Saturday, December 9, 2023

形式名詞の<形式>は単なる形式か? ー2<もの>


形式名詞は形容動詞と並んで文法上いろいろ問題があるようだが、文法上の大問題であるとともにおもしろい問題だ。ネットで調べてみると


https://www.informe.co.jp/useful/character/character31/
 

<形式名詞や補助用言の扱い>

形式名詞とは、たとえば「書くこと」の「こと」、「正しいもの」の「もの」、「起きたところ」の「ところ」、「食べるとき」の「とき」など、動詞や形容詞といった用言に付いて体言化したりする名詞です。

この場合、文の構成を見れば、確かに名詞と位置づけられるようにも思われますが、本来の意味を表現しているとは言えず、あくまでもその前にある動詞や形容詞を名詞化するだけの役割になっています。つまり、意味的には本来の名詞の役割を持たず、形の上で名詞にするために使われているわけです。

(後略)


この用法だけを形式名詞 (化) ということもできるが、本来の意味からズレた意味あるいは働きを形式名詞 (化) ということもできる。下記の解説はそのようになっている。これが<文法上いろいろ問題がある>ということだ。<こと>、<ところ>もそうだが<もの>も本来の意味からズレが大きくさまざまな意味あるいは働きを持つように進化してる。

14.2 もの

名詞はほとんど「もの」で表せます。具体的な物も、抽象的な物も。人も、漢字では書き分けますが、モノ扱いをして「者」と言う場合があります。

どんなものを買いましたか。
愛というものは不思議なものです。
こういう者が訪ねて来たら、待たせておいて下さい。

次の例は修飾語のつかない用法です。言語・思考の動詞の対象をばくぜんと示します。

ろくにものも言わない
ものを書く
ものを思う/ものを考える

述語を受けて、ある種のムードを表す場合は別に扱います。(→「40.その他のムード」)

人生とはうまく行かないものだ。 
何とかできないものか。

つぎの「もの」はどう考えたらいいでしょうか。動詞「逃げる」は「もの」ではありませんが。

ここまでやって、投げ出すというのはどんなものか。

(sptt注:「逃げる」は投げ出す」の間違いだろう)

「~というのはどんなものか」全体が慣用的な表現となっていると考えておくことにします。

複文を形作る用法もあります。(→「47.逆接」)

何とか答えを書いたものの、自信はありません。

” 

引用ばかりになったので、労をいとわず少し詳しくチェックしてみる。

<ものづくし>
<もの>が頭にくる言葉を<あいうえお>順に書き出してみる。

ものいい <ー ものを言う、相撲用語が一般的だが、他の意味もある。もの+動詞
ものいみ もの忌み <ー ものを忌む もの+動詞
ものいり もの要り 出費  <ー ものが要る もの+動詞
ものいれ 物入れ 、容器 <ー ものを入れる もの+動詞
ものうい(古語:ものうし、物憂し)、もの+形容詞 
ものうり 物売り  <ー ものを売る もの+動詞
ものおき 物置き <ー ものを置く もの+動詞
ものおしみ もの惜しみ <ー ものを惜しむ もの+動詞
ものおじ もの怖じ  <ー ものを怖じる もの+動詞
ものおぼえ もの覚え <ー ものを覚える もの+動詞
ものおもい もの思い  <ー ものを思う もの+動詞
ものかげ 物影  もの+名詞
ものがなしい もの+形容詞 
もの書き もの書き <ー ものを書く もの+動詞
もの書き もの書き <ー ものを書く もの+動詞
ものぐさ もの草 もの+名詞
ものごし 物腰  もの+名詞
ものごと 物事  もの+名詞
ものさし モノ指し  もの+名詞、<ー ものを指す もの+動詞
ものさびしい  もの+形容詞
ものしずか  もの静かだ / な  もの+形容動詞
ものしり  もの知り  <ー ものを知っている もの+動詞
ものすごい  もの+形容詞 
ものずき  もの好き <ー ものを好く もの+動詞
ものたりない もの足りない  もの+形容詞 
ものづくり もの作り
ものとり  もの取り もの+動詞
ものにする もの+に+する
ものになる もの+に+なる
もののけ  ものの怪 (おばけ)
ものほし  物干し <ー ものを干す もの+動
ものほしげ ものほしげだ / な  もの+形容動詞
ものめずらしい  もの+形容詞 
ものものしい  もの+もの+形容詞語尾 
ものもらい  <ー ものを取る もの+動詞、こじき (乞食)、、目の炎症
ものわかり <ー ものがわかる もの+動詞
ものわすれ もの忘れ  <ー ものを忘れる もの+動詞
ものごし 物腰  もの+名詞
ものごと 物事  もの+名詞
ものさし モノ指し  もの+名詞、<ー ものを指す もの+動詞
ものさびしい  もの+形容詞
ものしずか  もの静かだ / な  もの+形容動詞
ものしり もの知り  <ー ものを知っている もの+動詞
ものすごい  もの+形容詞 
ものずき  もの好き <ー ものを好く もの+動詞
ものたりない もの足りない  もの+形容詞 
ものづくり もの作り <ー ものを作る もの+動詞
ものとり  もの取り もの+動詞
ものにする もの+に+する
ものになる もの+に+なる
もののけ  ものの怪 (おばけ) もの+名詞
ものほし  物干し <ー ものを干す もの+動詞
ものほしげ ものほしげだ / な  もの+形容動詞
ものめずらしい  もの+形容詞 
ものものしい  もの+もの+形容詞語尾 
ものもらい  <ー ものを取る もの+動詞、こじき (乞食)、、目の炎症
ものわかり <ー ものがわかる もの+動詞
ものわすれ もの忘れ  <ー ものを忘れる もの+動詞
ものわらい もの笑い  もの+名詞

