Tuesday, May 5, 2015

<言う>は自動詞、他動詞?


<言う>は自動詞、それとも他動詞? 例をいくつか検討してみる。

<を>をとれば他動詞

文句(不平)を言う。
こごとを言う。

それでは<と>をとれば自動詞、それとも他動詞?実際この<xx と言う>の方が使用頻度が高いだろう。<xx と言われる>という受身形の言い方もかなり頻繁に使われるので<言う>は他動詞っぽい。

太郎は "反対(だ)" と言う。
太郎は反対(だ)と言う。

花子は "それはダメ(だ)" という。
花子はそれはダメ(だ)という。

次郎は "明日は行く(行ける、行けない)" と言う。
次郎は明日は行く(行ける、行けない)と言う。

美代子は "ノー" と言った。
美代子はノーと言った。

それぞれ上と下は書けば違うが耳で聞けば同じだ。実際口にする場合は<引用に度合がある>ようだ。<引用に度合がある>とは、ただ報告するだけで内容については発話者は責任がないと感じて(思って)いる場合から、意識的に意向を含ませている場合、無意識に発話者の意見、意向が含まれている場合まである、というこだ。助詞の<は>はどちらかと言うと報告口調になる。少しわき道にそれるが、<は>を<が>に置き換えてみる。

1)太郎が反対(だ)と言う。
2)花子がそれはダメ(だ)と言う。
3)次郎が明日は行く(行ける、行けない)と言う。
4)美代子がノーと言った。

<が>の方は微妙なところがある。

1)太郎が反対(だ)と言う。 ダメではないが普通は

太郎が反対(だ)と言っている。 となるだろう。

内容は、太郎反対(だ)と言っている。 とほぼ同じだが<誰が反対(だ と言っているのか?>という問いに対する答えは

太郎反対(だ)と言っている。 となる。また、微妙なところだが、このような具体的な質問がなくても、聞き手が予期していないような発言の場合は

太郎反対(だ)と言っている。  となる。なぜ<と言う>ではなく<と言っている>になるかと言うと、これまた微妙なところで、<が>は報告の場合でも、客観的な事実の報告(説明)と言うよりは現実的(現実に起こっていいる)事実を主観的に述べる場合に使われるからだ。2)、3)も普通は

2)花子がそれはダメ(だ)と言う。 --> 花子がそれはダメ(だ)と言っている。
3)次郎が明日は行く(行ける、行けない) と言う。 --> 次郎が明日は行く(行ける、行けない)と言っている。

となり、<は>と<が>の違いも1)とほぼ同じような内容になる。

4)美代子がノーと言った。 はどうか? 

これも<誰がノーと言ったのか?> という問いに対する答えはこれになる。だが、過去形(言った)の場合は、上の例にならえば、美代子がノー と言っていた。 とでもなるが、これは<誰がノー と言っていたのか?>に対する答えとなる。過去の事実は確定している度合が高いので、様子が少し違う。<が>と<は>の違いの論議はキリがないので、本題の<言う>は自動詞、他動詞か?の問題に戻る。

<を>をとれば他動詞、は問題ないが、問題は<と>をとれば自動詞、それとも他動詞?だ。これはなかなか難しい問題、言い換えれば文法的にかなり高度な、さらに言い換えれば文法的にかなりおもしろい問題。しかし上述の<が>と<は>の違いほどは論議されていないようだ。

辞書を調べてみる。手もとの辞書(三省堂<新字解、第6版>は<言う>(他五)と<言う>(自五)の解説と例がある。

A. <言う>(他五)の解説と例

① 思ったこと、感じたことや他に伝えたいことなどを言葉で表わす。

(例)
率直に言って
一言で(ひらたく)言えば
口で言うほど簡単ではない
言うは易(やす)く、行うは難(かた)い
さらに欲言えば
苦情言う
顧(かえり)みて他言う(=あげつらう)
本音言う
口癖のように言う
何(なに)かと言うとすぐこうだ
何(なん)のかのと言っても始まらない
泣き言言う
頭痛がすると言う(表明する)
彼は何(なに)も言わなかった
何かという(=あれこれうわさをする)
あいつがどろぼうをしたと言う
お礼言う
私が言ってあげよう
君のこと言っていたんだ
人の言うことをよく聞く
以下略

