Thursday, May 28, 2015
ドイツ語の副詞 hin と her - 2 hinaus、heraus、hinein、herein
ドイツ語の難問< hin と her>の第2弾。だいぶ前の第1弾を読み返してみたが、特に訂正の必要はないようだ。今回は< hin と her> と<aus と ein>の組み合わせを考えてみる。すなわち hinaus、heraus、hinein、herein の四つだ。aus は<外へ(に)>、ein は<内(うち)へ(に)、中(なか)へ(に)>の意があり、文字通りに訳すと
1) hinaus そちらの方に向かって外へ(に)
2) heraus こちらの方に向かって外へ(に)
3) hinein そちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
4) herein こちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
ところが、以上の四つは場所、位地、方向の副詞以外に、行動を促す命令形があり、それぞれそれだけで意味がある。おそらくよく使う言い方だろう。
1) Hinaus ! 命令形で(以下同じ)<出て行け>、<外へ出て行け>。以下同じ。実際の場面では<(ここから)出ろ>、<外へ出ろ>だけでもいい。もちろん丁寧な命令もある(以下同じ)<出て行ってください>。以下同じ。
2) Hheraus ! <出て来い>、<外へ出て来い>。実際の場面では<(そこから)出ろ>、<外へ出ろ>だけでもいい。<出て来てください>
3) Hinein ! <入って行け>、<内(中)へ入って行け>。実際の場面では<(そこへ)入れ>、<内(中)へ入れ>だけでもいい。<そこへ)入ってください>
4) Herein ! <入って来い>、<内(中)へ入って来い>。実際の場面では<入れ>、<内(中)へ入れ>だけでもいい。<内(中)へ入ってください>
このように日本語の場合 hin と her を、さらには aus と ein も場所、位地、方向を示す副詞ではなく、副詞を省いて動詞+動詞(複合動詞)であらわし、ごく普通に使われる。
1) hinaus 出て行く(行け)
2) heraus 出て来る(来い)
3) hinein 入って行く(行け)
4) herein 入って来る(来い)
これはどういうことかというと、<出る>、<入(はい)る>、<行く>、<来る>に場所、位置に関連した特定の方向の意がある(内包されている)ということだ。ここが肝心。副詞が動詞で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?逆に見れば、動詞(日本語)が副詞(ドイツ語)で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?
aus と ein は図で説明すればわかりやすい。内、中から外へが aus、外から内、中へが ein といえる。
_______
I
I
X、Y ---> Out XまたはYが出て行く
I
_______I
_____
I
I
Y ---> X Out Yが出て来る
I
_______I
_______
I
I
X <--- Y In Yが入って来る
I
_______I
_______
I
I
<--- Y, X In XまたはYが入って行く
I
_______I
<X>は発話者、あるいは当事者(発話者が話題にしている人、モノ)。<Y>は対象。図でもわかるが、<来る>は発話者ではなく、対象のことを言ってる。一方<行く>は発話者自身、あるいは対象のことを言ってることになる。
内、中から外へが aus、外から内、中へが ein といえる。英語では out と in がほぼ対応する。ただし、日本語の<内/中、外>は方向というよりは壁などの隔たり、境(さかい)を<さかいにして>発話者、当事者がいる方が内/中、発話者、当事者がいない方が外という位置をしめしている。そして、方向を示すのは助詞の<から>、<へ>だ。<から>は省けるが、<へ>は絶対に必要で、これは日本語の大きな特徴。
わかりずらいのは<hin と her>だ。これは<ドイツ語の副詞 hin と her>の第一弾で次のように書いた。
"
相良独日大辞典は次のように解説している。
hin - 話し手から遠ざかる運動、方向を表わす。
her - 話し手の方へ向かう運動を示す。(なぜか<方向>がぬけている。
また、Collins German-English Dictionary (Paper Book) は
静的な Wo ist er?、Er ist nicht da. と対比させて、
hin - Movement away from the speaker is shown by the presence of hin. The following adverbs are therefore often used when movement away from the original position is concerned, even though a single adverb used in English.
