Friday, October 3, 2025

おもしろい日本語の自動詞、他動詞<受ける>、自動詞<受かる>ー2

日本語の自動詞はおもしろい。前回のポスト<手すりをつかむ、手すりにつかまる>では

他動詞<つかむ>に対する自動詞<つかまる>を四苦八苦しながら検討した。また最近のポストでは<ヘンテコな動詞>シリーズでは

ヘンテコな動詞<さばく (裁く)>、<さばける>
ヘンテコな動詞<そむく>、<そむける>
ヘンテコな動詞<捉 (とら) える>、<とらわる>、<とらわれる> 
ヘンテコな動詞<つかむ>、<つかまる>、<つかまえる> 
ヘンテコな他動詞<たずさえる>、自動詞<たずさわる>
ヘンテコな動詞<耐える>ー 自動詞、他動詞?
ヘンテコな他動詞<受ける>、自動詞<受かる>

を取りあげたが、ヘンテコな、おもしろい自動詞はまだまだありそう。 このシリーズは

ヘンテコな他動詞<受ける>、自動詞<受かる>

から始まっているが、いまだに他動詞<受ける>と自動詞<受かる>の関係、自動詞<受かる>の意味、語源がよくわかっていない。

ポスト ” ヘンテコな他動詞<受ける>、自動詞<受かる>" のコピー、ペイスト。

 ”
他動詞<受ける> 試験を受ける
自動詞<受かる> 試験に受かる 

他動詞<受ける>は<試験を受ける>以外に、例えば<試練を受ける>、<いじめを受ける> があるが、<試練に受かる>はほぼダメ、<いじめに受かる>はダメだ。自動詞らしいのは<xxが受かる>だが、例がすぐに思いうかばない。 <試練に受かる>がほぼダメというのは、試験はもともとある意味では試練だからだ。(今回追加<試練に受かる>はこじつければ<試練に耐えて、OKとなる>の意がある。)

ところで

自動詞<受かる> 試験に受かる 

は<を>をとらないので自動詞か?

試験が受かる

なら自動詞でいいが、こうはいわない。<試練が受かる>、<いじめが受かる>もダメ。

<受ける>は<を>をとるので他動詞だが、やや特殊で、意味としては<与えられる>で受身的だ。

A ーー 試験 ーー> B

Aは与える。Bは与えられる。またはBは<受ける>

受身は対象が主語で

試験が与えられる 

これからすると

<受ける>は<を>をとるから他動詞といえるか? 少なくとも能動的に<試験に働きかける<わけではない。

英語で<受ける>は to receive で、to receive xx で他動詞。だが 

<試験を受ける>は to receive an exam とはいわず、to take an exam.

to receive も to take も他動詞だが、英語でも to receive は受身的だ。

An exam is taken. はなんとかなるが、An exam is received.とはまず言わないだろう。A gift is received. ならいい。

つまるとこころは<試験を受ける>がおかしいようだ。さらには<試験に受かる >はややこしい。

このポストでは疑問は出ているが、結論が出ていない。訂正するところはなさそうだが、再度挑戦。

試験を受ける

は英語と比較すればおかしいが、日本語としては変ではない。<受ける>の古語は<受く>で

学研全訳古典辞典

 う・く 【受く】

他動詞カ行下二段活用

活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}

① 受け止める。受け取る。

出典万葉集 一九六六

「風に散る花橘(はなたちばな)を袖(そで)にうけて」

[訳] 風に散る橘の花を袖に受け止めて。

以下略

 

<以下略 >としてあるが、略した<以下の解説、例文>もすべて他動詞用法で自動詞用法はない。つまりは

古語  うく 【受く】 他動詞

が現代語の<受ける>に変わっていったと見ることができる。また活用は 

カ行下二段活用

活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}

で<け>の字がある。

問題は<に>をとる<受かる>。上の活用では<か>の字がない。 

ザっとネットでチェックした限りでは、古語に<受かる>はない。現代語の<受かる>は

デジタル大辞泉 

うか・る【受かる】 
 
[動ラ五(四)]試験などに合格する。及第する。「検定試験に―・る」⇔落ちる
[類語]合格パス及第

 

という簡単な解説で、しかも<合格する>、<及第する>を使った飛躍した説明で<受く>、<受ける>との関連が出てこない。

<受かる>からは可能の意味が感じられるが、<受ける>の可能形は<受けられる>。

(明日、ここで) 試験が受けられる

または

試験が受けれる

が普通で

試験を受けられる
試験を受けれる 

とは言わない。しいて言えば翻訳調になる。

<られる>、<られる>は可能以外に受身形成助動詞でもあるが

試験が受けられる
試験が受けれる

は受身にならない。しいて文を作れば

試験は太郎によって受けられる

というとんでもない文になる。 

試験は太郎によって受けれる

は全くダメといっていい。

試験が受けられる
試験が受けれる

から受身の意味をくみ取るのは難しい。これは、上記で引用した

<受ける>は<を>をとるので他動詞だが、やや特殊で、意味としては<与えられる>で受身的だ。

 ”

に関連するかも知れない。さて

<受かる>からは可能の意味が感じられる

に関連しては、<ける>-<かる>コンビでは

カネをもうける ー カネがもうかる
鍵をかける ー 鍵がかかる
壁に絵をかける ー 壁に絵がかかる
価格をまける ー 価価がまかる

などは<xxかる>が可能の意になる。

カネをかける ー カネがかかる

の<カネがかかる> は可能の意味がない。<カネがかかる>は一般的な自動詞表現だ。

また、これまで再三にわたり検討してきた<まる>-<める>コンビでは

炒める ー 炒まる
染める ー 染まる
求める ー  求まる
休める ー 休まる
ゆるめる ー ゆるまる

などがある。<xxまる>は 一般的な自動詞表現と可能表現が可能だ。この中では<求まる>がおもしろい。だがこれらの<xxかる>、<xxまる>は

yyが xxかる、yyが xxまる

yyにかる、yyにxxまる

ではない。<受かる>は

試験に受かる

で、<に>をとる。ところで<試験に受かる>は<木を見て、森を見ず>で

試験に受かる

わたしは / が 試験に受かる
太郎は / が 試験に受かる 

が<森の>言い方だ。<受かる>のは<試験>ではなく<わたし / 太郎>だ。

試験が受かる

ではないのだ。

上で<受かる>には可能の意があると書いた。だが<受ける>の可能、つまりは<受けられる、受けれる>ではない。ここがややこしい。<受かる>を<受けいれられる>と考えたらどうか>

わたしは / が受かる ー> わたしは / が受けいれられる
太郎は / が受かる   ー> 太郎は / が受けいれられる

<受けいれられる>はいかにも長たらしい。<受かる>にこの意味があれば、こちらの方が簡潔でいい。だが、まだ問題が残る<試験に>だ。

わたしは / が試験に受けいれられる
太郎は / が試験に受けいれられる 

はダメだ。上で<試験に>の<試験>はある意味では自動詞<受かる>の対象。自動詞の対象というのは変なようだが、<私は学校に行く>の<学校>は<行く>の対象だ。ところで、<受けいれられる>は自動詞ではなく他動詞<受けいれる>の受身形。受身形では、能動形の対象 (目的語) が主語になる。

