ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第22弾で<hin>と<her>が接頭辞として使われる場合の意味を考えてみる。これは前回のポスト<ドイツ語の副詞 hin と her - 2>関連でもある。<hin>と<her>はとかく理解しにくく、したがって身について使えるようになるには時間がかかる。
<hin>と<her>は基本的に次のような意味がある副詞だ。(相良独和大辞典)
hin - 話し手から遠ざかる運動、方向を表わす。
her - 話し手の方へ向かう運動を示す。(なぜか<方向>がぬけている。)
これを忠実に日本語に訳すと
hin そこへ、そちらへ(に)(向かって)
her ここへ、こちらへ(に)(向かって)
となる。さて、<hin>と<her>が接頭辞の場合だが、相良辞典は次のように解説している。
”
hin- 動詞の分前綴りとして<そこへ、あちらへ、ぼんやりと、ぞんざいに、去って、終わって、消えて、沿って、長引いて>などの意を表す。
”
<ぼんやりと>、<ぞんざいに>が<そこへ、あちらへ>がどう関係しているか? まあ、hin を<遠くに去って行く>を表わすと考えれば、関係が出てくる。分前綴りなのでアクセントがあるのだろう。
”
her- 分離動詞の分離前綴りとして常にアクセントを有し<話者への方向、起源、整理、機械的な暗誦>などの意を表す。
”
<起源>は<xx から(出て)来る>で説明がつく。<整理>は herrichten、 herstellen の派生的な意味のひとつ以外には見当たらない。 richten はrichten 自体に<正す>の意がある。<機械的な暗誦についてはあとで解説する。
上で述べたように<hin>と<her>は
hin そこへ、そちらへ(に)(向かって)
her ここへ、こちらへ(に)(向かって)
の意味があるのだが、 日本語では<hin>と<her>に比べて冗長になるし、強調するとき以外は実際にこのようには口にしない。それで相良辞典では<そこへ>を括弧( )内に入れて、補足している感じだ。補足というのは、たとえば
hinbekommen: 首尾よくそちらへ運ぶ bekommen は to be given(与えられる/ もらう、の意) (別途検討)
hinbringen: (そこへ)持って行く
hinfahrenen: (そこへ)乗り物に乗って行く
hinfließen: (そこへ)流れて行く
hingeben: 多義語。引き渡す、ゆだねる、ささげる、あきらめる、ゆるす (別途検討)
hingehen: (そこへ)行く、 (そこへ)歩いて行く
hinlaufen: (そこへ)走って行く
hinlegen: (そこへ)置く
hinnehmen: 受け取る(辞書通り)。 別途検討
hinschinken, hinsenden: (そこへ)送る
hintragen: (そこへ)運んで行く
以上のうち、自動詞の場合は<xx (動詞の連用形)て行く>になる。
乗って行く (<xx に乗る>で自動詞)
流れて行く
歩いて行く
歩いて行く
日本語では<行く>自体に<そこへ>の意味が含まれている(内包されている)ので、<そこへ>は補足的になる。<そこへ>がなくても<行く>だけで、<そこへ>、<そちらの方へ(に)>、もっと一般的に<話し手から遠ざかる運動、方向を表わす>意味が出るのだ。一方ドイツ語では、具体的に行く場所を示す場合は auf、nach、zu の前置詞を使うが、hin がなくなるわけではない。したがって、目標とする場所はべつとして、hin には<話者から遠ざかる運動、方向を表わす(したい)>気持ちが話者に残っていると考えられる。
いくつか例外があるが、同じようなことが<her>についても言える。ただし<行く>が<来る>になる。しかし、筆者が違うのか、または別の特別の理由があるのか、相良辞典では、こちらの方は<ここへ>、<こちらへ>が( )に入っていない。
herbekommen: 手に入れる
herbringen: 持って(連れて)来る
herfahrenen: 乗り物で来る
herfließen: 流れて来る
hergeben: 多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)
hergehen: こちらへ歩いて来る (辞書通り)(<行く>ではない)。 したがって gehen = <行く>でないことになる。これは別途検討。
herkommen: こちらへ来る、近寄る
herlegen: こちらへ置く
herlaufen: こちらに走って来る
hernehmen: 取って来る
herschinken, hersenden: こちらへ送る
hertragen: こちらへ運んで来る
元の動詞を自動詞と他動詞に分けてみる。
1)自動詞
fahrenen: 乗り物に乗る
fließen: 流れる
gehen: 行く、 歩く
kommen: 来る
laufen: 走る
2)他動詞
bekommen: to be given(与えられる/ もらう、の意)
bringen: 持って行く / 持って来る 英語の to bring も状況により<持って行く / 持って来る>の両刀使い。
geben: 与える、やる、あげる、くれる 日本語では<与えられる>は<もらう>になる。
legen: 置く
nehmen: 取る
hinschinken, hinsenden: 送る
tragen: 運ぶ
geben は hingeben、hergeben とも多義語で複雑そう。legen、nehemen、shincken (senden)、tragen をチェックしてみる。
legen: 置く
hinlegen: (そこへ)置く
herlegen: こちらへ置く
nehmen: 取る
hinnehmen: 受け取る(辞書通り)。 別途検討
hernehmen: 取って来る
