Friday, May 1, 2020
<くり広げる>、<展開する>は他動詞、自動詞?
<くり広げる>は他動詞、自動詞?という問いに対し答えは100%がた他動詞とでてくるだろう。だがよく調べ、考えてみると99%ぐらいになる。
例文を作ってみると
1)あの当時思いがけない出来事が続々と <くり広げられた>。
2)あの戦争ではアジア各地で戦闘が<くり広げられた>。
3)太郎と花子の間(あいだ)では始終(しじゅう)いがみ合いが<くり広げられる>。
他動詞の受け身が多い。ネット辞典では<熱戦がくり広げられる>という例が多い。これからすると<くり広げる>は<戦い>、<いさかい>と相性がいいようだ。
他動詞の能動形を使ってみる。
1-T)時節は思いがけない出来事を続々と <くり広げた>。
2-T)あの戦争ではアジア各地で戦闘を<くり広げた>。
3-T)太郎と花子は始終(しじゅう)いがみ合いを<くり広げる>。
例が少ないが、それぞれ違いがある。
1)は
あの当時は思いがけない出来事を続々と <くり広げた>。
でもまったくダメというわけではない。この場合主語が表にでてこないが<世の中>といえる。
1-T)時節は思いがけない出来事を続々と <くり広げた>。
とした。翻訳調だがわるくない。
あの当時東京では思いがけない出来事が続々と <くり広げられた>。
と場所がでてくると
あの当時東京は思いがけない出来事を続々と <くり広げた>。
でおかしくない。だがべつに<東京が出来事をおこす>わけではないので、<くり広げた>は<自動詞的>といえないか。
2)あの戦争ではアジア各地で戦闘を<くり広げた>。隠れた主語は<我々><日本>などが考えられるが、あえて、あるいはむしろ無意識に表にださない。聞く人、読む人は容易に、あるいあむしろ無意識に察しがつく。
これも主語(動作ぬし)がないが、おかしくない。むしろ<あの戦争ではアジア各地で戦闘が<くり広げられた>が翻訳調に聞こえる。
3-T)太郎と花子は始終(しじゅう)いがみ合いを<くり広げる>。
は<太郎と花子>は主語(動作ぬし)といえるが、日本語文法では<は>をとるので<主題>で
太郎と花子といえば、始終(しじゅう)いがみ合いを<くり広げる>。
で主語がなくなる。これは隠れた主語がなさそうで、動作ぬしは<太郎と花子>だ。
ここでもう一度最初の他動詞受け身の例を見てみると
1)あの当時思いがけない出来事が続々と <くり広げられた>。
2)あの戦争ではアジア各地で戦闘が<くり広げられた>。
3)太郎と花子の間(あいだ)では始終(しじゅう)いがみ合いが<くり広げられる>。
でなにか翻訳調っぽい。あるい報告調っぽい。これは逆に<他動詞の受け身形>を使っているためだろう。したがって<くり広げる>は本来他動詞、能動態で使われるのだ。
<くり広げる>の自動詞形は<くり広がる>だが、これはなぜかほとんど使われない。(注1) <広がる>が自動詞としてよく使われるのにどうしたことか?これは<くり>があるのが関係ありそうなので、動詞<くる>を調べてみる。
<くる>は漢字で書くと<繰る>だが、<くる>は<来る>と<刳る>もある。<繰る>は <刳る>と同じアクセントで、<来る>はアクセントが違い、超頻繁使用動詞だ。
<繰る>自体は<xxを繰る>で他動詞用法。<xxが繰る>は聞かない。<xxが、は繰られる>という受け身も聞かない。<繰る>は<を>をとり、動作の対象がある他動詞性が強い。
他動詞性が強い<繰る>と自動詞の<広がる>は結びつきにくいのか。
<くり広げる>のもとの意味としては
ひとつづつ、少しづつ、段階的に何かを<繰って>(ある種の動作)<広げる(増やす、伸ばす)>ことだ。結果として<広がる(増える、伸びる)>が動作、動作ぬしの方に目がいくのか?