わたしを受けいれる
太郎を受けいれる  

ここでは<試験に>がない。

わたしを試験に受けいれる
太郎を試験に受けいれる 

ダメだが

わたしを試験で受けいれる
太郎を試験で受けいれる  

ならいい。<試験で>は対象を示しているわけではない。いわば<受けいれる>判断材料、道具だ。

わたしは / が 試験で受かる
太郎は / が 試験で受かる

は変な言い方だが可能だ。ところで、<成功する>は<受かる>と似たようなところがある。

エベレスト登頂に成功する。(エベレスト登頂を成功する、とは言わない)
青色 LED の発明に成功する。

<成功する>は自動詞だが、<エベレスト登頂>、<青色 LED の発明> はいわば達成目標で、かなり鮮明に対象化されている。

このような場合には<に>が使われるようだ。 これに関連しては、大和言葉では

xxに合う   試験 (の要求) に合う 
xxにかなう (叶う)  試験 (の要求) に叶う (試験の要求を叶える)
xxにそぐう  試験 (の要求) にそぐう

がある。

 

sptt

 

 


 

手すりをつかむ、手すりにつかまる

 

これは少し前のポスト

ヘンテコな動詞<つかむ>、<つかまる>、<つかまえる>

でザっとチェックしたことがあるが、目的は<へんてこさ>を示すことで、深入りはしていない。ここでは少し<深入り>してみる。

<つかむ>は他動詞、<つかまる>は自動詞で

手すりをつかむ
手すりにつかまる

と言う。<つかむ>、<つかまる>はやっかいだ。<まる><める>の<つかめる>は可能。だが、これらは<掴む>、<掴まる>、<掴める>が想定されている。<つかまる>には <とらえられる>の<つかまる>があり、漢字を使って書けば<捕まる>でもいい。<つかむ>の受身<つかまれる>というのもある。ここでは<掴まる>、<捕まる>の話ではなく

手すりをつかむ
手すりにつかまる

の話。<手すりをつかむ>の<つかむ>は<を>をとるので他動詞。一方<手すりにつかまる>の<つかまる>は<に>をとるので自動詞。だが、そう簡単ではないだろう。まず

行為、行動として 

手すりをつかむ
手すりにつかまる

はどこが違うのか?

手すりをつかむ
手すりにつかまる

は同じ行為、行動とい言える。

では、このような行為、行動をする人の意図はどうか?

意図は<手すりをつかむ>の方がが強そうだが、<手すりにつかまる>も意図がある。第三者の行為、行動の描写とすると

太郎は手すりをつかむ
太郎は手すりにつかまる 

になるが、これも大差ない。だが、他動詞、自動詞の差は大差だ。

対象、ここでは<手すり>の認識はどうか?

太郎は手すりをつかむ

の対象認識は直接的だ。言い換えると<手すり>は<つかむ>の直接対象といえる。一方

 太郎は手すりにつかまる 

も<つかまる>対象は<手すり>で、<つかむ>ほど直接的ではないが、<手すり>は<つかまる>の対象だ。<学校に行く>の<学校>は自動詞<行く>の対象とすれば同じことだ。つまり対象は直接目的語でなくてもいい。間接目的語というのがあり

Taro sent flowers to Hanako.

太郎は花子に花を送った。

で<Hanako>、<花子> は間接目的語。<flowers>、<花>は直接目的語。この場合<sent、to send>、<送った、送る>は他動詞で直接目的語と間接目的語がとれる。繰り返しなるが

太郎は手すりをつかむ

の<つかむ>は他動詞で、<手すり>は直接目的語。一方

太郎は手すりにつかまる 

の<つかまる>は自動詞で、<手すり>は間接目的語と見なせるが、上の<Hanako>、<花子>の間接目的語とは異なると言えよう。<つかまる>は自動詞、<to send>、<送る>は他動詞なのだ。だが<行く>の対象が<学校>、<つかまる>の対象が<手すり>とは言える。

話が少しずれるが

手すりにさわる
手すりに触 (ふ) れる 

という言い方は普通で、おかしくない。<さわる>、<触れる >は英語の to touch 相当で、to touch は他動詞。一方、日本語の<さわる>、<触れる >は<を>をとらず

手すりをさわる
手すりを触れる  

とは言わない。<手を>を加えると

手すりに手をさわる

はダメだが

手すりに手を触れる

は問題ない。<手を触れる>は<を>があるが、<手>は<触れる>の目的語でなく

 手すりに手を触れる

の<触れる>は依然として自動詞だろう。対象<手すり>があり。<を>があるのだがしつこく自動詞だ。この場合

手すりに手を触れる

手すりに手を触れさせる

が意味内容だ。 また<手で>を加えた 

手すりに手でさわる
手すりに手で触れる

はどちらも問題ない。<さわる>、<触れる>を他動詞とした

手すりを手でさわる
手すりを手で触れる

は間違いだろう。

手すりを手でつかむ

はいいが

手すりを手でつかまる

はダメだ。

<つかまる>と<さわる> / <触れる> はある意味では似たような動作だが、<つかまる>は<つかむ>と結びついており、軽いタッチではない。<軽いタッチ>ではないが、<軽くつかむ>ほどの動作といえないか。この説明はこじつけがましいが、さらにコジツケを進める。

対象をかえて運動場にある<鉄棒>とすると

鉄棒をつかむ
鉄棒につかまる 

とすると、様子が違ってくる。

鉄棒をつかむ

<鉄棒をつかむ>こと自体が動作の目的であることが想像される。一方

鉄棒につかまる 

は<鉄棒につかまる>こと自体が動作の目的ではななく、何か他のことをすることが想像されないだろうか。この違いを気にすると (意識すると) 

手すりをつかむ
手すりにつかまる

に差が出てくるのではないか。 

手すりにさわる
手すりに触 (ふ) れる 

も同じことが言えそう。つまり、何か他のことをすることが想像されないだろうか。

<手すり>に戻るが

手すりを拭 (ふ) く
手すりを磨 (みが) く

この例は<手すりを拭く、磨く>こと自体が動作の目的であることが想像される。

 

 sptt

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 



Monday, September 29, 2025

<xxむ>動詞と<xxまる>、<xxめる>動詞 -2


前回のポスト ”<xxむ>動詞と<xxまる>、<xxめる>動詞  ” で

古語の<xむ>、<xxむ>は自他兼用動詞で、これから現代語の自動詞<xまる>、他動詞<xまる>が出てきた。

を仮説として、チェックしたが、結論はこの仮説が成り立たないことがわかった。古語<xむ>、<xxむ>で自他兼用動詞が少ないのだ。前回のポストでは明らかに古語、または古語と考えられ動詞をチェックした。だが考えてみると現代語の<xむ>、<xxむ>動詞が昔から使われていた可能性がある。そしてこれらが自他兼用動詞である可能性があるが、これは特に意識的にチェックしなかった。ここでは意識的にチェックしてみる。つまりは、昔は<xむ>、<xxむ>が自他兼用動詞として使われていたが、今は、いくつかの可能性があが

1) 依然として<xむ>、<xxむ>が自他兼用動詞として使われている

2)  <xむ>、<xxむ>が自動詞あるいは他動詞のどちら一方で使われている

そして

3)自動詞<xまる>、<xxまる>、他動詞<xめる>、<xxめる>も使われている

 

 <xむ>

前回ポストの<xむ>動詞チェックリスト 

<xむ>

あむ 編む
いむ 忌む
うむ 生む
うむ 倦む
うむ (埋む)  埋 (う) まる、埋 (う) める
笑む <笑む>はほぼ死語で<ほほ笑む>。<笑みを浮かべる>

かむ 噛む、咬む、 <鼻をかむ>の<かむ>
きむ (決む)   決まる、決める
くむ 組む
くむ 汲む
こむ 混む  電車が混む
こむ (込む) 込める    関連語 こまる (困る)、こもる (籠る)

(さむ)  冷める
(さむ)  覚める  目覚める

しむ (沁む)(しみる 沁みる)
しむ (閉む)  閉まる、閉める
しむ (締む)  締まる、締める  絞まる、絞める
しむ (占む)  占める
しむ (湿む)   湿る (しめる)