これだけではわかりにくい。文字通りでは hinnehmen: 取って行く。<持っていく>では hinbringen がある。
German-English Reveso では
hinnehmen
hin+neh•men vt sep irreg
a
(=ertragen) to take, to accept
[Beleidigung] to swallow
[Beleidigung] to swallow
となっているが、これでもよくわからない。例文がかなりのっている。
exp.
|
to accept sth without complaint
|
exp.
|
to take sth calmly {or} with composure
|
exp.
|
to accept sth without criticism {or} protest
|
exp.
|
to accept sth silently {or} without protest
|
exp.
|
to take {or} accept sth as god-given
|
exp.
|
to accept sth as an unalterable fact
|
exp.
|
to take sth for granted
|
exp.
|
the pound suffered losses on the foreign exchange ...
|
exp.
|
we had to accept a cut in wages {or} pay
|
exp.
|
the British Army suffered heavy losses
|
etw als selbstverständlich hinnehmen to take sth for granted
これだけ並べられると、類推が働いて hinnehmen は<いたしかたなく、しょうがなく、受け入れる>という意味で使われる、ということがわかる。言い換えれば<(いたしかたなく、しょうがなく)取って去る>だ。
hinschinken, hinsenden: 送る
hinschinken, hinsenden: (そこへ)送る
herschinken, hersenden: こちらへ送る
tragen: 運ぶ
hintragen: (そこへ)運んで行く
hertragen: こちらへ運んで来る
日本語になるが(もともとこの<ドイツ語の接頭辞>シリーズは、ドイツ語の接頭辞を使った日本語の話だ)、運動、移動の自動詞、他動詞としては上記以外に
自動詞
動く
移る
泳ぐ
沈む
ずれる
飛ぶ
他動詞
動かす
移す
押す-引く
沈める
ずらす
連れる
引く(曳く、牽く)
などがある。いずれも<xx(て)行く、来る>が可能だ。
<押す-引く>は反義語だが
押して行く、押して来る
引いて行く、引いて来る
のマトリックスで、発話者、第三者を問わず問題ない。
日本語では<やって来る>という言い方がある。これは特別で<やる>は<xx へ人を遣る(送る、派遣する)>の<やる>で、ドイツ語でいえば(話し手から遠ざかる運動、方向を表わす)hin がらみの動詞だ。これがどうして<来る>と結びつくようになったのか? これは次のように説明できる。
<やって来る>は<来る>とは違う。
わざわざ<来る>
送られた(派遣された)ように来る (これは他人ばかりでなく自分自身で送った(派遣した)ように<来る>
の意がありそう。
<やる>はおもしろい動詞で、今述べたように本来 hin がらみの動詞で、
hinsehen: 見やる(見遣る)
hintreiben: 追いやる(追い遣る)
以上のほか
言いやる(言い遣る)
(追加予定)
で日本語に出てくる。<やる>は二音節で発音は簡単だが、意味するところは多い。
<別途検討>がまだ残っている。
1)hirgeben: 多義語。引き渡す、ゆだねる、ささげる、あきらめる、ゆるす (別途検討)
2)hergeben: 多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)
ここでは<あきらめる>について検討する。
German-English Reveso では
hingeben
hin+ge•ben, sep irreg
hin+ge•ben, sep irreg
1 vt to give up
[Ruf, Zeit, Geld auch] to sacrifice
[Leben] to lay down, to sacrifice
[Ruf, Zeit, Geld auch] to sacrifice
[Leben] to lay down, to sacrifice
2 vr
a sich einer Sache ($) hingeben dat [der Arbeit] to devote or dedicate oneself to sth
[dem Laster, Genuss, der Verzweiflung] to abandon oneself to sth
sich Hoffnungen hingeben to cherish hopes
sich einer Illusion hingeben to labour (Brit) or labor (US) under an illusion
[dem Laster, Genuss, der Verzweiflung] to abandon oneself to sth
sich Hoffnungen hingeben to cherish hopes
sich einer Illusion hingeben to labour (Brit) or labor (US) under an illusion
b sie gab sich ihm hin she gave herself or surrendered to him
