Friday, July 27, 2012

おもしろい<ところ>


日本語の<ところ>は大活躍だ。

1)翻訳調の<ところ>

順序は逆かもしれないが、英語の翻訳調の<ところ>から始める。

the book which I bought yesterday - 私がきのう買ったところの

日本語らしくするためには <ところの>をはぶいて<私がきのう買った本>でいいい。日本語では whichはいらない、あるいはwhichがないのだ。whichを使わずに<動詞の変化>で後に続く名詞(体言)を関係づけている。すなわちwhichに対応する語はないが、意味としては<買った本>の中に含まれているのだ。

ところで、この<ところ>の用法は英語の翻訳からではなく漢文の翻訳から来ている。最近は中国語を学ぶ人が多いので、以下の漢文は理解できるだろう。

所見所聞 - 見るもの聞くもの(すべて)という意味だ。 現代中国語で<見る>は<看>、<聞く>は<聴>で、<所見所聞>は漢文だ。<所見所聞>は文字通りでは<見る所、聞く所>で、この<所(ところ)>は場所というよりは<もの><こと>だ。さらに注意すべきは語順だ。<所見所聞>は直訳英語では<what see, what hear>、意訳では<what I (we, you) see, what I (we, you) hear>だ。中国語と英語の語順は同じ、日本語は語順が逆になっている。 これは関係代名詞のwhatだが、関係代名詞のwhichも同じような関係がある。

現代中国語: 我所看的書 (たぶんやや古い、あるいは書き言葉では我所看之書)
英語:     the book I read
日本語:    私が読む本

<我所看的書>の語順は少しややこしい。そのまま訳せば<私が読むところの本>。 <我看的書>でもよさそうだが、<我看書>はだめ。<我看>は<書>の修飾語にならないのだ。<我看書>は<私は本を読む>になる。一方<我所看的書>の英語訳はthe book which I read。この英語the book which I readを英語翻訳調の日本語にすると<私が読むところの本>になる。同じではないが、<我所看的書>は中国語の方が英語の語順に近いが、後ろの部分の<看的書>は日本語の語順になっている。以上から、中国語の<所>は英語の関係代名詞のwhichの役目を果たしている-より正確にはwhichの役目の一部で、うしろの<的>も必要。もともと日本語にない語を訳すのは難しい。説明するのがひとつの方法だが、きわめて頻繁に出てくるにもかかわらず日本語にない関係代名詞のwhatや whichをいちいち説明していたのでは煩雑になる。そこで登場したのが中国語の<所>だったのだろう。

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 2)<場所>のところ

<場(ば)>も<所 (ところ)>も大和言葉で、しかもよく使われる大和言葉の代表だ。<場>と<所>を組み合わせると<場所(ばしょ)>になり、これは湯桶読み。意味も限定される。<場(ば)>は<所 (ところ)>意味も同じように思ってしまうが、使われ方はかなり違う。連用形(の体言化)と連体形との組み合わせで、くつかの動詞で試しえみよう。

いる - 居(い)場(所)、居(い)所 - 居る場(所)、居る所(ところ)

行く - 行き場、行き所(どころ) - 行く場(所)、行く所(ところ)

見る - 見場(みば)、見所(どころ) - 見る場(所)、見る所(ところ)

聞く - 聞き場、聞き所(どころ) - 聞く場(所)、聞く所(ところ)

する - し場(所)、し所(どころ) - する場(所)、する所(ところ)

取る - 取り場、取り所(どころ) - 取る場(所)、取る所(ところ)

遊ぶ - 遊び場、遊び所(どころ) - 遊ぶ場(所)、遊ぶ所(ところ)

連用形(の体言化)との組み合わせでは慣用語が多い。 <居所(いどころ)>に<いるべきところ>の意はなく、単に<いる所>)、行き場(行くべき場所)、見場(みば)(見るべき場面)、見所(どころ)(見るべき箇所、部分、場面)、し所(どころ)(するべき場面、箇所)、遊び場は<遊ぶべき場>というよりは<遊ぶための場所>。一方、連体形との組み合わせでは、意味は一般化しており、また<場>は<場所>が普通。注意すべきは<連体形+ところ>の組み合わせで、少なくとも明確に三つの一般化した意味がある。

居る所(ところ)、行く所(ところ)、見る所(ところ)、聞く所(ところ)、する所(ところ)、取る所(ところ)、遊ぶ所(ところ)

a)場所の意味
b)時の意味 - 主に<(ちょうど)XXしているところ (just when)>の意味
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c)判断の基準 - 私の見るところ (聞くところ)。知覚動詞に限られるようだ。

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 3)特定箇所を示す<ところ>

上で<a)場所の意味>と書いたが、そう簡単ではない。<ところ>は物理的な場所(place, space)の意味がある一方特定箇所。部分(part)も示すのだ。前に置かれた動詞が<特定する>のだ。これは、始めに書いた、<所見所聞><what I (you) see, what I (you) hear><見るもの聞くもの(すべて)>に関連する。特に重要なのは<特定する>だ。日本語文法では<修飾する>というが、実際は単なるカザリではなく<特定する>だ。<一般、不定>に対する<特定>だ。英語では<不定><定>の区別が明確で、不定冠詞(a,an)、定冠詞(the)がほぼ間違いなく使い分けられている。

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4)時を意味する<ところ>

上でb)<時の意味 - 主に<(ちょうど)XXしているところ (just when)>の意味>と書いたが、そう簡単ではない。時というよりは場面に近い。場面は時を含む。
そもそもこの世は場(所)(space)と時間(time)と物(もの、matter)の三つからしから成り立っていないので、 時と所は明確に分離したほうがいい。<ところ>が時も場所も意味するとなると混乱をまねくおそれがある。しかし、見方を変えれば、場(所)(space)と時間(time)も渾然一体になっているのもわるくない。分析思考ではなく統合思考だ。

<行く所(ところ)>は少なくとも

a)行く場所 (行くところはまだ決まっていない。)
b)(ちょうど)行くとき (学校にいくところで、友達に出会った。)
c)行く場面 (行くところを見られた。)

の三つの意味があるが、さいわい、日本人には助詞の<は><で><を>で耳で聞いたとしても区別は容易だ。だが、助詞になれない外国人にはこの区別は難しいだろう。

上記の場面(ばめん)は湯桶読みの言葉だ。場面は場(所)(space)も時間(time)も物(もの、matter)(ものは人を含む)も含んでいる。出来事(できごと)とという言葉がある。三字とも大和言葉だ。出来事(できごと)も場(所)(space)も時間(time)も物(もの、matter)を含んでいる。

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5)<人々>のところ

一流どころ、きれいどころ


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6)接続詞の<ところ>

<ところ>は接続詞としても活躍する。場所というよりは時の用法に由来するのだろう。

a)<ところ> 順接でも逆接でもいい。
<XXしたところ、 YYだった。> <XXしたところが、 YYだった。> <XXした、 YYだった。>とほぼ同じ。ただし、<XXする、 YYだ。>とはいえるが、<XXするところ(が)、 YYだ。>とはいえない。

b)<ところが> 順接でも逆接でもいい。
<XXした。ところが 、YYだった。>
<XXする。ところが 、YYだ。>とはいえる。

c)<ところで> 転接。
話題を変えるときに使う。


sptt




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