Monday, June 1, 2015

ドイツ語の接頭辞(prefix) - 22 <hin, her>


ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第22弾で<hin>と<her>が接頭辞として使われる場合の意味を考えてみる。これは前回のポスト<ドイツ語の副詞 hin と her - 2>関連でもある。<hin>と<her>はとかく理解しにくく、したがって身について使えるようになるには時間がかかる。 

<hin>と<her>は基本的に次のような意味がある副詞だ。(相良独和大辞典)

hin - 話し手から遠ざかる運動、方向を表わす。
her  - 話し手の方へ向かう運動を示す。(なぜか<方向>がぬけている。)

これを忠実に日本語に訳すと

hin  そこへ、そちらへ(に)(向かって)
her  ここへ、こちらへ(に)(向かって)

となる。さて、<hin>と<her>が接頭辞の場合だが、相良辞典は次のように解説している。


hin-    動詞の分前綴りとして<そこへ、あちらへ、ぼんやりと、ぞんざいに、去って、終わって、消えて、沿って、長引いて>などの意を表す。


<ぼんやりと>、<ぞんざいに>が<そこへ、あちらへ>がどう関係しているか? まあ、hin を<遠くに去って行く>を表わすと考えれば、関係が出てくる。分前綴りなのでアクセントがあるのだろう。


her-    分離動詞の分離前綴りとして常にアクセントを有し<話者への方向、起源、整理、機械的な暗誦>などの意を表す。


<起源>は<xx から(出て)来る>で説明がつく。<整理>は herrichten、 herstellen の派生的な意味のひとつ以外には見当たらない。 richten はrichten 自体に<正す>の意がある。<機械的な暗誦についてはあとで解説する。
 
上で述べたように<hin>と<her>は

hin  そこへ、そちらへ(に)(向かって)
her  ここへ、こちらへ(に)(向かって)

の意味があるのだが、 日本語では<hin>と<her>に比べて冗長になるし、強調するとき以外は実際にこのようには口にしない。それで相良辞典では<そこへ>を括弧( )内に入れて、補足している感じだ。補足というのは、たとえば

hinbekommen: 首尾よくそちらへ運ぶ bekommen は to be given(与えられる/ もらう、の意) (別途検討)
hinbringen:  (そこへ)持って行く
hinfahrenen:  (そこへ)乗り物に乗って行く
hinfließen:  (そこへ)流れて行く
hingeben:  多義語。引き渡す、ゆだねる、ささげる、あきらめる、ゆるす (別途検討)
hingehen:  (そこへ)行く、 (そこへ)歩いて行く
hinlaufen:  (そこへ)走って行く
hinlegen:  (そこへ)置く
hinnehmen: 受け取る(辞書通り)。 別途検討
hinschinken, hinsenden:  (そこへ)送る
hintragen:  (そこへ)運んで行く

以上のうち、自動詞の場合は<xx (動詞の連用形)て行く>になる。

乗って行く (<xx に乗る>で自動詞)
流れて行く
歩いて行く
歩いて行く 

日本語では<行く>自体に<そこへ>の意味が含まれている(内包されている)ので、<そこへ>は補足的になる。<そこへ>がなくても<行く>だけで、<そこへ>、<そちらの方へ(に)>、もっと一般的に<話し手から遠ざかる運動、方向を表わす>意味が出るのだ。一方ドイツ語では、具体的に行く場所を示す場合は auf、nach、zu の前置詞を使うが、hin がなくなるわけではない。したがって、目標とする場所はべつとして、hin には<話者から遠ざかる運動、方向を表わす(したい)>気持ちが話者に残っていると考えられる。

いくつか例外があるが、同じようなことが<her>についても言える。ただし<行く>が<来る>になる。しかし、筆者が違うのか、または別の特別の理由があるのか、相良辞典では、こちらの方は<ここへ>、<こちらへ>が( )に入っていない。

herbekommen: 手に入れる
herbringen:  持って(連れて)来る
herfahrenen:  乗り物で来る
herfließen:  流れて来る
hergeben:  多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)
hergehen:  こちらへ歩いて来る (辞書通り)(<行く>ではない)。 したがって gehen = <行く>でないことになる。これは別途検討。
herkommen:  こちらへ来る、近寄る
herlegen:  こちらへ置く
herlaufen:  こちらに走って来る
hernehmen: 取って来る 
herschinken, hersenden:  こちらへ送る
hertragen:  こちらへ運んで来る


元の動詞を自動詞と他動詞に分けてみる。

1)自動詞

fahrenen:  乗り物に乗る
fließen:  流れる
gehen:  行く、 歩く
kommen:  来る
laufen:  走る

2)他動詞

bekommen:  to be given(与えられる/ もらう、の意)
bringen:  持って行く / 持って来る   英語の to bring も状況により<持って行く / 持って来る>の両刀使い。
geben:  与える、やる、あげる、くれる   日本語では<与えられる>は<もらう>になる。
legen:  置く
nehmen: 取る
hinschinken, hinsenden:  送る
tragen:  運ぶ

geben は hingeben、hergeben とも多義語で複雑そう。legen、nehemen、shincken (senden)、tragen をチェックしてみる。

legen:  置く
hinlegen:  (そこへ)置く
herlegen:  こちらへ置く

nehmen: 取る
hinnehmen: 受け取る(辞書通り)。 別途検討
hernehmen: 取って来る 

これだけではわかりにくい。文字通りでは hinnehmen: 取って行く。<持っていく>では hinbringen がある。

German-English Reveso では

hinnehmen
   hin+neh•men      vt   sep irreg  
a    (=ertragen)   to take, to accept  
[Beleidigung]   to swallow 
となっているが、これでもよくわからない。例文がかなりのっている。



exp.
to accept sth without complaint
exp.
to take sth calmly {or} with composure
exp.
to accept sth without criticism {or} protest
exp.
to accept sth silently {or} without protest
exp.
to take {or} accept sth as god-given
exp.
to accept sth as an unalterable fact
exp.
to take sth for granted
exp.
the pound suffered losses on the foreign exchange ...
exp.
we had to accept a cut in wages {or} pay
exp.
the British Army suffered heavy losses
etw als selbstverständlich hinnehmen      to take sth for granted