dahin - to there
dorthin - there
hierhin - here
igrendwohin - to somewhere
überallhin - everywhere
whoin - where to (これは to where だろう)
her - Movement towards the speaker or central person is shown by the presence of her. The following adverbs are therefore often used to show movement towards a person.
daher - from there
hierher - here
igrendwoher - from somewhere
überallhher - from all over
whoher - where from (これは from where だろう)
"
日本語の解説は簡単。英語の解説はやや複雑でわかりにくいところもある。いずれにしても、<hin と her><運動、方向>、< Movement>をあらわすようだ。英語の方のわかりにくいところというのは、
hin - Movement away from the speaker といっているにもかかわらず dahin - to there、igrendwohin - to somewhere と away from ではなく to が例で出てくるところ。反対に her - Movement towards the speaker or central person といっているにもかかわらず daher - from there、igrendwoher - from somewhere と towards ではなく from が例で出てくるところ。
これは何も難しく考える必要はなく、上で説明した ”そして、方向を示すのは助詞の<から>、<へ>だ。<から>は省けるが、<へ>は絶対に必要で、これは日本語の大きな特徴。" が参考になる。つまり、
hin - Movement away from the speaker だが<へ>は絶対に必要>なのだ。
her - Movement towards the speaker or central person だが<から>を省かずにいうこともできるのだ。そしてこのほうがより明確(さらに明確)になる。話者が当事者であれば<私に、mir, zu mir>が現れるか、現れなくてもこの意味があることになる。
日本語の<行く>、<来る>は<へ、に>の方向を示す助詞が必要だが、動詞自体、ドイツ語の gehen、kommen よりも方向性が強いようだ。特に<来る>がそうだ。一方、<ドイツ語の副詞 hin と her>の第一弾で次のように書いている。
”
ドイツ語の woher kommst du? (wo kommst du her ? でもよさそう)は her のない wo kommst du? とは間違わないだろう。 英語で from、中国語で<从>、日本語で<から>を使うからだ。 wo kommst du? では何かたりないのだ。 her が付くのは 疑問副詞の wo あるいは動詞 kommen に方向性の意味が弱いからといえるが、kommen は gehen 以上に方向性が弱い。英語でも to go に比べると to come は、中国語でも<去>に比べると<来>は方向性が弱いといえる。
いずれにしても、gehen、kommen、to go、 to come、行く、来る、去、来 は使用頻度が極めて高い重要動詞で、使われ方の分析は一筋縄ではいかない。上記の分析では、これらの動詞(運動、移動関連動詞)は元来方向性を備えている ようだが、その程度はまちまちで、ドイツ語 gehen、kommen、日本語 行く、来る、 は方向性が弱いことになる。
”
これらはさらに検証が必要のようだ。
方向性が強い移動動詞<近づく>(自動詞)
(xx へ、に)近づいて来る OK
(xx へ、に)近づいて行く OK
方向性が弱い移動<離れる>(自動詞)
(xx から)離れて行く OK
(xx から)離れて来る ややおかしい < xx から離れて yy へ(に)来る>ならOK。
実際調べてみると、解説の混乱の原因のひとつは自動詞と他動詞の区別を明確にしていないためではないか? という疑問が出てくる。また movement は運動というよりは移動ではないか。運動は必ずしも方向はいらないが移動は方向が、意識、無意識を問わず、からんでくる。 (今後の検討課題)
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副詞が動詞で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?逆に見れば、動詞(日本語)が副詞(ドイツ語)で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?