すむ 住む、済む、澄む
せむ (攻む)  攻める  せまる (迫る)
せむ (責む) 責める
そむ (染む) 染まる、染める

たむ (貯む) 貯まる、貯める  金が貯まる、金を貯める
たむ (溜む) 溜まる 溜める  水が溜まる、水を溜める
たむ (矯む) 矯める
つむ 積む
つむ 摘む  
つむ 詰む 王将を詰む、ドブ (ノドが) 詰まる、王将を詰める
とむ 富む
とむ (止む) 止まる、止める

なむ (舐む) 舐める
のむ 飲む

(はむ) はまる、はめる
はむ (食む) 古語
ばむ (はむ)  汗ばむ  <ばむ>接尾語  気色ばむ、黄ばむ。そのような性質を少しそなえてくるという意味を添える。 

ひむ (秘む) 秘める  
ふむ 踏む
ほむ (誉む) 誉める

もむ 揉む

やむ 已む 已まる、已める
やむ 病む
よむ 読む

(  ) 内は古語、または古語と思われるもの。<xまる>、<xめる>は

xまる  自動詞
xめる  他動詞

ではっきりしている。

以上からわかるが、下記の例外を除いて、現代語の<xむ>動詞は独立していて関連する<xまる>、<xめる>がきわめて少ない。下記は例外と言えるが、おもしろいところがある。

例外

こむ 混む  電車が混む  <混む>
こむ (込む) 込める 関連語 こまる (困る)、こもる (籠る)

これはややこしい。 

こむ 混む  電車が混む  

<混む>は当て字的な感じだ。だがこの意味で<込む>とは書かないようだ。ネット辞典の現代語<込む>の解説。

デジタル大辞泉 「込む」の意味・読み・例文・類語 

こ・む【込む/混む/籠む】

 [動マ五(四)]
一つ所に多くの人や物が集まっていっぱいになる。混雑する。また、物事一度に重なる。「銭湯が―・んでいる」「道路が車で―・む」「日程が―・んでいる」「負けが―・む」
(込む)仕組みが複雑に入り組む。精巧である。「手の―・んだ細工
(込む)動詞連用形に付いて、複合語の形で用いる。
㋐中に入る。「風が吹き―・む」「飛び―・む」「殴り―・む」
㋑中に入れる。「書き―・む」「詰め―・む」「呼び―・む」
㋒ある状態をそのままずっとしつづける。「座り―・む」「黙り―・む」
㋓すっかりその状態になる。「冷え―・む」「老い―・む」
㋔徹底的に事を行う。「教え―・む」「煮―・む」「使い―・んだ万年筆
[動マ下二]こめる」の文語形

現代語の<込む>は基本的には自動詞。上の例文では【込む/混む/籠む】の使い分けがないが、耳で聞けば、あるいは口に出して言えば<こむ>だ。

(込む)動詞連用形に付いて、複合語の形で用いる。

 は別のポスト

<込む>、<込める>の複合動詞 Nov 8, 2024

 でチェックしたことがある。上の例を自動詞、他動詞に分ければ

㋐中に入る。「風が吹き―・む」「飛び―・む」「殴り―・む」 自動詞
㋑中に入れる。「書き―・む」「詰め―・む」「呼び―・む」 他動詞
㋒ある状態をそのままずっとしつづける。「座り―・む」「黙り―・む」 自動詞
㋓すっかりその状態になる。「冷え―・む」「老い―・む」 自動詞
㋔徹底的に事を行う。「教え―・む」「煮―・む」「使い―・んだ万年筆」 他動詞

となり他動詞が出てくる。

書き込む、詰め込む、呼び込む
教え込む、煮込む、使い込む 

文語形ではない。<書き込める>、その他<xxめる>は可能形になる。

 

古語<込む> 

学研全訳古典辞典 

こ・む 【込む・籠む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① ぎっしり詰まる。混雑する。

出典紫式部日記 寛弘五・九・一一

「人げ多くこみては、いとど御心地も苦しうおはしますらむとて」

[訳] 人の気配が多く混雑しては、(中宮様も)ますますご気分が悪くていらっしゃるだろうというので。

② 複雑に入り組む。精巧に作られる。手間がかかる。

出典子盗人 狂言

「隅から隅までも手のこうだ能(よ)い普請ぢゃ」

[訳] 隅から隅まで手がかかったよい家の造りだ。◇「こう」はウ音便。


[二]
 他動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

詰め込む。押し込む。

出典平家物語 三・公卿揃

「あまりに人参り集(つど)ひて、たかんなをこみ、稲麻竹葦(たうまちくゐ)のごとし」

[訳] あまりに人がたくさん参上し集まって、まるで竹の子を詰め込み、稲・麻・竹・葦が密生しているようだ。

(たかんな=竹の子)


[三] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① 中に入れる。とじこめる。

出典源氏物語 若紫

「雀(すずめ)の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)のうちにこめたりつるものを」

[訳] すずめの子を犬君(=童女の名)が逃がしてしまったの。伏籠の中にとじこめていたのになあ。

② 包み隠す。秘密にする。

出典源氏物語 蛍

「心にこめ難くて、言ひおき始めたるなり」

[訳] 心に包み隠しておくのが難しくて、書きとめ始めたのである。

 

古語<込む>は自動詞、他動詞兼用。一方、現代語では<こむ>は

電車が混む
手が込む

で自動詞。他動詞には<込める>を使う。

心をこめる

自動詞形<込まる>はないが、<こまる、困る>という言い方がある、<こまる、困る>は<込められた、心理状態>の表現で、<困る>は当て字。

 

つむ 詰む 王将を詰む、ドブ (ノドが) 詰まる、王将を詰める

現代語<詰む>

デジタル大辞泉 「詰む」の意味・読み・例文・類語 

つ・む【詰む】 
 
[動マ五(四)]
布地などの目が密になる。「目の―・んだ織物
将棋で、王将が囲まれて逃げ場がなくなる。「あと一手で―・んでしまう」
行きづまる。窮する。「理に―・む」
[動マ下二]つめる」の文語形

基本的に自動詞だが、<王将を詰む>では他動詞だろう。

将棋で、王将が囲まれて逃げ場がなくなる。「あと一手で―・んでしまう」

他動詞っぽいが自動詞。<王将が詰む>で<王将が詰まる>の意だ。


古語<詰む>

学研全訳古典辞典 

つ・む 【詰む】

[一] 自動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

勤務場所に控えている。詰める。

出典冥途飛脚 浄瑠・近松

「これのは今朝から庄屋(しやうや)殿へつめられ」

[訳] うちの人は今朝から庄屋殿のところへ詰めておられ。


[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① ぎっしりと入れる。いっぱいにする。

出典茶壺 狂言

「まんまと茶をつめて下りまする所に」

[訳] 首尾よく茶をぎっしりと入れて下ります所に。

②すき間に物を入れて動けなくする。

出典落窪物語 二

「打ちたたき、押し引けど、内外(うちと)につめてければ、ゆるぎだにせず」

[訳] たたいたり、押したり引いたりしても、内にも外にもすき間に物を入れ動けなくしてあるので、ゆらぐことさえない。

③(相手を)行き詰まらせる。追い詰める。

出典徒然草 二四三

「問ひつめられて、え答へずなり侍(はべ)りつ」

[訳] 問い詰められて、答えられなくなってしまいました。

④ 短くする。縮める。

出典風姿花伝 二

「腰膝(ひざ)を屈(かが)め、身をつむれば」

[訳] 腰や膝をかがめ、からだを縮めると。

⑤(家計を)切り詰める。倹約する。

出典阿波鳴渡 浄瑠・近松

「わしが身をつめ、三度つける油も一度つけ」

[訳] 私が身代を切り詰め、三度つける油も一度だけつけ。

 

