前回のポスト " 格助詞<の>、そして形式名詞的な<の>。中国語の<的>" の最後で
”
<形式名詞の<の>と中国語の<的>の並列検討は得るところが多い>とカッコいいことを言ったが、実際は相当混乱していて自分でもわかりにくい。形式名詞的な<の>は独立させて次回のポストで再解説予定。中国語の<的>も独立させてチェックする予定。
”
と書いたので忘れないうちに中国語の<的>も独立させてチェックしてみる。中国語の<的>の日本語解説を少し探してみたがやや詳しい適当なのがみつからないので、時々使っている<现代汉语八百词 (商务印书馆)>の<的>の説明を利用することにした。原文は簡体字だが簡体字と日本語漢字を使う。古くは、あるいは文章語では<之,zhī >が使われるが、<之>は日本語では<これ>の漢字で使われ、形式名詞を暗示させるが、ここでは話を進めない。
1. <的>で構成する短語は名詞を修飾する。
a)名詞+的+名詞
<的>で構成する短語が後の名詞を修飾する。
你的票, 我的哥哥,集体的力量、府绸 (fǔ chóu) 的衬衣 (chènyī)、牛皮纸的信封、下午的会,窗外的歌声,队伍的前头
(哥哥は兄。府绸は山東省産の布。衬衣はシャツ。)
b)動詞+的+名词
走的人,唱的歌,研究的问题,战斗的一生,开往桂林的火车, 管理的方法,打电报的费用,下车的地点
(<的>の前の語は動詞または動詞を含む短語 (動詞句)。日本語だと研究、战斗、管理、下車は名詞あつかいだろう。<开往桂林>は<桂林行き>あるいは<桂林へ行く>。<电报的费用>でもよさそうだが<打电报的费用>と言うようだ。日本語の場合は、あえて動詞的に訳すと
走る人、走っている人 (*)
歌う歌、歌っている歌
研究する問題、研究している問題
集団の力量、 集団することによる力量
戦闘する一生
桂林へ行く列車、桂林行きの列車
管理する方法
電報する費用
下車する地点
<動詞の連体形+名詞>となり、中国語と違う。
<桂林行きの列車>の<行き>は<行く>の連用形の名詞用法。そして<名詞+の+名詞>の構造になる。
(*)昔、五輪真弓の<恋人よ>という歌がはやったが、その歌詞のなかに
砂利路を駆け足で
マラソン人 (びと) が行き過ぎる
まるで忘却のぞむように
止まる私を 誘っている
というくだりがあるが、 <マラソン人>は<マラソンする人>で、<マラソン人>だと<フランス人>の感じだ。もっとも、これは歌の歌詞で音節数に制限がある。
c) 形容詞+的+名词
聪明的人,幸福的生活,新鲜的空气,坚决的态度,普通的劳动者
日本語では聡明な、幸福な、新鮮な、断固たる、の漢語由来の形容動詞の使用で形容詞ぽくなる。最後の<普通的劳动者>は<普通な労働者>はやや変で<普通の労働者>となる。この<な>と<の>の違いは、かなり昔に検討したことがある。
分類 - 2 <な>と<の>、第二のリトマス試験紙 2012
のポストはかなり詳しく長い検討なのでここでは引用しない。
しあわせな生活
しあわせの生活 ダメ
<華麗>は日本語では
華麗だ、華麗な、で形容動詞あつかい。一方大和言葉の<はなやか>も
はなやかだ、華やかな、で形容動詞あつかい。
<華麗>は中国語では形容詞にも名詞になるだろう。一方日本語の方は
<華麗さ>としなければならない。<華麗はxx>はダメ。<はなやか>も同じで<はなやかさはxx>としなければならない。<はなやかはxx>はダメ。これからすると<はなやか>はいったいなにか?<の>を使った
華麗なのはxxはなやかなのはxx
という言い方がある。
日本語の形容詞の場合は
<形容詞の連体形+名詞>の構造で<の>はいらない
かしこい人、頭のいい人
たのしい生活
みずみずしい空気
ゆるぎない態度
取るに足らない労働者
日本語の<ない>は、<ある>が動詞なのに対して、否定の形容詞。<いい>、<悪い>が形容詞なのと同類だ。一方中国語では、後からでてくるが、動詞、形容詞を修飾する否定の副詞あつかい。
d)副詞+的+名词
历来的习惯,万一的机会,暂时的困难,一贯的表现
万一 (万が一)、暂时 (暫時、しばらく) が副詞はいいとして、中国語では<历来>、 <一贯>も副詞扱いだ。だが品詞の柔軟性からして絶対副詞というわけではないだろう。
日本語でも
万が一の場合
しばらくのご無沙汰
という<副詞+の+名詞>の言い方ある。 元来副詞は動詞、形容詞、形容動詞、句、節を修飾するが、名詞を修飾することはない。<の>のない
<万が一場合>はダメだが<しばらくご無沙汰>とは言う。がだこれは
しばらくご無沙汰しています。しばらくご無沙汰していました。
の短縮化だろう。
e)介词短语+的+名词
对问题的看法,关于天文学的知识
この構造は日本語でも可能で、前回のポスと " 形式名詞的な<の> " で
東京での生活、母への手紙
というのが出てきた。上の中国語の例も
問題に対する見方
が普通。
問題への見方
はやや変だ。
天文学に関する知識
が普通だが、簡単に
天文学の知識
でもいい。
f)象声词+的+名词 (擬音語+的+名詞)
当当的钟声 チクタクという時計の音
嗖嗖的一个箭步 ?