という疑問に対しては
ドイツ語の運動、移動動詞は方向性が乏しく(言い換えれば、運動、移動の動詞としての純粋性が強く)、そのため hin 、her、 hinaus、heraus、hinein、herein といった場所、位置、方向関連の副詞が活躍することになる。
が回答だろう。ここが肝心。
以上
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以下は興味とヒマがある人は読み続けてください。
繰り返しになるが
1) hinaus そちらの方に向かって外へ(に)
2) heraus こちらの方に向かって外へ(に)
3) hinein そちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
4) herein こちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
と
1) hinaus 出て行く
2) heraus 出て来る
3) hinein 入って行く
4) herein 入って来る
はあまりにも違う。
ここで参考のため中国語に登場してもらう。 中国語はきわめて特異な言語で、動詞がそのまま名詞になるが(別のポストで何度か取り上げた)、ここでは中国語でも動詞が方向を示す副詞になるかどうかを調べてみる。これは中国語のテキストに間違いなく出てる。そして理解はもちろん、実際に使いこなすまではやや難しい箇所だが、日本語と同じく日常きわめてよく使う。
1) hinaus 出て行く --> 出去
2) heraus 出て来る --> 出来
3) hinein 入って行く --> 进去 (広東語 入去)
4) herein 入って来る --> 进来 (広東語 入来)
ほぼ日本語と同じ構造。 <hin と her>関連では<过(過)>があり、これまた日常きわめてよく使う。
hin + gehen そちらの方に向かって行く ーー> 过去 to go over there の感じ
her + kommen こちらの方に向かって来る ーー> 过来 to come over here の感じ
<过来>は<こちらの方に>の意が強いが<过去>は<そちらの方に>の意はさほど強くなく、場合によっては<あちらの方に>のように目的地が曖昧でもよさそう。
<过去>、<过来>に相当する日本語はないようだ。対応する言い方は
过去 - そちら(あちら)に行く、そっち(あっち)に行く
过来 - こちらに来る、こっちに来る
で少しドイツ語的になる。< 过>が後につく<去(行く)>、<来(来る)>で<そちら(あちら)に、そっち(あっち)に>、<こちらに、こっちに>になる。これは<hin と her>の説明に役立ちそう。
英語では(ドイツ語でもありそう)
I will come over there. (そちらの方に向かって来る)。
という表現がある。中国語の<我来>は<I will come>の意味で聞く。日本語<わたしは来ます>はダメだ。
You (He, She, They) will go over here. (こちらのほうに向かって行く)
は変だ。だが、これはかなりやっかいな問題だ。
また、上の説明では<行く>=<去>としたが、=(イコール)ではないだろう。推測だが、中国語の<去>は<行く>や to go の意味以外に日本語の<去る>、英語の to leave の意味が含まれていないだろうか?たとえば、会合などで<I am leaving now.>という時、ただ単に<(その場から)去る>ことだけを伝えており<(どこか)へ行く>は伝えていない。<去哪裡?>= <どこへ行く?>だが、<去>がどこまで<行く>と同じか?
sptt
Wednesday, May 27, 2015
ドイツ語 の接頭辞(prefix)- 21 <zurück >
ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第21弾で<zurück->について調べてみる。相良大辞典の接頭辞(prefix)として取り上げておらず<zurück->の解説は
”
合成用語。ただし動詞と結合する場合は常に分離する。<後方へ、元へ、帰って、遅れる>などの意。
”
と簡単だ。実際に個々の zurück- 動詞を調べてみると、日本語では文字通りの<後方へ( zu + rück )>を使った解説は少なく、<帰る、帰って>、<返る、返って、返す、返して>、<戻る、戻って、戻す、戻して>が出てくる訳語が多い。zurück- + <よく使われる動詞>を見てみる。
zurückbekommen 英語 to get back 日本語 返してもらう