古語<詰む>は自動詞、他動詞兼用。一方、現代語<詰む>も

王将が詰む
王将を詰む

で自他兼用。他動詞形<詰める>は

王将を詰める

で一般的な他動詞になるが、 可能形にもなるが、イントネーションが違う。王将を詰める(王将を詰むことができる、王将を詰めることができる)。

自動詞形の<詰まる>

ドブ 詰まる
ノドが詰まる
息が詰まる
考えが詰まる(行き詰る) 


 やむ 已む 已まる、已める

<已む>は自動詞。 風が已む、雨が已む、痛みが已む。
<已まる>も自動詞だが、あまり使わない。自発的な感じがあるようだ。また古語的な感じもある。

学研全訳古典辞典 

古語 や・む 【止む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め

① おさまる。やむ。

出典土佐日記 一・一六

「風・波やまねば、なほ同じ所に泊まれり」

[訳] 風や波がおさまらないので、やはり(昨日と)同じ所に停泊している。

②途中で終わる。なくなる。起こらないままで終わる。とりやめとなる。

出典竹取物語 かぐや姫の生ひ立ち
「翁(おきな)、心地あしく、苦しき時も、この子を見れば、苦しきこともやみぬ」

[訳] (竹取の)翁は、気分が悪く、苦しいときでも、この子を見ると、苦しいこともなくなってしまう。

③(病気が)なおる。(気持ちが)おさまる。

出典平家物語 三・赦文

「法皇、御憤(いきどほ)りいまだやまず」

[訳] 法皇は、お怒りがまだおさまらない。

④ 死ぬ。死亡する。

出典源氏物語 手習

「すべて朽木(くちき)などのやうにて、人に見捨てられて、やみなむ」

[訳] なにもかも、(山奥の)枯れて腐った木などのような状態で、人に見捨てられて、死んでしまおう。

[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① 終わらせる。とりやめる。やめる。

出典源氏物語 賢木

「遊びはみなやめて」

[訳] 管弦の会をすっかり終わらせて。

② 治す。

出典枕草子 さかしきもの

「かい拭(のご)ひたるやうにやめ奉りたりしかば」

[訳] きれいにふき取ったように、(病気を)治し申し上げたので。


古語<やむ 【止む】>は自動詞、他動詞兼用。 【止む】とあるが<>でもいい。いずれにしろ<やむ>だ。

現代語の<やむ、已む、止む>は自動詞。他動詞は<やめる、已める、止める>、自動詞形の<やまる>は

風がやまる、雨がやまる、痛みがやまる

と言う人がいても<ダメ>という人はいないだろう。

以上の三例は例外で<xむ><xまる><xまる>があ、繰り返しになるが

1)こむ 混む  電車が混む  <混む>
こむ (込む) 込める 関連語 こまる (困る)、こもる (籠る)

古語<こむ> 自他兼用
現代語<こむ> 自動詞  主に<混む>の意。
現代語<こまる> <困る>の意で自動詞
現代語<こめる> 他動詞

2)つむ 詰む 王将を詰む、ドブ (ノドが) 詰まる、王将を詰める

古語<つむ> 自他兼用
現代語<つむ> 自動詞  あと一手で王将がつむ。
現代語<つまる> 自動詞  ドブ (ノドが) 詰まる、あと一手で王将がつつまる。
現代語<つめる> 他動詞

 3) やむ 已む 已まる、已める、休む 休まる、休める、

古語<やむ> 自他兼用
現代語<やむ> 自動詞  雨が已む、痛みがやむ
現代語<やまる> 自動詞 雨がやまる、痛みがやまる (なぜかやや古語的)
現代語<やめる> 他動詞  仕事をやめる、会社をやめる

いずれも古語の<xむ>が現代語の<xまる>、<xめる>に変わったという形跡はない。

 ーーーーー

<xxむ>動詞

前回ポストの<xxむ>動詞チェックリスト


あがむ  (崇む) 崇める
あつむ  (集む)  集まる、集める
(いじむ)  いじめる
いさむ  勇む  勇んで
いさむ  (諫む)  いさめる 諫める
いたむ  (炒む)  炒まる、炒める
いたむ  痛む  頭が痛む  痛める
うずむ  (埋む)  埋 (うず) まる、埋 (うず) める
うとむ  疎む
うらむ  恨む
うるむ  潤む  目が潤む
おがむ  拝む
おさむ  (収む)  収まる、収める
おさむ  (治む)  治まる、治める
おさむ  (納む)  納める
おしむ  惜しむ

かがむ  かがまる、かがめる
かさむ  嵩む
かじむ  手がかじむ、手がかじかむ
かすむ  霞む  目がかすむ
かこむ  囲む
からむ  絡む 絡まる、絡める
きざむ (刻む) ねぎをきざむ、時が刻む、時を刻む
きしむ  軋む
きわむ (極む) 極まる 極める
くすむ  くすんだ色
くぼむ  窪む  (窪まる、く窪める)
くやむ  悔やむ
くるむ  くるまる、くるめる
こばむ  拒む

さだむ (定む)定まる、定める
しかむ  顔がしかむ、顔をしかめる
(しがむ) しがみつく
しずむ  沈む、沈める
しずむ (静む)静まる、静める
(しとむ)  しとめる(し留める、し止める)
しぼむ  花がしぼむ
すくむ  竦む すくまる、すくめる 足がすくむ
すすむ  進む
すぼむ  口がすぼむ、口がすぼまる、すぼめる 口をすぼめる
せがむ  せがむ 

たたむ  畳む
たのむ  頼む
たるむ  弛む 弛める
たわむ  撓む 撓める
ちぢむ  縮む 縮まる、縮める

つかむ  掴む つかまる 掴まる 手すりに掴まる、捕まる
つぐむ  口をつぐむ(とじる)
つつむ  包む
つとむ (努む) 努める、努めて
つとむ (務む、勤む) 務まる、務める、勤める
つまむ
つるむ
とがむ (咎む) 咎める
とどむ (留む) 留まる、留める
とろむ   とろける、<まどろむ>は<目がとろむ>

ながむ (眺む)眺める
なごむ  和む
なじむ  馴染む
なずむ  暮れなずむ
(なだむ)  なだめる
にくむ  憎む
にじむ  滲む
にらむ  睨む
(ぬくむ) 温む  温まる、温める
ぬすむ  盗む
ねたむ  妬む
のぞむ  望む

はげむ   励む
はさむ  挟む  挟まる
はじむ  (始む)  始まる、始める
はずむ  弾む
はばむ  阻む
はらむ  孕む
ひがむ  僻む 
ひずむ  歪む
ひそむ  潜む  潜める  身を潜める

ひるむ  怯む
ふくむ  含む  含める
へこむ  凹む  凹ます

まとむ  (纏む) 纏まる、纏める
みとむ  (認む) 認める  見+止める <認む>は古語になく、<認める>の文語形だろう。
むくむ  脚 (あし) がむくむ
めぐむ  恵む
めざむ  目+覚む  (目覚める)
もとむ  求む  求まる、求める

やすむ  休む  休まる、休める
ゆがむ  歪む
ゆるむ  弛む、緩む  弛まる、弛める
よどむ  淀む

 

以上から、現代語の<xxむ>動詞の多くは独立していて関連する<xまる>、<xめる>があるものは少ない。太字は<xxむ>、<xxまる>、<xxめる>で例外とも言えるが、これらもおもしろいところがある。

