Thursday, October 9, 2014

ドイツ語の接頭辞(prefix)- 12<ent->


ドイツ語の接頭辞(prefix)の第12弾で<ent->について調べてみる。<ent->はおもしろい接頭辞でいろいろ考えさせてくれる。基本的にはかなり文法的に法則化できる。相良独和大辞典の解説は、

"

不分離前綴で一般にアクセントを有せず、多くは他動詞を構成し、f の前では同化されて emp- となる; また名詞あるいは形容詞と結合して動詞をつくるものがある。” 対向、反対、否定、分離、離去、奪取、生成、発展、ある状態への移行・悪化・変質 ” などの意を表わす。

"

<離去>という日本語はあまり聞かないが、文字通りでは<離れ>+<去る>。<去る>ためには自然<離れる>ので<去る>が主な意味だろう。<離れ去る>は自動詞。対応する他動詞は<離し去る>で<離し>は<離す>の連用形、<去る>はこの場合他動詞。<xx 去る>。<去らせる>は使役形になる。<離れ去る>、<離し去る>は後で見るように ent- 動詞の主要な意味の一つ。

” 対向、反対、否定、分離、離去、奪取、生成、発展、ある状態への移行・悪化・変質 ” と並べられると ent- は相当複雑のように見えるが、これは容易にグループ化できる。

1)対向、反対、否定
2)分離、離去、奪取
3)ある状態への移行・悪化・変質

1)と2)はある意味で関連がある。<1)対向、反対、否定>することは往々にして<2)分離、離去、奪取>することだ。また最近発見した<こじつけ法>をつかえば、<1)対向、反対、否定>して<2)分離、離去、奪取>すれば<ある状態から別の状態へ移行・悪化・変質>することになる。したがって1)、2)、3)はごく大雑把にみれば同じことだ。日本語でいえば自動詞の場合は<xx から離れる>、他動詞の場合は<xx から yy を離す>または<xx から yy を奪う>。

また、実際個々の ent- 動詞を調べてみる、ab- 動詞、ein- 動詞をしらべたあとではこれらの動詞との対比が出来る。

ab- 動詞の主な意味は<分離>だ。英語で言えば副詞の away、off だ。ab-  動詞の<分離>とent- 動詞の<分離、離去、奪取>では違いがある。辞書の解説にはないが、辞書の個々のとent- 動詞にあたってみるとこの違いがわかってくる。辞書の解説にはないが<奪取>はヒントだ。

ent- 動詞の<分離、離去、奪取>は<離れる>(自動詞)、<離す>(他動詞)でいい場合もあるが、他動詞の場合は大体物理的に<外(はず)す>、<解(と)く>、化学的に<溶かす>の意だ。

辞書の解説には<多くは他動詞を構成>するとある。<奪取>は<xx を奪取する>で他動詞。大和言葉でいえば<xx を奪(うば)う>だ。<解(と)く>は物理的には<(しばり)つけられているモノ>を<外す>ことだ。<溶かす>は、化学には固体を液体にすることだ。それでは<離す>と<外す>の違いは何か?個々のとent- 動詞にあたってみた限りでは、<離す>はあまり<力を入れずに><離す>こと。一方<外す><力を入れて><離す>ことといえる。<奪う>はさらに力をいれて無理やり<離す>ことと言える。<外す>、<奪う>作業では作業に<1)対向、反対、否定>の力がかっているのが普通だ。したがって<外す>、<奪う>作業は、立場を変えれば<1)対向、反対、否定>することなのだ。これで1)、2)の追加解説をしたことになる。ein- 動詞との対比をみると、ein- 動詞の多くは、日本語では単に(<力を入れずに>)に<入れる>ことではなく<力を入れて><込める>あるいは<力を込め><入れる>の意味がある。



自動詞の場合は<分離、離去>、<離れる>で特に<力を入れて(込めて)>とか<無理やり>の意はないようだ。むしろ変な日本語だが<xx(動詞、名詞の意味)しながら去る>と言う訳語が結構多い。




 3)ある状態への移行、悪化、変質

これは名詞、形容詞の動詞化といえる。多くに場合、ent- 名詞 or 形容詞 -en で、<名詞 or 形容詞>が良い意味であれば、ent- 名詞 or 形容詞 -en は悪化になり、<名詞 or 形容詞>が悪い意味であれば、ent- 名詞 or 形容詞 -en は良化になる。ただし中には反対の意が付加されずに形容詞の単なる動詞化もある。




 <名詞 or 形容詞>が良い意味で ent- 名詞 or 形容詞 -en は悪化になる例

entkräften

   ent•kräf•ten     ( entkräftet    ptp)    vt   (=schwächen)   to weaken, to debilitate, to enfeeble  
(=erschöpfen)  
to exhaust, to wear out     (fig)   (=widerlegen)   [Behauptung etc]   to refute, to invalidate



(die)Kraft は<力、力強さ>。 entkräften はent<力、力強さ>en で<力、力強さ>を<取り除く>で、<弱める>の意になる。


 例文 ?

entmachten

   ent•mach•ten     ( entmachtet    ptp)    vt   to deprive of power
 
 例文 ?

<名詞 or 形容詞>が悪い意味で ent- 名詞 or 形容詞 -en は良化になる例

entgiften

   ent•gif•ten     ( entgiftet    ptp)    vt   to decontaminate,   (Med)   to detoxicate, to detoxify

Wir müssen den Fluß entgiften.

die Gift はギフトの意味もあるが主要な意味は毒。したがって entguften は<毒を除く、抜く、奪う>と言う意味。
 

反対の意が付加されずに形容詞の単なる動詞化の例 

例文 ?

