Sunday, September 28, 2014
ドイツ語の接頭辞(prefix)- 11 <los->
ドイツ語の接頭辞(prefix)の第11弾で<los->について検討する。相良独和大辞典の解説は<前綴>(接頭辞)が出てこず
”
合成用語。動詞の前に置かれて分離動詞をつくる。”分離、解放;目標、方向、突進、突破、出現、開始” などを意味する。
”
となっている。 前回のポストで
”
los- は英語の to lose(動詞)、loose (形容詞)の意で、分離、離脱の意もあるが、それ以上に<xx からの解放>の意の用法が多く(別途検討)、悪いモノ、コトからの分離、離脱であれば良い意味になり(封建制度からの解放)、良いモノ、コトからの分離、 離脱であれば悪い意味になる(秩序からの解放(離脱)=混乱)。
”
と簡単に解説したが、おもしろい分離動詞をつくる合成用語だ。相良辞典には50個の los- xxen 動詞がでている。<おもしろい>のは基本的に英語の loss、日本語のロス(損、損失)の意がないのだ。
Friday, September 26, 2014
ドイツ語の接頭辞(prefix)- 10 <ab->
ドイツ語の接頭辞(prefix)の第10弾で<ab->について検討する。相良独和大辞典の解説は、<an->をわずか2行で済ませているのに対し、おおよそ反対の意味と思われる<ab->の解説はなぜか念が入って20行に及んでいて、概要は次の通り。
”
動詞の分離前綴; 常にアクセントを有し下記の意味を表わす。
1.(a)分離、離脱、例:abgehen, abfarben, jm absagen, von et absehen
(b)分離、除去、例:abtun, abbinden, den Staub (Tisch) ablegen, einen Raum abfegen
(c)獲得、奪取、例:jm et abbetteln, jm et abnehem
2.遮断、隔離、例:abschießen, absperren
3.(ant. auf, hinauf)下へ、例:absitzen, absteigen
4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden
5.取消、否定(既述のものの)、例:absagen, abbefehlen
6.変化、移転、例:abandern, abwandeln
7.(a)完成、終了、例:abblühen, abmachen
(b)減少、消滅(漸次の)、例:abbleichen, aborten
8.損傷、疲弊、例:abbrauchen, sich ängstigen
9.十分、過剰、例:absuchen, die Glegenheit abpassen
10.殺害、抹殺、例:abfangen
”
以上に続いて、名詞の前綴、形容詞の前綴(ab-、ent-、los-、weg- の意)の簡単な解説がある。
ent-、los- もおもしろい前綴で別途検討予定。
ent- は大体<反対>の動作、作用で、その他否定、分離、発展、悪化などの意味がある。
los- は英語の to lose(動詞)、loose (形容詞)の意で、分離、離脱の意もあるが、それ以上に<xx からの解放>の意の用法が多く、悪いモノ、コトからの分離、離脱であれば良い意味になり(封建制度からの解放)、良いモノ、コトからの分離、離脱であれば 悪い意味になる(秩序からの離脱=混乱)。
weg- は名詞(der Weg)としては道(way)の意だが、副詞(weg)、前綴(weg-)大体、分離、離脱(away)の意になる。
一見かなり多様な意味がありそうなのと、相良大辞典の特徴でもある漢字の羅列であるので、意味の整理のため、上記に日本語(大和言葉)で共通事項を探してみる。この段階では推測だが、
1.(a)分離、離脱
(b)分離、除去
(c)獲得、奪取
2.遮断、隔離
3.下へ
4.目的語から手本が取られていることを示す。
以 上は<3.下へ>を除けば<取る>(獲得、奪取)、<取り出す>、<取り離す>でカーバーできそう。 <下へ>は動詞がないが、<落ちる、落とす>、<降(お)りる、降ろす>、<下(くだ)る、下す>、(下(さ)がる、下げる)が該当する。他動詞を見れば <取り落とす>、<取り降ろす>、<取り下げる>が慣用語としてよく使われ、<取る>と<下へ>は結びつきが比較的強いようだ。だが<取り上(あ)げる>という慣用語がある。<よごれ、けがれ>は<落ちる、落とす>だ。<ツキ>は<つく>由来だが、<ツキが落ちる>とも言う。この<落ちる>は<取れる>だ。
5.取消、否定(既述のものの)
6.変化、移転
7.(a)完成、終了
(b)減少、消滅(漸次の)
8.損傷、疲弊
9.十分、過剰
10.殺害、抹殺
以上は大体<取ると-減る、なくなる>で説明できる。このコンセプトはわりと大事だ。似たコンセプトに<使うと-減る、なくなる>がある。これも重要なコンセプトだ。夫婦の会話で主語は省かれるが<使っても減るわけじゃないだろう(でしょう)>というのがあった。
7.(a)完成、終了
