Thursday, October 26, 2017

日本語の再帰表現 (付録:イタリア語的な再帰表現)


再帰動詞についてはこれまで再帰動詞表現が頻繁に出てくるドイツ語、イタリア語関連のシリーズなどのいくつかのポストで言及した。趣旨はこのような再帰表現は英語や日本語では(あまり)見られない。なぜこのような変な表現をするのか?という疑問だ。すこし長くなるが引用する。

<イタリア語の他動詞->自動詞位相変換-1 再帰動詞>

さて<イタリア語の他動詞->自動詞位相変換>という表題だが、日本語は<傷つける>が<傷つく>となり、英語 to hurt はそのままで(傷つける、痛める ->傷つく、痛む)と自動詞となる。すなわち他動詞も自動詞も同形の to hurt  なのだ。融通がきくともいえるが、融通がききすぎるとあいまになり、場合によっては混乱を招く。一方イタリア語 fare はいずれも si を目的語とみなすと再帰動詞型の他動詞で<他動詞->自動詞位相変>になっていない。日本語では

傷つく - 傷つける (厳密には<つく>、<つける>の対応だ。)
 
は自動詞/他動詞の呼応だが<痛む>の場合も
 
 痛む - 痛める

でこれまた自動詞/他動詞の呼応がある


<日本語の自動詞、他動詞-14、向く- 再帰動詞>

英語にはあまりないが、フランス語やドイツ語には再帰動詞表現と言うのがある。フランス語やドイツ語と違って日本語では<自分>が出てこない場合が多い、つまり明示されないので、見つけにくいが日本語で再帰動詞表現を探してみる。

くるまる  
布団(ふとん)にくるまる、 <くるまる>は自動詞
わが身をくるめる、 <くるめる>は他動詞

わが身をくるめる -> くるまる

その他の例

わが身をたてる -> 立つ
わが身をねかせる ->ねる(横になる)
わが身をかくす -> かくれる
わが身を伏せる -> 伏せる
わが目をさます  -> 目がさめる、目ざめる
太郎は窓から自身の頭(顔)を出す。  -> 太郎は窓から頭(顔)を出す。
(追加予定)

太郎は窓から自身の頭(顔)を出す。  -> 太郎は窓から頭(顔)を出す。
これは主語が三人称になっている。だが基本的には同じで、自分の動作が自分に向かっている。問題は<頭(顔)を出す>の<出す>が他動詞か自動詞かだ。<頭(顔)を出す>で<出す>は<を>を取るので他動詞のようだ。自動詞は<出る>。しかし

1)太郎は窓から頭(顔)を出す。



2)花子は窓から太郎の頭(顔)を出す。

を比較してみよう。2)は現実にはあまりおこりそうもないが可能で、これは明らかに他動詞。それに比べると1)は他動詞性がやや低いといえる。ただし頭(顔)が自然に出て来るわけではないので、やはり他動詞のようだ。<意見を出す>、<辞表を出す>の<出す>とは他動詞性が違う。では次の例はどうか?

木が芽(枝)を出す。

木の気持ち察(さっ)しがたいが、おそらく<芽(枝)を出す>意識はないだろう。そうするとこの<出す>は自動詞に近づく。これはおもしろい文法問題だ。再度もっと詳しく検討予定。いろいろおもしろそうな文法問題が残っている。


-引用終わり-

上記引用のなかに(追加予定)とか<再度もっと詳しく検討予定>書いてある。このポストはこの<日本語の自動詞、他動詞-14、向く- 再帰動詞>の追加、さらに大げさに言えば展開だ

上記例では<再帰>にとらわれて<わが身>、<(分)自身>にこだわっているが、<わが>、<(自分)自>を取り払って<身(み)>だけの場合を調べてみる。見逃していたが<身(み)>は日常多用され、慣用表現も多い生粋(きっすい)の大和言葉。<身(み)>は少しばかり多義語だ。

1)体(からだ) (身をのりだす、身をくねらす)
2)中身 (身も蓋(ふた)もない)
そして
)自分自身
さらには頻度はさほど多くはないが
4)命(いのち) (身をささげる)