② あるものを XXXX と呼ぶ言葉で表現する

彼のような男を<目から鼻へ抜ける>と言う
特にこれと言う長所もない
道楽と言うほどのものはない
何千人と言う人
花と言う花
足と言わず手と言わず引っかき傷を作った

①、②の解説とも基本的な意味の解説と慣用的な言い方の説明(①の以下略の部分)が主で他動詞であることの説明はないのが特徴的だ。②の例は<あるものを XXXX と呼ぶ言葉で表現する>という解説で説明できないものがある。

①の例で明らかに他動詞と言えるのは<を>がある例で

さらに欲言えば
苦情言う
顧みて他言う(=あげつらう)
本音言う
泣き言言う
お礼言う
君のこと言っていたんだ (これは<を>をとっているが他とはやや違う)

次に多いのが<と>を取る場合

何か言うとすぐこうだ
何のかのと言っても始まらない
頭痛がする言う
何かいう(=あれこれうわさをする)
あいつがどろぼうをした言う

<頭痛がする言う>と<あいつがどろぼうをした言う>がこのポストで話題にしているところで、この辞書では他動詞扱いだ。その他は<何>、<何か>が使われているのが特徴的だが、これらの<何>は疑問(詞)の<何>ではなく、英語でいえば something、anything、thing(s) に相当する<何>だ(不定代名詞か)。

一方、②の例ははすべて<と>をとっている。

他動詞に続いて自動詞<言う>の解説がある。

B. <言う>(自五)の解説と例

① そう表現出来る音が聞こえ(て来)る

(例)
鉄瓶がちんちん言う(=ちんちんという音を出す)
がんがん言う(=響く)音がする

② その言葉で表現されるふさわしい内容を備える

(例)
いやと言うほど頭をぶつけた(見せつけられる)
それは無理難題と言うものだ
学者と言えば貧乏はつきものだ
どうと言うこともない
これ(ぞ)と言う代案がない

③ 指示されるものと一致することを表わす

(例)
こう言う(=この種の)問題なら得意だ
そう言う(そのような)事実はない
どう言う(=どのようなタイプの)人がすきなの?
いったいどう言うつもりかわからない

①は一見すると自動詞のようであるが、<ちんちん>、<がんがん>は擬音語であり(<頭ががんがん言う(する)>では<がんがん>は擬態語)、<副詞まがい>と言える。また<と>を使って

鉄瓶がちんちん言う
がんがん言う音がする

とも問題なく言えるので、<と>をとれば自動詞、それとも他動詞?の問題が浮上してくる。

②、③の解説は例をよく分析しないと内容がよくわからないようでもあり、意味深長のようでもある。いずれも自動詞になる理由を説明してはいない。②の例はすべて<と>がある。③の例は<と>がないが、指示詞は次のように言い換えられる。

こう言う --> このような 問題なら得意だ
そう言う --> そのような 事実はない
どう言う --> どのような がすきなの?
いったいどう言う --> どのような つもりかわからない

③の例の<言う>は<言う>の連体形だ。

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<そう(そのように)言うならば>の<言う>は、自動詞、それとも他動詞?

直接目的語がないから自動詞か? 辞書の他動詞の例で直接目的語がない例はたくさんある。

率直に言って
一言で(ひらたく)言えば
口で言うほど簡単ではない
言うは易(やす)く、行うは難(かた)い
口癖のように言う
何(なに)かと言うとすぐこうだ
何(なん)のかのと言っても始まらない
彼は何(なに)も言わなかった
何かという(=あれこれうわさをする)
私が言ってあげよう
人の言うことをよく聞く

直接目的語が省略されていると考えてみる。

(それを)率直に言って
(それを)一言で(ひらたく)言えば
(それを)口で言うほど簡単ではない  元の意味は<(それ)口で言うほど簡単ではない>だろう。なぜなら、<xxxはない>は断定文。
(それを)言うは易(やす)く、行うは難(かた)い  これも元の意味は<(それ)言うは易(やす)く、行うは難(かた)い>だろう。なぜなら、これも<xxxは易い>は断定文。
(それを)口癖のように言う
(それを)何(なに)かと言うとすぐこうだ
(それを)何(なん)のかのと言っても始まらない
(それを)彼は何(なに)も言わなかった
(それを)何かという(=あれこれうわさをする)
(それを)私が言ってあげよう
(それを)人の言うことをよく聞く

以上のうち

(それを)何(なに)かと言うとすぐこうだ
(それを)彼は何(なに)も言わなかった 
(それを)何かという(=あれこれうわさをする)
(それを)人の言うことをよく聞く