これはもとのドイツ語の日本語訳では<取りきる>、<使い切る>の例が多い。一般的な<完成、終了>とは違う。<完成、終了>とは言ってもいろいろあるのだ。
9.十分、過剰
これはやや難しいが、上記の7.(a)完成、終了(もとのドイツ語では<取りきる>、<使い切る>の意の例が多い)と関連があろう。<十分にすれば、大体終了だ>。これはもとのドイツ語 ab-動詞の例はさほど多くはなく、下記の例のように大体食べ物関連に限られているようだがよく使われる動詞というわけではないだろう。副詞(gut など)を使った一般的(汎用的)な言い方で間に合うだろう。もっとも昔は食べ物は死活問題だった。辞書では<十分に>はあるが<過剰に>はない。
abdreschen 穀物を十分に打つ(脱穀する)
abräuchern 十分にいぶす(燻製する)
abreifen 十分に成熟する
abrösten 十分にあぶる
abruhen 十分にかきまぜる
absalzen 十分に塩をかける
さて、調査を進める。前回にならって、ドイツ語の接頭辞のポストの日本語による解説としては本末転倒だが、英語の前綴(接頭辞)<ab->をドイツ語の接頭辞<ab->と比較してみる。
Collins German-English Dictionary(Oxford Pocket German-English Dictionary も参照)
to abandon - verlessen, aussetzen, aufgeben - 捨てる、見捨てる、あきらめる、放棄する
to abase - demültigen - 見下(くだ)す これは<a + base>だ。
to abate - nachlassen - 減らす、減る、 nach は to とか after の意味だが nachlassen では<下へ>の意味になっている。
to abbreviate - abkürzen - 短くする、省略する
to abdicate - abdanken, verzichiten (auf) (地位、権力、責任から)離れる
to abduct - entführen - 誘拐(ゆうかい)する、連れ去る。 abduction = 誘拐(名詞)
to abhor - verabscheuen - 嫌(きら)う
to abide - aushalten, ausstehen - ドイツ語の方は<我慢する>の意だが、英語の to abide にはこれ以外に<(ルールなどに)従う>の意がある。
to abolish - abschaffen - 捨てる、廃棄する
to abominate - verabscheuen - 嫌(きら)う
to abort - abtreiben - 中絶する
to abridge - kürzen - 端折(はしょ)る これは a + bridge ではなく ab + ridge のようだ。
語源
http://www.thefreedictionary.com/abridge
[1350–1400; Middle English <Middle French abreg(i)er> Medieval Latin abbreviāre.
to abscond - entfliehen - 逃げる
to absent - fernbleiben - ドイツ語は<いない>ではなく<遠くにいる>になる。
to absolve - lossprechen (von) - (罪を)許す
to absorb - aussaugen, ausnehmen, absorbieren - 吸い取る、吸収する
to abstain - sich enthalten - 引きとどまる、思いとどまる
to abuse - beschimpfen, misshandeln, missbrauchen - (意図的に)使いあやまる、悪用する
以上で気がつくことは、
1) 思ったほど多くはなく、動詞として比較的よく聞く(見る)、使うのは to abandon、to abbreviate、to abduct、to abolish、to abort、to absorb、to abuse ぐらいで、これらも使用頻度は高くなく、また日常語とは言うよりは少しあらたまった(formal)時に使う動詞が多い。これはどうしたことだ?(注1)
2) 対応するドイツ語では、かならずしも ab- がつかず、ver-、aus-、ent- がつくものが少なくない。
ver- は最も多く使われる前綴(不分離)で、まだ調べていないが相良大辞典では1000以上の動詞がありそう。意味も相当複雑だが、これまた相当複雑な ab- の意味と重なるところがある。
aus- は基本的には<xx から外へ(でる)>と言った意味なので、<分離>が当てはまりそうだが、基本的には out (内から外へ)の意で ab- の基本的な意味<分離、離脱( away、off )>とは違う。
ent- は上で簡単に解説したように、大体<反対>の動作、作用で、その他否定、分離、発展、悪化などの意味がある。