(注) bekommen は to become ではなく、変な英語だが to be given (与えられる)で、<もらう>のことだ。
zurückbringen 英語 to bring back 日本語 元へ戻す
zurückdrängen 英語 to push back 日本語 押し返す(戻す)
zurückfallen 英語 to fall back 日本語 後ろに倒れる
zurückgehen 英語 to go back 日本語 帰って行く、もどって行く
zurückhalten 英語 to hold back 日本語 引き止める
zurückkehren 英語 to turn back, to return 日本語 戻る (kehren =向きを変える)
zurückkommen 英語 to come back 日本語 もどって来る
zurücklassen 英語 to leave behind 日本語 後に残す
zurücklegen 英語 to put back 日本語 元に戻し置く
zurücknehmen 英語 to take back 日本語 取り戻す
zurückrufen 英語 to call back 日本語 呼び戻す、呼び返す
zurückschlagen 英語 to hit back 日本語 打ち返す
zurücksetzen 英語 to put back, to reduce 日本語 後ろに置く、後退させる
zurückstellen 英語 to put back, to put off 日本語 後退させる、しまって置く、軽んじる、猶予する、などの意もあり zurückstellen も多義語。
zurückzahlen 英語 to pay back 日本語 払い戻す、返済する
zurückziehen 英語 to withdraw, to pull in (*) 日本語 後ろに引く(手前に引く)(*)、引っ込める
zurückziehen が to withdraw だとすると日本語では<後ろに引く>というよりは<手前に引く、手元に引く手前に引く>だろう。また英語でも場合によっては to pull back となるが to pull in が普通だろう。
以上、意図的ではなくはしょった動詞もあるが、ドイツ語 zurück、英語 back、日本語 <帰る>、<返る、返す>、<戻る、戻す>がほぼきれいに対応している。また以上の動詞は元の動詞がよく使われるだけに、上記以外の派生の意味があるものが多い。機会があればどのようにして派生したのか別途調査、検討予定。
sptt
Tuesday, May 26, 2015
ドイツ語 の接頭辞(prefix)- 20 <hinter>
ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第20弾で<hinter->について調べてみる。前置詞としての hinter は前置詞として3格、4格を支配し、後ろで、背後で(3格)、後ろ(の方)へ、背後(の方)へ(4格)の意。副詞は hunten 。相良大辞典の接頭辞(prefix)の<hinter->の解説は
”
動詞の分離前綴として常にアクセントを有し<背後に(へ)、(喉の)奥に(へ)など>の意を表わす。動詞の分離前綴としてはアクセントなく比喩的な意味を有する。
”
となっている。hinter- 動詞は nach- 動詞、zurück - 動詞に比べてかなり少ない。
<背後>は単なる<後(うし)ろ>ではなく、あるモノの<後(うし)ろ>の意だが、隠れて見えなくなる/する場合もあるが、バックグラウンド(der Hintergrund)、背景のように見える場合もある。いずれにしても前にある<あるモノ>の方は見えているようだ。die Hinterland (英語も hinterland)というのもあるが、これは<奥>地だ。der Hintergrund、die Hinterland は hinter- は名詞の前に付いている。
分離/不分離動詞の例
分離前綴 hinterbringen 後ろに持っていく
不分離前綴 hinterbringen そっと告げる
分離前綴 hintergehen 後ろに行く (トイレに行く、というのが辞書にはある)
不分離前綴 hinterhgehen だます、あざむく
分離前綴 hinterlegen 後ろにおく
不分離前綴 hinterlegen 預ける、寄託する
<喉の)奥に(へ)>は<(飲み物、食べ物を)飲み込む>の意に限られており、また Collins German-English 簡易辞典、インターネットの German-English Reverso には出てこないので、さほど一般的な動詞ではないだろう。
hinteressen 食べ物を無理にのみ込む