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これまであまり注意せず、また深くは考えなっかたが、ein- 動詞、特に<ent - 名詞 or 形容詞 - en>形式 の動詞を調べているうちに大きな発見をした。

ドイツの文構成上で大きな特徴は動詞が文末に置かれるというのがあり。これは動詞で文を囲みこむような感じがある。これを小型化、動詞構成上にしたのが<ent - 名詞 or 形容詞 - en>という構造だ。あるいはもっと一般化すれば<接頭辞 - 名詞 or 形容詞 - en>という構造だ。一つの動詞の中に名詞 or 形容詞の意味があり、これに接頭辞の意味を加えて動詞にするのだ。そして接頭辞の意味はたいてい副詞的な意味だ。英語は動詞の後に副詞や前置詞(above, after, against, around, at, away, back, backward, before, beyond, by, down, far, forward, in, into, on, onto, over, through, to, up, etc)を加えてこれをする。副詞と前置詞の違いは副詞は動詞を修飾する、前置詞は名詞の<前に置かれて>名詞を修飾するといえそうだが、前置詞は日本語の助詞に似ているところがある。英語の場合多くは副詞と前置詞を兼ねる語が多い。日本語の場合は<動詞(連用形)+動詞>、あるいは<動詞(連用形)+補助動詞といわれるもの>の複合動詞でこれをする。




上で取り上げたentgiften という動詞についてもう少し考えてみる。

Wir müssen den Fluß entgiften.

die Gift はギフトの意味もあるが主要な意味は毒。したがって entgiften は<毒を除く、抜く、奪う>と言う意味。den Fluß は der Fluß (川、河川)は4格。entgiften は他動詞。Wir müssen den Fluß entgiften. は<われわれは川から毒を除く、抜く、奪う必要がある>という意味になる。4格を重視すれば<われわれは川消毒する必要がある>となる。また相良辞典の、ent- 動詞解説でよくでてくる<(xx の)yy を奪う、取る(取り去る)、除く、(毒の場合は抜く、消す)>を使えば<われわれは川の毒抜く(消す)する必要がある>となる。辞書の解説の<(xx の)yy を>の<(xx の)>は苦肉の策ともいえるが、entgiften の場合<xx>はFluß (川、河川)、yy はGift(毒)になる。 日本語でいえば<xx の yy>は2格になる。これも ent- 動詞の多くがなぜ2格をとるか、と関連するかもしれない。ただしここでは<ent - 名詞 - en>という構造に注目しよう。名詞を接頭辞 ent-  と動詞語尾 - en で挟み込んで名詞の意味に接頭辞 ent- の意味(多くは副詞的な意味)を加えて一つの動詞にしているのだ。 
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 ent- 動詞の格支配

1.他動詞の場合

さて、ent- 動詞でおもしろいのは支配する格だ。上で述べたようにent- 動詞の
1)対向、反対、否定
2)分離、離去、奪取

のいくつかの意味は他動詞については奪取または大和言葉の<奪う>に集約できる。 <奪う>は英語では動詞 to rob が相当し、別のポスト" to rob xx of yy の <of> について" で書いたが to rob xx of yy と理解しにくい構成になる。

" to rob xx of yy の <of> について" で取り上げた rauben とberauben の違いがent- 動詞で顕著に見られるのだ。


以下のドイツ語f例は主に<- English Collins Dictionary >から。

to rob sb of sth        (lit, fig)   jdn einer Sache ( gen) berauben geh  , jdm etw rauben     (lit also)   jdm etw stehlen 

berauben の場合
他動詞
jdn einer Sache berauben 

jdn は jemanden で4格。einer Sache ( gen=2格 ) と言う注意がある。

rauben の場合
他動詞
jdm etw rauben

jdm は jemandem で3格。 etw は4格だろう。


ent- 動詞の例

<奪う>を一般化した動詞は<取る>だろう。ドイツ語では、いろいろな動詞が考えられるが、nehmenが代表だろう。



nehmen

   neh•men     ( nahm)   pret   ( genommen)   ptp    vti  
a    (=ergreifen)   to take  
etw in die Hand nehmen        (lit)   to pick sth up     (fig)   to take sth in hand  
etw an sich ($) nehmen      acc   (=aufbewahren)   to take care or charge of sth, to look after sth   (=sich aneignen)   to take sth (for oneself)  
b    (=wegnehmen)   to take  
[Schmerz]   to take away, to relieve  
(=versperren)  
[Blick, Sicht]   to block  

jdm etw nehmen      to take sth (away) from sb  
jdm die Hoffnung/den Glauben/die Freude nehmen      to take away sb's hope/faith/joy, to rob or
nehmen 自体に<奪う>の意味もある。上記のドイツ語と英語の違いはnehmen が人が間接目的語の場合
 jdm (3格)etw (4格) nehmen
となるのに対して英語では
to kake him (her) something ではなく
to take sth (away) from sb

となることだ。

それでは entnehmen はどうか?

entnehmen

   ent•neh•men     ( entnommen)   ptp    vt   irreg     ( aus      +dat)   to take out (of), to take (from)  ,   (aus Kasse)    [Geld]   to withdraw (from)  ,   (einem Buch etc)    [Zitat]   to take (from)     (fig)   (=erkennen, folgern)   to infer (from), to gather (from)  
wie ich Ihren Worten entnehme, ...      I gather from what you say that ... 



entnehmen はかなり特殊化された意味になっており、<xx から(で)yy を推測する(見て取る)>といったような意味だ。上記のドイツ語と英語の違いは

英語はfrom what you say であるのに対してドイツ語、英語のようにも言えると思うが、Ihren Worten でこれは3格(間接目的語)。Worten はWort(das Wort)の複数3格。末尾参照


entheben

   ent•he•ben     ( enthoben)   ptp    vt   irreg   jdn einer Sache  (2格) entheben      gen   to relieve sb of sth 
entheben、英語の to relive は<to rob someone of something>と同じような構造をとる。



entkleiden


1       vt   to undress  
jdn einer Sache (2格) entkleiden      gen     (fig)   to strip or divest sb of sth  

2       vr   to undress, to take one's clothes off

Translation German - English Collins Dictionary  

jdn einer Sache entkleiden
to strip {or} divest sb of sth 
entkleiden、英語の to strip, to divest は<to rob someone of something>と同じような構造をとる。

entreißen

   ent•rei•ßen     ( entrissen)   ptp    vt   irreg   jdm etw entreißen        (lit, fig)   liter   to snatch sth (away) from sb   jdn dem Tode entreißen      liter   to snatch sb from the jaws of death

reißen は<引っかく>、entreißen は<ひったくる>というような意味で berauben と同じような意味だが2格はとらない。

再帰動詞

enthalten

   ent•hal•ten     ( enthalten    ptp  ) irreg  
1       vt   to contain  
(mit) enthalten sein in ($)      +dat   to be included in  
2       vr  
a    geh   sich einer Sache (2格) enthalten      gen   to abstain from sth  
sich nicht enthalten können, etw zu tun      to be unable to refrain from doing sth  
sich einer Bemerkung (2格) nicht enthalten können      to be unable to refrain from making a remark  
b    sich (der Stimme (2格)) enthalten      to abstain  