3)英語の<ab-動詞>の日本語の対応では、相良大辞典のドイツ語<ab-動詞>の説明内容でほぼカバーする。これはおもしろいことだ。おそらくこれは英語、ドイツ語を問わず<ab->には広い意味があるが、ある<まとまり>の中に入るからだろう。これまた言語上、文法上おもしろいことだ。
捨てる、見捨てる、あきらめる、放棄する
見下(くだ)す
減らす、減る
短くする、省略する
誘拐(ゆうかい)する、連れ去る嫌(きら)う
我慢する、(ルールなどに)従う
捨てる、廃棄する
嫌(きら)う
中絶する
端折(はしょ)る
逃げる
いない、<遠くにいる>になる。
(罪を)許す
吸い取る、吸収する
引きとどまる、思いとどまる
(意図的に)使いあやまる、悪用する
対応する日本語訳を見る限り、いくつか例外を除き、他動詞に関しては汎用性が極めて高い<取る>の意があり、また分離、離脱( away、off )>の意も同時にあることからだろうが否定的(負的、negative)な意味が多い。
一方Collins 独英辞書のドイツ語が見出しの方はドイツ語<ab->動詞がなんと約260個もある。相良大辞典では900個近くある。なぜこうも多いのか?は大きな疑問だ。大体見当はついているが。最後の方を参照。
1.(a)分離、離脱、例:abgehen, abfarben, jm absagen, von et absehen
(b)分離、除去、例:abtun, abbinden, den Staub (Tisch) ablegen, einen Raum abfegen
(1.(c)獲得、奪取は別途説明する。)
Collins 独英辞書で該当する英語の動詞では、動詞+副詞、あるいは+前置詞で、圧倒的に多いのは away と off、つまりは<分離、離脱>だ。基本的な意味はいずれも日本語の動詞でいえば<離(はな)す>、<離れる>だが、away と off では微妙に違う。off はモノが<離れる>トコロ、時に目が行き、<除去>が近い。日本語では<切る><切れる>にも対応する。これは
2.遮断、隔離、例:abschießen, absperren
に関連する。相良大辞典では<隔離>関連と思われるが意味が少し違う<区分け>、<区切り>動詞がいくつか出てくる。漢語の<分離>には<分ける>の字がある。<離す、離れる>には<分ける、分かれる>プロセスが前段にある。<区分け>、<区切り>は<遮断、隔離>とは意味が違うが、<遮断、隔離>のためには<区分け>、<区切り>が必要だ。とくに<区分け>はいい大和言葉で、は無意識でもおこなわれるが、数学、統計、それに文法を含め重要な作業だ。
耕(たがや)して畑を)区分する - abackern
杭で区切る - abbaken
区切る、区分する - abfachen
柵で区切る - abgattern
格子で区切る - abgittern
境界で区切る - abgrenzen
板で区切る - abhagen
垣根で区切る - abhegen
パーティション(簡易壁)で区切る - abkleiden
円(丸)で(を書いて)区切る - abkreisen
計(量)って区分する - abmessen
鋤(すき)で(畑を)区分する - abpflügen
袋に入れて区分する - abpacken
柵で区分する - abschranken
いろいろあるが、土地問題関連が多いようだ。よく使われる動詞というわけではないだろう。もっとも農業社会では土地(領土)問題は食料と並んで死活問題だ。 また人間はもともと土地、領土への執着が強いことをあらわしているのか。土地問題は別として、繰り返しになるが、<区分、区分け>のコンセプトは大切だ。文法で言えば、言葉を何で<区分け>するかによっていろいろ違った文法が出来て来る。
一 方 away は<離れて行く>で、あるモノが離れた後も目がそのモノを追っている感じ(プロセス、過程)だ。この away と off (<離す、離れる>、<切る、切れる>)の二つで大体< 分離>、<離脱>、<遮断>、さらにはに、追って説明するが<減少>、<消滅>、<変化>、<移転>の過程が説明できそうだ。
<離 れる>関連では<取り去る>の<去る>があるが、実のところ<取る>の方にも<離す>の意味がある。この<去る>と<取る>に関しては別途検討予定。大基本動詞の<取る>については以前のポストで幾度か書いたが、特に<離す>の意の<取る>は取り上げなかったようだ。<離す>、<去る>関連の<とる>動詞 は日本語に多い。ほぼ反対の意の<つく、付く、着く>との対比はおもしろい課題だ。ドイツ語の接頭辞では<an->が相当。
<つく>の反対語 (別のポスト ”<つく>(突く、着く、付く )について” から)
突く - 引く
着く - 離れる、去る
付く(自動詞) - 離れる、外(はず)れる、はがれる、とれる。 この<とれる>の英語は<to go (come) off>。
付ける(他動詞) - 離す、外す、はがす、とる。
就く - 離れる、去る。
衝く - 引く、引き下がる、退(しりぞ)く
尽く - 満つ、満ちる; 始まる; 続く
憑く - 離れる、去る
点く - 消える
見方を変えて<付く>の反対語、<離れる>の関連語を探せばさらにかなりある。