がある。問題というか、<身(み)>の大きな特徴はは上記の分類ではっきり使い分けられるわけではないこと。いわば無意識で>二つまたは二つ以上の意味を持った<かけことば>のように使われるのだ。 

特にまぎらわしいのは1)と3)で<自分自身の体>を意味することがある。<自分自身の体>の場合、<自分自身>が主とみなせるものと<(からだ)>が主とみなせるものがありやっかい)と)の掛け合わせ<自分自身の中身>、3)と4)の掛けあわせ<<自分自身の>もあるだろう。ここでは<再帰表現>ということで)自分自身の意に注目する。自分自身は4語(4音節)だが<身(み)>は一語で一音節再帰表現に向いている。

かなり慣用化した表現 

A. <身>が直接動詞につくもの 

身構える
身ごもる
身じろぐ (<たじろぐ>の間違えか?

B. <を>を取るもの。動詞は他動詞。

身を明かす身分を明かす)
身をあやまる
身を入れる (身を入れて仕事をする。この<み>は中身の<み>か) <身を出す>は聞かない。
身を浮かす (泳ぎ) <-> 身を沈める; 身を泳がせ
身を動かす(身動き)
(鏡に)身を写す
身を売る
身を起こす
身を落とす (乞食、ホームレスに身を落とす)
身を隠す (<れる>という自動詞がある)
身を傷つける  
身を切る寒さ)
身を(きよ)める
身を崩(くず)す
身をくねらす
身を削る
身を焦(こ)がす
身をささげる 
身を刺す寒さ)
(危険に)身をさらす
身をすくめる(<すくむ>という自動詞がある)
身をすぼめる
(悪に)身を染める
身を捨てる(身を捨ててこそ浮かぶ瀬ある) <身を拾う>はなさそう
身を正ただ
身を立てる(身を立て名をあげ)
身を縮める <-> 身を伸ばす(体操)
身を解き放つ
身を投(とう)じる
身を投げる(身投げ)
身を投げ出す
身をのり出す(この<のる>は電車に乗るの<乗る>ではない
身を晴らす
身をひきしめる
身を引く 
(わが)身を振り返る 
身をふるわす
身を減らす(というか?) (身を粉にして働く
身をまかす
身をもって(わかった) (これは<持って>でも<以て>でもよさそう)
身を休(やす)める、休ませる
身をやつす
身を寄せる
(追加予定)

C. <に>を取るもの。動詞は基本的に自動詞。

身にあまる(光栄) (身に過ぎる)
身に覚えがある (<身に覚える>は聞かない)
(寒さが)身にこたえる
身にみる 
身につく
身につける (<つける>は他動詞で、<xxを身につける>となる
身につまされる() (<つまされる>は他動詞<つむ>の受身形だがこの<つむ>はなにか?)
身にまとう (<まとう>は他動詞で、<xxを身にまとう>となる
身にまとわりつく
(追加予定)  

C. その他の慣用表現

身動き
身内(みうち)
見覚(おぼ)え
身重(みおも)
身柄(みがら)送検 身から出たさび
身ぎれい(綺麗(きれい)は漢語)
身ぐるみ(はいで)
身じたく
身の上(相談)
身の置き場
身のこなし
身の丈(たけ)  
身のほど(知らず)
身の回り
身のやり場
身づくろい
ぶるい 
身も蓋(ふた)もない
身より(がない)
(追加予定)  

D. 慣用的ではないが可能な表現

基本動作、基本動詞

破壊、損傷
(わが)身を打つ、たたく、こわす、倒す
身をいじめる
身を傷つける (これは慣用か)
身を痛(いた)める

身を作る

身を使う

(xxに)身を近づける
身をつなぐ 
(xxから)身を離(はな)す、放(はな)す
(xxから身をそらす
身を外(はず)す

(xxに)身を入れる
(xxから身を出す

身を押す (身を引く、は慣用がある)
身を抜く

運動

身を動かす (きわめて一般的な言い方。上述の<身動き>はよく使う)


身を止める
身を上げる
身を下げる 
身をさばく
身をそらす、り返らす (<反り返る>という自動詞がある)
身を広げる (手足を広げる)
身を曲げる
身を回す
身を開く  (体を開く、剣道用語ほか)
身を閉じる

身を走らす
身を歩かせる(歩かす)
身を止まらせる
身を跳(は)ねさせる
身を飛ばす
身を跳ね飛ばす
 
身を転(ころ)がす  (<ころがる(=倒れる)>という自動詞がある)
身を滑(すべ)らす (比喩用法があるか?) (足を滑らす)

身を流す
身を泳がせ
身を埋める

取捨
身を取る
身を得る
身を奪(うば)う
身を拾う
身を与える
身を捨てる (上記の身を捨ててこそ浮かぶ瀬ある以外はあまり聞かない)
身を失う

身を探(さが)す
身を見つける
身を見失う

保身
身を保つ
身を守る

生死
(身を活かす)
身を生きる
身を死なす
身を亡ぼす

食事
身を焼く
身を煮る
を食べる
身をなめる
身をかじる
身を味わう

洗濯
身を洗う (<足を洗う>は慣用表現)
身を汚(ご)す
身を濡(ぬ)らす
身を乾(かわ)かす
身を干(ほ)す  (<身を干される>は慣用か?)

感情
(わが)身を悲しむ
(わが)身を楽しむ
(わが)身を恐れる
 
認識
(わが身を)考える
わが身を)身を知る  (身のほどを知る、身のほど知らず、は慣用用法)

算数

身を足す、引く、掛ける、割る (身元が割れる、という言い方がある)
 
(これはいくらでもありそうで、随時追加予定)
 

慣用表現もおもしろいが日本語の再帰表現を考えた場合<D. 慣用的ではないが可能な表現>が大いに参考になる。

身を出す - 生まれる
身を作る - 成長する
身を使う - 生きる、生活する(xx を生活する、とは言わないので自動詞)
身を進める - 進歩する
身を埋める、身を腐らす、身をなくす、身をたたむ、終わらす- 死ぬ
身を覚ます - 生き返る
身を切りきざむ、かじる、いじめる - 苦しむ
身をゆるめる - 休(やす)
身を渡す - 降伏する (xx 降伏する、で自動詞)
身を変える - 変身する (xx 変身する、で自動詞)
身を湿(しめ)らす - 気が重くなる 
身を乾かす - 気が軽くなる
身を浮かす - 楽しむ
身を沈(しず)ます - 悲しむ
  
などはナウいというかシュールな表現になりうる。グロテスクなのもある。<他動詞->自動詞>(位相)変換になっていることに注意。この<身(み)>による<他動詞->自動詞>変換はほぼ機械的にできる。上記以外にもいろいろ探してみたので、時間と興味のある人引き続き読んでください。 順不同。

身をふくらます - ふとる、怒(おこ、いか)る、自慢する 
身をふやす - ふとる
身を重くする - ふとる、悲観的になる
身をしぼる - やせる
身を減らす - やせる
身を軽くする - やせる、楽観的になる

身をいやがる、きらう - 自己嫌悪におちいる

身をたがやす  - 努力する、向上する
身を光らす、かがやかす
身をみがく - 努力する
身を錆びらせる - なまける
身をにぶらせる 
身を曇(くも)らす

身をかじる、かむ - 自虐(する)

身をつまらす - 苦境におちいる、苦境に立つ

身を捨てる、切り離す - 自暴自棄になる (身を捨ててこそxxxx とは違う)

身をごまかす - 自己欺瞞

身を返す - 裏切る

身を振り返る - 反省する、思い出す

身を愛(め)ずる、慰める  - ナルシズム

付録:イタリア語的な再帰表現

身を悲しませる - 悲しむ
身をかくす - かくれる
身を倒す - 倒れる
身を苦しませる - 苦しむ
身を寝かす - 寝る
身を休める - 休む
身をあらわす - 裸になる
身を覆(おお)う - 着る(これは他動詞)

イタリア語辞典にある再帰動詞表現の数と比べればまだまだあるはず。一方これらの多くは日本語的でないがイタリア語の再帰動詞の理解に役立つと思う。


sptt

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