前回のポスト " 格助詞<の>、そして形式名詞的な<の>。中国語の<的>" の最後で
冒頭で<形式名詞の<の>と中国語の<的>の並列検討は得るところが多い>とカッコいいことを言ったが、実際は相当混乱していて自分でもわかりにくい。<形式名詞的な<の>は独立させて次回のポストで再解説予定。中国語の<的>も独立させてチェックする予定。
と書いたので忘れないうちに形式名詞的な<の>を検討してみる。手元の辞書 (三省堂) の<の>の解説。
”
格助詞
1)後にくる言葉の内容、状態、性質などについて限定を加えることを表わす。
私の本、文学部の学生、革のかばん、医療費の問題、国語の教師、異国の空、秋の雨、東京での生活、母への手紙、しばらくの別れ 、富士の山、国のため、雪のようだ、娘に着物の一つも ( = せめて一枚くらい着物を) 買ってやりたい。
”
基本的には後にくる言葉は名詞だが、最後の三例は純名詞とは言い難い。
国のため、雪のようだ、着物の一つ
国のため
<ため>は名詞というよりは副詞だ。
普通は
名詞+の+ため (に)
で理由や原因や目的を表わす。
事故のためバスが遅れた。中国語勉強のため中国に行く。
戦時中は<お国のために戦地に行く>などと言っていたようで、理由や原因や目的を表わすでは説明がつかない。もちろん<ため>の内容、状態、性質などについて限定を加える、ではない。念のため Wiki でチェックしてみると
Wiktionary 日本語版
名詞
ため【為】
で、名詞とはなっているが<形式名詞>だ。これまで何度も引用しているが、<形式名詞>というのは
https://www.informe.co.jp/useful/character/character31/
”
<形式名詞や補助用言の扱い>
形式名詞とは、たとえば「書くこと」の「こと」、「正しいもの」の「もの」、「起きたところ」の「ところ」、「食べるとき」の「とき」など、動詞や形容詞といった用言に付いて体言化したりする名詞です。
この場合、文の構成を見れば、確かに名詞と位置づけられるようにも思われますが、本来の意味を表現しているとは言えず、あくまでもその前にある動詞や形容詞を名詞化するだけの役割になっています。つまり、意味的には本来の名詞の役割を持たず、形の上で名詞にするために使われているわけです。
”
これからすると、もし<ため>の元の意がの意だとすると、<国のため>の<ため>は形式名詞にはならない。だが Wikiでは語源不詳となっている。別のネット辞書では
”
という解説があり、3.は形式名詞になっていない。だが<ため>の元の意味は<利益、有利となうこと>か?さらにネットで調べてみると
”
〘名〙
[一] 助詞「が」「の」の付いた体言、または用言の連体形に接続し、形式名詞として用いることが多い。「に」を伴うこともある。
① 「ため」の上にくる言葉が、下にのべる恩恵、利益を受ける関係にあることを示す。…の利益となるように。また、利益。利得。便益。
※仏足石歌(753頃)「御足跡作る 石の響きは 天に到り 地(つち)さへ揺すれ 父母が多米(タメ)に 諸人の多米(タメ)に」
② (利益を期待するところから転じて) 行為などの目的を表わす。めあて。…という目的で。
※万葉(8C後)五・八〇六「龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来む丹米(たメ)」
③ 「ため」の上の語が、下の事柄と、かかわりをもつことを示す。…にとっては。…に関しては。
※続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月九日・宣命「仮令後に帝と立ちて在る人い、立ちの後に汝乃多米仁(いましのタメに)礼無くして従はず、なめく在らむ人をば」
※伊勢物語(10C前)八四「世の中にさらぬ別れのなくも哉千世もといのる人の子のため」
④ 「ため」の上の語が、その行為をこちらに及ぼした主体であることを示す。下に受身表現を伴うことが多い。…の行為によって。…によって。
※書紀(720)神代下(寛文版訓)「此の鳥(きし)下来(とひきた)り天稚彦の為(たメ)に射(い)られ其(そ)の矢(や)に中(あた)りて」
⑤ 「ため」の上の語が、下の事柄の理由や原因になっていることを示す。ゆえ。わけ。せい。
※今昔(1120頃か)二「人に捨られて寒の為に死ぬべかりき」
[二] 修飾語を受けない用法。
① 利益となること。また、利益になることを言ってやること。忠言。忠告。また、その人を思っているように見せかけて言うこと。おためごかし。
※日葡辞書(1603‐04)「コレワ votame(ヲタメ) デ ゴザル」
※坐談随筆(1771)「もしこなたの説せらるる所と違ひまして、見て為(タメ)にわるいやら」
② 下心(したごころ)。利己的な目的。→ためにする。
(以下略) ”
したがって、大和言葉の<ため>には<利益を受ける、目的、被害を受ける、理由、原因>の意味が古くから<元の意味>としてあるので<ため>は<形式名詞>ではないと言える。<形式名詞>的に見えるのは
xx+の+ために
の<に>のない
xx+の+ため
でも副詞になるためか?
