Thursday, May 28, 2015

ドイツ語の副詞 hin と her - 2 hinaus、heraus、hinein、herein


ドイツ語の難問< hin と her>の第2弾。だいぶ前の第1弾を読み返してみたが、特に訂正の必要はないようだ。今回は< hin と her> と<aus と ein>の組み合わせを考えてみる。すなわち hinaus、heraus、hinein、herein の四つだ。aus は<外へ(に)>、ein は<内(うち)へ(に)、中(なか)へ(に)>の意があり、文字通りに訳すと

1) hinaus  そちらの方に向かって外へ(に)
2) heraus  こちらの方に向かって外へ(に)
3) hinein  そちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
4) herein  こちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)

ところが、以上の四つは場所、位地、方向の副詞以外に、行動を促す命令形があり、それぞれそれだけで意味がある。おそらくよく使う言い方だろう。

1) Hinaus !  命令形で(以下同じ)<出て行け>、<外へ出て行け>。以下同じ。実際の場面では<(ここから)出ろ>、<外へ出ろ>だけでもいい。もちろん丁寧な命令もある(以下同じ)<出て行ってください>。以下同じ。
2) Hheraus !  <出て来い>、<外へ出て来い>。実際の場面では<(そこから)出ろ>、<外へ出ろ>だけでもいい。<出て来てください>
3) Hinein !  <入って行け>、<内(中)へ入って行け>。実際の場面では<(そこへ)入れ>、<内(中)へ入れ>だけでもいい。そこへ)入ってください
4) Herein ! <入って来い>、<内(中)へ入って来い>。実際の場面では<入れ>、<内(中)へ入れ>だけでもいい。内(中)へ入ってください

このように日本語の場合 hin と her を、さらには aus と ein も場所、位地、方向を示す副詞ではなく、副詞を省いて動詞+動詞(複合動詞)であらわし、ごく普通に使われる。

1) hinaus  出て行く(行け)
2) heraus  出て来る(来い)
3) hinein  入って行く(行け)
4) herein  入って来る(来い)

これはどういうことかというと、<出る>、<入(はい)る>、<行く>、<来る>に場所、位置に関連した特定の方向の意がある(内包されている)ということだ。ここが肝心。副詞が動詞で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?逆に見れば、動詞(日本語)が副詞(ドイツ語)で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?
aus と ein は図で説明すればわかりやすい。内、中から外へが aus、外から内、中へが ein といえる。

_______
              I
      I
X、Y --->  Out    XまたはYが出て行く
      I
_______I

_____
              I
      I
Y --->  X     Out   Yが出て来る
      I
_______I


_______
              I
      I
X <--- Y    In   Yが入って来る
      I
_______I


_______
              I
      I
  <--- Y, X   In   XまたはYが入って行く
      I
_______I


<X>は発話者、あるいは当事者(発話者が話題にしている人、モノ)。<Y>は対象。図でもわかるが、<来る>は発話者ではなく、対象のことを言ってる。一方<行く>は発話者自身、あるいは対象のことを言ってることになる。

内、中からが aus、外から内、中が ein といえる。英語では out と in がほぼ対応する。ただし、日本語の<内/中、外>は方向というよりは壁などの隔たり、境(さかい)を<さかいにして>発話者、当事者がいる方が内/中、発話者、当事者がいない方が外という位置をしめしている。そして、方向を示すのは助詞の<から>、<へ>だ。<から>は省けるが、<へ>は絶対に必要で、これは日本語の大きな特徴。

わかりずらいのは<hin と her>だ。これは<ドイツ語の副詞 hin と her>の第一弾で次のように書いた。

"
相良独日大辞典は次のように解説している。

hin - 話し手から遠ざかる運動、方向を表わす。
her  - 話し手の方へ向かう運動を示す。(なぜか<方向>がぬけている。

また、Collins German-English Dictionary (Paper Book) は

静的な Wo ist er?、Er ist nicht da. と対比させて、

hin  - Movement away from the speaker is shown by the presence of hin. The following adverbs are therefore often used when movement away from the original position is concerned, even though a single adverb used in English.

dahin   -    to there
dorthin -   there
hierhin -    here
igrendwohin - to somewhere 
überallhin -  everywhere
whoin - where to  (これは to where だろう)

her  - Movement towards the speaker or central person is shown by the presence of her. The following adverbs are therefore often used to show movement towards a person.

daher  -     from there
hierher -   here
igrendwoher - from somewhere 
überallhher -  from all over
whoher - where from (これは from where だろう)

"

日本語の解説は簡単。英語の解説はやや複雑でわかりにくいところもある。いずれにしても、<hin と her><運動、方向>、< Movement>をあらわすようだ。英語の方のわかりにくいところというのは、

hin  - Movement away from the speaker といっているにもかかわらず dahin   -    to there、igrendwohin - to somewhere と away from ではなく to が例で出てくるところ。反対に her  - Movement towards the speaker or central person といっているにもかかわらず daher  -     from there、igrendwoher - from somewhere towards ではなく from が例で出てくるところ。

これは何も難しく考える必要はなく、上で説明した ”そして、方向を示すのは助詞の<から>、<へ>だ。<から>は省けるが、<へ>は絶対に必要で、これは日本語の大きな特徴。" が参考になる。つまり、

hin  - Movement away from the speaker だが<へ>は絶対に必要>なのだ。
her  - Movement towards the speaker or central person だが<から>を省かずにいうこともできるのだ。そしてこのほうがより明確(さらに明確)になる。話者が当事者であれば<私に、mir, zu mir>が現れるか、現れなくてもこの意味があることになる。