嗖嗖 sōu sōu 擬音語。箭步
jiàn bù:文字通りでは<矢のような歩み>だが、移動がきわめて速いこと、様子。
g)小句 / 四字成语+的+名词
你寄来的信 ー あなたが送ってきた手紙
工业发展的速度
两全其美的解决办法 两全其美 = 今風二言えば Win-Win。
注意事項
1)名詞、動詞、形容詞は直接名詞を修飾し<的>を用いない。
a)意味がすでに特化されている場合
龙井茶, 数学教员,工业城市(工業都市) ,制约厂(製薬工場) ,流动资金,装配车间 (組み立て工程) ,重工业,清洁车 (清掃車),绝对真理
b)単音節形容詞の後では普通は<的>を使わないが、強調する場合は<的>を用いる。
一朵红花儿:我要那朵红的花儿。 这是一个新问题: 旧的问题解决了, 又出现新的问题 。
c)修飾語と主要名詞 (被修飾名詞) が通常の組み合わせではない場合は<的>を用いる。
铁的纪律,血的教训,化肥的事情(<化学肥料事情>で通常の組み合わせになりそう),科学的春天
d)修飾語と主要名詞 (被修飾名詞) が通常の組み合わせの場合は<的>を用いたり、用いなかったりする。
我们 (的) 学校,历史 (的) 经验,新鲜 (的) 空气,幸福 (的) 生活,驾驶 (的) 技术,开会 (的) 结果
2)名詞、動詞、形容詞が直接名詞を修飾するとき、修飾部分と主名詞の関係は緊密で、分離できない場合は一種の複合名詞とみなせる。名詞、動詞、形容詞+<的>で構成される小句の場合は、修飾部分と<的>+名詞の関係はゆるやかで、それぞれ独立分離できる。
a)名詞、動詞、形容詞が直接名詞を修飾する小句は他の形容詞をつけられるが、修飾部分+<的>+名詞構成の小句はこれができない。
塑料床罩 (bed cover):大塑料床罩 (大塑料的床罩-ダメ)、热牛奶: 新鲜热牛奶(新鲜热的牛奶-ダメ)、炼钢 (steel making) 工人: 老炼钢工人(老炼钢的工人-ダメ)
b)修飾部分+<的>+名詞構成の小句では間に数詞 (数量短语) を挿入することができるが、名詞、動詞、形容詞が直接名詞を修飾する小句ではこれができない。
最要紧的一件事 (最要紧一件事-ダメ)
在那儿下棋的两个人 (在那儿下棋两个人-ダメ)<下棋>は<将棋をする>
これは日本語でも
そのおいしそうで大きいのをひとつくれないか。(そのおいしそうで大きいスイカをひとつくれないか、でもいいが、いいそうにない。)。
ビールのよく冷えたのを一杯くれ。(よく冷えたビールを一杯くれ、でもいいが、いいそうにない。)
という。<の>は形式名詞で<的>相当。
c)<形容詞+的+名詞>では重ね語、修飾語が前後につくの構成の形容詞では<的>のない<形容詞+名詞>は不可。
蓝蓝的天 (蓝蓝天-ダメ)、老老实实的态度(老老实实态度-ダメ)、
雄纠纠的队伍(雄纠纠队伍-ダメ)(雄纠 xióng jiū: 雄壯威武的樣子)、
火热的心(火热心-ダメ)、很好的事情(很好事情-ダメ)、不大冷的时候(不大冷时候-ダメ)
d)<動詞+的+名詞>の形の動詞は副詞をとることができる。<動詞+名詞>ではこれができない。
不开会的时间 (不开会时间-ダメ)、已经巡路的地区 (已经巡路地区-ダメ)
この説明では<不>は副詞だ。動詞に副詞をつけ、さらに<的>をつけて名詞を修飾するというのは中国語のわざだ。
已经巡路的地区
は
すでに巡回した地区 、という意味だが、日本語も簡潔だ。<すでに巡回地区>はダメだが<巡回済みの地区>では<の>(=的)が使われる。だが<巡回済み地区>でもいい。この巡回は名詞だ。動詞は<巡回する>。<巡回済み>は<巡回が済んだ>。
<形容詞+的+名詞>の形では名詞を並べることができるが、<的>のない<形容詞+名詞>の形ではこれができない。
正确的立场,观点,方法(正确立场,观点,方法-ダメ)。重要的, 深远的意义 (重要, 深远意义-ダメ)。
3)<的>を重ねて使って名詞を修飾して小句を作ることはできるが、A的 (B的+名詞)は不正確になり、耳障りでもあり避けた方がいい。三つの<的>を使ったA的 (B的(C的+名詞 ) はますます具合いが悪い。また (A的+名詞 ) 的+(B的+名詞 ) も具合が悪い。
高山上的稀薄的空气 ー> 高山上的稀薄空气
小张的方案的主要的内容 ー> 小张方案的主要内容
