Friday, March 5, 2021

<身の程知らず>と<身の丈(たけ)知らず>は同じ意味か?

 

<身の程知らず>という言い方がある。これは<身の丈(たけ)知らず>とも言え、むしろ<身の丈=身長>の方が実物が目に浮かぶのでこちらの方がよさそう。<程>については別のポストで書いたような気がする。また以前に ”only の意味は<だけ>だけか?” と ”<だけ>の意味はonlyだけか?” というのを書いたことがあり、結論が出ないような論議だが、おもしろいので再々度挑戦。というのは手もとの辞書(三省堂新明解、6版)で<だけ>を調べてみたら、見過ごしていたが冒頭に

丈(たけ)の変化

と書いてあるのを発見したからだ。丈(たけ)は<身の丈>の<たけ>だ。<身の丈>は身長、<背の高さ>とも言える。丈(たけ)から<だけ>への変化を考えてみるつもりだが、その前に<ほど>と<丈(たけ)>と<だけ>について少しチェックしてみる。<ほど>について今回もう一度手もとの辞書(三省堂新辞解)にあったてみた。

 <ほど>


 ほど(副詞的に)

1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。

十日ほど前
彼ほどの人なら必ず成功する。
これほどうれしいことはない。
きのうほど寒くない。
目は口ほどにものをいい。
口で言うほど簡単ではない。 

始めの3例は1)の解説で説明できるが、4番目以降はダメだ。4番目以降は比較表現だ。

きのうほど寒くない。

は暗黙のうちに

(きょうは)はきのうほど寒くない。

などの比較で、 <きのうほど>の<ほど>は

 1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。

では説明できない。また最後の<ない>という否定表現も見逃してはならない。 英語でいえば

Today is not so much cold as yesterday.

とやや複雑になる。

目は口ほどにものをいい。

の< 口ほど>の<ほど>も

1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。

ではけっしてない。これも目と口を比較した表現だ、英文法では同等比較というか?これも 英語でいえば

Eyes tell as much as a mouth.

Eyes tell much as (like) a mouth.

口で言うほど簡単ではない。 

これも言外に何かがあり、例えば

(実際やることは)口で言うほど簡単ではない。

と言った意味だ。これは同等比較の否定か? 

Doing (executing) well is not so easy as saying.

<ほど簡単ではない>の箇所は

not so easy as

になる。したがって<ほど>は<so xxx as>の二語を使った英語版<かかり結び表現>に相当する。

これと逆の関係になるのが日本語の<xx しか ない>で、英語では only の一語ですむ。

さてこの辞書の<ほど>の二番目の解説をチェックしてみる。

2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することをあらわす。

考えれば考えるほどわかなくなる。
早ければ早いほどいい。
酔うほどに(につれて)彼の雄弁は尽きるところがなっかった。

かなり複雑なプロセスの表現だ。1番目、2番目は<考える>、<早い>が繰りかえされているのが特徴で、これが

2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。

に関連しているだろう。

考えるほどわかなくなる。
早いほどいい。

では不十分だ。さらに<ほど>を除いてみると

考える(と)わかなくなる。
早い(と)いい。

でなんとか意味は通じるが

2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。

の意はでてこない。

この表現は英語では

the 比較級、the 比較級

という変テコな言い方をする。 <比較>の意識があるのだろう。

日本語の<ほど>の解説では1)も2)も<比較>の字が出てこない。

さて<身の程知らず>の<ほど>を考えて見る。

1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。

身の<範囲、限度、基準についてのおおよその見当>知らず

とはどういうことか? <程度>という二字漢語がありよく使う。

<程度>は簡単な表現だがほぼ<範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす>。したがって<身の程知らず>は<身の程度知らず>となるが、これでは説明にならない。

 

<だけ>

手もとの辞書(三省堂新辞解)の<だけ>の解説。

たけ(丈)の変化

1) その程度をもって限度とすることを示す。

いいだけ取りなさい。
やれるだけやろう。 

2)その事柄が許される限度であることを表わす。

これだけは確かだ。
君にだけ話す。
二人だけでやろう。 

3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。

わざわざ行っただけのことはあった。
がんばっただけあって成績があがった。
練習すればするだけ進歩する。

1) その程度をもって限度とすることを示す。

<その程度>では<どの程度>かわからない。ここは<ある特定の程度>の意だ。

いいだけ取りなさい。
やれるだけやろう。

は英語では

Please take as much as you like.
Let's try as much as we can do.