日本語の<行く>、<来る>は<へ、に>の方向を示す助詞が必要だが、動詞自体、ドイツ語の gehen、kommen よりも方向性が強いようだ。特に<来る>がそうだ。一方、<ドイツ語の副詞 hin と her>の第一弾で次のように書いている。


ドイツ語の woher kommst du? (wo kommst du her ? でもよさそう)は her のない wo kommst du? とは間違わないだろう。 英語で from、中国語で<从>、日本語で<から>を使うからだ。 wo kommst du? では何かたりないのだ。 her が付くのは 疑問副詞の wo あるいは動詞 kommen に方向性の意味が弱いからといえるが、kommen は gehen 以上に方向性が弱い。英語でも to go に比べると to come は、中国語でも<去>に比べると<来>は方向性が弱いといえる。

いずれにしても、gehen、kommen、to go、 to come、行く、来る、去、来 は使用頻度が極めて高い重要動詞で、使われ方の分析は一筋縄ではいかない。上記の分析では、これらの動詞(運動、移動関連動詞)は元来方向性を備えている ようだが、その程度はまちまちで、ドイツ語 gehen、kommen、日本語 行く、来る、 は方向性が弱いことになる。



これらはさらに検証が必要のようだ。

方向性が強い移動動詞<近づく>(自動詞)

(xx へ、に)近づいて来る   OK
(xx へ、に)近づいて行く   OK

方向性が弱い移動<離れる>(自動詞)
 
(xx から)離れて行く   OK
(xx から)離れて来る   ややおかしい   < xx から離れて yy へ(に)来る>ならOK。


実際調べてみると、解説の混乱の原因のひとつは自動詞と他動詞の区別を明確にしていないためではないか? という疑問が出てくる。また movement は運動というよりは移動ではないか。運動は必ずしも方向はいらないが移動は方向が、意識、無意識を問わず、からんでくる。 (今後の検討課題)

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副詞が動詞で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?逆に見れば、動詞(日本語)が副詞(ドイツ語)で表(あらわ)せると言うことはどういうことか?

という疑問に対しては

ドイツ語の運動、移動動詞は方向性が乏しく(言い換えれば、運動、移動の動詞としての純粋性が強く)、そのため hin 、her、 hinaus、heraus、hinein、herein といった場所、位置、方向関連の副詞が活躍することになる。

が回答だろう。ここが肝心。
 
以上

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以下は興味とヒマがある人は読み続けてください。

繰り返しになるが

1) hinaus  そちらの方に向かって外へ(に)

2) heraus  こちらの方に向かって外へ(に)
3) hinein  そちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)
4) herein  こちらの方に向かって内へ(に)、中へ(に)



1) hinaus  出て行く
2) heraus  出て来る
3) hinein  入って行く
4) herein  入って来る

はあまりにも違う。

ここで参考のため中国語に登場してもらう。 中国語はきわめて特異な言語で、動詞がそのまま名詞になるが(別のポストで何度か取り上げた)、ここでは中国語でも動詞が方向を示す副詞になるかどうかを調べてみる。これは中国語のテキストに間違いなく出てる。そして理解はもちろん、実際に使いこなすまではやや難しい箇所だが、日本語と同じく日常きわめてよく使う。

1) hinaus  出て行く  --> 出去
2) heraus  出て来る  --> 出来
3) hinein  入って行く  --> 进去 (広東語 入去)
4) herein  入って来る  --> 进来 (広東語 入来)

ほぼ日本語と同じ構造。 <hin と her>関連では<过(過)>があり、これまた日常きわめてよく使う。

hin +  gehen そちらの方に向かって行く ーー> 过去  to go over there の感じ
her +  kommen こちらの方に向かって来る ーー> 过来  to come over here の感じ

<过来>は<こちらの方に>の意が強いが<过去>は<そちらの方に>の意はさほど強くなく、場合によっては<あちらの方に>のように目的地が曖昧でもよさそう。

<过去>、<过来>に相当する日本語はないようだ。対応する言い方は

过去 - そちら(あちら)に行く、そっち(あっち)に行く
过来  - こちらに来る、こっちに来る

で少しドイツ語的になる。< 过>が後につく<去(行く)>、<来(来る)>で<そちら(あちら)に、そっち(あっち)に>、<こちらに、こっちに>になる。これは<hin と her>の説明に役立ちそう。

英語では(ドイツ語でもありそう)

I will come over there. (そちらの方に向かって来る)。

という表現がある。中国語の<我来>は<I will come>の意味で聞く。日本語<わたしは来ます>はダメだ。

You (He, She, They) will go over here.  (こちらのほうに向かって行く)

は変だ。だが、これはかなりやっかいな問題だ。

また、上の説明では<行く>=<去>としたが、=(イコール)ではないだろう。推測だが、中国語の<去>は<行く>や to go の意味以外に日本語の<去る>、英語の to leave の意味が含まれていないだろうか?たとえば、会合などで<I am leaving now.>という時、ただ単に<(その場から)去る>ことだけを伝えており<(どこか)へ行く>は伝えていない。<去哪裡?>= <どこへ行く?>だが、<去>がどこまで<行く>と同じか?



sptt 



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