Friday, November 4, 2016
<ゴメンなさい>、<ゴメンこうむる>について
<ゴメンなさい>はよく使うが、いったいどういう意味か?
<ゴメン>は<ご免>のことだが、相当複雑。<免>は<免ずる>で大和言葉では<ゆるす>の意だ。<免>に丁寧語の<ご>がついているのがミソだ。
<おじゃまします>とともに<ゴメンください>というが、<ゴメンください>は<お許しください>で意味が通る。だが謝るときの言葉<ゴメンなさい>は<お許し(ご免)なさい>では何のことだかわからない。<なさい>は<なす>の命令形のようで、<あやまりなさい>という。ところで東京弁では<ゴメンなすって>というのがある。これは<ゴメンなさってください>の略と考えると、おかしくない。<ご>がついているのもつじつまがあう。<ゴメンなさい>は<ゴメンなすって>のなまりか?
今はほぼ死語のようだが<ゴメンあそばせ>というのもある。<あそばす>は<する>の尊敬語のようなので、<ゴメンなさってください>でおかしくない。
<ゴメンこうむる>も難題だ。なぜなら<こうむる>はだいたい発話時に被害意識がある。<ご>がついた<ゴメン(お許し)>と<こうむる>はうまが合わない。
手元の辞書(古い三省堂の新明解第6版)では
1)<ゴメン>は<ご免>のことで、
ゴメンをこうむって先に帰らせていただきます。
天下御免の公営賭博
が例にある。
この他に
2)免職、免除の意があるとして
お役目ゴメンになる。
が例にあげらえている。
<免職>はこの例の<お役目ゴメンになる>から逆に意味として説明されている、と見た方がよく、<ゴメン>自体に免職の意はないだろう。免除は<許して除いて(除外して)もらう>の意で、単なる<お許し>とは違う。
3)拒否の意があるとして
(xxは)ゴメンだ。例:割の合わない仕事はゴメンだ。
(xxは)ゴメンこうむる。例:軍国主義の復活だけはゴメンこうむりたい。
が例として取り上げられている。だが<許す>と<拒否(ダメ、許さない)>はほぼ正反対だ。
1)<ゴメン>は<ご免>の
ゴメンをこうむって先に帰らせていただきます。
と
3)拒否の意の
(xxは)ゴメンこうむる。
の違いの説明を試みる。
<ゴメンをこうむって先に帰らせていただきます>は例にあげられているが、ほとんど聞いたことがない。すでに古語か。<お許しをいただいて先に帰らせていただきます>ならわたしもいいそうだ。
<(それは)ゴメンだ>と<(それは)ダメだ>は同じではない。
<(それは)ゴメンこうむる>はいいが<(それは)ダメこうむる>は意味をなさない。
上に述べたように<こうむる>はだいたい発話時に被害意識がある(被害意識を内包する、implied)。3)<拒否の意>は複雑で、<ゴメンだ>の主語は話者が<ゴメンする(たのまれて許す)>ことによって生じるおそれのある、話者にとって好ましくないコトなのだ。例:割の合わない仕事。
(xxは)ゴメンだ。例:割の合わない仕事はゴメンだ。
主語はこれでいいが、なぜ<XXはゴメンだ>と述語が<ゴメン>になるかだ。<割の合わない仕事はゴメンだ>の発話時の心理は
ゴメンして(許して)割の合わない仕事を引き受けるのは(するのは)いやだ。だからゴメンしない(許さない)。
といったところで、むしろ<ゴメン(許し)>の否定(拒否、拒絶)なのだ。
こうすると、<ゴメンこうむる>の<こうむる>が説明できる。”<ゴメンする(たのまれて許す)>ことによって生じるおそれのある話者にとって好ましくないコト”は<こうむる>のだ。これでよさそうだが、<xxはゴメンだ>と<ゴメン>が後にくる(述語のなる)のはどう説明したらいいのか?だが、こういう矛盾は言語上時々ある。深層心理がロジックに優先するのだ。
ゴメンして(許して)割の合わない仕事を引き受けるのは(するのは)いやだ。 --> だからゴメンだ。
後の<ゴメンだ>には前半の条件のなかの否定(拒否)の意が(深層心理下で)含まれているのだ。
sptt
Thursday, September 15, 2016
だます、だまる、ダメ
以前ドイツ語の接頭辞<ab->に関連して次のようなことを書いた。(<ab->は英語でも、abduction、abnormal、absent、 abstract などがあるが、<xxから奪い取る>といった基本的な意味がある。)
”
(*)だます
日本語は結構豊富で<だます>以外に
たぶらかす (<たぶる>という動詞があったのだろう)
ごまかす (<誤魔化す>は当て字だろうが、<誤魔>はおもしろい組み合わせだ。<だます>の関連、連想語か)
惑(まど)わす
かどわす(かどわかす)
まぎらす(まぎらわす)
まるめこむ
ばかす(化かす) - ばか(馬鹿)と関連があろう。
だま(dama)、ごま(goma)、まど(mado)、かど(kado)、まぎ(magi)はなんとなく語呂が似ている。
辞書によると<だます>の古語に<おびく>というのがあり、現在<おびく>自体は使われないが
おびき寄せる
おびき出す
は使う。
”
<だます>には<だまかす>という言い方があるが、いづれも他動詞。対応する自動詞は<だまる>だが、表面的な意味では<だます>の意の自動詞にならな い。この<だまる>の他動詞は<だまらす>で、<何も言わせない>という意味になる。<だます>の受身形は<だまされる>で、こじつければ<だまされる>ということは<(何も言わずに)いいなりになって、(だましの)指示にしたがう>こ とではある。
日常よく使う<だめ(ダメ)>は多義語だが、<だまる>関連だろう。<ダメ(だまれ)!何も言わずに、言うことを聞いて、指示にしたがえ>ということだ。<だめる>、<だめさす>、<だめさせる>という動詞はないが、<ダメ、と言って、何も言わさせずに、言うことを聞いて、指示にしたがわす>といった意味になるか?