で<so xxx as>が出てきて only (だけ)はでてこない。上で<ほど>は<so xxx as>と書いたので<だけ>を<ほど>で置き換えてみる。

いいほど取りなさい。
やれるほどやろう。 

でダメだ。<ほど>は<おおよその範囲、限度、基準>で<特定の限度>ではないのだ。ここで

身の程知らず=身の丈(たけ)知らず

を考えて見ると

<身の程知らず>は

身の範囲を知らず
身の限度を知らず
身の基準を知らず

と言い換えられそうだが、

<身の丈(たけ)知らず>のほうは

身の限度を知らず

での言い換えにとどまりそうだ。したがって、ごまかしになりそうだが、正確には

身の程知らず=身の丈(たけ)知らず

ではないのだ。 いいかえると<身の丈(たけ)知らず>の<たけ>は限度の意に近い。そして<限度>は濁音の<だけ>に通じる。

2)その事柄が許される限度であることを表わす。

これは only に近い

これだけは確かだ。  only this
君にだけ話す。 only to you
二人だけでやろう。 only two (of us)


3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。

これもやや複雑なプロセスだが、上の<ほど>の2)

2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。

 に似ている。<だけ>を<ほど>でおきかえてみる。

わざわざ行っただけのことはあった。 ‐> わざわざ行ったほどのことはあった。 

まったくダメということはないが、限定度、<その結果が十分さ>が不十分のようだ。

 

がんばっただけあって成績があがった。->がんばったほどあって成績があがった。

これはダメだ。意味が通るように少し言い換えて

がんばったほどに成績があがった。

とすると

2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす

の意になるが、これにとどまり、やはり限定度、<その結果が十分さ>が不十分のようだ。

この<ダメ>の理由はなにか。少しよく考えてみると、

3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。

の説明はこれに続く2例文

わざわざ行っただけのことはあった。
がんばっただけあって成績があがった。

の解説になっていて<だけ>の解説ではないのではないか?

わざわざ行っただけのことはあった。
がんばっただけあって成績があがった。 

の下線部には意味がある。下線部を取り除いてみると(<だけ>は残る。)

わざわざ行っただけあった。
がんばっただけ成績があがった。 

でなんとか意味が通じる。そしてそれでもなお

3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。

の意味をある程度たもっている。したがって<だけ>にはこのような複雑な意味があるのだ。一方<ほど>にはこれがない。

 

練習すればするだけ進歩する。

これは<ほど>で言い換えられる。

練習すればするほど進歩する。

<すればするだけ> <すればするほど> で<する>がくりかえされている特徴があり、これが置き換えられることに関係しているだろう。

さてこと(言葉)はそう簡単ではない。この辞書の<だけ>にはないが

行くだけ損
言うだけ無駄

という言い方があり、よく使う。

3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。

で説明がつくか?

<行くだけ>、<言うだけ>は<やった(思った)事>ではなくやる(やろうとする)事>だ。そして損や無駄は、辞書の例文のような良い結果ではなく、むしろ悪い結果だ。例文の解釈としては

やる(やろうとする)事に応じて、その好ましくない結果が十分になる恐れがあることを表わす。

とでもなるか。だが、これでは<だけ>の解説になるか?<だけ>を除いてみる。

行くと損
言うと無駄 

ではあきらかに意味が違う。ではこの場合<だけ>はどういう意味をになっているのか?限定が関与しているようだが、どう関与しているのか?