ここでも2格が現れる。



自動詞

entgehen


   ent•ge•hen     ( entgangen)   ptp    vi   irreg aux sein +dat  

a    (=entkommen)   [Verfolgern, dem Feind]   to elude, to escape (from)   [dem Schicksal, der Gefahr, Strafe - 3格]   to escape, to avoid

b      (fig)  
(=nicht bemerkt werden)  
dieser Fehler ist mir (3格) entgangen      I failed to notice or I missed this mistake, this mistake escaped my notice   mir  (3格) ist kein Wort entgangen      I didn't miss a word (of it)  

意味としては日本語では自動詞では<xx から逃(にが)れる>、他動詞を使えば<xx を避ける>となるが、 [dem Schicksal, der Gefahr, Strafe - 3格] あるいは mir のように3格になるのが特徴。



末尾

Ihr
  1. your (formally or politely addressing one or more persons)
    • Wo ist Ihr Wagen, Frau Wagner?
      Where is your car, Mrs. Wagner?

Declension

Declension of Ihr

masculine feminine neuter plural
nominative Ihr Ihre Ihr Ihre
genitive Ihres Ihrer Ihres Ihrer
dative Ihrem Ihrer Ihrem Ihren
accusative Ihren Ihre Ihr Ihre

sptt







Sunday, September 28, 2014

ドイツ語の接頭辞(prefix)- 11 <los->


ドイツ語の接頭辞(prefix)の第11弾で<los->について検討する。相良独和大辞典の解説は<前綴>(接頭辞)が出てこず


合成用語。動詞の前に置かれて分離動詞をつくる。”分離、解放;目標、方向、突進、突破、出現、開始” などを意味する。


となっている。 前回のポストで


los-  は英語の to lose(動詞)、loose (形容詞)の意で、分離、離脱の意もあるが、それ以上に<xx からの解放>の意の用法が多く(別途検討)、悪いモノ、コトからの分離、離脱であれば良い意味になり(封建制度からの解放)、良いモノ、コトからの分離、 離脱であれば悪い意味になる(秩序からの解放(離脱)=混乱)。



と簡単に解説したが、おもしろい分離動詞をつくる合成用語だ。相良辞典には50個の los- xxen 動詞がでている。<おもしろい>のは基本的に英語の loss、日本語のロス(損、損失)の意がないのだ。



Friday, September 26, 2014

ドイツ語の接頭辞(prefix)- 10 <ab->


ドイツ語の接頭辞(prefix)の第10弾で<ab->について検討する。相良独和大辞典の解説は、<an->をわずか2行で済ませているのに対し、おおよそ反対の意味と思われる<ab->の解説はなぜか念が入って20行に及んでいて、概要は次の通り。


動詞の分離前綴; 常にアクセントを有し下記の意味を表わす。

1.(a)分離、離脱、例:abgehen, abfarben, jm absagen, von et absehen
    (b)分離、除去、例:abtun, abbinden, den Staub (Tisch) ablegen, einen Raum abfegen
      (c)獲得、奪取、例:jm et abbetteln, jm et abnehem

2.遮断、隔離、例:abschießen, absperren
3.(ant. auf, hinauf)下へ、例:absitzen, absteigen
4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden
5.取消、否定(既述のものの)、例:absagen, abbefehlen
6.変化、移転、例:abandern,  abwandeln
7.(a)完成、終了、例:abblühen, abmachen
  (b)減少、消滅(漸次の)、例:abbleichen, aborten
8.損傷、疲弊、例:abbrauchen, sich ängstigen
9.十分、過剰、例:absuchen, die Glegenheit abpassen
10.殺害、抹殺、例:abfangen



以上に続いて、名詞の前綴、形容詞の前綴(ab-、ent-、los-、weg- の意)の簡単な解説がある。

ent-、los- もおもしろい前綴で別途検討予定。

ent- は大体<反対>の動作、作用で、その他否定、分離、発展、悪化などの意味がある。
los- は英語の to lose(動詞)、loose (形容詞)の意で、分離、離脱の意もあるが、それ以上に<xx からの解放>の意の用法が多く、悪いモノ、コトからの分離、離脱であれば良い意味になり(封建制度からの解放)、良いモノ、コトからの分離、離脱であれば 悪い意味になる(秩序からの離脱=混乱)。
weg-  は名詞(der Weg)としては道(way)の意だが、副詞(weg)、前綴(weg-)大体、分離、離脱(away)の意になる。

一見かなり多様な意味がありそうなのと、相良大辞典の特徴でもある漢字の羅列であるので、意味の整理のため、上記に日本語(大和言葉)で共通事項を探してみる。この段階では推測だが、

1.(a)分離、離脱
    (b)分離、除去
      (c)獲得、奪取

2.遮断、隔離
3.下へ
4.目的語から手本が取られていることを示す。

以 上は<3.下へ>を除けば<取る>(獲得、奪取)、<取り出す>、<取り離す>でカーバーできそう。 <下へ>は動詞がないが、<落ちる、落とす>、<降(お)りる、降ろす>、<下(くだ)る、下す>、(下(さ)がる、下げる)が該当する。他動詞を見れば <取り落とす>、<取り降ろす>、<取り下げる>が慣用語としてよく使われ、<取る>と<下へ>は結びつきが比較的強いようだ。だが<取り上(あ)げる>という慣用語がある。<よごれ、けがれ>は<落ちる、落とす>だ。<ツキ>は<つく>由来だが、<ツキが落ちる>とも言う。この<落ちる>は<取れる>だ。