sich Gott hingeben to give oneself to God
sich Gott hingeben to give oneself to God
hingeben は文字通りでは<そちらに与える>だが、<与えて(持たずに)去る>としたらどうか。こうすると<ゆだねる、ささげる、ゆるす>の意味が出てくる。<あきらめる>は別だ。英語解説で to give up がでているが、例文を見る限り、このto give up は外部からの圧力でいたし方なく(自己の意思や希望に反して)<あきらめる>というよりは自分の意思でto give up する<ゆだねる>、<ささげる>が本意のようだ。<ゆるす>は場合によりto give up だが自分の意思でのto give away が近いだろう。
2)hergeben: 多義語。渡す、交付する、供給する、開放する、あきらめる、返す (別途検討)
German-English Reveso では
German-English Reveso では
hergeben
her+ge•ben, sep irreg
1 vt
(=weggeben) to give away
(=überreichen, aushändigen) to hand over
(=zurückgeben) to give back
gib das her! give me that, let me have that
viel/einiges hergeben inf (=erbringen) to be a lot of use/of some use
wenig hergeben inf not to be much use
das Buch gibt nicht viel her the book doesn't tell me/you (very) much
das Thema gibt viel/nichts her there's a lot/nothing to this topic
ein Essen, das was hergibt a fine spread
was die Beine hergaben as fast as one's legs would carry one
was die Lunge/Stimme hergab at the top of one's voice
seinen Namen für etw hergeben to lend one's name to sth
(=überreichen, aushändigen) to hand over
(=zurückgeben) to give back
gib das her! give me that, let me have that
viel/einiges hergeben inf (=erbringen) to be a lot of use/of some use
wenig hergeben inf not to be much use
das Buch gibt nicht viel her the book doesn't tell me/you (very) much
das Thema gibt viel/nichts her there's a lot/nothing to this topic
ein Essen, das was hergibt a fine spread
was die Beine hergaben as fast as one's legs would carry one
was die Lunge/Stimme hergab at the top of one's voice
seinen Namen für etw hergeben to lend one's name to sth
2 vr
sich zu or für etw hergeben to be (a) party to sth
dazu gebe ich mich nicht her I won't have anything to do with it
eine Schauspielerin, die sich für solche Filme hergibt an actress who allows herself to be involved in such films
sich zu or für etw hergeben to be (a) party to sth
dazu gebe ich mich nicht her I won't have anything to do with it
eine Schauspielerin, die sich für solche Filme hergibt an actress who allows herself to be involved in such films
hergeben は文字通りでは<こちらに与える>だが、<与えに来る>としたらどうか。こうすると<渡す、交付する、供給する、返す>の意味が出てくる。これまた<あきらめる>は別だ。例文を見る限り、to give up <あきらめる>の意味はない。<開放する>は<開放して xx を自由に使わす、与える>の意だろう。
3)hergehen: こちらへ歩いて来る (辞書通り)(<行く>ではない)。 したがって gehen = <行く>でないことになる。これは別途検討。
これは gehen =<歩く>であれば<誰々が(こちらへ)歩いて来る>で問題はない。だが gehen =<行く>とすると<誰々が(こちらへ)行く>でおかしくなる。 gehen は純粋に方向性のない<歩く>ではないが、方向性の強い日本語の<行く>でもないのあ。
sptt
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