これも日本語で<の>が幾度も出て来ると聞きづらい、というか、場合によってわけがわからなくなる。
小句に替える
我的房间的窗户朝南 ー> 我的房间、窗户朝南
新盖的大楼的地下的空气调节很好ー> 新盖的大楼、地下的空气调节很好
高い山の希薄な空気 (希薄の空気、でないのですくわれている)
山田君の提案の主要な内容 (主要の内容、でないのですくわれている)
山田君は、山田君の学校の先生の鈴木先生の数学の授業の内容の理解の程度が低い。
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2. <的>が日本語の形式名詞用法に相当することを述べている。中国語では<代替名詞>というが<xx的>を<的字短語代替名詞>とも言っている。
我的笔忘带了, 借你的使使。你的笔の<笔>が省略されている。
前半は正確には
我,我的笔忘带了
だろう。
去参观的(人) 在门口集合。
日本語では<人>は省略できない。省略可、不可は大体規則がある。
a) 名詞+的+(名詞)では、後半の名詞が 一般的な人、または具体的な物の場合は省略できる。
二车间的(工人)来了没有?
上の<去参观的(人)>も一般的な人とみなされている。
他的行李多, 我的很小。
称呼、名称(如:父亲、老师)などの場合、または抽象的なものの場合は省略できない。
老王的意见明天去, 我的意见今天就走。
以上は日本語でも言えそうだ。
君の荷物は多いが、私のは少ない。
私たちの先生はあなたたちの先生に比べて年配だ。
佐藤の意見は明日行くだが、僕の意見は今日行くだ。
だが、たまたまだろう。日本語に規則性はあるのか?
b) 形容詞+的+(名詞)では、 形容詞が限定性、分類性がある場合は後半の名詞は省略できる。
两个小孩, 大的八岁, 小的三岁。 日本語では<大きい方は8歳、小さいほうは3歳。>となる。<大きいのは8歳、小さいのは3歳>でもいい。また<上は8歳、下は3歳>で簡便になるが、<上のは8歳、下のは3歳>でもいいが、普通は<上の子は8歳、下の子は3歳>になる。上、下は形容詞ではないのだ。
矛盾(máo dùn)很多, 要抓主要的。 主要なの / 主要なものをつかむ必要がある。<主要のを>はダメ。<主要のものを>は人によりこう言う。
给你一朵粉红的(花儿)。 ピンク色のをあげましょう。<ピンク色>は日本語では名詞。<ピンク色なのを>では<ピンク色な>は形容動詞の連体形扱い。
c) 動詞+的+(名詞)では、後半の名詞が動詞の主語、または目的語になる。<的>は省略できたり、できなかったりする。
游泳的(人)很多。 (人游泳)过去的(事件)就不谈了。(事件过去了)
唱的(歌) 是《 绣金匾》。 (唱歌)
原来安排的(时间)是星期三, 现在改到星期五。(安排时间)
伴奏的声音太大,唱的声音太小(唱声音太小はダメ)
<的>の発音は軽く発音される場合は<de、ドゥ、フランス語の de>だが、一番目、三番目の例文のように強く発音される場合は<da、ダ>となる。私はひそかに<この文の最後に置かれて、強く発音される<的、da、ダ>が日本語の断定の助動詞<だ>の起源ではないかと思っている。助動詞<だ>の活用はきわめてヘンテコ、コラージュみたいに、違うものを切って貼り合わせたような活用だ。また助動詞<だ>も中国語の助詞<的>も口語だ。口語は基本的には耳から入ってくる。<的>の古語、文章語は<之>だ。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 | 活用型 |
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だろ | だっ で |
だ | (な) | なら | ○ | 特殊型 |
<这个杯子是玻璃的>は「的」フレーズ。<的>のあと<,>になっているので、<このコップはガラス (製) なので>とも訳せるが、<这个杯子是玻璃的>で一文、<このコップはガラス (製) だ。>でもいい。同じような文構成の三番目の<这本书是彩色印刷的。>は一文になっている。さてこの<的>だが、日本語訳のように、断定の助動詞<だ>に似ている。
””
を加えている。これは中国語の方では<形容詞+的>に相当するが、これまた<だ>活用の形容動詞は<的>由来といえないか?
綺麗だ ー 綺麗的
重要だ ー 重要的