いたむ  痛む  頭が痛む  痛める

<痛む>は古語にある。 

 学研全訳古典辞典

いた・む 【痛む・傷む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

①(体が)痛む。

②(心が)痛む。苦痛を感じる。嘆く。

出典徒然草 一八八

「一事を必ずなさんと思はば、他の事の破るるをもいたむべからず」

[訳] 一つの事を必ずなしとげようと思うならば、ほかの事がだめになることを嘆いてはならない。

③ 破損する。傷つく。

出典平家物語 二・烽火之沙汰

「再び実なる木はその根必ずいたむ」

[訳] 年に二度実のなる木はその根が必ず傷つく。

[二] 他動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

(人の死を)悲しむ。

出典曠野 俳諧

「李下(りか)が妻のみまかりしをいたみて」

[訳] 李下の妻が亡くなったのを悲しんで。◆「悼む」とも書く。


[三] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

苦痛を感じさせる。痛めつける。

出典徒然草 一二八

「生けるものを殺し、いため」

[訳] 生き物を殺したり、痛めつけたり。

 

古語<痛む>は自他兼用。現代語<痛む>は自動詞で、他動詞は<痛める>

頭が痛む。頭を痛める。

 <痛まる>は聞かない。


かがむ かがまる、かがめる

<かがむ>は古語にある。

学研全訳古典辞典

かが・む 【屈む】

[一] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

(体の一部を)折り曲げる。

出典源氏物語 空蟬

「指(および)をかがめて」

[訳] 指を折り曲げて。

二] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

①(体の一部が)折れ曲がる。しゃがむ。

出典腰祈 狂言

「殊の外御腰がかがませられた」

[訳] ことのほかお腰が折れ曲がられた。

② 身をひそめる。忍び隠れる。

出典心中天網島 浄瑠・近松

「どこにかがんでこの苦をかける」

[訳] どこに身をひそめてこの苦労をかける。◇「かがん」は撥(はつ)音便。


古語<かがむ>は自他兼用。現代語<かがむ>も自他兼用だが

自動詞  腰がかがむ。 <腰がかがまる>が普通か。 
他動詞  <腰をかがむ>は古語っぽい。<腰をかがめる>が普通だ。

 

からむ  絡む 絡まる、絡める

<からむ 絡む>は古語にある。

学研全訳古典辞典 

から・む 【絡む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① 巻きつく。まといつく。

出典太平記 二六

「内甲(うちかぶと)にからみたる鬢(びん)の髪を押しのけ」

[訳] 額のあたりにまといついている鬢の髪を払いのけて。

② 言いがかりをつける。

出典傾城買 洒落

「あぢにからんで」

[訳] 変に言いがかりをつけて。◇「からん」は撥(はつ)音便。

[二] 他動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

巻きつける。

出典更科紀行 俳文・芭蕉

「かの僧のおひねものとひとつにからみて馬に付けて」

[訳] その僧の背負った荷物と一つに巻きつけて馬につけて。

 

古語<からむ 絡む>は自他兼用動詞。<絡まる>、<絡める>は古語で出てこない。現代語の<からむ>は

デジタル大辞泉

から・む【絡む/×搦む】

読み方:からむ

【一】[動マ五(四)

物に巻きつく巻きついて離れなくなる。まといつく。「朝顔垣根に—・む」「痰(たん)が—・む」

他の物事が密接に結びつく。「金が—・んだ事件

理屈こねたり、無理を言ったりして相手困らせる言いがかりをつける。「酔って—・む」

俗に交流する。「あの人なら—・んだことがある

【二】[動マ下二からめる」の文語形

 

現代語の<からむ>は基本的に自動詞で、他動詞は<からめる>。

<からまる>も自動詞だが、<絡む>との違いは明確ではない。 

 デジタル大辞泉

 からま・る【絡まる】

読み方:からまる

[動ラ五(四)

物に巻きつく巻きついて引き離しにくくなる絡みつく。「スクリューに網が—・る」「ロープに足が—・る」

物事複雑に結びつく。密接に関係し合う。「私情が—・る」

言いがかりをつける。「酒のせいかしつこく—・ってくる」

 

以上の例文は、試せはわかるが、<からむ>で置き換えられえる。

スクリュ―に網ががからむ、ロープに足がからむ
私情がからむ
しつこくからんでくる

 

接頭辞<し>がついた<しがらむ>も古語にある。現代語では名詞形の<しがらみ>が使われている。

 学研全訳古典辞典 

しがら・む 【柵む】

[一] 他動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① からみつける。からめる。

出典万葉集 一〇四七

「萩(はぎ)の枝(え)をしがらみ散らし」

[訳] 萩の枝をからみつけ花を散らし。

②「しがらみ」を作りつける。

出典狭衣物語 二

「涙川流るる跡はそれながらしがらみとむる面影ぞなき」

[訳] 涙が流れる跡ははっきりしていながら、しがらみを作ってせきとめておきたい面影は見ることができない。


[二]
 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

からみつく。妨げになる。

出典源氏十二段 浄瑠・近松

「さすが人目のしがらみて、あはれはかなき世の中や」

[訳] そうはいっても他人の目が妨げになって、ああなんとはかない世の中だことよ。


 

 くるむ  くるまる、くるめる

 <くるむ>は古語にない。現代語としての<くるむ>は

デジタル大辞泉

くる・む【包む】

読み方:くるむ

【一】[動マ五(四)巻くようにして物をつつむ。「書類風呂敷で—・む」

[可能] くるめる

【二】くるめる」の文語形

他動詞。

[可能] くるめる

 とあるが、すぐ下に

くるめる」の文語形 

とあるので、文語形<くるむ>=可能形<くるめる>と誤解しそうだ。<くるめる>は他動詞でもいい。

デジタル大辞泉

くる・める【包める】

動マ下一][文]くる・む[マ下二]
ひとまとめにする。ひっくるめる。「荷物一つに―・める」
すっぽりとつつみ込む。くるむ。「毛布でからだを―・める」

 <くるめる>も他動詞

<ひっくるめる>という言い方がある。一方<くるまる>は自動詞。

布団にくるまる。

 これで問題ないが、上に

「毛布でからだをくるめる」

 という言い方があり、<布団にくるまる>はちよっと変な自動詞だ。

自動詞 くるまる

他動詞 くるむ、くるめる

<くるめる>は、場合によって、可能の意がある。

この書類は風呂敷でくるめる。

 

 しずむ  沈む、沈める


<沈む>は自動詞、<沈める>は他動詞

<沈む>は古語にある

しづ・む 【沈む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

①(水中に)没する。沈む。

出典平家物語 一一・内侍所都入

「侍(さぶらひ)ども二十余人おくれ奉らじと、手に手を取り組んで一所にしづみけり」

[訳] (家来の)武士ども二十人余りが主君に(死に)遅れ申し上げまいと、手に手を組んで同じ所(の海)に沈んだ。

② 不遇である。落ちぶれる。

出典源氏物語 澪標

「御子どもなどしづむやうにものし給(たま)へるを、みな浮かび給ふ」

[訳] お子様方なども不遇であるようでいらっしゃったが、みな出世しなさる。

③ 落ち込む。沈み込む。

出典源氏物語 明石

「いみじき憂へにしづむを見るに」

[訳] (あなたが)大変な悲しみに沈み込むのを見ると。

④〔「病にしづむ」の形で〕重い病気にかかる。わずらう。

出典源氏物語 賢木

「中宮は涙にしづみ給(たま)へるを見たてまつらせたまふも」

[訳] (院は)中宮が泣き暮らしておられるのを見申し上げなさるにつけても。


[二]
 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① 水中に沈める。

出典平家物語 四・宮御最期

「宇治川の深きところにしづめてんげり」

[訳] (三位入道の首を)宇治川の深いところ(=水底)に沈めてしまった。

② 落ちぶれさせる。

出典源氏物語 玉鬘

「ほとほと、あやしき世界にしづめ奉りつべかりしに」

[訳] すんでのところで、(姫君を)片田舎で落ちぶれさせ申してしまうところであったが。

③(評判を)落とす。

出典源氏物語 絵合

「年経(へ)にし伊勢(いせ)をの海士(あま)の名をやしづめむ」

[訳] 年月を経て有名な伊勢の海士(=在原業平(ありわらのなりひら))の名を落としめてよいものだろうか。

 

