Saturday, May 23, 2015

ドイツ語 の接頭辞(prefix)-19 <nach->


ドイツ語 の接頭辞(prefix)の第19弾で<nach->について調べてみる。相良大辞典の接頭辞(prefix)の<nach->の解説は


前綴として<後から・後続・追求;こちらへ・向かって;以後、反復、追随、摸倣、基準、劣等>などの意を表わす。動詞と結合する時は分離前綴として常にアクセントを有し、自動詞の場合は通常3格を支配する。


となっている。<nach->は前回のポストの<vor->に対比される接頭辞だ。

vor-  前に、前へ(時間、位置)  あらかじめ(時間)、前面で(位置)  先立って(時間、位置)  
nach-  後から(時間、位置)、以後(時間)

vor-  先立って(位置、時間)
nach-  追随(位置、時間)

vor-  模範として、先位(位置、時間、質
nach- 追求、追随、摸倣 (位置、時間、質(劣等)

vor-  優勢(位置、状況)
nach- 劣等(位置、状況)

vor-  仮に、予備に、予防に
nach- 後から、追随

 <こちらへ・向かって>に該当する動詞はみつからない。
  

<後(あと)、後(うし)ろ>に関しては hinter (英語ではbehind か)、zurück (英語では back か)というのがある。基本的な違いは

nach - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う。したがって時間関連だが<遅れ(る)>は nach になる。

hinter  - これは主に位置(空間)関連で、単に後ろというよりは<(xx の)背後で、に>の意。<前を見ながら>はあまり関与しない。

zurück  - これは日本語では大体<帰る(す)>、<返る(す)>、<戻る(す)>になる。英語の to go back は<後ろへ行く>ではなく<帰(返、戻)って行く>、 to come back は<後ろへ来る>ではなく<帰(返、戻)ってくる>。さらには to return で<行く>にも<来る>にもなると、というか<行く>でも<来る>でもなく zurück すなわち<帰る(す)>、<返る(す)>、<戻る(す)>の意なのだ。 to look back は<後ろを見る>でもいいが<振り返る>の方がいい。

hinter、zurück は接頭辞(prefix)として後日別のポストで検討予定。


上記の nach の解説で例外がないわけではない。たとえば

<xx の後から行く>というと<前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>でいいが<xx の後から来る>(nachkommen の元の意味)は、位地的に発話者の<後から来る>人、動物、モノ、時間的に発話者の<後から来る>コトの場合には発話者は後ろを見て、見ながら、意識しながらの発話となる。また nachziehen はいくつかちがった意味があるが、元の意味の<後から引く、引っ張る、引きずる>であればこれまた発話者は後ろを見て、見ながら、意識しながらの発話となる。

後(あと)、後(うし)ろ、前の関係はけっこう複雑。まず時間と位置(空間)の両方に関係する。時間と位置ともだが、話者の視点や視線(見ている方向)が関係しており、場合によっては <後(あと)、後(うし)ろ>と<前>が入れ替わるのだ。これだと、これに聞き手や第三者が加わるさらに混乱しそうだが、実際には幸いあまり問題にならない。ときどき引き合いに出される例は電車の(プラット)ホームの黄色い線。

黄色い線の後ろでお待ちください。 

が普通のようだが

(足元に見える)黄色い線の前でお待ちください。 

でもよさそう。 常識が働いて黄色い線を越え電車に近い方で立つ人はごくまれだろう。


さて、nach の話にもどって

<nach- - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>はもってまわった言い方だが、意味するところは分かってもらえると思う。

さて、ここで注意したいことがある。これはどこか別のポストで書いたことのほぼ繰り返しになるが、
<nach- - 前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>を時間軸で考えてみよう。ふつう<時間、出来事は前から来て後ろへ去って行く>ようだが、実際は<過去の時間、出来事は現時点から前へ進んで見ている>というコトだ。そうしないと<前を見て(見ながら)後(あと)、後(うし)ろを言う>はむずかしい。試しに<時間、出来事は前から来て後ろへ去って行く>と見ながら<過去の出来事の後(あと)、後(うし)ろでおこる、おこったことを>考えたり、表現してみよう。これは、出来ないことはないが、多くの人はそうするのに慣れていない。これはおそらく、われわれの目が
前方を見るの便利なように前についているからだろう。あるいは、<目が見ている方向を前という>恣意的なものだろう。 これも気づきにくいが、物理(化学、電気を含む)では時間ともに変化する物理量をグラフ化するときに時間は左から右へ経過して行く。(左回りに90度回転させると、右側が上に、左側が下に来る。) 時間的に早く測定した物理量は遅く測定した物理量よりも右の方に表わされるのだ。直観的には左は過去、右は未来(将来)だが、これとは逆なのだ。