5.取消、否定(既述のものの)
6.変化、移転
7.(a)完成、終了
  (b)減少、消滅(漸次の)
8.損傷、疲弊
9.十分、過剰
10.殺害、抹殺

以上は大体<取ると-減る、なくなる>で説明できる。このコンセプトはわりと大事だ。似たコンセプトに<使うと-減る、なくなる>がある。これも重要なコンセプトだ。夫婦の会話で主語は省かれるが<使っても減るわけじゃないだろう(でしょう)>というのがあった。

7.(a)完成、終了

これはもとのドイツ語の日本語訳では<取りきる>、<使い切る>の例が多い。一般的な<完成、終了>とは違う。<完成、終了>とは言ってもいろいろあるのだ。

9.十分、過剰

これはやや難しいが、上記の7.(a)完成、終了(もとのドイツ語では<取りきる>、<使い切る>の意の例が多い)と関連があろう。<十分にすれば、大体終了だ>。これはもとのドイツ語 ab-動詞の例はさほど多くはなく、下記の例のように大体食べ物関連に限られているようだがよく使われる動詞というわけではないだろう。副詞(gut など)を使った一般的(汎用的)な言い方で間に合うだろう。もっとも昔は食べ物は死活問題だった。辞書では<十分に>はあるが<過剰に>はない。

abdreschen   穀物を十分に打つ(脱穀する)
abräuchern   十分にいぶす(燻製する)
abreifen    十分に成熟する
abrösten    十分にあぶる
abruhen   十分にかきまぜる
absalzen   十分に塩をかける

さて、調査を進める。前回にならって、ドイツ語の接頭辞のポストの日本語による解説としては本末転倒だが、英語の前綴(接頭辞)<ab->をドイツ語の接頭辞<ab->と比較してみる。

Collins German-English Dictionary(Oxford Pocket German-English Dictionary も参照)

to abandon  -  verlessen,  aussetzen, aufgeben  -  捨てる、見捨てる、あきらめる、放棄する
to abase  -  demültigen  -  見下(くだ)す    これは<a + base>だ。
to abate  -  nachlassen  -  減らす、減る、 nach は to とか after の意味だが nachlassen では<下へ>の意味になっている。
to abbreviate  -  abkürzen  -  短くする、省略する
to abdicate -  abdanken, verzichiten (auf) (地位、権力、責任から)離れる
to abduct  -  entführen  -  誘拐(ゆうかい)する、連れ去る。 abduction = 誘拐(名詞)
to abhor  -  verabscheuen  -  嫌(きら)う
to abide  -  aushalten, ausstehen  - ドイツ語の方は<我慢する>の意だが、英語の to abide にはこれ以外に<(ルールなどに)従う>の意がある。
to abolish  -  abschaffen  -  捨てる、廃棄する
to abominate  -  verabscheuen  -  嫌(きら)う
to abort  -  abtreiben  -  中絶する
to abridge  -  kürzen  -  端折(はしょ)る   これは a + bridge ではなく ab + ridge のようだ。
語源
http://www.thefreedictionary.com/abridge
[1350–1400;
Middle EnglishMiddle French abreg(i)erMedieval Latin abbreviāre.

to abscond  -  entfliehen  -  逃げる
to absent  -  fernbleiben - ドイツ語は<いない>ではなく<遠くにいる>になる。
to absolve  -  lossprechen (von)  -  (罪を)許す
to absorb  -  aussaugen, ausnehmen, absorbieren  -  吸い取る、吸収する
to abstain  -  sich enthalten  -  引きとどまる、思いとどまる
to abuse  -   beschimpfen, misshandeln, missbrauchen  -  (意図的に)使いあやまる、悪用する

以上で気がつくことは、

1) 思ったほど多くはなく、動詞として比較的よく聞く(見る)、使うのは to abandon、to abbreviate、to abduct、to abolish、to abort、to absorb、to abuse ぐらいで、これらも使用頻度は高くなく、また日常語とは言うよりは少しあらたまった(formal)時に使う動詞が多い。これはどうしたことだ?(注1)

2) 対応するドイツ語では、かならずしも ab- がつかず、ver-、aus-、ent- がつくものが少なくない。

ver- は最も多く使われる前綴(不分離)で、まだ調べていないが相良大辞典では1000以上の動詞がありそう。意味も相当複雑だが、これまた相当複雑な ab- の意味と重なるところがある。
aus- は基本的には<xx から外へ(でる)>と言った意味なので、<分離>が当てはまりそうだが、基本的には out (内から外へ)の意で ab- の基本的な意味<分離、離脱( away、off )>とは違う。
ent- は上で簡単に解説したように、大体<反対>の動作、作用で、その他否定、分離、発展、悪化などの意味がある。

3)英語の<ab-動詞>の日本語の対応では、相良大辞典のドイツ語<ab-動詞>の説明内容でほぼカバーする。これはおもしろいことだ。おそらくこれは英語、ドイツ語を問わず<ab->には広い意味があるが、ある<まとまり>の中に入るからだろう。これまた言語上、文法上おもしろいことだ。

捨てる、見捨てる、あきらめる、放棄する
見下(くだ)す
減らす、減る
短くする、省略する
誘拐(ゆうかい)する、連れ去る嫌(きら)う
我慢する、(ルールなどに)従う
捨てる、廃棄する
嫌(きら)う
中絶する
端折(はしょ)る
逃げる
いない、<遠くにいる>になる。
(罪を)許す
吸い取る、吸収する
引きとどまる、思いとどまる
(意図的に)使いあやまる、悪用する

対応する日本語訳を見る限り、いくつか例外を除き、他動詞に関しては汎用性が極めて高い<取る>の意があり、また分離、離脱( away、off )>の意も同時にあることからだろうが否定的(負的、negative)な意味が多い。


一方Collins 独英辞書のドイツ語が見出しの方はドイツ語<ab->動詞がなんと約260個もある。相良大辞典では900個近くある。なぜこうも多いのか?は大きな疑問だ。大体見当はついているが。最後の方を参照。

1.(a)分離、離脱、例:abgehen, abfarben, jm absagen, von et absehen
    (b)分離、除去、例:abtun, abbinden, den Staub (Tisch) ablegen, einen Raum abfegen
  (1.(c)獲得、奪取は別途説明する。)