切る-切れる、裂(さ)く-裂ける、割(さ)く 、割(わ)る-割れる、分ける-分かれる、散らす-散る、削(けず)るー削れる、脱ぐ-脱げる、取る-とれる、落とす-落ちる、外(はず)す-外れる、は ぐ-はげる、そぐ-そげる、もぐ-もげる、剃(そ)る、刈る、除(のぞ)く、ぬぐう、のける、抜く、払う、拭(ふ)く、掃(は)く、放(はな)つ、晴らす(疑いを晴らす)、振る(太郎は花子に振られた)
今回の<ab-動詞>調査で見つけたのを加えるとと、さらに増える。
かじって取る - かじり取る
こすって取る - こすり取る
しっぼて取る - しぼり取る (日本語もドイツ語も比喩てきな意味でも使われる)
梳(す)いて取る - 梳き取る (日本語ではあまり使わない)
吸って取る - 吸い取る
ついばんで取る - ついばみ取る (日本語ではあまり使わない)
つんでとる - つみ取る
つまんでとる - つまみ取る
なめて取る - なめ取る (日本語ではあまり使わない)
ねじって取る - ねじり取る
はさんで取る - はさみ取る
はじいて取る - はじき取る (日本語ではあまり使わない)
みがいて取る - みがきとる (日本語ではあまり使わない) <こすって取る>
むいて取る - むき取る
むしって取る - むしり取る
以上の日本語動詞はドイツ語<ab-動詞>の構成、意味を分析するのに大いに役立つ。また、最後に方にまとめて並べた
掃(は)く haku
払う harau
拭(ふ)く huku
掃(は)く haku
放(はな)つ hanatsu
晴らす harasu
振る huru
は<は行 (ha-、hu-)>だ。離す(hanasu)、外(はず)す(hazusu)、は ぐ(hagu)も<は行 (ha-)>だ。<は行)>以外では
脱ぐ nugu
除(のぞ)く nizoku
ぬぐう nuguu
のける nokeru
抜く nuku
が<な行 (ni-、nu-、no-)>でややまとまっている。
away と off に次ぐのは down だが、away、 off を1、2位とすると、3-9位がなくて10位くらいの少なさだ。down は動詞でいえば<落ちる>、<落とす>、<おりる(降りる、下りる)>、<おろす(降ろす、下ろす)>に相当するが、これらの動詞は意外と多義なのだ。言い換えれば、根が深い、奥が深いのだ。(別のポスト ”<落ちる>、<落とす>は奥が深い ” 参照)。 これは
3.(ant. auf, hinauf)下へ、例:absitzen, absteigen
に関連する。
absitzen - 日本語では<腰を下ろす>という表現があるが、 absitzen には<下に座る(腰かける)>の意味はない。<馬に乗る>、<バイクに乗る>の反対の<降りる>が主な意味だ。
absteigen - steigen は<のぼる、あがる>なので ab- が付いて<くだる、さがる>はなにか奇異な感じだが、<馬に乗る>、<バイクに乗る>を考えればおかしくはない。またがって乗ったり、降りたり>するのだ。
abladen - 荷を降おろす
abschultern - 肩から(荷を)おろす 比喩てきな言い方も日本語と同じようなのがある。
4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden
相良大辞典の解説に<4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden>というのがある。英語では、ab- よりも de- (分離、離脱)、dis-(否定)の方がよく使われている。
調 べてみたところ Collins 独英辞書 では de- がつく見出し語115個、dis- がつく見出し語は76個ある。ab- と同じくラテン語系の接頭辞であるためか英語では<あらたまった>意味、使用の動詞が多いが、ドイツ語訳のほうで ab- が出てくる動詞でかつ普通に使われるのは下記の通りで多くはない。
to decline - abkelen
to deduct - abziehen
to depart - abreisen
to deposit - ablagern
to derive - ableiten
少しわき道にそれるが、 ドイツ語訳のほうで ent- がつく動詞も抜きだしておく(ただし普通に使われるの動詞のみ)。これもさほど多くはない。
to decide - entscheiden (scheiden は<分ける>、<離す>意なので、これの ent- がついて<決める(to decide)>になるのはおもしろい。 ent- の真骨頂か。別途 ent- のポストで検討予定。もっとも、abscheiden という動詞はあり、主な意味は<別れる(自動詞)>、<分ける>、<離す>、<より分ける>。
to decode - entschülssen
to defrost - entfrosten
to depopulate - entvolken (人口を減らす、といった意味)
to derail - entgleiten
ところで
”
