop smoking
となる。ただし、 、成功不成功を取り立てて言わない場合は1)を使う。
ところで、<しまう>の<し>はいいとして、<まう>はいったい何か?<まる>の音便といえそうだが、別のポストで書いた<みまう(見舞う)の語源>、<ふるまう(振る舞う)の語源>(*)の<まう>と関連はないか?
(*)
sptt やまとことばじてん:<ふるまい>の語源
sptt やまとことばじてん:<見舞う>の語源
sptt やまとことばじてん:<見舞う>の語源
sptt
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