Collins 独英辞書で該当する英語の動詞では、動詞+副詞、あるいは+前置詞で、圧倒的に多いのは away と off、つまりは<分離、離脱>だ。基本的な意味はいずれも日本語の動詞でいえば<離(はな)す>、<離れる>だが、away と off  では微妙に違う。off はモノが<離れる>トコロ、時に目が行き、<除去>が近い。日本語では<切る><切れる>にも対応する。これは

2.遮断、隔離、例:abschießen, absperren

に関連する。相良大辞典では<隔離>関連と思われるが意味が少し違う<区分け>、<区切り>動詞がいくつか出てくる。漢語の<分離>には<分ける>の字がある。<離す、離れる>には<分ける、分かれる>プロセスが前段にある。<区分け>、<区切り>は<遮断、隔離>とは意味が違うが、遮断、隔離>のためには<区分け>、<区切り>が必要だ。とくに<区分け>はいい大和言葉で、は無意識でもおこなわれるが、数学、統計、それに文法を含め重要な作業だ。

耕(たがや)して畑を)区分する  - abackern
杭で区切る - abbaken
区切る、区分する - abfachen
柵で区切る - abgattern
格子で区切る - abgittern
境界で区切る - abgrenzen
板で区切る - abhagen
垣根で区切る - abhegen
パーティション(簡易壁)で区切る - abkleiden
円(丸)で(を書いて)区切る - abkreisen
計(量)って区分する - abmessen
鋤(すき)で(畑を)区分する  - abpflügen
袋に入れて区分する - abpacken
柵で区分する  - abschranken

いろいろあるが、土地問題関連が多いようだ。よく使われる動詞というわけではないだろう。もっとも農業社会では土地(領土)問題は食料と並んで死活問題だ。 また人間はもともと土地、領土への執着が強いことをあらわしているのか。土地問題は別として、繰り返しになるが、<区分、区分け>のコンセプトは大切だ。文法で言えば、言葉を何で<区分け>するかによっていろいろ違った文法が出来て来る。
一 方 away は<離れて行く>で、あるモノが離れた後も目がそのモノを追っている感じ(プロセス、過程)だ。この away と off (<離す、離れる>、<切る、切れる>)の二つで大体< 分離>、<離脱>、<遮断>、さらにはに、追って説明するが<減少>、<消滅>、<変化>、<移転>の過程が説明できそうだ。
<離 れる>関連では<取り去る>の<去る>があるが、実のところ<取る>の方にも<離す>の意味がある。この<去る>と<取る>に関しては別途検討予定。大基本動詞の<取る>については以前のポストで幾度か書いたが、特に<離す>の意の<取る>は取り上げなかったようだ。<離す>、<去る>関連の<とる>動詞 は日本語に多い。ほぼ反対の意の<つく、付く、着く>との対比はおもしろい課題だ。ドイツ語の接頭辞では<an->が相当。

<つく>の反対語 (別のポスト ”<つく>(突く、着く、付く )について” から)

突く - 引く
着く - 離れる、去る
付く(自動詞) - 離れる、外(はず)れる、はがれる、とれる。 この<とれる>の英語は<to go (come) off>。
付ける(他動詞) - 離す、外す、はがす、とる。 
就く - 離れる、去る。
衝く - 引く、引き下がる、退(しりぞ)く
尽く - 満つ、満ちる; 始まる; 続く
憑く - 離れる、去る 
点く - 消える

見方を変えて<付く>の反対語、<離れる>の関連語を探せばさらにかなりある。
切る-切れる、裂(さ)く-裂ける、割(さ)く 、割(わ)る-割れる、分ける-分かれる、散らす-散る、削(けず)るー削れる、脱ぐ-脱げる、取る-とれる、落とす-落ちる、外(はず)す-外れる、は ぐ-はげる、そぐ-そげる、もぐ-もげる、剃(そ)る、刈る、除(のぞ)く、ぬぐう、のける、抜く、払う、拭(ふ)く、掃(は)く、放(はな)つ、晴らす(疑いを晴らす)、振る(太郎は花子に振られた)

今回の<ab-動詞>調査で見つけたのを加えるとと、さらに増える。

かじって取る - かじり取る
こすって取る - こすり取る
しっぼて取る - しぼり取る  (日本語もドイツ語も比喩てきな意味でも使われる)
梳(す)いて取る - 梳き取る (日本語ではあまり使わない)
吸って取る - 吸い取る
ついばんで取る - ついばみ取る (日本語ではあまり使わない)
つんでとる - つみ取る
つまんでとる - つまみ取る
なめて取る - なめ取る  (日本語ではあまり使わない)
ねじって取る - ねじり取る
はさんで取る - はさみ取る
はじいて取る - はじき取る  (日本語ではあまり使わない)
みがいて取る - みがきとる (日本語ではあまり使わない) <こすって取る>
むいて取る - むき取る
むしって取る - むしり取る

以上の日本語動詞はドイツ語<ab-動詞>の構成、意味を分析するのに大いに役立つ。また、最後に方にまとめて並べた

掃(は)く  haku
払う         harau
拭(ふ)く  huku
掃(は)く  haku
放(はな)つ  hanatsu
晴らす    harasu
振る        huru

は<は行 (ha-、hu-)>だ。離す(hanasu)、外(はず)す(hazusu)、は ぐ(hagu)も<は行 (ha-)>だ。<は行)>以外では

脱ぐ  nugu
除(のぞ)く   nizoku
ぬぐう   nuguu
のける   nokeru
抜く  nuku 

<な行 (ni-、nu-、no-)>でややまとまっている。

away と off に次ぐのは down だが、away、 off を1、2位とすると、3-9位がなくて10位くらいの少なさだ。down は動詞でいえば<落ちる>、<落とす>、<おりる(降りる、下りる)>、<おろす(降ろす、下ろす)>に相当するが、これらの動詞は意外と多義なのだ。言い換えれば、根が深い、奥が深いのだ。(別のポスト ”<落ちる>、<落とす>は奥が深い ” 参照)。 これは

