Tuesday, March 5, 2019

<医者に見てもらう>の文法分析


<医者に見てもらう>は、これまで試したことがなかったが、今回このポストを書くためにパソコンワープロでキーをたたいてみたら、なんと<医者に診てもらう>と出てきた。話し言葉での発話で<診てもらう>が頭に浮かんでいるだろうか?文章で<診る>も見たことがない。新語か?

これは別のところでも書いたが、英語は to see a doctor、中国語は英語の翻訳か<看医生>と言う。 実際医者を<見に行って> "Hello" とか<你好>と言うわけではないだろう。to see も<看>も<見る>の意だ。いかににも当て字的な<診る>は使わない方がいいだろう。<診る>は<診断する>の意だろうが、かなり限定された意味になる。一方<見る>は汎用性が高い。<見る>、とくに<(医者に)見てもらう>の<見て>は<診る>を含むでいいのだ。<技術者(専門家)にみてもらう>も<見てもらう>でいいだろう。もっとも実際の発話では<目で(じろじろ)見る>状況は思い浮かんでいないだろうが。<見る>は汎用性が高いとすればいいのだ。英語でも

to look after
to look around
to look for
look into

などがあるが<look after>、<to look for>は<見る>の元の意味からはずれている。
 
さて<医者に見ててもらう>を文法的にどう解釈したらいいか?

<医者に見てもらう>は受け身形の感じがするが<医者に見られる>とは違う。英語でも受け身が比較的よく使われが I will see a doctor. と I will be seen by a doctor. は違う。 I will be seen by a doctor. 聞いたことがないが可能で、ナンセンスではない。もっとも I will be seen by a doctor. は A doctor will see me. の受け身形だ。I will see a doctor. の受け身形は A doctor will be seen by me. でとんでもない言い方になる。

<医者に見ててもらう>のキーワードは<もらう>、<xx てもらう>という言い方だ。一見<受け身>のようだ。これまた別のところでいく度か書いたが、英語の受け身の翻訳日本語を除くと、日本語では、そして中国語もかなりの程度、受け身が被害、迷惑の意を含むのが普通だ。一方<xx てもらう>は皮肉的な言い方でなければ被害、迷惑の反対の恩恵、便宜、利便、問題解決など一般的には<自分にとっていいこと>を<与えられる>意を含んでいるといえる。<与えられる>は受け身形だ。これまたどこかでかいたが<与える>はやや翻訳調で、日常会話では

<与える>は

あげる
やる
くれてやる

一方<与えられる>は受け身形ではなく (ここが文法的に肝心なところ)

もらう
くれる

ややあらたまって
たまわる

がよく使われ、使い方は複雑のようだ。たとえば<もらう>は相手が<くれる>ことだ。例をあげて検討してみる。たとえば贈り物。

贈り物をあげる
贈り物をやる
贈り物をくれてやる

-----
贈り物をあげれる
贈り物をやられる
贈り物をくれてやられる
-----
という受け身形はなく

贈り物をもらう
贈り物をくれる
贈り物をたまわる
-----
などという。言葉遊びになってしまうが
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贈り物をもらわれる
贈り物をくれられる
贈り物をたまわられる
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という受け身形もない。 <贈り物をたまわられる>は超丁寧形ならよさそう。また<養子としてもらわれた>と言う受け身形はある。

<くれる>はよく使うが、使われる状況の解釈がやや難しいようだ。 <贈り物をもらう>は自分自身が<(贈り物を)受ける>ことをいっているが、<贈り物をくれる(くれますか?)> は相手が<(贈り物を)与える>ことを言っている。したがって<くれる>は<与える>にもなる。<与える>は汎用性(一般性)が高い言うだ。

<医者に見てもらう>の<見る>は一種の行為で恩恵と言うよりはサービス(英語のservice)、便宜(べんぎ)、利便に近いといえる。

便宜(サービス)をあげる
便宜をやる
便宜をくれてやる

便宜をもらう
便宜をくれる
便宜をたまわる

残念ながらこういう言い方はほとんどしない。一般的なのは<見てもらう>のように<動詞の連用形+て>が使われるのだ。サービス、便宜、利便は<助け>ではないが<助ける>とすると、

助けてあげる
助けてやる
(助けてくれてやる)

助けてもらう
助けてくれる
(助けたまわる)

少し長いが<便宜をはかる>でもいい。

便宜をはかってあげる
便宜をはかってやる
(便宜をはかってくれてやる)

便宜をはかってもらう
便宜をはかってくれる
(便宜をはかりたまわる)

となる。

英語の慣用句に

Would you do me a favor ? というがある。文字どおりでは<恩恵をしてくれませんか?>といった意味になるが、<モノをくれませんか?>ではなく<xxxx(し)てくれませんか?>、丁寧なら<xxxx(し)てもらえませんか?>、<xxxx(し)ていただけませんか?>の意になる。ただし<xxxx>の動詞(行為)は、<Yes>つまりはOKがでてから切り出すことになる。一方<xxxx てもらう>は前置きなしに、初めから切り出す言い方だ。 <医者に見てもらう>を英語をできるだけ忠実に訳すと<Let the doctor see me for me.>とでもなるが、<for me>はわずらわしいというか余計になってしまう。

フランス語やイタリア語では再帰動詞というにがある。基本的には<自分の行為が自分自身に帰ってくる>ようなことをあらわすのだが、動詞と代名詞の二語のコンビになる。<もらう>、<くれる>は一語で相手の行為が自分に及ぶことを言っているいうだ。分析といったのでもっと考えて見る必要があるが、今回はこれまで。続く予定。


以上











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