これだけ並べられると、類推が働いて hinnehmen は<いたしかたなく、しょうがなく、受け入れる>という意味で使われる、ということがわかる。言い換えれば<(いたしかたなく、しょうがなく)取って去る>だ。

hinschinken, hinsenden:  送る
hinschinken, hinsenden:  (そこへ)送る
herschinken, hersenden:  こちらへ送る

tragen:  運ぶ
hintragen:  (そこへ)運んで行く
hertragen:  こちらへ運んで来る

日本語になるが(もともとこの<ドイツ語の接頭辞>シリーズは、ドイツ語の接頭辞を使った日本語の話だ)、運動、移動の自動詞、他動詞としては上記以外に

自動詞
動く
移る
泳ぐ
沈む
ずれる
飛ぶ

他動詞
動かす
移す
押す-引く
沈める
ずらす
連れる
引く(曳く、牽く)

などがある。いずれも<xx(て)行く、来る>が可能だ。

<押す-引く>は反義語だが

押して行く、押して来る
引いて行く、引いて来る

のマトリックスで、発話者、第三者を問わず問題ない。

日本語では<やって来る>という言い方がある。これは特別で<やる>は<xx へ人を遣る(送る、派遣する)>の<やる>で、ドイツ語でいえば(話し手から遠ざかる運動、方向を表わす)hin がらみの動詞だ。これがどうして<来る>と結びつくようになったのか? これは次のように説明できる。

 <やって来る>は<来る>とは違う。

わざわざ<来る>
送られた(派遣された)ように来る (これは他人ばかりでなく自分自身で送った(派遣した)ように<来る>

の意がありそう。

<やる>はおもしろい動詞で、今述べたように本来 hin がらみの動詞で、

hinsehen:  見やる(見遣る)
hintreiben:  追いやる(追い遣る)

以上のほか

言いやる(言い遣る)
(追加予定)

で日本語に出てくる。<やる>は二音節で発音は簡単だが、意味するところは多い。

<別途検討>がまだ残っている。

1)hirgeben:  多義語。引き渡す、ゆだねる、ささげる、あきらめる、ゆるす (別途検討)
2)hergeben:  多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)

 ここでは<あきらめる>について検討する。

German-English Reveso では

hingeben
  
hin+ge•ben, sep irreg  
1       vt   to give up  
[Ruf, Zeit, Geld auch]   to sacrifice  
[Leben]   to lay down, to sacrifice
2       vr  
a    sich einer Sache ($) hingeben      dat   [der Arbeit]   to devote or dedicate oneself to sth  
[dem Laster, Genuss, der Verzweiflung]   to abandon oneself to sth  
sich Hoffnungen hingeben      to cherish hopes  
sich einer Illusion hingeben      to labour   (Brit)  or labor   (US)   under an illusion  
b    sie gab sich ihm hin      she gave herself or surrendered to him  
sich Gott hingeben      to give oneself to God

hingeben は文字通りでは<そちらに与える>だが、<与えて(持たずに)去る>としたらどうか。こうすると<ゆだねる、ささげる、ゆるす>の意味が出てくる。<あきらめる>は別だ。英語解説で to give up がでているが、例文を見る限り、このto give up は外部からの圧力でいたし方なく(自己の意思や希望に反して)<あきらめる>というよりは自分の意思でto give up する<ゆだねる>、<ささげる>が本意のようだ。<ゆるす>は場合によりto give up だが自分の意思でのto give away が近いだろう。
2)hergeben:  多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)

 German-English Reveso では
hergeben
   her+ge•ben, sep irreg  
1       vt   (=weggeben)   to give away  
(=überreichen, aushändigen)  
to hand over  
(=zurückgeben)  
to give back  

gib das her!      give me that, let me have that  
viel/einiges hergeben      inf   (=erbringen)   to be a lot of use/of some use  
wenig hergeben      inf   not to be much use  
das Buch gibt nicht viel her      the book doesn't tell me/you (very) much  
das Thema gibt viel/nichts her      there's a lot/nothing to this topic  
ein Essen, das was hergibt      a fine spread  
was die Beine hergaben      as fast as one's legs would carry one  
was die Lunge/Stimme hergab      at the top of one's voice  
seinen Namen für etw hergeben      to lend one's name to sth  
2       vr  
sich zu or für etw hergeben      to be (a) party to sth  
dazu gebe ich mich nicht her      I won't have anything to do with it  
eine Schauspielerin, die sich für solche Filme hergibt      an actress who allows herself to be involved in such films

hergeben は文字通りでは<こちらに与える>だが、<与えに来る>としたらどうか。こうすると<渡す、交付する、供給する、返す>の意味が出てくる。これまた<あきらめる>は別だ。例文を見る限り、to give up <あきらめる>の意味はない。<開放する>は<開放して xx を自由に使わす、与える>の意だろう。

3)hergehen:  こちらへ歩いて来る (辞書通り)(<行く>ではない)。 したがって gehen = <行く>でないことになる。これは別途検討。

これは gehen =<歩く>であれば<誰々が(こちらへ)歩いて来る>で問題はない。だが gehen =<行く>とすると<誰々が(こちらへ)行く>でおかしくなる。 gehen は純粋に方向性のない<歩く>ではないが、方向性の強い日本語の<行く>でもないのあ。




sptt

 

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