日本語では

過去-現在-未来、将来

というが、これは漢語で中国由来。 本場の中国では過去、現在はよく聞くが未来、将来は聞く機会が断然少ない。

大和言葉は

来(こ)し方-今(いま)-行く末

が思い浮かぶが、漢語で<未、将>をつかうのと対照的に<行く末> と<行く>が使われている。中国人が未来を<未(いま)だ来(こ)ざる>、<まだ来ない>とみているのと対象的に、日本人は<行く方向>と見ているのだ。 おそらく大半の日本人は<未来>と言ったり、聞いたりしても<まだ来ない>の感覚ではなく<行く方向>の感覚だろう。


調査、検討結果の結論の一つを先に述べると、<nach->は<コピー>動詞を作るといえる。 

1)一般的な<コピー>動詞の例

nachbauen
nachbilden
nacheifern
nachmachen
nachschaffen

大体<つくる>動詞だ。

<コピー>は良し悪しがある。昔(1950-70年代)は日本人が今(2015年)は中国人が自他共に<コピー>国民を認めているようだ。<コピー>に対比されるのに<イノベーション>がある。どういうわけか英語が使われる。<コピー>の良し悪しだが、個人的には<コピー>はさほど悪いこととは思わない。なぜなら、それは少なくとも<nach- コピー動詞>の<nach->の意味が示すように<前を見ている>からだ。

コピー関連動詞はいくつかにグループ化できる。改善、改良、補足、大和言葉で言えば<直し>、<足し>がある。

2)改善、改良、訂正、<直し>、補足、<足し>の<nach->動詞の例

nachbessern      改善する、改良する
nachfarben    染め直す
nachfeilen   やすりをかけ直す
nachgiessen  注ぎたす、注ぎ足す
nachlesen   読み直す(これはドイツ語でも必ずしも訂正の意はない)

nachsetzen      元の意:後に置く、つけ足す、接ぎ足す
nachfullen   注ぎ足す
nachschreiben  書き足す


おもしろいのは<言う>関連の動詞で、単純な<後から言う>とか<言い直す>というのは少なく、<他人が言ったことを後からまねして言う>という意味の動詞が多いことだ。実際のところ<言い直す>はきかないためか?また、読み、書き、そろばん(計算)と違って、とくに習わなくても<しゃべるようになる>ことが関連しているかもしれない。

<他人が言ったことを後からまねして言う(口まね)>動詞の例

nachsagen
nachsprechen
nachreden 

以上は単に<口まね>するほか<繰り返し言う>という意味もあるようだ。日本語では<後から後から>、<つぎつぎに(へ、と)>、<つぎからつぎに(へ、と)>という副詞がある。



3)後からでないと出来ない動詞のグループ

これは本来の位置(空間)、時間がらみの nach- 動詞で、いわば<後(あと)、後(うしろ)ろからする動詞>なのだ。 これまたいくつかのグループに分けられる。

上記の1)<コピー>動詞、2)改善、改良、補足、大和言葉で言えば<直し>、<足し>動詞後からする動詞>だ。その他、漢語が多くなるが、次のような動詞は<後から する>のが基本だ。

後悔する  悔やむ  - これはどういうわけか nach 動詞が見つからない。reuen という動詞があるが、モノ、コトが主語になり

es reut ihn — He’s sorry about it. 
es hat mich gereut — I was sorry for it.
(wiktionary から)

となる。この見方モノ、コトがが誰々を後悔させる>は<(みずから)後悔する>や次の例の<(みずから)反省する>の難しさを物語っている。中国の文革時代に(1966-76)多くの人が<自己批判>というのを無理やりさせられたようだが、かなり無理をしないと無理なことだ。

反省する
復習する
復讐する 
追求する 
(後を)追う      nachlaufen, nachjargen, nachtreiben

<追う>は日本語では複合動詞が多い。

追い打ち(をかける)
追い落とす
追い返す
追いかける
追い込む
追いすがる
追い散らす
追い立てる
 追いつく
追いつめる
追い払う
 追いぬく
追いまわす
追い求める
追いやる

(後に)続く      nachfolgen
(後に)従う     nachfolgen
(後を)つぐ、引きつぐ
後の残る、 居残る     nachbleiben
後に残す   nachlassen

事後確認する、(あとから)検証する    nachprüfen


sptt





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