<ため>を<為> とも書くのは中国語の<為>が<為xx>で<xxの利益、利便のため>の意があるからだ。おもしろいのは、香港では幼稚園児、小学生が通学に使うバスに<学生服務>と書かれたプレートを見る。これでは学生がバスを運転していることになりかねない。正しくは<為学生服務>だ。
雪のようだ
<よう>は名詞か。 名詞とすると<雪のようだ>は
名詞 (雪) + の + 名詞 (よう)
で
1)後にくる言葉の内容、状態、性質などについて限定を加えることを表わす。
が適用でき<よう>の内容、状態、性質などについて限定を加えるでいい。一方<ようだ>で助動詞という解説があり、これだと
名詞 (雪) + の + 助動詞(ようだ)
となり、この<の>はどう説明したらいいのか?
<雪のようだ> は
砂糖の白さは雪のようだ。 (類似、比喩)
明日は雪のようだ。 (予想、推量)
で、二つの違った意味がある。<ようだ>が助動詞というのはクエスチョンマークだ。同じような<夢のようだ>を加えて
雪のようだ、夢のようだ
はいわば男性言葉で、女性であれば
雪のようね、夢のようね
というだろう。<ね>は終助詞と呼ばれている助詞だろう。中国語で言えば語気助詞。
<よう>(昔は<やう>と書いた。<よう>中国語の<様、現代北京語では yang と発音する>。中国語は同じ語が名詞や、形容詞や、動詞などになったりするとんでもない言語で、<よう>を少しチェックしてみる。少し調べた限りでは
<予想、推量>の<よう>は大和言葉。歴史的にかなり古く、いろいろな変遷がある。
”
精選版 日本国語大辞典
「よう」の意味・読み・例文・類語
よう
※虎明本狂言・鍋八撥(室町末‐近世初)「某もただ是にいよう」
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)一〇「あのひめ一人、もつならば、きみのちゃうふうふは、らくらくと、すぎやうことのうれしやと」
※出定笑語講本(1811)上「世の初天地の成(でき)ようとする時に」
④ 当然・適当の意などを表わす。…してしかるべきだ。
[語誌]一・二段活用の動詞に推量の助動詞「む」を伴ったもの、たとえば「見む」「上げむ」は、室町時代末までに「みう」「あげう」から「みょう」「あぎょう」のような融合したオ列拗長音の形に変化していたが、そこから再び動詞未然形と助動詞とが分かれて、助動詞「よう」の形を生じた。これが、近世にはいって、一・二段活用の動詞一般のこととなり、カ変・サ変にも及んだ。ただし、この変化は、東国で進んだものと思われ、現代の標準語のように、五(四)段活用の動詞には「う」が、その他の活用には「よう」が付いて、接続を補い合う用法は、近世後期江戸語で勢力を得た。
”
”
デジタル大辞泉
「よう」の意味・読み・例文・類語
[助動][○|○|よう|(よう)|○|○]上一段・下一段・カ変・サ変動詞の未然形、助動詞「れる」「られる」「せる」「させる」などの未然形に付く。なお、サ変には「し」の形に付く。
1 話し手の意志・決意の意を表す。「その仕事は後回しにしよう」
「埒 あき次第起こしに来い。明日顔見よう」〈浄・生玉心中〉
2 推量・想像の意を表す。「会議では多くの反論が出されよう」
「うばも待て居よう程にはよう行れよ」〈浮・風流夢浮橋〉
3 (疑問語や終助詞「か」を伴って)疑問・反語の意を表す。「そんなに不勉強で合格できようか」
4 (多く「ようか」「ようよ」「ようではないか」などの形で)勧誘や、婉曲 な命令の意を表す。「その辺で一休みしようよ」「みんなで行ってみようではないか」
「かかさん、ねんねしよう」〈洒・甲駅新話〉
5 (「ものならば」などを伴って)仮定の意を表す。「失敗なんかしようものなら許しませんよ」
「一生のうちに一度でも天晴 れ名作が出来ようならば」〈綺堂・修禅寺物語〉
6 実現の可能性の意を表す。「あの男がそんな悪いことをしようはずがない」
7 (「ようとする」「ようとしている」の形で)動作・作用が実現寸前の状態にある意を表す。「秋の日は早くも西の山に没しようとしている」→う