はおかしいが他はいい。はじめの3例は<何>、<何か>が<それを>と同じ働きをしており、<それを>は重複することになり、具合が悪い。ここでも<何>、<何か>は英語でいえば something、anything、thing(s) に相当する(不定代名詞か)、と言える。

<(それを)人の言うことをよく聞く>は、文構造が異なり、もっと単純な意味で<xx を>が重複することになり、具合が悪い。

<そう言う(そのような)事実はない>の<言う>が辞書ではなぜか自動詞扱いなので(③ 指示されるものと一致することを表わす、という解説は自動詞と関係ない)自動詞か?

意味を考えると、他動詞①の解説

① 思ったこと、感じたことや他に伝えたいことなどを言葉で表わす。

から、

そう(伝えたいことなど)+言う(言葉で表わす) + ならば

で他動詞とみなせる。

ただしすっきりしないところが残る。結論はそう簡単に出てこない。

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受身形によるリトマス試験

基本的に他動詞は受身形があるが自動詞は受身形がない、と言う文法法則がある。試してみる。

まずは他動詞

① 思ったこと、感じたことや他に伝えたいことなどを言葉で表わす。

(例)
率直に言って --> (それを)率直に言われて
一言で(ひらたく)言えば --> (それを)一言で(ひらたく)言われて
口で言うほど簡単ではない --> (それを、それは)口で言われるほど簡単ではない 
言うは易(やす)く、行うは難(かた)い --> (それを、それは)言われるは易く、行われるは難い 
さらに欲言えば  -->  さらに欲言われれば
苦情言う  -->  苦情言われれる
顧(かえり)みて他言う(=あげつらう)-->  顧(かえり)みられて他言われる(あげつらわれる)
本音言う --> 本音言われる 
口癖のように言う --> (それを)口癖のように言われる 
何(なに)かと言うとすぐこうだ --> (それを)何(なに)かと言われるとすぐこうだ
何(なん)のかのと言っても始まらない --> (それを)何(なん)のかのと言われても始まらない
泣き言言う  --> 泣き言言われる
頭痛がすると言う(表明する)  --> 頭痛がすると言われる(表明される)
彼は何(なに)も言わなかった  --> 彼は何(なに)も言われなかった
何かと言う(=あれこれうわさをする) --> (それを)何かと言われる(=あれこれうわさをされる)
あいつがどろぼうをしたと言う --> あいつがどろぼうをしたと言われる
お礼言う --> お礼言われる
私が言ってあげよう  --> (それを)私が言われてあげよう 
君のこと言っていたんだ  --> 君のこと言われていたんだ
人の言うことをよく聞く   --> 人の言われることをよく聞く
以下略

どう見ても<言う --> 言われる>で単純に説明できそうにない。一つ一つ詳しく検討すると意外な結論に達するかも知れない。

ここではこのポストの話題である<xx を言う>、<xx と言う>だけを取り上げてみる。

さらに欲言えば  -->  さらに欲言われれば
苦情言う  -->  苦情言われる
顧(かえり)みて他言う(=あげつらう) -->  顧(かえり)みられて他言われる(あげつらわれる)
本音言う --> 本音言われる
泣き言言う  --> 泣き言言われる
お礼言う --> お礼言われる
君のこと言っていたんだ  --> 君のこと言われていたんだ

 <さらに欲言えば>、<顧(かえり)みて他言う(=あげつらう)>はやや特殊な言い方。他は大体よさそう。また(お礼>は別として日本語の受身の特徴で被害感、迷惑感もある。

何(なに)か言うとすぐこうだ --> (それを)何(なに)か言われるとすぐこうだ
何(なん)のかの言っても始まらない --> (それを)何(なん)のかの言われても始まらない
頭痛がする言う(表明する)  --> 頭痛がする言われる(表明される)
何か言う(=あれこれうわさをする) --> (それを)何かと言われる
あいつがどろぼうをした言う --> あいつがどろぼうをした言われる