3.(ant. auf, hinauf)下へ、例:absitzen, absteigen

に関連する。 

absitzen  -  日本語では<腰を下ろす>という表現があるが、 absitzen には<下に座る(腰かける)>の意味はない。<馬に乗る>、<バイクに乗る>の反対の<降りる>が主な意味だ。
absteigen  -  steigen は<のぼる、あがる>なので ab- が付いて<くだる、さがる>はなにか奇異な感じだが、<馬に乗る>、<バイクに乗る>を考えればおかしくはない。またがって乗ったり、降りたり>するのだ。

abladen    -    荷を降おろす
abschultern  - 肩から(荷を)おろす   比喩てきな言い方も日本語と同じようなのがある。



4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden

相良大辞典の解説に<4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden>というのがある。英語では、ab- よりも de- (分離、離脱)、dis-(否定)の方がよく使われている。

調 べてみたところ Collins 独英辞書 では de- がつく見出し語115個、dis- がつく見出し語は76個ある。ab- と同じくラテン語系の接頭辞であるためか英語では<あらたまった>意味、使用の動詞が多いが、ドイツ語訳のほうで ab- が出てくる動詞でかつ普通に使われるのは下記の通りで多くはない。

to decline  -  abkelen
to deduct  -  abziehen
to depart  -  abreisen
to deposit  -  ablagern
to derive  -  ableiten

少しわき道にそれるが、 ドイツ語訳のほうで ent- がつく動詞も抜きだしておく(ただし普通に使われるの動詞のみ)。これもさほど多くはない。

to decide  -  entscheiden (scheiden は<分ける>、<離す>意なので、これの ent- がついて<決める(to decide)>になるのはおもしろい。 ent- の真骨頂か。別途 ent- のポストで検討予定。もっとも、abscheiden という動詞はあり、主な意味は<別れる(自動詞)>、<分ける>、<離す>、<より分ける>。
to decode  -  entschülssen
to defrost  -  entfrosten
to depopulate  -  entvolken  (人口を減らす、といった意味)
to derail  -  entgleiten

ところで


4.目的語から手本が取られていることを示す。ラテン語の de- を用いた describere "abschreiben" などにならったものか。模写、横領、例:abschreiben, abbilden



という解説だが、 <..... な どにならったものか>という言い方で?マーク付きの解説だが、この解説のなかにヒントがある。それは<手本が取られている>という表現だ。これは受身表現 だが能動表現にすると<手本を取っている>になる。<手本を取る>の<取る>がヒントなのだ。<取る>はかなり前に取り上げた動詞で、大基本動詞で当然ながら多義語だ。次のような<取る>複合動詞がある。

切り取る
こすり取る
つまみ取る
掃き取る
はさみ取る
拭(ふ)き取る
むき取る (皮をむき取る)
むしり取る
もぎ取る

以 上のうち、切り取る 、こすり取る、つまみ取る、はさみ取る、むき取る、むしり取る、もぎ取る、は必要なモノを<取る>場合は<取る>でもいいが、不必要なモノを<取る>場合 は<取り去る>の意で<取った>モノは大体捨ててしまうモノだ。掃き取る、拭き取るは大体不必要なモノを<取る>場合に限られているようだ。以上の複合動 詞は<取る>ことが目的ではなく大体不必要なモノを<捨てる>、<捨て去る>のが目的で、<取る>はその手段、中間工程なのだ。<捨てる>、<捨て去る> は副詞で表現すれば、away、off になる。もっとも<手本を取る>、もっと正確には<手本を写し取る>の場合は<取った>モノを<捨てる>のではなく、<取った(写し取った>モノを利用す るのが目的だが、<取る>のが目的でないことはほぼ同じで、to take off, away の意の<取る>と見ていいだろう。


ex- 動詞

ラ テン語には<分離、離脱>を表わす ex という前置詞がある。また ex- を接頭辞とする動詞もラテン語にあるが、 接頭辞 ex- をとる動詞は英語、フランス語にもある。しかしドイツ語には、ex- 動詞のそのままの輸入語を除くと、基本的にはない。これはドイツ語の大きな特徴だ。

上で<分離、離脱>を表わす ex と簡単に書いたが、 調べてみる必要がある。

Collins 独英辞書では

前置詞 ex として

(place) out of, from, down from
(person) from
(time) after, since
(change) from
(cause) by, trough
(conformity) in accordance with

と いう簡単な解説がある。そこで英語の ex- 動詞とex- 動詞が基本的にないドイツ語を Collins 独英辞書 でくらべてみた。ex- がつく動詞は45個だが、ex- は l, m, s の前では e- に、f のまえでは ef- に、r のまえでは er- になり、これらをくわえると ex- 動詞は87個ある。おもしろい結果がえられた。結論を先に言ってしまうと、英語の ex- 動詞のドイツ語訳動詞でab- がつく動詞はごくわずかしか出てこない。

to expire  -  ablaufen
to exude (にじみ出さす)という動詞の訳で、ausstrahen に続いて二番目に absondern という動詞が出てくる
to emit  -  abgeben

英 語の ex- 動詞は ab- 動詞と違って、下記に見るように普段良く使う語が多い。to exude は普段ほとんど使わない。いわば英語の ex- 動詞に相当するドイツ語の動詞でab- がつく動詞がほとんどない、ということだ。これは何を意味するかというと、ab- = ex- ではないということだ。

今度はOxford German-English Dictionary (簡易Paperback版)から。ふだん良く使う動詞のみ。

to examine - untersuchen
to exceed - übersteigen
to exchange - ausrauschen
to exclude - ausschliessen
to excuse - entschludigen
to execute -ausfüren
to exempt - befreien
to exhibit - ausstellen
to exit - abgehen
to expand - ausdehnen
to expect - erwarten
to experience - erleben
to expire - ablaufen
to explain - erklären
to explode - explodieren (輸入語)
to explorer -  erhorschen
to export - exportieren (輸入語)
to expose - freilegen, asusetzen
to express - ausdrücken
to extend - verlängern, ausstrecken
to extort - erpressen
to extract  - herausziehen

ab- 動詞は

to exit - abgehen
to expire - ablaufen (すでに取り上げた)

の2個だけだが、あることはある。 aus- 動詞が多く、次いで er- 動詞が多い。<ex->と<er->の関係はまだ検討課題になっている。(ドイツ語の接頭辞(prefix)- 1 <er->)