[補説]室町末期ごろ、推量の助動詞「む」の変化形「う(うず)」が上一段動詞、たとえば「射 る」「見る」に付いて音変化した語形「よう」「みょう」から「(射・見)よう」が分出されたのが始まりで、江戸時代に入ってしだいに一語化したと言われる。連体形は、5・6のように形式名詞「もの」「はず」「こと」などを下接する用法が普通で、主観的な情意を表現する終止形に比し、客観性のある表現に用いられる。なお、2は現代語では、ふつう「だろう」を用いる。 ” 一方<類似、比喩>の<よう>は中国語の<様>由来だろう。大和言葉では<様>の訓読み<さま>がある。現代中国語の<様子>が<さま>に相当し、<目に見える様子(ようす)>が原意で<類似、比喩>の意はない。 雪のさまだ、夢のさまだ はダメ。 <さま>は<ざま>も含めて多様化している。 さまにならない、さまになっている
言いざま、生きざま、死にざま 殿様、お姫様、佐藤様、あなた様、だれ様だと思っているんだ
そのざまはなんだ、ざまーみろ さまざま
<上の<類似、比喩>の<よう>は中国語の<様>由来だろう>は推測なので、念のため<よう>と<さま>をチェックしてみる。 ”これからすると、かなり古くから大和言葉として使われていたことになる。だが、 中国語の<様>が古い時代に輸入。転用されたことは否定できない。一方純大和言葉の<さま>は https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%81%95%E3%81%BE/
” とあり、古くは
の意味で、<目に見える様子>の意では使われていない。上で取り上げた現代語の さまにならない、さまになっている
言いざま、生きざま、死にざま そのざまはなんだ、ざまーみろ をもう少しよく考えてみると、いづれも一般的な<目に見える様子>ではない。<体裁>の意に近い<他人の目に映る><目に見える様子>がより近い意味だ。<さま>は<様子>とは違った道を歩いてきたのだ。 <類似、比喩>では漢語由来みたいだが大和言葉<ごとし>がある。
よう[助動]
1 話し手の意志・決意の意を表す。「その仕事は後回しにしよう」
「
2 推量・想像の意を表す。「会議では多くの反論が出されよう」
「うばも待て居よう程にはよう行れよ」〈浮・風流夢浮橋〉
3 (疑問語や終助詞「か」を伴って)疑問・反語の意を表す。「そんなに不勉強で合格できようか」
4 (多く「ようか」「ようよ」「ようではないか」などの形で)勧誘や、
「かかさん、ねんねしよう」〈洒・甲駅新話〉
5 (「ものならば」などを伴って)仮定の意を表す。「失敗なんかしようものなら許しませんよ」
「一生のうちに一度でも
6 実現の可能性の意を表す。「あの男がそんな悪いことをしようはずがない」
7 (「ようとする」「ようとしている」の形で)動作・作用が実現寸前の状態にある意を表す。「秋の日は早くも西の山に没しようとしている」→う
[補説]室町末期ごろ、推量の助動詞「む」の変化形「う(うず)」が上一段動詞、たとえば「
<上の<類似、比喩>の<よう>は中国語の<様>由来だろう>は推測なので、念のため<よう>と<さま>をチェックしてみる。
”
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%88%E3%81%86/
出典:デジタル大辞泉(小学館)
よう〔ヤウ〕【様】の解説
-
1 姿・形。ありさま。ようす。
「日ごろありつる—、くづしかたらひて、とばかりあるに」〈かげろふ・上〉
雪のごとし、夢のごとし
があるが、これも<の>が入る。<ごとし>には<予想、推量>の意味がない。
明日は雪のごとしだ。 (予想、推量) ダメ
手元の辞書では<みたいだ>も助動詞となっている。
雪みたいだ、夢みたいだ
これも
砂糖の白さは雪みたいだ。 (類似、比喩)
明日は雪みたいだ。 (予想、推量)
これは英語でも
Sugar looks like snow.
It looks like snowing tomorrow.
と言える。<類似、比喩>と<予想、推量>は意味的にオーバーラップするところがある。<予想、推量>する方法の一つとして<類似 (類推)、比喩>がある。英語で言えば<アナロジー>だ。
着物の一つ
<ひとつ>も名詞とは言い難い。数詞というのがあり、これか?