hintergießen 一気に飲み干す gießen は<注ぐ、注ぎ込む>。
hintertrinken 飲み込む、むさぼり飲む
sptt
Sunday, May 24, 2015
<xx について>について
<xx について>の<ついて>について考えてみる。<ついて>はどこにでもついてまわる超慣用句だ。
to talk about xx xx について話す
to tell (me) about xx xx について(私に)話す
to think about xx xx について考える
to learn about xx xx について学ぶ
to know about xx xx について知っている
to check about xx xx について調べる
<動詞+about xx>はほぼ自動的に<xx について + 動詞>と訳される。上記の動詞にうち to talk は自動詞だけのようだが、その他は他動詞の用法がある。
to tell xx (to me) xx xx を(私に)話す
to think xx xx を考える
to learn xx xx を学ぶ
to know xx xx を知っている
to check xx xx を調べる
日本語の方の自動詞(xx について)と他動詞(xx を)を比較してみる。
xx について(私に)話す - xx を(私に)話す
xx について考える - xx を考える
xx について学ぶ - xx を学ぶ
xx について知っている - xx を知っている
xx について調べる - xx を調べる
右側の自動詞と左側の他動詞ではどうちがう。
1) 自動詞の場合は<について>があるため対象対して間接的、他動詞の場合は対象対して直接的、と言えそう。
2)英語では、自動詞の場合 about が使われいるため<xx(対象)のまわり>を<yyする>(動詞)といった感じだ。一方日本語の方は<xx(対象)について><yyする>(動詞)で、慣れのせいか<のまわり>=<について>と考えがちだが、<について>について考えてみよう。
<つく>には付く、着く、突くなどいろいろの意味があるが、<xx (対象)のあとにつく>の<つく>が一番近いようだ。<xx のあとにつく>の<つく>は<付く>、<着く>に近いが<付く>、<着く>は直接対象に<ついて>しまうが、<xx (対象)のあとにつく>は対象に近づきはするが直接対象に<つく>ことはない。<あとから、あとを追う>とも言える行動だ。直接対象に<付いて、着いて>しまうと間接的でなくなる。英語の about <xx(対象)のまわり>の方も対象のまわりにいて直接対象に<付いて、着いて>しまうことはない。
これは気がつきにくいがもう一つ指摘したい。それは自動詞と他動詞の違いに関係してくるかもしれない。
繰り返しになるがもう一度上の例を見ていただきたい。まず自動詞。
to talk about xx xx について話す
to tell (me) about xx xx について(私に)話す
to think about xx xx について考える
to learn about xx xx について学ぶ
to know about xx xx について知っている
to check about xx xx について調べる
<xx>は対象としてきたが話題ともいえる。<xx>は総じてすでによく知られたコトの場合、あるいはよく知られたコトが前提になっている場合が多い。いわゆる<定>だ。
次に他動詞の例をもう一度見てみよう。
to tell xx (to me) xx xx を(私に)話す
to think xx xx を考える
to learn xx xx を学ぶ
to know xx xx を知っている
to check xx xx を調べる
これまた<xx>は対象としてきたが話題ともいえる。しかし<xx>はすでによく知られたコトとは関係なく、初めて出てくる話題を含めて一般的な話題の場合が多いようだ。
<xx (対象)のあとにつく>にしても<xx(対象)のまわり>にしても<対象>はすでに存在していないといけない、すなわち<定>でないといけない。
sptt
Saturday, May 23, 2015
ドイツ語 の接頭辞(prefix)-19 <nach->
ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第19弾で<nach->について調べてみる。相良大辞典の接頭辞(prefix)の<nach->の解説は
”
前綴として<後から・後続・追求;こちらへ・向かって;以後、反復、追随、摸倣、基準、劣等>などの意を表わす。動詞と結合する時は分離前綴として常にアクセントを有し、自動詞の場合は通常3格を支配する。
”