<行くだけ>は only going、 <言うだけ>は only saying ではない。こういう限定ではない。

行くだけ損

You will get only loss by going. (行っても損だけだ)


言うだけ無駄

It will be only waste (of time, energy) for you by saying this.  (言っても無駄だけだ)

とでもなり<だけ(only)>の位置、<だけ(only)>が修飾する語が違ってくる。

この融通無碍な<だけ> (あるいはこの融通無碍な<only>)はどう解釈したらいいのか?英語版を参照すると

行くだけ損 -> 行っても損なだけだ。
言うだけ無駄  -> 言っても無駄なだけだ。

となり、こうも言えるが、 

行くだけ損 
言うだけ無駄

が簡潔でいい。 この<まぎらわしいが簡潔でいい>表現については最近新しい発見をした。名付けて<端折(はしょ)り表現>、<舌足らず表現>だ。別途解説予定。



<程度>の<程>と<度>をネット中国語辞書で調べてみた。

https://pedia.cloud.edu.tw/Entry/Detail?title=程


程 (chéng)

解釋:

(1)
道路的一段。如:「里程」、「路程」、「送你一程」。
(2)
事情進行的經過或順序。如:「過程」、「歷程」、「議程」、「日程」、「課程」、「程序」。
(3)
衡量、估計。如:「計日程功」。
(4)
階段、地步。如:「程度」。
(5)
法式、規範。如:「章程」、「規程」、「程式」。


 で大体日本語(漢語)と同じで、しかも二字成語の例を使った説明になっている。このなかでは

(4)
階段、地步。如:「程度」。 (英語の step 相当) 

に<程度>がでてくる。
 
だが英語の step に相当するようで、意味は日本語の<程度>とは違う。程の一字で

程 = ほど

にならない。

程度の<度>はどうか?<度>の中国語発音はdù で<度(ど)>に近い。

 
https://pedia.cloud.edu.tw/Entry/Detail/?title=度




解釋:

1.
(1)
表示物質的相關性質達到的狀況。如:「長度」、「硬度」、「密度」、「酸度」。
(2)
法制、規範。如:「法度」、「制度」。
(3)
指人的。如:「器度」、「風度」、「度量狹小」。
(4)
標準。如:「限度」、「尺度」。
(5)
過、經歷。如:「度過」、「度日如年」、「虛度光陰」。
(6)
測量長短的標準。如:「度量衡」。
(7)
角度:A>數學上指角的大小。B>觀察事物的方向或觀點。如:「換個角度來看,他的作法並沒有錯。」
(8)
量詞:A>計算依一定標準劃分的單位。如:「耗電三百度」、「今天氣溫高達攝氏三十六度。」B>計算次數的單位。如:「再度光臨」。
2.
思量、計議、考慮。如:「忖度」、「審度」。
 


で、これも二字成語の例をつかった説明が主になっているが、度の方が<ほど>に近い。特に

(1)
表示物質的相關性質達到的狀況。如:「長度」、「硬度」、「密度」、「酸度」。
 
は少し長い説明があり、しかも「長度」は<丈(たけ)>ともいえ、参考になる。
 
(4)
標準。如:「限度」、「尺度」。
 
参考になる。
 
したがって<ほど>の意味がある日本語の<程度>は和製漢語だろう。
  

<だけ>

丈(たけ)から<だけ>への変化

<身の丈(たけ)>の<丈(たけ)>は身長、<背の高さ>で、上の中国語ネット辞書では<程>ではなく<度>に関連してくる。<たけ>は程度、あるいは言い換えて<範囲、限度、基準>(てもとの辞書)と同じではなく中国語ネット辞書の<度>の解説のなかの

(1)
表示物質的相關性質達到的狀況。如:「長度」、「硬度」、「密度」、「酸度」。 
 
(4)
標準。如:「限度」、「尺度」。
 
(6)
測量長短的標準。如:「度量衡」。
 
のようだ。これは<副詞>というよりは名詞(体言)だ。副詞的な用法としては<なるたけ>がある。<なるたけ>は<できるだけ>の意に近い。
 
なるたけ大きいのをくれ 
なるたけ早く来てくれ 

他にも用例がたくさんあれば、<たけ>から<だけ>への変化の説明がうまくつけられるかもしれない。

いっぽう<なるほど>はかなりの慣用句だ。
 
 
sptt


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