釣りは太郎に趣味の一つ
と言い方があり、これはいくつある趣味の中の一つ>で、one of his hobbies で<of>に対応する<の>でいいが、<着物の一つ>はこれと違う。もちろん<ひとつ>の内容、状態、性質などについて限定を加える、ではない。
東京での生活、母への手紙、しばらくの別れ
は<後にくる言葉の内容、状態、性質などについて限定を加える>でいいようだが、<の>の前の<東京での生活>と<東京の生活>は少し違う。<母への手紙>は<母の手紙>とはまったく違う。<母の手紙>は普通<母からの手紙>、<母が書いた手紙>になる。
<しばらくの別れ>の<しばらく>は副詞で
太郎はしばらく花子に会っていない。
しばらくお待ちください 。
で動詞を修飾している。<別れ>は名詞で、基本的に副詞は名詞を修飾しないことを考えると、この<の>の働きは特殊だ。これはおもしろい現象で、少し調べてみたがおもしろい。残念ながら、このポストは " 形式名詞的な<の>" なので別途にポストを書く予定。
”
2)後にくる動作、状態の主体であることを表わす。
桜の咲くころ、父の帰りを待ちわびる、お茶の濃いのを飲む
”
主格の格助詞ということなのだが
桜の咲くころ ー> 桜が咲くころ、桜咲くころ
でいいが
父の帰りを待ちわびる ー> 父が帰りを待ちわびる(ダメ)
父が帰るのを待ちわびる
とすると、別の<の>が出てくる。これは形式名詞的な<の>と言えそう。
父が帰ることを待ちわびる
は
何とかなる。
お茶の濃いのを飲む ー> お茶が濃いのを飲む (ダメ)
<濃いのを>の<の>は形式名詞的な<の>と言え、<濃いお茶を>だが
お茶の濃いお茶を飲む ダメ
お茶が濃いお茶を飲む ダメ
代表的な形式名詞、こと、もの、ところを試してみると
お茶の濃いものを飲む
お茶の濃いところを飲む
は何とかなりそう
辞書では、次に形式名詞的な<の>の説明がある。
”
3)上の語を体言として扱うことを表わす。
来るのが遅い、安いのがいい、きれいなのをくれ、魚のうまいのが食べたい、これは私のだ、
日本語では<有る>は動詞であるのに対し、反対語の<無い>は形容詞である。
”
辞書では、言い換えとして
来るのが遅い ー> 来ることが遅い
安いのがいい ー> 安い物がいい
これは私のだ ー> これは私の物だ
が併記されている。<私の物>の<の>は1)の
後にくる言葉の内容、状態、性質などについて限定を加える
に相当する。この場合は所有、帰属と言える。
魚のうまいのが食べたい
は2)の
お茶の濃いのを飲む
と同じ構造。 <xxたい>は<を>ではなく<が>を取るところが違う。
魚のうまいのを食べたい。
は <I want to eat fish>につられた翻訳調。
さて、このポストのタイトル ” 形式名詞的な<の> " にもどると、肝心なのは
3)上の語を体言として扱うことを表わす。
で、 例文を利用すると
来るのが遅い <来る>(動詞) + の
安いのがいい <安い>(形容詞) + の
きれいなのをくれ <きれいな>(形容動詞) + の
魚のうまいのが食べたい、<うまい>(形容詞) + の、<魚のうまい> (句、節) + の
これは私のだ <私>(体言、名詞) + の
日本語では<有る>は動詞であるのに対し <動詞である>(句) + の、<<有る>は動詞である> (節) + <の>となり<上の "語" >だけでなく、<上の句や節も体言として扱う>とみることができる。
これは私のだ <私>(体言、名詞) + の
は例外で、上に書いたように<後にくる言葉の内容、状態、性質などについて限定を加える>の<の>なのだが、後にくる言葉がない。<のもの>の<もの>が省略されたもの、というよりは<の>が<もの>を含んでいると見た方がいい。英語の mine 相当。中国語にも<的>を使った同じよう言い方がある。
这是我的。 - This is mine.
上記の例文、いづれも<の>は不可欠で、<の>のない
来るが遅い
安いがいい
きれいなをくれ
魚のうまいが食べたい
これは私だ
はすべてダメ。
3)上の語を体言として扱うことを表わす。
は<の>による体言化と言い換えることができよう。
sptt
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