ダメではないが<xx を言う --> xx を言われる>の受身変換ほど自然ではない。

頭痛がする言われる
あいつがどろぼうをした言われる

の二例をもう少し調べてみる。

<言う>の第一義( 他動詞 ① 思ったこと、感じたことや他に伝えたいことなどを言葉で表わす)を考えてみる。

言い換えになってしまうが、 <伝える>と<言葉で表わす>に分けると

言う = 伝える、知らせる、告げる、示す、表わす
言う = 話す、語る、述べる

以上のうち<伝える>は他動詞で対応する自動詞に<伝わる>がある。<知らせる>はやや特殊で他動詞<知る>の使役形と言える。<表わす>は<表われる>という自動詞があるが<表わされる>と言う受身形も使われる。その他は他動詞でそれぞれ<告げられる>、<示される>、<話される>、<語られる>、<述べられる>の受身形はあるが<伝わる>や<表われる>のような対応する自動詞がない。<言う>はやや例外と言える。他動詞の受身<言われる>以外にやや問題はあるが自動詞の<言う>があるのだ。(*)

苦情言われれる
本音言われる
泣き言言われる
お礼言われる

と<xx と言われる>は同じ<言われる>でも内容が違う。<伝える>の要素が少ないのだ。一方、<君のこと言われているんだ(いたんだ)>はまた少し違い、<伝える>の要素がやや多い。そして<xx言われる>となると、<伝える>の要素がさらに多くなる。

② あるものを XXXX と呼ぶ言葉で表現する

彼のような男を<目から鼻へ抜ける>と言う --> 彼のような男<目から鼻へ抜ける>と言われる
特にこれと言う長所もない --> 特にこれと言われる長所もない
道楽と言うほどのものはない --> 道楽と言われるほどのものはない
何千人と言う人 --> 何千人と言われる人 
花と言う花 --> 花と言われる花
足と言わず手と言わず引っかき傷を作った --> 足と言われず手と言われず引っかき傷を作った

最後の<足と言われず手と言われず引っかき傷を作った>は明らかにおかしい。


念のため自動詞もチェックしてみる。

B. <言う>(自五)の解説と例

① そう表現出来る音が聞こえ(て来)る

 (例)
鉄瓶がちんちん言う(=ちんちんという音を出す) --> 鉄瓶がちんちん言われる
がんがん言う(=響く)音がする --> がんがん言われる (擬態語の<がんがん>では別の意味も考えられる)

自動詞性が高いためか<鉄瓶がちんちん言われる>、<がんがん言われる>はまったくダメだ。

② その言葉で表現されるふさわしい内容を備える

 (例)
いやと言うほど頭をぶつけた(見せつけられる) --> いやと言われるほど頭をぶつけた(見せつけられる)
それは無理難題と言うものだ --> それは無理難題と言われるものだ 
学者と言えば貧乏はつきものだ --> 学者と言われれば貧乏はつきものだ
どうと言うこともない --> どうと言われることもない
これ(ぞ)と言う代案がない --> これ(ぞ)と言われる代案がない

以上は受身形はおかしい。

③ 指示されるものと一致することを表わす

(例)
こう言う(=この種の)問題なら得意だ --> こう言われる問題なら得意だ
そう言う(そのような)事実はない  --> そう言われる事実はない
どう言う(=どのようなタイプの)人がすきなの?  --> どう言われる人がすきなの?
いったいどう言うつもりかわからない   --> いったいどう言われるつもりかわからない

 <そう言われる事実はない>は使われる。

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以上の検討結果から<xx と言う>は他動詞らしいが<yy を言う>とは意味合いが明らかに違う。この違いは<言う>という動詞も関与しているが、それよりも助詞(格助詞)の<を>と<と>の違いに依るところが大きいのではないか。<と>については、かなり前の<日本語の助詞>という大タイトルで比較的長いのポストで次のように書いた。

 ”
<と>は相当重要な格助詞である。一字、一音節で簡単だが<日本語の大発明>といえるのではないか。



次回のポストではこの<と>について考えてみる。<xx と言う>日本語の表現についてもふれる予定だ。


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末尾(*)

話がますます混乱しそうなので末尾にもってきた。

言う = 伝える、知らせる、告げる、示す、表わす(言葉ではなく表情でも表わせる)
言う = 話す、語る、述べる


太郎はその事件(の詳細)を言った、伝えた、知らせた、告げた、示した、表わした、話した、語った、述べた。

はすべて<を>をとっておかしくないので他動詞。以上ののうち

太郎はその事件(の詳細)を言った。
太郎はその事件(の詳細)を表わした。

 がおかしい。<言った>、<表わした>がおかしいのはなぜか?特にこのポストの題目の<言った>がおかしいのはなぜか?

sptt










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