ところでこの de- (分離、離脱)を意味するが、フランス語では de-、イタリア語では di- は前置詞として<分離、離脱>(from)以外に英語の of  の意で多用される。英語でも動詞によっては of が from の意で使われ、なかなかこの of になじめない。

結論を先に言ってしまうと、ドイツ語 ab- のキーワードは英語の away、off 以外に<of>があるのだ。相良辞典のドイツ語の副詞としての ab の解説では、英語の関連語として of、off をのせている。発音は<ab><of (ov)>で似ている。これは

1. (c)獲得、奪取、例:jm et abbetteln, jm et abnehem

が関連する。英語では<to rob someone of XX> の<to rob of>の<of>だ。日本語では<yy から xx を奪(うば)う>だが

英語では上記のように  to rob YY of XX
ドイツ語では jdn einer Sache (gen) berauben が英語と同じ構造((gen) に注意)。その他 jdm etw rauben, jdm etw stehlen がある。 

 

相良大辞典では基本的に<取る>(獲得、奪取)の意がある動詞では<jm et ab-動詞>がかなり出てくる。基本的には(例外があるということ)<jm>はヒトの3格、<et>モノの4格なので、動詞は<取る>関連の動詞なので、日本語では

<誰々から><何々を><取る>

となる。<何々を>(モノの4格)はいいとして、問題は<誰々から>だ。ドイツ語でも von YY を使った言い方はあるが、一般的には<jm>(ヒトの3格)で、この説明がやや難しい。元来<ab->は away の意味があるので、日本語の感覚では<から(from)>が使われるものと考える。英語やドイツ語では、上記のように

to rob someone of XX

jdn einer Sache (gen) berauben 
jdm etw rauben
jdm etw stehlen

なのだ。

<取る>(獲得、奪取)の意がある<jm et ab-動詞>の例。これは、日本語の<xx(し)て取る>に劣らず、たくさんある。

jm et abbetteln     
jm et abdringen    ゆすり取る
jm et abfechten  戦って奪い取る
jm et adhexen        魔法を使って奪い取る 
jm et abkämpfen    戦って奪い取る
jm et abklagen      訴訟に訴えて取る
jm et ablisten       だまして奪い取る
jm et ablügen       うそをついて奪い取る
jm et abpfählen      質(抵当)に取る
jm et abringen   戦って(格闘して)奪い取る



さらには、<奪(うば)い取る>だけでなく、例は少ないが<もらう>、<借りる>などもおおもとのところでは<取る>、<得る>、<手に入れる>に変わりはない。

jm et abkomplementieren     お世辞を言ってもらう(手に入れる)
jm et abmieten   借りる(賃借する)
jm et abschmarotzen    お世辞を言ってもらう(手に入れる)
jm et abschmeicheln     お世辞を言ってもらう(手に入れる)

<お世辞を言ってもらう>が並んで出てきたので、これ以外の表現を相良辞典から紹介する。

うれしがらせてもらう
おべっかを使ってもらう
おもねてもらう
こびてもらう

言葉からは、ドイツにもこういう処世術があるのがわかる。
 

5.取消、否定(既述のものの)、例:absagen, abbefehlen

<取消、否定>は away、 off (to cut off)、特に off から説明できよう。

absagen
abbefehlen   命令を取り消す

以外では

abbestellen  - 注文を取り消す
abmelden

おもしろいのは

sagen   - 言う
mendeln  - 通知する

で、absagen、abmelden のもともとの意味は<取り消す>そのものではなく、<取り消しを伝える>の意であることだ。<取り消しを伝える>という日本語らしくない解説はよく考えた末のものだろう。

日本語では<やむ>は<終わる>だが、<やめる>は<終える>のほかに<取り消す>の意がある。

1)雨がやむ。
2)もう(夕方の)五時だ。そろそろ仕事をやめよう。
3)会社をやめる。
4)今回の慰安旅行はやめよう。

以上の4例の<やめる>の違いと共通事項をかんがえると、おもしろい結論がでてきそうだが、横道にそれるので<取り消す>にもどる。
<取り消す>の体言(名詞)形は<取り消し>だが<取消>の漢字二語でもいい。中国語でもよく<取消>が使われるが、比較的新しい語で、和製漢語の輸入だろう。ということは、新しい概念の可能性がある。相良辞典の absagen の解説では<約束、注文、命令など>を取り消す、となっているが、<など>は何を含むか?

約束 -  約束の履行、実行というが<履行、実行>の取り消しはできるか?
注文 - 購入の取り消しはできるか?
命令 -  命令の実行というが<実行>の取り消しはできるか? <命令に服従する>というが<服従>の取り消しはできるか>

以上のうち服従以外は<取り消し>可能だ。<服従>は<拒絶>するだ。 absagen には<拒絶する>という意味もある。

<約束、注文、命令など><など>は何を含むか?

予約 - <予約>の実行、履行とはあまり言わない。
予定 - <決定>の取り消しはできるか?
計画 - 実行計画というが、<実行>の取り消しはできるか?

これまた<決定>、<実行>は取り消しできるのだ。ではいったい<取り消す>とはどういうことか? これはおもしろい問題だが、接頭辞<ab->、<ab-動詞>と直接関係はなさそうだが、上で述べた


sagen   - 言う
mendeln  - 通知する

でもともとの意味は<取り消す>そのものではなく、<取り消しを伝える>の意であることだ。


だが関連ありそう。 <取り消す>については別途検討。


6.変化、移転、例:abandern,  abwandeln

<変化、移転>も away、off (to cut off) から説明できよう。<変化、移転>は元の状態から away、off (to cut off)することと言える。もっとも、abandern,  abwandeln の2例は andern,  wandeln のほうにすでに<変化>、<移転>に似た意味がある。
<変化>では <ab- 形容詞由来の動詞(形容詞en)>の例が多い。 <形容詞の状態(xx のように)>変わるの意だ。er- 形容詞en、ver- 形容詞en の動詞化もあり、簡単に<変化、移転>とはいえない。(別途検討予定)