古語<しづ・む 【沈む】>は自他兼用動詞だ。 かなりの多義語だ。

現代語では、自動詞<沈ずむ>、他動詞<沈める>。自動詞形の<沈まる>はない。

 

すくむ  竦む すくまる、すくめる

デジタル大辞泉

現代語 すくむ 竦む

すく・む【×竦む】

 [動マ五(四)]
驚きや恐れ、極度の緊張などのためにからだがこわばって動かなくなる。「断崖絶壁の上に立って足が―・む」
からだが小さくなる。「恥ずかしさのあまり身が―・む」
態度がかたくなる。

以下は古語の例

「いと物遠く―・みたるさまには見え給はねど」〈椎本
紙・布などが、かたい感じになる。こわばる。
「唐の紙のいと―・みたるに」〈梅枝
[動マ下二]すくめる」の文語形

 

古語<すくむ>

学研全訳古典辞典

すく・む 【竦む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① 体がこわばる。ちぢこまる。すくむ。

出典源氏物語 夕霧

「すくみたるやうにて物も思(おぼ)え給(たま)はず」

[訳] (御身体は)こわばっているようで意識もおありにならない。

② かたくなである。

出典源氏物語 藤裏葉

「おとどの御掟(みおきて)、あまりにすくみて」

[訳] 大臣のご方針があまりにもかたくなであって。

③ 柔軟性がなくなる。ごわごわする。

出典源氏物語 梅枝

「唐(から)の紙の、いとすくみたるに」

[訳] 中国渡来の紙で、たいそうごわごわしているのに。

 
[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

ちぢこませる。ちぢめる。すくめる。

出典亭子院歌合 

「口すくめて肩据ゑたるやうにつぶやけり」

[訳] 口をすぼめて肩をはったようにぶつぶつ言っている。

古語<すく・む 【竦む】>は自他兼用。

一方、現代語は

自動詞 <すくむ>、<すくまる>の二つがある。 

足がすくむ、足がすくまる

他動詞 すくめる  首をすくめる、肩をすくめる

 

すぼむ  口がすぼむ、口がすぼまる、すぼめる 口をすぼめる 

デジタル大辞泉

すぼ・む【×窄む】

[動マ五(四)]
ふくらんでいたり、開いていたりしたものが、縮んで小さくなる。しぼむ。「風船が―・む」「花が―・む」
先のほうにいくに従って細くなる。「口の―・んだ容器
勢いが衰える。「応援の声がだんだん―・む」
[動マ下二]すぼめる」の文語形。

 (最後の解説は、上の解説の意味からは<すぼむ>は自動詞。一方<すぼめる>は他動詞。文語形の<すぼむ>は他動詞なる、ということ。)
 
すぼま・る【×窄まる】
[動ラ五(四)]すぼんだ状態になる。すぼむ。「管の先が―・っている」
 
すぼ・める【×窄める】
[動マ下一][文]すぼ・む[マ下二]すぼむようにする。小さく縮める。「肩を―・めて歩く」「傘を―・める」
 
 
古語に<すぼむ>はなく、関連する古語は
 
すぼ・る 【窄る】
自動詞ラ行四段活用

活用{ら/り/る/る/れ/れ}

① ちぢまる。すぼむ。狭くなる。

出典博多小女郎 浄瑠・近松

「金銀なければ肩すぼり」

[訳] 金がないので肩身が狭くなり。

② 衰える。不景気になる。

出典世間胸算用 浮世・西鶴

「世のすぼりたる物語して」

[訳] 世間が不景気になった話をして。

 
現代語で<すぼる>は聞かない。ところで<しぼむ>という動詞がある。
 
花がしぼむ。
 
<しぼむ>は<すぼむ>と似て非なる意味だ。<すぼむ>は<スビ〇>、<すぼめる>がありが、<しぼむ>は<しぼまる>、<しぼめる>という言い方がない。
 
 
 
たるむ  弛む 弛める
 
現代語の<たるむ> 
 
デジタル大辞泉
 
たる・む【×弛む】

読み方:たるむ

【一】[動マ五(四)

ぴんと張っていたものがゆるむ。「ロープが—・む」「目の皮が—・む」

張りつめた気持ちがゆるむ。しまりがなくなる。「—・んだ気分ひきしめる

【二】[動マ下二たるめる」の文語形

 
これまた、最後の解説は、
 
上の解説の意味からは<たるむ>は自動詞。一方<たるめる>は他動詞。文語形の<たるむ>は他動詞になるということだが、他動詞には使役っぽいが<たるます>があり、こちらの方がよく使われるだろう。<たるまる>は聞かない。
 
 
古語<たるむ>はなく、関連語に<たゆむ>があるが、意味と使い方は<たるむ>とかなり違う。
 
学研全訳古典辞典 
 
たゆ・む 【弛む】
 
[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め

気がゆるむ。油断する。

出典今昔物語集 二五・一二

「この馬に付きて上る兵(つはもの)どものたゆむことのなかりければ」

[訳] この馬の護衛として付いて都へ行く武士たちは油断することがなかったので。


[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

気をゆるめさせる。油断させる。

出典枕草子 うれしきもの

「いとつれなく、なにとも思ひたらぬさまにて、たゆめ過ぐすも、またをかし」

[訳] まったく素知らぬふうで、なんとも思っていないようすで、(相手を)油断させとおすのも、また興味深い。

<たゆむ>は自他兼用動詞。

慣用語の<たゆまず>は<たゆむ>の否定形。意外なところで古語が生きている。

 

<たるむ>に近い古語動詞は、なじみがないが、<ゆるぶ>。

学研全訳古典辞典

ゆる・ぶ 【緩ぶ・弛ぶ】

[一]自動詞バ行四段活用

活用{ば/び/ぶ/ぶ/べ/べ}

① たるむ。ゆるくなる。

出典万葉集 三二六二

「わが帯ゆるふ朝夕(あさよひ)ごとに」

[訳] 私の帯はゆるくなる朝夕ごとに。

②(暑さや寒さが)やわらぐ。

出典枕草子 春はあけぼの

「昼になりて、ぬるくゆるびもて行けば」

[訳] 昼になって、だんだんと生暖かく、寒さがやわらいでいくと。

③(気持ちの張りや緊張が)とける。気がゆるむ。怠る。

出典万葉集 四〇一五

「心にはゆるふことなく」

[訳] 気持ちはゆるむことなく。

④ のびのびする。(心に)余裕がある。

出典源氏物語 末摘花

「心やすき独り寝の床にて、ゆるびにけりや」

[訳] 気がねのいらない独り寝の床で、のびのびしてしまったよ。


[二]
他動詞バ行下二段活用

活用{べ/べ/ぶ/ぶる/ぶれ/べよ}

① ゆるめる。たるませる。

出典万葉集 二九八六

「梓弓(あづさゆみ)引きみゆるへみ」

[訳] 梓弓を引いたりゆるめたり。

②(厳しさを)ゆるめる。寛大にする。手心を加える。

出典源氏物語 葵

「少しゆるべ給(たま)へや」

[訳] 少し(祈禱(きとう)を)おゆるめくださいよ。◆上代には、「ゆるふ」といった。

 

<ゆるぶ>は自他兼用動詞。

<ゆるぶ>聞いても意味がわかる人はいないだろう。また<たゆむ>由来の<たゆまず>といった慣用表現もない。いわば死語だが、

③(気持ちの張りや緊張が)とける。気がゆるむ。怠る。

を除けば 

① たるむ。ゆるくなる。
②(暑さや寒さが)やわらぐ。
ーーーー
① ゆるめる。たるませる。
②(厳しさを)ゆるめる。寛大にする。手心を加える。
 
で意味は中立または肯定的だ。 

自他兼用動詞<ゆるぶ>は
 
自動詞<ゆるむ>、<ゆるまる>、他動詞<ゆるめる>に取って代わられたのではないか?
 