4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden
”
という解説だが、 <..... な どにならったものか>という言い方で?マーク付きの解説だが、この解説のなかにヒントがある。それは<手本が取られている>という表現だ。これは受身表現 だが能動表現にすると<手本を取っている>になる。<手本を取る>の<取る>がヒントなのだ。<取る>はかなり前に取り上げた動詞で、大基本動詞で当然ながら多義語だ。次のような<取る>複合動詞がある。
切り取る
こすり取る
つまみ取る
掃き取る
はさみ取る
拭(ふ)き取る
むき取る (皮をむき取る)
むしり取る
もぎ取る
以 上のうち、切り取る 、こすり取る、つまみ取る、はさみ取る、むき取る、むしり取る、もぎ取る、は必要なモノを<取る>場合は<取る>でもいいが、不必要なモノを<取る>場合 は<取り去る>の意で<取った>モノは大体捨ててしまうモノだ。掃き取る、拭き取るは大体不必要なモノを<取る>場合に限られているようだ。以上の複合動 詞は<取る>ことが目的ではなく大体不必要なモノを<捨てる>、<捨て去る>のが目的で、<取る>はその手段、中間工程なのだ。<捨てる>、<捨て去る> は副詞で表現すれば、away、off になる。もっとも<手本を取る>、もっと正確には<手本を写し取る>の場合は<取った>モノを<捨てる>のではなく、<取った(写し取った>モノを利用す るのが目的だが、<取る>のが目的でないことはほぼ同じで、to take off, away の意の<取る>と見ていいだろう。
ex- 動詞
ラ テン語には<分離、離脱>を表わす ex という前置詞がある。また ex- を接頭辞とする動詞もラテン語にあるが、 接頭辞 ex- をとる動詞は英語、フランス語にもある。しかしドイツ語には、ex- 動詞のそのままの輸入語を除くと、基本的にはない。これはドイツ語の大きな特徴だ。
上で<分離、離脱>を表わす ex と簡単に書いたが、 調べてみる必要がある。
Collins 独英辞書では
前置詞 ex として
(place) out of, from, down from
(person) from
(time) after, since
(change) from
(cause) by, trough
(conformity) in accordance with
と いう簡単な解説がある。そこで英語の ex- 動詞とex- 動詞が基本的にないドイツ語を Collins 独英辞書 でくらべてみた。ex- がつく動詞は45個だが、ex- は l, m, s の前では e- に、f のまえでは ef- に、r のまえでは er- になり、これらをくわえると ex- 動詞は87個ある。おもしろい結果がえられた。結論を先に言ってしまうと、英語の ex- 動詞のドイツ語訳動詞でab- がつく動詞はごくわずかしか出てこない。
to expire - ablaufen
to exude (にじみ出さす)という動詞の訳で、ausstrahen に続いて二番目に absondern という動詞が出てくる
to emit - abgeben
英 語の ex- 動詞は ab- 動詞と違って、下記に見るように普段良く使う語が多い。to exude は普段ほとんど使わない。いわば英語の ex- 動詞に相当するドイツ語の動詞でab- がつく動詞がほとんどない、ということだ。これは何を意味するかというと、ab- = ex- ではないということだ。
今度はOxford German-English Dictionary (簡易Paperback版)から。ふだん良く使う動詞のみ。
to examine - untersuchen
to exceed - übersteigen
to exchange - ausrauschen
to exclude - ausschliessen
to excuse - entschludigen
to execute -ausfüren
to exempt - befreien
to exhibit - ausstellen
to exit - abgehen
to expand - ausdehnen
to expect - erwarten
to experience - erleben
to expire - ablaufen
to explain - erklären
to explode - explodieren (輸入語)
to explorer - erhorschen
to export - exportieren (輸入語)
to expose - freilegen, asusetzen
to express - ausdrücken
to extend - verlängern, ausstrecken
to extort - erpressen
to extract - herausziehen
ab- 動詞は
to exit - abgehen
to expire - ablaufen (すでに取り上げた)
の2個だけだが、あることはある。 aus- 動詞が多く、次いで er- 動詞が多い。<ex->と<er->の関係はまだ検討課題になっている。(ドイツ語の接頭辞(prefix)- 1 <er->)
ところでこの de- (分離、離脱)を意味するが、フランス語では de-、イタリア語では di- は前置詞として<分離、離脱>(from)以外に英語の of の意で多用される。英語でも動詞によっては of が from の意で使われ、なかなかこの of になじめない。
結論を先に言ってしまうと、ドイツ語 ab- のキーワードは英語の away、off 以外に<of>があるのだ。相良辞典のドイツ語の副詞としての ab の解説では、英語の関連語として of、off をのせている。発音は<ab><of (ov)>で似ている。これは
1. (c)獲得、奪取、例:jm et abbetteln, jm et abnehem
が関連する。英語では<to rob someone of XX> の<to rob of>の<of>だ。日本語では<yy から xx を奪(うば)う>だが
英語では上記のように to rob YY of XX
ドイツ語では jdn einer Sache (gen) berauben が英語と同じ構造((gen) に注意)。その他 jdm etw rauben, jdm etw stehlen がある。
相良大辞典では基本的に<取る>(獲得、奪取)の意がある動詞では<jm et ab-動詞>がかなり出てくる。基本的には(例外があるということ)<jm>はヒトの3格、<et>モノの4格なので、動詞は<取る>関連の動詞なので、日本語では
<誰々から><何々を><取る>
となる。<何々を>(モノの4格)はいいとして、問題は<誰々から>だ。ドイツ語でも von YY を使った言い方はあるが、一般的には<jm>(ヒトの3格)で、この説明がやや難しい。元来<ab->は away の意味があるので、日本語の感覚では<から(from)>が使われるものと考える。英語やドイツ語では、上記のように
to rob someone of XX
jdn einer Sache (gen) berauben
jdm etw rauben
jdm etw stehlen
なのだ。
<取る>(獲得、奪取)の意がある<jm et ab-動詞>の例。これは、日本語の<xx(し)て取る>に劣らず、たくさんある。
jm et abbetteln
jm et abdringen ゆすり取る
jm et abfechten 戦って奪い取る
jm et adhexen 魔法を使って奪い取る
jm et abkämpfen 戦って奪い取る
jm et abklagen 訴訟に訴えて取る
jm et ablisten だまして奪い取る
jm et ablügen うそをついて奪い取る
jm et abpfählen 質(抵当)に取る
jm et abringen 戦って(格闘して)奪い取る
さらには、<奪(うば)い取る>だけでなく、例は少ないが<もらう>、<借りる>などもおおもとのところでは<取る>、<得る>、<手に入れる>に変わりはない。
jm et abkomplementieren お世辞を言ってもらう(手に入れる)
jm et abmieten 借りる(賃借する)
jm et abschmarotzen お世辞を言ってもらう(手に入れる)
jm et abschmeicheln お世辞を言ってもらう(手に入れる)
<お世辞を言ってもらう>が並んで出てきたので、これ以外の表現を相良辞典から紹介する。
うれしがらせてもらう
おべっかを使ってもらう
おもねてもらう
こびてもらう
言葉からは、ドイツにもこういう処世術があるのがわかる。
5.取消、否定(既述のものの)、例:absagen, abbefehlen
<取消、否定>は away、 off (to cut off)、特に off から説明できよう。
absagen
abbefehlen 命令を取り消す
以外では
abbestellen - 注文を取り消す
abmelden
おもしろいのは
sagen - 言う
mendeln - 通知する
で、absagen、abmelden のもともとの意味は<取り消す>そのものではなく、<取り消しを伝える>の意であることだ。<取り消しを伝える>という日本語らしくない解説はよく考えた末のものだろう。
日本語では<やむ>は<終わる>だが、<やめる>は<終える>のほかに<取り消す>の意がある。
1)雨がやむ。
2)もう(夕方の)五時だ。そろそろ仕事をやめよう。
3)会社をやめる。
4)今回の慰安旅行はやめよう。
以上の4例の<やめる>の違いと共通事項をかんがえると、おもしろい結論がでてきそうだが、横道にそれるので<取り消す>にもどる。
<取り消す>の体言(名詞)形は<取り消し>だが<取消>の漢字二語でもいい。中国語でもよく<取消>が使われるが、比較的新しい語で、和製漢語の輸入だろう。ということは、新しい概念の可能性がある。相良辞典の absagen の解説では<約束、注文、命令など>を取り消す、となっているが、<など>は何を含むか?