<だめ(だ)、だめ(だ)>で禁止の意味になる。
一方<だめになる>、<だめにする>はよく使うが、この場合の<だめ>は<使えなくなる>、<使えなくする>の意味として使う場合が多いのでこの<だめ>は<使えない>の意味になる。
<だめでもともと>もよく使うが、これは<うまくいかないくて、もともと>の意なので、<だめ>は<うまくいかない>の意になる。この場合<だめだ、だめだ>、は上記の禁止以外に、<うまくいかない>嘆きの言葉になる。<ああ、もうダメだ>。
これまた日常よく使う<ばか(バカ)>では、<ばかにする>という言い方があるが、これは<馬鹿にする>というよりは<馬鹿と見なして対応する>の意だが、<化かす>を使えば<簡単に化かせられる、と思って対応する>といったやや複雑な意味になる。いづれも非難の言葉だ。このような言動は、自分は他人より賢いと思っている人たちの言動だが、世間でよく見られる。当然好ましいことではない。この<他人より賢い>は英語に to outsmart という動詞があるが、非難と言うよりはほめ言葉のようだ。<賢い>でも clever と smart と wise の違いがある。
sptt
Wednesday, April 20, 2016
<にくい>形容詞、<くるしい>形容詞
<xx にくい>は一般的に動詞の連用形について形容詞をつくる。
読みにくい(小説)
書きにくい(字、紙)
住みにくい(家)
言いにくい(こと)
食べにくい(肉、パン)
例はいくらでもありそう。意味は<xx(するの)が難しい>で、英語でいえば difficult という形容詞に相当するだろう。
a difficult novel to read
a difficult letter to write
a difficult house to live (これは少しおかしい)
a difficult thing to say
a difficult piece of meat (bread) to eat
さて次はどうか?
1)見にくい字
2)見にくいアヒルの子
1)は
見にくい(小さい)字
見にくい(かすれかかった)字
見にくい(きたない)字
であれば一般的な用法と言える。<見るのが難しい>だ。だが
発音は同じだが<見にくい(きたない)字>と<醜(みにく)い字 >は微妙に違う。<醜(みにく)い字 >は2)見にくいアヒルの子、のグループだ。
<見にくいアヒルの子>は9割がた書く場合は<醜いアヒルの子>となるだろう。また意味上も9割がた物理的に<見るのがが難しい><アヒルの子>ではない。
ところで日本語では<食べにくい>は普通<まずい>の意にならないが、私が住む香港の広東語では<難食>は料理が<まずい>の意だ。したがって同じような現象が中国語にもあることになる。
<あいにく>は副詞だが、だぶん<合いにくい>の副詞形。<速い>--><速く>。
さておもしろいのは<xx くるしい>という言い方の形容詞だ。それほど多くはなく、また<xxにくい>形容詞ほどは一般化しておらず限定的だ。思いつくまま書きあげてみる。
動詞の連用形+ぐるしい
見ぐるしい
聞きぐるしい
寝ぐるしい
ごく自然な日本語を話す友人の韓国人が<思いぐるしい>と言うのを何度か聞いたことがあるので、彼の頭のなかでは<xx ぐるしい>が一般化しているのかもしれない。
名詞(体言)+ぐるしい
息ぐるしい
心ぐるしい
<愛くるしい>は<愛>+<苦しい>の意味ではない。
形容詞の語幹+くるしい
狭(せま)くるしい - せまっくるしい (関東方言)
暑(あつ)くるしい - あつっくるしい (関東方言)
不明+くるしい
むさくるしい
<むさ>がよくわからないが、<蒸(む)し暑い>、<むしゃくしゃする>が関連するか?