 
 
たわむ  撓む 撓める
 
現代語の<たわむ>
 
デジタル大辞泉
 
たわ・む【×撓む】
 
 [動マ五(四)]
他から力を加えられて弓なりに曲がる。しなう。「実の重みで枝が―・む」
飽きて疲れる。心がくじける。
「我が心は決して―・むことなし」〈鴎外訳・即興詩人

[動マ下二]たわめる」の文語形

 
 現代語の<たわむ>は自動詞。

古語の<たわむ>
 
学研全訳古典辞典
 
たわ・む 【撓む】
[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① しなやかに曲がる。しなう。たわむ。

出典源氏物語 若菜下

「枝もたわむばかり咲き乱れたり」

[訳] 枝もしなうほど咲き乱れている。

② 屈する。弱気になる。

出典万葉集 九三五

「手弱女(たわやめ)の思ひたわみて」

[訳] か弱い女のように心が弱気になって

[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

しなやかに曲げる。

出典宇治拾遺 二・一三

「背をたわめてちがひければ」

[訳] 背をしなやかに曲げて身をかわしたので

 
古語の<たわむ>は自他兼用。 一方現代語の<たわむ>は自動詞で、他動詞は<たわめる>。または使役的な<たわます>も可能か。
 
 
 
ちぢむ  縮む 縮まる、縮める
 
現代語の<ちぢむ>は 
 
デジタル大辞泉 
 
ちぢ・む【縮む】

読み方:ちぢむ

【一】[動マ五(四)

間が詰まった中身減ったりして、長さ面積容積などが短くなったり小さくなったりする。「湯通しをして布が—・まないようにする」「風船が—・む」

間・時間が短くなる。「寿命が—・む」「タイムが—・む」

恐れ緊張などで、からだや気持ち小さくなるちぢこまる。「恐怖のあまり肝(きも)が—・む」「身の—・む思い

ちぢれる。「—・んだ髪の毛

【二】[動マ下二「ちぢめる」の文語形

 
<風船が縮む>は何か変だ。風船は長さや面積ではなく体積が小さくなる。
 
風船がすぼむ、すぼまる
 

<ちぢむ【縮む】>は自動詞。自動詞には<縮まる>がある。

布が縮まる
寿命が縮まる

古語の<ちぢむ>はネット辞典では出てこない。 あるネット上の解説では

しじま・る 【蹙まる・縮まる】 
自動詞ラ行四段活用

活用{ら/り/る/る/れ/れ}

ちぢまる

出典今昔物語集 二八・二〇

「鼻いと小さく萎(しぼ)みしじまりて」

[訳] 鼻がたいそう小さくしぼみ、ちぢまって。


<ちぢむ【縮む】>は
 
デジタル大辞泉  
 
しじ・む【×蹙む/縮む】 
[動マ四]ちぢむ。小さくなる。〈日葡
[動マ下二]
ちぢめる。
「人のきぬはかまの丈伸べ―・め制せさせ給ふ」〈栄花・見果はぬ夢〉
減らす。
朝夕御飯を日ごろよりは少し―・められ候ひて」〈著聞集一八
ひそめる。しかめる。
「眉を―・めつ目を見出し」〈浄・大塔宮
 
 
という古語版がある。
 
また、<ちぢむ 縮む>には<ちぢかむ>という言い方がある。これも古語では<しじかむ>というのがある。
 
デジタル大辞泉   
 
しじか・む【×蹙む】
 
[動マ四]縮まる。縮む。縮こまる。

御手は…いとわりなう―・み」〈行幸

だが<しじむ>、<しじまる>、<しじかむ>は現代では聞かない。

 
 
つかむ  掴む つかまる 掴まる 手すりに掴まる、捕まる

これはややこしい。

現代語<つかむ 掴む>

 デジタル大辞泉

つか・む【×掴む/×攫む】

読み方:つかむ

[動マ五(四)

手でしっかりと握り持つ。強くとらえて離すいとする。「腕を—・む」「まわしを—・む」

自分ものとする手に入れる。「思いがけない大金を—・む」「幸運を—・む」

人の気持ちなどを自分引きつけ離さないようにする。「大衆の心を—・む」「固定客を—・む」

物事要点などを確実にとらえる。「事件解決糸口を—・む」「こつを—・む」

 

<つかむ>はネット古語辞典では出てこない。現代語<つかむ 掴む>は他動詞。自動詞形は<つかまる>だが、これは

1)手すりにつかまる
2)強盗が警察につかまる。

の違った意味がある。

1) 手すりにつかまる 

この<つかまる>は他動詞<つかむ>に意味は似ているが<xxにつかまる>で自動詞扱いだろう。 <手すりをつかむ>といえるが< 手すりにつかまる>とは意味が微妙に違う。こじつけ的だが

手すりをつかむ ー 独立的な対象がある動作

手すりにつかまる ー 対象はあるが、付属的、あるは主動作の補助的な動作

手すりにつかまって歩く、階段をのぼる。 

2)強盗が警察につかまる。

これも自動詞扱いだろう。

これは<強盗が警察につかまえられる>。<つかまえられる>は<つかまえる>の受身形。

強盗が警察につかまえられる。
強盗が警察につかまえられた。

とは言わず、簡潔な

強盗が警察につかまる。
強盗が警察につかまった。

というだろう。 <つかまる>をネット辞典でチェックすると

つかま・る【捕まる/×掴まる/捉まる】

読み方:つかまる

[動ラ五(四)

取り押さえられて、逃げることができなくなる。とらえられるつかまえられる。「どろぼうが—・る」「スピード違反で—・る」「先発投手相手打線に—・る」

目的のものを探し当てたり呼びとめたりすることができる。見つかる。「夜討ち朝駆けでも担当者が—・らない」「タクシーが—・る」

呼ばれてその場無理にひきとめられる。「記者団に—・る」

掴まる捉まる)からだを支えるために手でしっかりと何かにとりすがる。「つり革に—・る」「手すりに—・る」

 

1、3 は<つかまえる>の受身

2 は可能の意で、<つかめる>の意が隠れている

4 は<からだを支えるために手で>という状況がある。

 

<つかまえる>の受身は<つかまえられる>ではなく、これよりも簡潔、短い<つかまる>になるのはおもしろい。

参考

そなえる 備える  備わる  (そなえられる)
そろえる 揃える  揃う   (そろえられる)

これは日本語の自動詞の大きな特徴だ。

 