約束 - 約束の履行、実行というが<履行、実行>の取り消しはできるか?
注文 - 購入の取り消しはできるか?
命令 - 命令の実行というが<実行>の取り消しはできるか? <命令に服従する>というが<服従>の取り消しはできるか>
以上のうち服従以外は<取り消し>可能だ。<服従>は<拒絶>するだ。 absagen には<拒絶する>という意味もある。
<約束、注文、命令など><など>は何を含むか?
予約 - <予約>の実行、履行とはあまり言わない。
予定 - <決定>の取り消しはできるか?
計画 - 実行計画というが、<実行>の取り消しはできるか?
これまた<決定>、<実行>は取り消しできるのだ。ではいったい<取り消す>とはどういうことか? これはおもしろい問題だが、接頭辞<ab->、<ab-動詞>と直接関係はなさそうだが、上で述べた
”
sagen - 言う
mendeln - 通知する
でもともとの意味は<取り消す>そのものではなく、<取り消しを伝える>の意であることだ。
”
だが関連ありそう。 <取り消す>については別途検討。
6.変化、移転、例:abandern, abwandeln
<変化、移転>も away、off (to cut off) から説明できよう。<変化、移転>は元の状態から away、off (to cut off)することと言える。もっとも、abandern, abwandeln の2例は andern, wandeln のほうにすでに<変化>、<移転>に似た意味がある。
<変化>では <ab- 形容詞由来の動詞(形容詞en)>の例が多い。 <形容詞の状態(xx のように)>変わるの意だ。er- 形容詞en、ver- 形容詞en の動詞化もあり、簡単に<変化、移転>とはいえない。(別途検討予定)
<ab- 形容詞en> の例
色関連
abweißen weißen もある
abröten röten の方が一般的
abblüen
<er- 形容詞en> の例 <er->は非分離前綴り
<ver- 形容詞en> の例 <ver->は非分離前綴り
色関連
vergelben
7.(a)完成、終了、例:abblühen, abmachen
abblühen は blühen(花が咲く)が<終わる>という意味。abmachenは多義語だ。
相良大辞典の訳では<XX し尽くす>というのがよく出てくる。また<to cut off >がらみの<切る>は、日本語では<やり切る>、<走り切る>、<切り上げる>など完成、終了を表す。また<切り上げる>もそうだが、日本語では<xx(動詞連用形)上げる)>で<完成>の意がある、これはよく使われる。仕上げる(abarbeiten)、(パンを)焼き上げる(abbacken)。
7.(b)減少、消滅(漸次の)、例:abbleichen, aborten
<減少>は少しずつ (to take, be taken)away だ。
<消滅>は完全に(to take, be taken)away だ。
8.損傷、疲弊、例:abbrauchen, sich ängstigen
<損傷、疲弊>もは away、 off (to cut off) から説明できよう。
abbrauchen 使いへらす(減少)、使い古す(疲弊の感じ)
9.十分、過剰、例:abuschen, die Glegenheit abpassen
実際に相良大辞典にあったてみると<十分(に) xxする、xx (し)終える>という解説が出てくる。
abbrauen 十分に醸(かも)す、かもし終える
abkochen 十分煮る(煮上げる)
abkammen 梳(す)いて取る、十分梳く
日本語では<xx(動詞連用形)上げる)>がよく使われる。また上記の<XX し尽くす>も<十分>の意と重なるところがある。
10.殺害、抹殺、例:abfangen
命が <to take away>、 off (to cut off) されれば殺害、抹殺(される)だ。
はじめの方で<相良大辞典では1,000個見当だ。なぜこうも多いのか?は大きな疑問だ。大体見当はついているが。>と書いたが、<大体の見当>とは、タネをあかせばどういうことはないのだが、<ab->には基本的な意味<分離、離脱(away、off )>がある。この二つ(away、off )は副詞だ。<ab->には<分離する、離脱する>の<する>に相当する汎用性が極めて高い<取る>の意があるからだろう。ただし<取る>は他動詞だ。漢語(分離、離脱)を使用するとこの辺があいまいになる。
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(注1) ためしにフランス語とラテン語を調べてみた(いずれも Coliins 辞書)。
フランス
abaiser - これは a + baiser で ab + xx ではない。
abandonner
abasourdir - to stun, to stagger. sourd = deaf (形容詞)に由来。
abbattre
abdiquer - to abdicate
abhorre - to abhor, to loath
abjuer - to abjure, to renounce
aboyer - to bark. aboyer は擬音語、擬態語の類だろう。
abolir - abolish