<ab- 形容詞en> の例

色関連
abweißen             weißen もある
abröten                 röten の方が一般的
abblüen

<er- 形容詞en> の例   <er->は非分離前綴り

<ver- 形容詞en> の例   <ver->は非分離前綴り

色関連
vergelben
 

7.(a)完成、終了、例:abblühen, abmachen

abblühen は blühen(花が咲く)が<終わる>という意味。abmachenは多義語だ。

相良大辞典の訳では<XX し尽くす>というのがよく出てくる。また<to cut off >がらみの<切る>は、日本語では<やり切る>、<走り切る>、<切り上げる>など完成、終了を表す。また<切り上げる>もそうだが、日本語では<xx(動詞連用形)上げる)>で<完成>の意がある、これはよく使われる。仕上げる(abarbeiten)、(パンを)焼き上げる(abbacken)。


7.(b)減少、消滅(漸次の)、例:abbleichen, aborten

<減少>は少しずつ (to take, be taken)away だ。
<消滅>は完全に(to take, be taken)away だ。


8.損傷、疲弊、例:abbrauchen, sich ängstigen

<損傷、疲弊>もは away、 off (to cut off) から説明できよう。

abbrauchen   使いへらす(減少)、使い古す(疲弊の感じ)


9.十分、過剰、例:abuschen, die Glegenheit abpassen


実際に相良大辞典にあったてみると<十分(に) xxする、xx (し)終える>という解説が出てくる。

abbrauen    十分に醸(かも)す、かもし終える
abkochen      十分煮る(煮上げる) 
abkammen     梳(す)いて取る、十分梳く

日本語では<xx(動詞連用形)上げる)>がよく使われる。また上記の<XX し尽くす>も<十分>の意と重なるところがある。


10.殺害、抹殺、例:abfangen

命が <to take away>、 off (to cut off) されれば殺害、抹殺(される)だ。


はじめの方で<相良大辞典では1,000個見当だ。なぜこうも多いのか?は大きな疑問だ。大体見当はついているが。>と書いたが、<大体の見当>とは、タネをあかせばどういうことはないのだが、<ab->には基本的な意味<分離、離脱(away、off )>がある。この二つ(away、off )は副詞だ。<ab->には<分離する、離脱する>の<する>に相当する汎用性が極めて高い<取る>の意があるからだろう。ただし<取る>は他動詞だ。漢語(分離、離脱)を使用するとこの辺があいまいになる。


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(注1) ためしにフランス語とラテン語を調べてみた(いずれも Coliins 辞書)。

フランス
abaiser  -   これは a + baiser で ab + xx ではない。
abandonner
abasourdir  -  to stun, to stagger.  sourd = deaf (形容詞)に由来。
abbattre
abdiquer -  to abdicate
abhorre - to abhor, to loath 
abjuer  -  to abjure, to renounce
aboyer  -  to bark. aboyer は擬音語、擬態語の類だろう。
abolir  -  abolish
abonder  -  to abound, to be plentiful, abundant(形容詞)
abboner  -  to subscribe
aboutir  -   これは a + bout (tip, end)  で ab + xx ではない。
abreger  -  to sgoirten, to abridge
abreurer  -  to water, to shouwer
abriter  -  to shelter, to accomodate
abroger  -  to repeal, to abrogate (= :repeal, revoke, rescind, repudiate, overturn, annul)
aburtire  -  これは a + brute(e)(形容詞) で ab + xx ではない。to daze, to exhaust, to stupefy
absentir  -  to absent
absoudre  -  to absolve, to dismiss
absorber  -  to absorb
abstenir -  to abstain
s'abstarire   -  to cut off

フランス語はロマンス語でラテン語の影響を英語以上に直接的に受けているので期待したが、これまたどういうわけかさほど多くはない。それでは<ab->の本家とも言うべきラテン語はどうか。

ラテン語 (見出し語数は46個で、英語やフランス語に比べてかなり多い。<離れる>、過ぎる(過剰)と言う意味では ex- 、extra- というのもある。
(注)見出し語は不定形ではなく、大半のラテン語辞書に出てくる一人称単数現在形で、実際には<わたしは(が)XXする(動詞)>の意になるが、便宜上<わたしは(が)>ははぶいている。一方英語の方は to 不定詞(形)。

abaliano  -  to dispose of (of がないと<処理する>といった意味だが of  がつくと<捨てる>, <除去する>の意になる。, to remove, to estrange
ab + aliaeno  -  anlieno は alian の意で動詞としては<遠ざかる>、<遠ざける>、つまりは<離す>、<分離する>だ。

abdicco  -  to disown (= to declare that you no longer want to be connected with, responsible for), to resign
ab + doco  - dico は<言う>の意で、abdico は<言ったこと>を<否定する>、が原意だろう。

abdo  -  to hide, to remove
ab + do  -  do は to give, to permit, to put, to bring(持ってくる、もたらす>)の意があり、これらの<否定>なので、abdo  は<隠す>とか<取り除く>の意につながる。

abduco  -  to lead away, to take away, to seduce
ab + duco  -  duco は to lead, to guide、 <導(みちび)く>の意。英語の abduction は誘拐の意だ。

abeo  -  to go away, to depart, to pass away, to be changed, to retire
ab + eo  -  eo は to go の意。したがって、abeo は<離れて行く>、<去る>、<去っていく>の意になる。

abequito  -  to ride away
ab + equio -  equio は to ride の意。

aberro  -  to stray, to deviate, to have respite
ab - erro  -  erro エラー (error)の意だが、もとは<さまよう>、<はずれる>の意のようだ。

abicio  -  to throw away, to throw down, to abandon, to degrade
ab + icio  -  icio ではなく iacio, iacto が<投げる>の意。

abigo  -  to drive away  車のドライブも元の意味は<駆(か)る>。

Wiktionary の abigo の例文
  1. I drive away (particularly cattle)
  1. I deter, discourage, frighten away
  1. (medicine) I remove a disease

abiudico - to take away (法的に没収する)
ab + iudico -  iudco は to judge で judiciary (法的な)の意がある。

abiungo  -  to unyoke, to detach
ab + iungo  -  iungo は to joint together, to unite の意。したがって<否定>の意に加えて<分離、離脱>の意がある。

abiuro  -  to deny on oath
ab + iuro  -  iuro は to swear, to oath の意。したがって<否定>の意が加わっている。

ablego  -  to send out of the way
ab + lego  -  lego は to send の意。

(未完)


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