もとむ  求む  求まる、求める 

これもややこしいところがある。上の<つかまる>と同じように、自動詞<求まる>がややこしい。

<求む>は<xxを求む>で他動詞。<求まる>は<xxが求まる>で純自動詞。<求まる>は<求められる>の意があるが受身と可能の意がある。

答え簡単に求まる。
答え簡単に求められる。

<求む>の受身としては<求まれる>がありそうだが、これは聞かない。

 古語<求む>

学研全訳古典辞典

もと・む 【求む】

他動詞 マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① さがし求める。

出典枕草子 中納言まゐり給ひて

「おぼろけの紙は、え張るまじければ、もとめ侍(はべ)るなり」

[訳] 普通の紙は張ることができないので、さがし求めております。

② 手に入れたいと願う。

出典徒然草 二一七

「この義を守(まぼ)りて利をもとめん人は」

[訳] このような道理を守って利益を手に入れたいと願うような人は。

③ 誘い出す。招く。

出典徒然草 一二九

「薬を飲みて汗をもとむるには」

[訳] 薬を飲んで汗をかこうとす

④ 買い求める。買う。

出典末広がり 狂言

「今から都へ上って、末広がりをもとめて来い」

[訳] 今から都へ行って、扇を買って来い。

 

古語<求む>は他動詞。 古語に<求まる>、<求める>はない。

 

やすむ  休む  休まる、休める

これも自動詞<休まる>がおもしろい。 

現代語の<休む>

デジタル大辞泉

やす・む【休む】

読み方:やすむ

【一】[動マ五(四)

仕事活動中断して心身楽にする。休息する。「食後一時間—・む」

動き働き止まる

河水の、…—・まずに、流れ流れ流れて」〈蘆花自然と人生

眠るために床に就く。寝る。「夕食早めに—・んだ」

欠席欠勤する。「風邪会社を—・む」

日ごろ続けてきたことをしばらくせずにいる。「植木をやるのを—・む」

[可能] やすめる

【二】[動マ下二「やすめる」の文語形


 上の解説では自他動詞の区別がないが、

1.2.3 は自動詞。4,5は<xxを休む>で他動詞。

自動詞

体が休まる 

他動詞

体を休める

 

古語の<休む>

学研全訳古典辞典

やす・む 【休む・息む】

[一] 自動詞マ行四段活用

活用{ま/み/む/む/め/め}

① 休息する。いこう。

出典更級日記 富士川

「いと暑かりしかば、この水の面(つら)にやすみつつ見れば」

[訳] とても暑かったので、この水のほとりに休息しながら見ると。

② 心身が安らかになる。休まる。

出典風雅集 雑下

「民に心のやすむ間(ま)もなし」

[訳] 民衆に心の休まる間もない。

③ 横になる。寝る。

出典源氏物語 空蟬

「しばしうちやすみ給(たま)へど、寝られ給はず」

[訳] 少しの間横になりなさるが、眠ることがおできにならない。


[二] 他動詞マ行下二段活用

活用{め/め/む/むる/むれ/めよ}

① 休息させる。休ませる。

出典万葉集 一二八九

「青山(あをやま)のしげき山辺に馬やすめ君」

[訳] 青く茂った山のほとりに馬を休息させなさい、あなた。

② 心身を安らかにする。ゆるやかにする。

出典源氏物語 明石

「神仏(かみほとけ)明らかにましまさば、この愁(うれ)へやすめ給へ」

[訳] 神や仏が確かにおいでになるならば、この難儀を安らかにしてください。

 

古語の<休む>も自他兼用

 

ゆるむ  弛む、緩む  弛まる、弛める

<ゆるむ>、<ゆるまる>は自動詞。<ゆるむ>、<ゆるまる>はどこが違う。

デジタル大辞泉

ゆる・む【緩む/×弛む】

【一】[動マ五(四)

ぴんと張ったものがたるむ。締めぐあいが弱くなるゆるくなる。「ねじが—・む」「ひもが—・む」

緊張ほぐれる油断する。「気が—・む」

厳しかった状態・程度ゆるやかになる。「寒さが—・む」「取り締まりが—・む」

固いものがやわらかくなる表情のかたさがとれる。「氷が—・む」「頰が—・む」

速度などが減ずる。「スピードが—・む」

取引で、相場が少し下がる。「選挙控え市況は—・んでいる」

【二】[動マ下二「ゆるめる」の文語形

ゆるま・る【緩まる/×弛まる】

読み方:ゆるまる

[動ラ五(四)ゆるくなる。ゆるむ。「瓶の(ふた)が—・る」「寒気が—・る」

 

試せばわかるが<ゆるむ>は<ゆるまる>で、<ゆるまる>は<ゆるむ>で置き換えられる。<ゆるむ>の方が簡潔、実直。<ゆるまる>は古語的、優雅ともいえる。

 

古語に<ゆるむ>はなく、相当する古語は<ゆるぶ>。

ゆる・ぶ 【緩ぶ・弛ぶ】

[一]自動詞バ行四段活用

活用{ば/び/ぶ/ぶ/べ/べ}

① たるむ。ゆるくなる。

出典万葉集 三二六二

「わが帯ゆるふ朝夕(あさよひ)ごとに」

[訳] 私の帯はゆるくなる朝夕ごとに。

②(暑さや寒さが)やわらぐ。

出典枕草子 春はあけぼの

「昼になりて、ぬるくゆるびもて行けば」

[訳] 昼になって、だんだんと生暖かく、寒さがやわらいでいくと。

③(気持ちの張りや緊張が)とける。気がゆるむ。怠る。

出典万葉集 四〇一五

「心にはゆるふことなく」

[訳] 気持ちはゆるむことなく。

④ のびのびする。(心に)余裕がある。

出典源氏物語 末摘花

「心やすき独り寝の床にて、ゆるびにけりや」

[訳] 気がねのいらない独り寝の床で、のびのびしてしまったよ。

[二]他動詞バ行下二段活用

活用{べ/べ/ぶ/ぶる/ぶれ/べよ}

① ゆるめる。たるませる。

出典万葉集 二九八六

「梓弓(あづさゆみ)引きみゆるへみ」

[訳] 梓弓を引いたりゆるめたり。

②(厳しさを)ゆるめる。寛大にする。手心を加える。

出典源氏物語 葵

「少しゆるべ給(たま)へや」

[訳] 少し(祈禱(きとう)を)おゆるめくださいよ。◆上代には、「ゆるふ」といった。


<ゆるぶ>は自他兼用動詞。


以上をまとめると

古語 いたむ 痛む  自他兼用
古語 かがむ 自他兼用  かがまる、かがめる
古語 からむ 絡む 自他兼用  絡まる、絡める
古語 くるむ  <くるむ>は古語にない。  くるまる、くるめる
古語 しずむ  沈む 自他兼用  沈める
古語 すくむ  竦む 自他兼用  すくまる、すくめる 足がすくむ
古語 すぼむ  古語に<すぼむ>はない。 口がすぼむ、口がすぼまる、すぼめる 口をすぼめる
古語 たるむ  弛む 古語<たるむ>はない。 弛める
古語 たわむ  撓む 自他兼用  撓める
古語 ちぢむ  縮む <ちぢむ>はネット辞典では出てこない。 縮まる、縮める
古語 つかむ  掴む <つかむ>はネット古語辞典では出てこない。つかまる 掴まる 手すりに掴まる、捕まる
古語 もとむ  求む  他動詞  求まる、求める
古語 やすむ  休む  自他兼用 休まる、休める
古語 ゆるむ  弛む、緩む 古語に<ゆるむ>はなく、相当する古語は<ゆるぶ> 弛まる、弛める

古語の<xxむ>はいろいろあるが、自他兼用動詞が多い。だが。これがが現代語の<xxまる>、<xxめる>に変わったという形跡はない。むしろ


絡 (から) む ー 絡まる
つかむ ー つかまる
休む ー 休まる
ゆがむ ー ゆがまる
弛 (ゆる) む ー 弛まる

などの自動詞コンビがおもしろい。


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