Saturday, November 18, 2023

<気は心>、<気が気でない>、形式名詞がらみの解釈

 

<気は心>というタイトルのポストをだいぶ前(2012年)に書いている。

<気>や<心>や<気分>が純形式名詞ではないが形式名詞的な使い方があり、調べているうちに<気は心>を思い出した。形式名詞と言うのは、これまた定義がややこしく、完全ものはないが、おおよそ

niwa saburoo の日本語文法概説



A こと、もの、ところ、わけ、はず、つもり / よう、の 

B (略)

これらは、独立した名詞としての用法のほかに、実質的な意味が薄まって(抽象化し)、常に他の言葉によって修飾される用法でも使われるようになったものです。

上のAのグループは、述語を受ける用法が重要なもので、特に「-だ」をつけて文末の「ムード」となる用法があるものです。その場合、本来の名詞としての意味は希薄になり、用法も広く、いかにも機能的な語になります。それらの中で微妙な使い分けがあり、学習者には習得しにくく、日本語教師にとっても難しいものです。

<こと、もの、ところ>が代表。<気>と<心>と<気分>では<心>は抽象化が進んでいないが、<気>と<気分>は

する気がある
その気になる
どんな気がする? 

する気分じゃない
そんな気分にはなれない
どんな気分ですか?

と言え、形式名詞の資格がある。一方<心>は

する心がある
その心になる
どんな心がする?  

はほとんど使われないので形式名詞とは言えない。<心>は<心>にとどまっている。方<気>の方は<気>の元の意味が拡大、派生して抽象化した意味の用法がある。この形式名詞の説明は<気は心>の解釈に役立つところがある。

 形式名詞は単独では主語になれない、という原則になっている。

<気は心>では<気>は主語になっている。この場合<>は元の意味でないといけないのだが、実際には<>の意味は拡大、派生していろいろな意味になっており、どれが、何が<>の本来の意味だか分からなくなっている。

別のところでかなり詳しく調べたが (sptt やまとことばじてん<気は心>か -2)、<気>と<心>は別物なのだ。違いを抽象化して大雑把に比べてみると

 1)<気>は短期的、刹那的。<心>は長期的、永続的。

<楽しい、うれしい>は <気>の現われ。<しあわせ>は<心>の現われ。

中国語では happy を<開心>と訳し、<幸福>は使われないと言っていい。<開心>には<心>の字が使われているが、総じて短期的、刹那的な<楽しい、うれしい>気分のことだ。

2)<気>は概して浅薄、薄っぺらだ。一方<心>は深刻、奥が深い。

3)<気>は英語の mind 相当。<心>は heart 相当。

以上から、<気は心>の一つの解釈として

気は表面的な意図で、心は隠れた深い思い。気 (意図) がないと始まらないが、大事なのは心だ。心の深さは表面的な意図とは関係ない。したがって受け手にとっては取るに足らないもの、金額であっても贈り手の心の深さとは関係ない。

こう解釈すると、贈り手が言う

つまらないものですが、<気は心>と言いますのでどうかお納 (おさ) めください。

は謙譲表現とは言え、本当にまごころがこもっていないと、中身のない形式的セットフレイズになりかねない。例えば、大金持ちが

つまらないものですが、<気は心>と言いますのでどうかお納 (おさ) めください。

と言ってもまごころは伝わりにくい。ケチな大金持ち (これは多い) と思われかねない。
 

別の例では

気が気でない

と言うのがある。この例文の<気>は何か? 少なくとも一番目の<気>と二番目の<気>は違うだろう。 

精選版 日本国語大辞典 「気が気でない」の意味・読み・例文・類語

き【気】が 気(き)でない

ひどく気がかりである。気にかかって心が落ち着かない。気が心でない。

と言う説明さえある。これだと

一番目の<気>は<気>で、二番目の<気>は<心>になる。少なくとも<気>は<心>より意味が広いのだ。

 

sptt



Friday, November 10, 2023

形式名詞の<形式>は単なる形式か? ー1<こと>


形式名詞は形容動詞と並んで文法上いろいろ問題があるようだが、文法上の大問題であるとともにおもしろい問題だ。ネットで調べてみると

その語の表す実質的意義が薄く、常に連体修飾語を受けて使用される名詞。「病気中のところ」の「ところ」、「手紙を書くことが苦手だ」の「こと」、「失礼の段おわびします」の「段」など。不完全名詞。形式体言。

https://www.informe.co.jp/useful/character/character31/
 

<形式名詞や補助用言の扱い>

形式名詞とは、たとえば「書くこと」の「こと」、「正しいもの」の「もの」、「起きたところ」の「ところ」、「食べるとき」の「とき」など、動詞や形容詞といった用言に付いて体言化したりする名詞です。

この場合、文の構成を見れば、確かに名詞と位置づけられるようにも思われますが、本来の意味を表現しているとは言えず、あくまでもその前にある動詞や形容詞を名詞化するだけの役割になっています。つまり、意味的には本来の名詞の役割を持たず、形の上で名詞にするために使われているわけです。

(後略)


後略のところに「形式形容詞」(補助形容詞)、「補助動詞」の簡単な解説がある。形式名詞と共通しているところは、形式形容詞、補助動詞はもとの形容詞や動詞の意味からズレた意味になっているということ。これは最近書いてきた補助動詞のポストでも書いているが、おもしろいところだ。前回のポスト ”おもしろい補助動詞  -6 <xx (し)ていく>、<xx (し)てくる>” で

補助動詞としての<xx いく>、<xx くる>は<行く>、<くる>の意味もとの意味と違っていないといけないのだが、上でもふれたように微妙、曖昧なとことろがある。これは補助動詞全般に言えることではないか?もとの意味との違い具合をどう判断するかだ。

補助動詞はもとの意味の派生といえる。意味の派生は文法とは直接関係ないが、言語上は大きく、おもしろい問題だ。一種の変身 (metamorphosis)、発展といえる。

と書いている。

Wikiにあたって見たが、なぜか日本語版がない。 Wiki Dictionary 英語版

形式名詞

Etymology

形式 (form; formality; format) +‎ 名詞 (noun), literally noun in form only

Noun

(けい)(しき)(めい)() (keishiki meishi

  1. a Japanese noun that can be grammaticalized and nominalize clauses

Examples

  • (mono, thing) nominalizes 日記言う (nikki to iu, call(s) a diary) in the phrase 日記と言うもの (nikki to iu mono, the thing that one calls a diary)
  • (koto, matter; affair) nominalizes 書く (kaku, write(s)) in the phrase 書くこと (kaku koto, the act(tivity) of writing)
  • (toki, time) nominalizes 嬉しい (ureshii, am/are/is happy) in the phrase 嬉しい時 (ureshii toki, the time when one's happy)
grammaticalize = 文法化する
nominalize = 名詞化する

これは大いに参考になる。なぜなら、このポストを書き始めたのは形式名詞と関係代名詞との関係を調べてみようと思ったからだ。

日記と言うもの = the thing that one calls a diary.
嬉しい時 = the time when one's happy

に注目しよう。これは後で戻ってくる。

ところで、上の goo辞典 の解説の下にある

 
で<形式>は

という解説で、特に4、5がおおいに参考になる。これも後で戻ってくることにして、具体的に形式名詞をチェックしてみる。

niwa saburoo の日本語文法概説