となっている。<nach->は前回のポストの<vor->に対比される接頭辞だ。
vor- 前に、前へ(時間、位置) あらかじめ(時間)、前面で(位置) 、先立って(時間、位置)
nach- 後から(時間、位置)、以後(時間)
vor- 先立って(位置、時間)
nach- 追随(位置、時間)
vor- 模範として、先位(位置、時間、質)
nach- 追求、追随、摸倣 (位置、時間、質(劣等))
vor- 優勢(位置、状況)
nach- 劣等(位置、状況)
vor- 仮に、予備に、予防に
nach- 後から、追随
<こちらへ・向かって>に該当する動詞はみつからない。
<後(あと)、後(うし)ろ>に関しては hinter (英語ではbehind か)、zurück (英語では back か)というのがある。基本的な違いは
nach - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う。したがって時間関連だが<遅れ(る)>は nach になる。
hinter - これは主に位置(空間)関連で、単に後ろというよりは<(xx の)背後で、に>の意。<前を見ながら>はあまり関与しない。
zurück - これは日本語では大体<帰る(す)>、<返る(す)>、<戻る(す)>になる。英語の to go back は<後ろへ行く>ではなく<帰(返、戻)って行く>、 to come back は<後ろへ来る>ではなく<帰(返、戻)ってくる>。さらには to return で<行く>にも<来る>にもなると、というか<行く>でも<来る>でもなく zurück すなわち<帰る(す)>、<返る(す)>、<戻る(す)>の意なのだ。 to look back は<後ろを見る>でもいいが<振り返る>の方がいい。
hinter、zurück は接頭辞(prefix)として後日別のポストで検討予定。
上記の nach の解説で例外がないわけではない。たとえば
<xx の後から行く>というと<前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>でいいが<xx の後から来る>(nachkommen の元の意味)は、位地的に発話者の<後から来る>人、動物、モノ、時間的に発話者の<後から来る>コトの場合には発話者は後ろを見て、見ながら、意識しながらの発話となる。また nachziehen はいくつかちがった意味があるが、元の意味の<後から引く、引っ張る、引きずる>であればこれまた発話者は後ろを見て、見ながら、意識しながらの発話となる。
後(あと)、後(うし)ろ、前の関係はけっこう複雑。まず時間と位置(空間)の両方に関係する。時間と位置ともだが、話者の視点や視線(見ている方向)が関係しており、場合によっては <後(あと)、後(うし)ろ>と<前>が入れ替わるのだ。これだと、これに聞き手や第三者が加わるさらに混乱しそうだが、実際には幸いあまり問題にならない。ときどき引き合いに出される例は電車の(プラット)ホームの黄色い線。
黄色い線の後ろでお待ちください。
が普通のようだが
(足元に見える)黄色い線の前でお待ちください。
でもよさそう。 常識が働いて黄色い線を越え電車に近い方で立つ人はごくまれだろう。
さて、nach の話にもどって
<nach- - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>はもってまわった言い方だが、意味するところは分かってもらえると思う。
さて、ここで注意したいことがある。これはどこか別のポストで書いたことのほぼ繰り返しになるが、
<nach- - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>を時間軸で考えてみよう。ふつう<時間、出来事は前から来て後ろへ去って行く>ようだが、実際は<過去の時間、出来事は現時点から前へ進んで見ている>というコトだ。そうしないと<前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>はむずかしい。試しに<時間、出来事は前から来て後ろへ去って行く>と見ながら<過去の出来事の後(あと)、後(うし)ろでおこる、おこったことを>考えたり、表現してみよう。これは、出来ないことはないが、多くの人はそうするのに慣れていない。これはおそらく、われわれの目が
前方を見るの便利なように前についているからだろう。あるいは、<目が見ている方向を前という>恣意的なものだろう。 これも気づきにくいが、物理(化学、電気を含む)では時間ともに変化する物理量をグラフ化するときに時間は左から右へ経過して行く。(左回りに90度回転させると、右側が上に、左側が下に来る。) 時間的に早く測定した物理量は遅く測定した物理量よりも右の方に表わされるのだ。直観的には左は過去、右は未来(将来)だが、これとは逆なのだ。