abonder - to abound, to be plentiful, abundant(形容詞)
abboner - to subscribe
aboutir - これは a + bout (tip, end) で ab + xx ではない。
abreger - to sgoirten, to abridge
abreurer - to water, to shouwer
abriter - to shelter, to accomodate
abroger - to repeal, to abrogate (= :repeal, revoke, rescind, repudiate, overturn, annul)
aburtire - これは a + brute(e)(形容詞) で ab + xx ではない。to daze, to exhaust, to stupefy
absentir - to absent
absoudre - to absolve, to dismiss
absorber - to absorb
abstenir - to abstain
s'abstarire - to cut off
フランス語はロマンス語でラテン語の影響を英語以上に直接的に受けているので期待したが、これまたどういうわけかさほど多くはない。それでは<ab->の本家とも言うべきラテン語はどうか。
ラテン語 (見出し語数は46個で、英語やフランス語に比べてかなり多い。<離れる>、過ぎる(過剰)と言う意味では ex- 、extra- というのもある。
(注)見出し語は不定形ではなく、大半のラテン語辞書に出てくる一人称単数現在形で、実際には<わたしは(が)XXする(動詞)>の意になるが、便宜上<わたしは(が)>ははぶいている。一方英語の方は to 不定詞(形)。
abaliano - to dispose of (of がないと<処理する>といった意味だが of がつくと<捨てる>, <除去する>の意になる。, to remove, to estrange
ab + aliaeno - anlieno は alian の意で動詞としては<遠ざかる>、<遠ざける>、つまりは<離す>、<分離する>だ。
abdicco - to disown (= to declare that you no longer want to be connected with, responsible for), to resign
ab + doco - dico は<言う>の意で、abdico は<言ったこと>を<否定する>、が原意だろう。
abdo - to hide, to remove
ab + do - do は to give, to permit, to put, to bring(持ってくる、もたらす>)の意があり、これらの<否定>なので、abdo は<隠す>とか<取り除く>の意につながる。
abduco - to lead away, to take away, to seduce
ab + duco - duco は to lead, to guide、 <導(みちび)く>の意。英語の abduction は誘拐の意だ。
abeo - to go away, to depart, to pass away, to be changed, to retire
ab + eo - eo は to go の意。したがって、abeo は<離れて行く>、<去る>、<去っていく>の意になる。
abequito - to ride away
ab + equio - equio は to ride の意。
aberro - to stray, to deviate, to have respite
ab - erro - erro エラー (error)の意だが、もとは<さまよう>、<はずれる>の意のようだ。
abicio - to throw away, to throw down, to abandon, to degrade
ab + icio - icio ではなく iacio, iacto が<投げる>の意。
abigo - to drive away 車のドライブも元の意味は<駆(か)る>。
Wiktionary の abigo の例文
- I deter, discourage, frighten away
abiudico - to take away (法的に没収する)
ab + iudico - iudco は to judge で judiciary (法的な)の意がある。
abiungo - to unyoke, to detach
ab + iungo - iungo は to joint together, to unite の意。したがって<否定>の意に加えて<分離、離脱>の意がある。
abiuro - to deny on oath
ab + iuro - iuro は to swear, to oath の意。したがって<否定>の意が加わっている。
ablego - to send out of the way
ab + lego - lego は to send の意。
(未完)
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