さて<xx ぐ(く)るしい>の意味だが、<息ぐるしい>を除けば、物理的な<苦しい>というよりは不快感、閉塞感をあらわしているようだ。
<追加>
別のポスト ” <苦しい>形容詞 ” から
<xxくるしい>、<xxぐるしい>と言い方がある。調べてみたが、期待に反してそれほど多くはない。
息(いき)苦ぐる)しい
かた苦(ぐる)しい この<かた>は多分<堅(かた)い、固(かた)い>の<かた>だろう。
(お)聞(き)き苦(ぐる)しい 耳障(ざわ)り
こころ苦(ぐる)しい
せま苦(くる)しい これは<苦(ぐる)しい>と濁らない。
寝(ね)苦(ぐる)しい
(お)見(み)苦(ぐる)しい 目障(ざわ)り
むさ苦(くる)しい これは<苦(ぐる)しい>と濁らない。
めまぐるしい 調べてみたがこれは<くるしい>ではない。 <目まぎる、めまぎれる(紛れる)>の意だ。
sptt
Friday, January 1, 2016
譲歩文(xx にもかかわらず)
譲歩文(節)というのが文法にでてくる。英文法で初めて出会うほうが多いだろう。よほど真面目に勉強しないと理解度はよくて半分くらいだろう。容認文(節)というのもある(相良独和大辞典)。
内容的には
なるほど xx だが、 yy だ。
たしかに xx だが、 yy だ。
xx にもかかわらず、 yy だ。
といった言い方の前半部が<純>譲歩文(節)。文法的に言い換えると<逆説が後につづく確定文(節)>とも言える。
どんなに xx しても、 yy だ。
たとえ xx しても、 yy だ。
なにがなんでも、 yy だ。
といった言い方も前半部が譲歩文(節)扱いのようだ。以上3例は<逆説が後につづく仮定文(節)>とも言える。<譲歩>の言葉の内容からして<仮定>は含めない方がいいだろう。また<仮定>は<仮定>で文法上は<譲歩>以上に詳しく説明される。この辺が譲歩文(節)の理解を浅くしている原因だろう。
後半部の内容は前半部から推測されることとは反対のことを述べる。前半部で一旦は譲歩(容認)するが、 後半部でそれを打ち消す内容を述べるのだ。<だが>、<ても(でも)>は逆説の語だ(接続助詞か)。ここで取り上げたいのは<かかわらず>という言い方だ。 <xx にもかかわらず>は英文法教科書によく出てくるせいか翻訳調っぽい。いつごろから使い出したのか?
<かかわる>は大体<関係する>、<関与する>の意で、<xx に関係(関与)せず>ともいえそうだが、あまり聞かない。英文法教科書ではやまとことばの< xx にもかかわらず>が圧倒的に多い。 <xx に関係(関与)せず>が文語的(古くさい)、かしこまりすぎているからだろう。
話の順序が逆になるが< xx にもかかわらず>に対応する英語は although, even though (even if) で、この英語に対応するドイツ語に obwohl といのがあるが他にもにもいくつかあるようだ。trozdem は主に<xxxx, trozdem >という言い方のようだ。ob は <xx かどうか>の意の whether (if) で wohl は well(good の副詞形)の意だ。英語の方はよくわからないが、ドイツ語の方は一旦は<いい(well)のではないか>という譲歩(容認)の意を強く残している。
一方中国語では<虽然(suiran、ピンイン無視)>が譲歩文(節)をつくるが、辞書や文法書では<转(転)接>という語がつかわれている。<转接>は<逆接>とほぼ同じ。ここで注意したいのは、同じ转接でも
<虽然>は
虽然 xxxx - xxxx にもかかわらず、なるほど xxxx だが
と英語の (al)though xxxx と同じ語順であることだ。これは日本語にはない。したがって、個人差があるが、使えるようになるには慣れが必要で時間が少しかかる。
一方
但是、不过は
(不过) xxxx - しかし(ながら)、だが xxxx
で日本語と同じ語順で、これは特に慣れのための時間はいらないので、英語の<But xxx>と同じように、<但是(不过) xxx>とすぐに使い出せるようだ。
<しかし(ながら)、だが xxxx >は but、 however が相当するが、少し重々しくしたければ、nevertheless というのがある。
sptt