上記の例では
1-T)時節は思いがけない事件を続々と <くり広げた>。
2-T)あの戦争ではアジア各地で戦闘を<くり広げた>。
は自動詞に近い。だが<を>をとる自動詞は飛躍か。
<繰る>のほかの複合動詞をチェックすると
繰り返す - 高頻度使用。<くり広げる>と同じく<xxを繰り返す>で他動詞が主。<xxが繰り返す>ではなく<xxが繰り返される>となる。冒頭の例文を入れ替えると、
1)あの当時思いがけない出来事が続々と <繰り返された>。
2)あの戦争ではアジア各地で戦闘が<繰り返された>。
3)太郎と花子の間(あいだ)では始終(しじゅう)いがみ合いが<繰り返された>。
1)は<思いがけない出来事>と<繰り返す>は相性がわるい。<あの当時同じよな出来事が続々と <繰り返された>ならいい。2)3)はよさそう。だが<繰り返す>は当然だが<広がり>がない。
繰り上げる (繰り上がる)
繰り下げる (繰り下がる)
繰り入れる
繰り出す - <繰り入れる>の反対語ではない。発話者の居場所により<繰り出して行く>、<繰り出して来る>となる。<繰り出て行く>、<繰り出て来る>とあまり聞かない。他動詞性が強い<繰る>の影響か。
繰り越す
繰り延べる - <延べる>は<広げる>の意があるが、<繰り延べる>は<くり広げる>の意にならない。
繰り上げ、繰り下げ、繰り越し、繰り延べは会計、算数用語で、中立性がある。 <繰り下げる>は本来の<繰る>の意から離れている。(注2)
その他関連語では
手(た)繰(ぐ)る、たぐり寄せる
さぐる -<さがす>と<繰る>の合成語か?
まさぐる
くくる
めくる(ページをめくる)。
やり繰る(やり繰り)
繰り言(ごと)
くるくる
ぐるぐる
<くり広げる>の英語はいくつかあるが to develop が一番よさそう。 to develop は<発展する>、<発展させる>より意味が広い。
Any development ? は<何か進展は?>の意味だ。
漢語では<展開>があるが、現代中国語ではほとんど聞いたことがない。ネット英‐漢辞典では
Development: 成長, 発育; 発展, 進展, 動態, 開始, 開発,研制(研磨制成), 建築物, 開発的房地産。了解更多。
とある。<くり広げる>に近いのは進展だが、<くり広げる>に<進歩>の意味はない。なお、中国語の二語動詞(複合動詞)は名詞にもなる。また語形変化がないので自/他動詞の区別もない。動詞/名詞の区別、自/他動詞の区別は内容、語順が決める、超融通無碍(ゆうずうむげ)な言語だが、参考になる。
<展開>を使うと<展開する> になるが、
あの当時思いがけない出来事が続々と<展開した>。
あの当時思いがけない出来事を続々と<展開した>。
あの戦争ではアジア各地で戦闘が<展開した>。
あの戦争ではアジア各地で戦闘を<展開した>。
太郎と花子の間(あいだ)では始終(しじゅう)いがみ合いが<展開した>。
太郎と花子の間(あいだ)では始終いがみ合いを<展開した>。 -> これはダメだが
太郎と花子は始終いがみ合いを<展開した>。ならOKだ。
と<展開する>は融通無碍な自他兼用動詞となる。
-----
(注1)自動詞<くり広がる>の例文をつくってみた。
この地域は古代から稲作がくり広がった。(ー> この地域は古代から稲作がくり広げられた。)
この地域は当時なぞの疫病がくり広がった。(ダメ)(ー> この地域は当時なぞの疫病が広がった。)
夏の甲子園では連日高校生球児の熱戦がくり広がった。(->くり広げられた。)
この新しいビジネスでは様々な思惑とアイデアの戦いが次々とくり広がった。(->くり広げられた。)
この小説の中で主人公の苦悩の跡がくり広がった。 (文学的表現ではよさそう。)
本来の小説(novel)は予期せぬ出来事の展開(<繰り広げ>ではなく<繰り広がり>)がないともしろくない。<繰り広がり>は自動詞<繰り広がる>の名詞(体言)形だがおかしくない。どうしたことか?
まったくダメということもない。
(注2)このブログは フーリエ展開、 フーリエ級数(あるいは フーリエ級数展開)というややこしい数学を理解しようとして奮闘している合間に書いた。フーリエ級数の内容は大体ある式があってその中の k あるいは n を1、2、3、4 . . . . で入れ替え(同じようなことを繰り返し)て出てくる結果を足し合わせて出てくる結果なのだが、これを(級数)展開と言っており、この<展開>のやまとことばを探そうとた結果だ。
この場合
フーリエ級数を<くり広げる>。 - OK
フーリエ級数で<くり広げる>。 - OK。だが自動詞ではなく、<xxを>が抜けている、省略されていると考える。OK
フーリエ級数が<くり広げられる>。 可能受け身としてOK
フーリエ級数を<展開する>。 - OK。 他動詞
フーリエ級数を<展開させる>。 - OK。 他動詞。
太郎にフーリエ級数を<展開させる>。 なら使役。
フーリエ級数が<展開する>。 自発は考えにくい。
フーリエ級数が<展開できる>。 可能表現
フーリエ級数が<展開される>。 これは何か?自発か? 太郎によってフーリエ級数が<展開される>なら受け身だ。
フーリエ級数のようにいろいろややこしい。
sptt
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment