Monday, June 9, 2014
<さす>(刺す、指す、差す、挿す、射す)について
<さす>はおもしろい動詞だ。ワープロの辞書の<さす>では刺す、指す、差す、挿す、射すがある。もちろん漢字を使えば五つの違った言葉のあるように見えるが、大和言葉では<さす、sa-su>の一語。<さす>の複合動詞を調べてみる。
xx(動詞の連用形)+ さす
押しさす 画鋲(ピン)を押しさす
突き刺す
接(継)(つ)ぎさす
<抜きさす>という動詞はなく<抜き差しならない>で使われるだけだ。したがって<抜くことも差すこともできない>という意味だろう。武士のカタナが戦闘場面でこういう状態だと、それこそ<抜き差しならない>状況だ。
<xx(動詞の連用形)+ さす >はありそうであまりない。
吸いさし (タバコ)
食(く)いさし
食(た)べさし
飲みさし
読みさし
があるが、動詞形はあまり使わない。おもしろいのはこれら(xx さし)に共通する意味だ。いずれも<途中でやめた、やめてある>の意味がある。この理由はこのポストを我慢して最後まで読めばわかります。
一方<さし(さすの連用形) + 動詞)>は豊富だ。これは辞書で簡単に見つかる。ここでは基本的におかしくなければ<ワープロの辞書>で出てくる漢字を使っておく。ただし多義語や強調それに少しおかしいのは<さし>を使っておく。
さし + 動詞
差し上げる (慣用あり)
射し当たる 日が射し当たる
(さしあたる) さしあたり
差し入れる
さしうつむく(うつむくの強調、辞書から)
差し置く 慣用。 誰々を差し置いて
さし送る(送るの強調、辞書から)
差し押さえる
差し替える
差しかかる 坂道にさしかかる
差しかける 傘を差し掛ける
さしぐむ 涙さしぐみ
差し込む 日が差し込む(<射し込む>か)
差し交わす
さしきる (多義語)
刺し殺す
差し障る(さしさわる)
差し迫(せま)る
(さしづめ) <--- さしつめる
差し出す。
差し立てる (送り出す、差し向ける、使いを立てる)
刺し違える
差しつかえる
差し遣(つか)わす
刺し貫(つらぬ)く
差し出る 差し出がましい
刺し通す
差し止める
指しぬく
差し伸べる
さしはさむ
差し控(ひか)える
差し引く (慣用あり)
さし響(ひび)く (響くの強調)
差し招く
差し回す
差し向ける
差し戻す
さしやる(遣るの強調か)
差し渡す
以上は手もとの辞書(三省堂)とコンピュータワープロを参照したが<挿す>の字が出てこない。
<刺す>は先のとがった鋭いもので何かを貫く。正確には先のとがった鋭いものを<押して>何かを貫く。方向は上下(特に下)もあるが前方句が多いようだ。点(一次元)に注目した動きだ。
<指す>はある方向を指(ゆび)あるいは指のようなものである方向を示す。横や後ろや上下を<指す>場合もあるが、たいていは前(まえ)方向だ。いづれにしても<指す>人やものの<近くから遠く>への方向と距離感がある。
<差す>は上記の複合動詞ではダントツに多い。意味も慣用用法、比喩もあり多様そうだ。<刺す>と同じく点(0次元)に注目した動きの場合もあるが、線上(1次元)、面上(2次元)、さらには立体上(3次元)の場合もあるが、たいていはすき間に<さす>、<さしいれる>、<さしこむ>といった意味だ。
<挿す>は破壊、損傷目的でない<刺す>のようだ。
<射す>は<雲間から日がさす>、<xxのすき間から明かりがさす>のように使うが<差す>でもいいようだ。方向は<射して行く>より<射して来る>が普通だ。
さて問題は<差す>、あるいは<さす>だ。分類してみる。
1)強調
さしうつむく(うつむくの強調)
さし送る(送るの強調)
さし響(ひび)く (響くの強調)
さしやる(遣るの強調か)
<さし送る>が強調とすると<さし遣る>も強調になるが<さす(差す)>自体に<送る>、<遣る><方向への動きを示す>働きがあり、強調といえば強調、<ある方向への動きを示す>とも言える。
<さしうつむく> 、<さし響(ひび)く >の<さし>は方向性が薄いがゼロではない。
2)方向性動詞との組み合わせ
差し上げる
差し入れる
刺し貫(つらぬ)く
差し出す
差し遣(つか)わす) - <差し送る>、<差し遣る>と同じグループ。
刺し通す
差し伸べる (周囲、遠方へ)
差し引く
差し回す
差し向ける
差し戻す
差し渡す
1)強調の<さし送る>、<さし遣る>も方向性がある。
3)方向性が弱い運動、動作動詞との組み合わせ
さしうつむく(うつむくの強調)
差し押さえる
差し掛ける
差し迫(せま)る (押す感じ)
差し立てる (送り出す、差し向ける、使いを立てる) 基本的な意味は<送る>だ。
さしはさむ
おもしろいのは残った複合動詞だ。
4)残り
射し当たる 日が射し当たる
さしあたる さしあたり
差し置く
差し替える
さしぐむ(*) 涙さしぐみ
差し込む 日が差し込む(<射し込む>か)
差し交わす (交わすの強調のようでもあるが、<差す>は<前方へ、で>の方向を暗示しているようだ)
さしきる (多義語) 競馬で<差し切る>と言うのがあり、競馬ファンが競馬を見るときの大きな醍醐味(だいごみ)だ。この<差し>も<前方へ>の方向を暗示がある。
刺し殺す
差し障(さわ)る
(さしづめ) <--- さしつめる(**)
刺し違える <指し違える>とすれば将棋用語か。
差しつかえる
差し止める
指しぬく
差し控(ひか)える
差し招く これは<指し招く>だろう。
以上のうちおもしろい共通性があるのは
差し障(さわ)る
差しつかえる
差し止める
差し控(ひか)える
だ。何がおもしろい共通性かといえば<差す>がある方向(とくに前方向)への動き、動作、作用を示す(暗示する)のに対して反対方向への動き、動作、作用を示す動詞との組み合わせであることだ。
<障(さわ)る>は<睡眠不足は体に障(さわ)る>のように使う。<正常なまたは良い状態に反する>動き、動作、作用を表わす。
<つかえる>は<前がつかえて先に進めない>の<つかえる>、<つまる>だ。
<止める>は説明はいらない。
<控(ひか)える>は<<xx しないようにする>>、<xx し過(す)ぎないようにする>。
もう一つ、これは日本語だけを見ていてはわからないが、英語の inter が頭にくる語との関連だ。 inter が頭にくる語には
to interact
to intercede
to intercept
to interchange
to interconnect
to interface
to interfere
to interlace
to interlude
to intermingle
to interplay
to interpolate
to interpose
to interpret
to interrelate
to interrogate
to interrupt
to intersect
to intertwine
to intervene
to interview
to interweave
がある。大体はあるモノ(A)とあるモノ(B)と間のなんらかの関係を示す語が多いが下記の語群はやや違う。
to intercept - 間で取る。 Ref. to accept、concept、reception,
to interfere - 中には入って邪魔する。
to interlude - もともとは間のプレイ(挿入劇、曲)。
to interpolate - 途中が切れているところを埋める(技術用語)。Ref. to exterpolate
to interpose - 間に置く。 Ref. to expose、to propose、to suppose
to interrupt - 間を破壊する。 Ref. rapture = 破壊
to intervene - 間に来る、中には入って邪魔する。Ref. to convene (会議に)集まる/める
以上は進行中の何かに入って xx をすることだ。のこのうち<差し>と関連がありそうなのは
to intercept、to interfere、to intervene - 差し止める
上で取り上げた
差し障(さわ)る
差しつかえる
差し止める
差し控(ひか)える
は<差し止める>を除くとたは自動詞だが、これを使役形(他動詞形になる)を作ってみる。
差し障(さわ)る - 差し障らせる
差しつかえる - 差しつかえさせる
差し控(ひか)える - 差し控えさせる
差し障らせる、差しつかえさせる、差し控えさせる、は - to intercept、to intervene、to interfere、 の意になる。
to interpose は<差し置く>ではない。
したがって<差す>には<間に入れる、入(はい)る>の意があることになる。
(*)<さしぐむ>
<さしぐむ>の<ぐむ>は辞書によると、<ぐむ>は
その(ある)組織内の内部から何かが少し出始める、こと
となっており、例として
角ぐむ、涙ぐむ、汗ぐむ
を挙げている。
(**) さしづめ <--- さしつめる
<さしつめる>という動詞はないようだ。文字通りでは<さし(て)>+<つめる>で<前に詰める>、<前方向に詰める>、<前に進んで詰める>といった意味か?<さし>は単なる強調のようでもある。
<さしづめ>は辞書によると、
その(ある)ものの特質(根本性格)を端的に表わせば、そう言えると判断する様子。
となっている。
(参考)
sptt やまとことばじてん<さす-刺す、差す(挿す)、指す>
sptt
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment