Wednesday, October 29, 2025

捉 (とら) える / 捉えられる / 捉われる / 捉わる  どこがどう違う

 

  (とら) える   /  捉えられる  /  捉われる / (捉わる)

はどこがどう違う。

<捉える> の古語は 

学研全訳古典辞典

 とら・ふ 【捕らふ・捉らふ】  

他動詞ハ行下二段活用

活用{へ/へ/ふ/ふる/ふれ/へよ}


捕らえる。取り押さえる。


出典徒然草 一七五


「逃げんとするを、とらへてひきとどめて」


[訳] 逃げようとするのを取り押さえてひきとめて。


握る。手でしっかりとつかむ。


出典竹取物語 御門の求婚


「袖(そで)をとらへ給(たま)へば」


[訳] 袖をお握りになったので。


問題にする。


出典紫式部日記 消息文


「わが心の立てつる筋(すぢ)をとらへて」


[訳] 自分の心に決めた得意の方面を問題にして。

 

  

<捉えられる>は<<捉える>の受身。

<つかまえられる>が<つかまえる>の受身相当と同じだ。

一方<捉われる>は古語ではなく文語であり

(とら) わる 

デジタル大辞泉

とらわ・る〔とらはる〕【囚はる】

[動ラ下二とらわれる」の文語形

 

 つまりは口語<とらわれる>の文語形ということ。 さらに言い換えると

文語<とらはる (とらわる)> = 口語<とらわれる>

そして

文語<とらはる (とらわる)> Not = 口語<とらえられる>

のようだ。
 

口語<とらわれる>はどういう意味か?

デジタル大辞泉  

とらわ・れる〔とらはれる〕【囚われる/捕(ら)われる/捉われる】

読み方:とらわれる

[動ラ下一[文]とらは・る[ラ下二

 つかまえられる。とらえられる。「敵に—・れる」

 固定した価値観考え方など拘束される。「先入観に—・れる」「目先のことに—・れる」

の例文

先入観にとらわれる
目先のことにとらわれる 

という言い方よく聞き、よく使う。

とらわれる>は口語

ややこしいが、ここでは 文語<とらはる (とらわる)>に注目したい。

 ひと昔前の改まった文語では

太郎は先入観にとらわれる ー> 太郎先入観にとらわる (<は>はいらない)
次郎は目先のことにとらわれる ー> 次郎目先のことにとらわる

でよかったのだ。<とらわる>は<とらわれる>よりすこし簡潔で、すぐにはわからないがとらわれる>が受身が感じられるのに比べて受身は控えめになるようだ。

太郎先入観にとらわる、とらわりてあり
次郎目先のことにとらわる、とらわりてあり
花子三郎との結婚のことにとらわる、とらわりてあり

これは純受身の<とらえられる>

太郎は先入観にとらえられる、とらえられている
次郎は目先のことにとらえられる、とらえられている
花子は三郎との結婚のこととらえられる、とらえられている

と比べるとさらに大きな違いだ。<とらえられる、とらえられている>は翻訳調だ。

 

最近のポストでは

手すりをつかむ
手すりつかまる

試験を受ける
試験受かる

を検討したことがある。

先入観を捉える
先入観に捉わる

は 

試験を受ける
試験受かる  (これは難題)

に似ていないこともない。

 

sptt

 

Tuesday, October 28, 2025

まよえる子羊 / まよう子羊。 どこがどう違う?


夏目漱石の小説《三四郎》の中で<まよえる子羊 (こひつじ) >というのが出てくる、そして  stray sheep の訳と出てくる。
 
ところで、<まよえる子羊 (こひつじ) >は<まよう子羊>ではだめか?<まよえる子羊 /  まよう子羊>。どこがどう違う?
 
<まよえる>は<まよう>の可能の意味にもなるが (注)、状況からして<まようことができる子羊>はおかしい。子羊が<まよっている>と形容する場合は<まよう子羊>、<まよっている子羊>でもいいだろう。 場面は忘れたが
 
あなたは (三四郎のこと) はまよう子羊よ。
あなたはまよっている子羊よ。
 
 で意味は通じるだろう。
 
ではなぜ<まよえる子羊 >になっているのか?
 
<まよえる>の<える>は可能の意味以外に何か意味はないか?
 
文法的には

<まよう>は
 
未然形 まよない, 未然形-2 まよおう
連用形 まよて ー> まよって 
終止形 まよ
連体形 まよひと
仮定形 まよ
未然形-2 まよ
 
でワ行五段活用 (あるいはワア行五段活用)。
 
一方<まよえる>は<まよう>由来だが
 
未然形 まよない
連用形 まよて 
終止形 まよえる
連体形 まよえるひと
仮定形 まよえれ
未然形-2 まよよう
 
 でア行下一段活用。ここに
 
連体形 まよえる
 
がある。 だがなぜか連体形以外は使いそうにない。
 
 
従 (したが) う、従える 
 
牧童に従 (したが) う子羊、牧童に従っている子羊
 
はいいが 
 
牧童にえる子羊
 
は何かおかしい。 
 
<従う>は
 
未然形 ない
連用形 て ー> って 
終止形 
連体形 ひと
仮定形 
未然形-2 
 
でワ行五段活用 (あるいはワア行五段活用)。
 
一方える>は<う>由来だが
 
未然形 ない
連用形 
終止形 える
連体形 えるひと
仮定形 えれ
未然形-2 よう
 
 でア行下一段活用。こちらの方は<可能>の意ですべて使える。
 
 
とりえずの結論として
 
まよえる子羊  = まよう子羊  

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(注)

<五段活用 -> 下一段活用>変換で可能動詞になる、というルールがある。
 
 
 
 
sptt