日本語では
過去-現在-未来、将来
というが、これは漢語で中国由来。 本場の中国では過去、現在はよく聞くが未来、将来は聞く機会が断然少ない。
大和言葉は
来(こ)し方-今(いま)-行く末
が思い浮かぶが、漢語で<未来、将来>をつかうのと対照的に<行く末> と<行く>が使われている。中国人が未来を<未(いま)だ来(こ)ざる>、<まだ来ない>とみているのと対象的に、日本人は<行く方向>と見ているのだ。 おそらく大半の日本人は<未来>と言ったり、聞いたりしても<まだ来ない>の感覚ではなく<行く方向>の感覚だろう。
調査、検討結果の結論の一つを先に述べると、<nach->は<コピー>動詞を作るといえる。
1)一般的な<コピー>動詞の例
nachbauen
nachbilden
nacheifern
nachmachen
nachschaffen
大体<つくる>動詞だ。
<コピー>は良し悪しがある。昔(1950-70年代)は日本人が今(2015年)は中国人が自他共に<コピー>国民を認めているようだ。<コピー>に対比されるのに<イノベーション>がある。どういうわけか英語が使われる。<コピー>の良し悪しだが、個人的には<コピー>はさほど悪いこととは思わない。なぜなら、それは少なくとも<nach- コピー動詞>の<nach->の意味が示すように<前を見ている>からだ。
コピー関連動詞はいくつかにグループ化できる。改善、改良、補足、大和言葉で言えば<直し>、<足し>がある。
2)改善、改良、訂正、<直し>、補足、<足し>の<nach->動詞の例
nachbessern 改善する、改良する
nachfarben 染め直す
nachfeilen やすりをかけ直す
nachgiessen 注ぎたす、注ぎ足す
nachlesen 読み直す(これはドイツ語でも必ずしも訂正の意はない)
nachsetzen 元の意:後に置く、つけ足す、接ぎ足す
nachfullen 注ぎ足す
nachschreiben 書き足す
おもしろいのは<言う>関連の動詞で、単純な<後から言う>とか<言い直す>というのは少なく、<他人が言ったことを後からまねして言う>という意味の動詞が多いことだ。実際のところ<言い直す>はきかないためか?また、読み、書き、そろばん(計算)と違って、とくに習わなくても<しゃべるようになる>ことが関連しているかもしれない。
<他人が言ったことを後からまねして言う(口まね)>動詞の例
nachsagen
nachsprechen
nachreden
以上は単に<口まね>するほか<繰り返し言う>という意味もあるようだ。日本語では<後から後から>、<つぎつぎに(へ、と)>、<つぎからつぎに(へ、と)>という副詞がある。
3)後からでないと出来ない動詞のグループ
これは本来の位置(空間)、時間がらみの nach- 動詞で、いわば<後(あと)、後(うしろ)ろからする動詞>なのだ。 これまたいくつかのグループに分けられる。
上記の1)<コピー>動詞、2)改善、改良、補足、大和言葉で言えば<直し>、<足し>動詞は<後からする動詞>だ。その他、漢語が多くなるが、次のような動詞は<後から する>のが基本だ。
後悔する 悔やむ - これはどういうわけか nach 動詞が見つからない。reuen という動詞があるが、モノ、コトが主語になり
es reut ihn — He’s sorry about it.
es hat mich gereut — I was sorry for it.
(wiktionary から)
となる。この見方<モノ、コトがが誰々を後悔させる>は<(みずから)後悔する>や次の例の<(みずから)反省する>の難しさを物語っている。中国の文革時代に(1966-76)多くの人が<自己批判>というのを無理やりさせられたようだが、かなり無理をしないと無理なことだ。
反省する
復習する
復讐する
追求する
(後を)追う nachlaufen, nachjargen, nachtreiben
<追う>は日本語では複合動詞が多い。
追い打ち(をかける)
追い落とす
追い返す
追いかける
追い込む
追いすがる
追い散らす
追い立てる
追いつく
追いつめる
追い払う
追いぬく
追いまわす
追い求める
追いやる
(後に)続く nachfolgen
(後に)従う nachfolgen
(後を)つぐ、引きつぐ
後の残る、 居残る nachbleiben
後に残す nachlassen
事後確認する、(あとから)検証する nachprüfen
sptt
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