ーーーーーー

もの+形容詞、形容動詞の多くは

ものうい、ものがなしい、ものさびしい、ものしずか、ものすごい、ものたりない、 ものほほげ、ものめずらしい、

は直接<もの、物>とは関係ないだろう。<もの>がつかない

うい、かなしい、さびしい、しずかだ / な、すごい、たりない、ほしげだ / な

と比べると、<なんとなく>、<はっきりないが>、<はっきり言えないが>といったニュアンスがある。英語では somehow という副詞がある。また something は<なにか><なんらかのもの>に相当し、特定されない<もの>だ。<ぼかし>の some といえるかもしれない。

<ものめずらしい>は<なんとなく><めずらしい>ではない。

さて、この形容詞、形容動詞の前につく<もの>は直接<もの、物>とは関係なく、元の意味から大きくかけ離れているが、形式名詞というよりは<意味を持つ>接頭語と言えよう。

もの+動詞

ものいみ、ものいり、ものいれ、ものうり、ものおき、ものおしみ、ものおじ、ものおぼえ、ものおもい、ものかき、ものさし、ものしり、ものずき、ものづくり、ものとり、ものほし、ものもらい、ものわかり、ものわすれ

かなり具体的な<もの、物>をさしている場合

ものいい、ものいみ、ものいり、ものいれ、ものうり、ものおき、ものおしみ、ものさし、ものづくり、ものとり、ものもらい

 と、広く一般的な<もの、物>をさしている場合

ものいい、ものおじ、ものおぼえ、ものおもい、ものかき、ものしり、ものずき、ものほし、ものわかり、ものわすれ

がある。この区分は個人差があろう。いずれにしても<もの、物>は関連していて、<もの>の元の意味から大きくかけ離れてはいない。

もの+名詞

ものかげ、ものぐさ、ものごと、もののけ、ものわらい 

ものかげ、ものごと は

<もの>の元の意味から大きくかけ離れてはいない。

ものぐさ、もののけ、ものわらい は 

<もの>の元の意味から大きくかけ離れている。

ものにする
ものになる

もの>の元の意味から大きくかけ離れている。

 ーーーーー
<もの>が頭に、あるいは中間にくる言い方

もののあわれを知る
ものの値打ち(価値)がわからない
ものの見方
ものの良し悪し
ものは言いよう
ものを思う
ものを考える
ものを書く

(そんじょそこいらのものとは)ものがちがう
(xxを)ものとも思わない
(xxを)ものともしない
(xxなど)ものの数ではない

例が少ない、また個人差があると思うが

<もの>の元の意味から大きくかけ離れてはいないもの。

ものの値打ち(価値)がわからない
ものの良し悪し 

<もの>の元の意味からかけ離れているもの。

もののあわれを知る
ものの見方
ものは言いよう    ー ものの言い方
ものを思う
ものを考える
ものを書く

(そんじょそこいらのものとは)ものがちがう  ものの質 (しつ)
(xxを)ものとも思わない    困難なこと、障害
(xxを)ものともしない    困難なこと、障害
(xxなど)ものの数ではない  考慮、注意すべきもの

一つのチェック方法として<もの>を<ものごと>に置き換えてみる。

ものごとのあわれを知る
ものごとの値打ち(価値)がわからない  ダメ
ものごとの見方
ものごとの良し悪し   ダメ (意味が違ってくる)
ものごとは言いよう   ダメ
ものごとを思う  
ものごとを考える
ものごとを書く
(そんじょそこいらのものとは)ものごとがちがう  まったくダメ
(xxを)ものごととも思わない   まったくダメ
(xxを)ものごとともしない  まったくダメ
(xxなど)ものごとの数ではない  まったくダメ

これまた個人差があるが、ダメなのが多い。最後の4例は<もの>が<もの>の元の意味からかけ離れていることを示すのではないか。言い換えると最後の四例の<もの>は形式名詞化が進んでいるといえる。

ーーーーー 

 niwa saburoo の日本語文法概説 14. 形式名詞 の下記の二例

人生とはうまく行かないものだ。 
何とかできないものか。 

<もの>が<もの>の元の意味からかけ離れているので明らかに形式名詞と言える。

ーーーー

その他では、<もの>を使った次のような言い方がある。

XX(し)たものだ   回想

若い頃は要よく旅行をしたものだ。
若い頃は要よく旅行に出かけたものだ。

XXするものだ 

これは常識というものだ。 当然知っているべき(だ)、当然すべき(だ)
知ってる人にあったら挨拶するものだ。  当然すべき(だ)
こまっている人がいたら助けるやるものだ。

人生とはこういうものだ。  事物を一般化して意見を述べる、説得する
人生とはこんなものだろう。 

 <もの>には事物を一般化して伝える働きがある。これは上の<接頭語のところで

<もの>のは<なんとなく>、<はっきりないが>、<はっきり言えないが>といったニュアンスがある。

と書いたことと関連があろう。

xxしたいものだ

なんとしてこの計画は実行に移してみたいものだ。

 

sptt

 

 


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