<身の程知らず>という言い方がある。これは<身の丈(たけ)知らず>とも言え、むしろ<身の丈=身長>の方が実物が目に浮かぶのでこちらの方がよさそう。<程>については別のポストで書いたような気がする。また以前に ”only の意味は<だけ>だけか?” と ”<だけ>の意味はonlyだけか?” というのを書いたことがあり、結論が出ないような論議だが、おもしろいので再々度挑戦。というのは手もとの辞書(三省堂新明解、6版)で<だけ>を調べてみたら、見過ごしていたが冒頭に
丈(たけ)の変化
と書いてあるのを発見したからだ。丈(たけ)は<身の丈>の<たけ>だ。<身の丈>は身長、<背の高さ>とも言える。丈(たけ)から<だけ>への変化を考えてみるつもりだが、その前に<ほど>と<丈(たけ)>と<だけ>について少しチェックしてみる。<ほど>について今回もう一度手もとの辞書(三省堂新辞解)にあったてみた。
<ほど>
”
ほど(副詞的に)
1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。
十日ほど前
彼ほどの人なら必ず成功する。
これほどうれしいことはない。
きのうほど寒くない。
目は口ほどにものをいい。
口で言うほど簡単ではない。
始めの3例は1)の解説で説明できるが、4番目以降はダメだ。4番目以降は比較表現だ。
きのうほど寒くない。
は暗黙のうちに
(きょうは)はきのうほど寒くない。
などの比較で、 <きのうほど>の<ほど>は
1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。
では説明できない。また最後の<ない>という否定表現も見逃してはならない。 英語でいえば
Today is not so much cold as yesterday.
とやや複雑になる。
目は口ほどにものをいい。
の< 口ほど>の<ほど>も
1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。
ではけっしてない。これも目と口を比較した表現だ、英文法では同等比較というか?これも 英語でいえば
Eyes tell as much as a mouth.
Eyes tell much as (like) a mouth.
口で言うほど簡単ではない。
これも言外に何かがあり、例えば
(実際やることは)口で言うほど簡単ではない。
と言った意味だ。これは同等比較の否定か?
Doing (executing) well is not so easy as saying.
<ほど簡単ではない>の箇所は
not so easy as
になる。したがって<ほど>は<so xxx as>の二語を使った英語版<かかり結び表現>に相当する。
これと逆の関係になるのが日本語の<xx しか ない>で、英語では only の一語ですむ。
さてこの辞書の<ほど>の二番目の解説をチェックしてみる。
2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することをあらわす。
考えれば考えるほどわかなくなる。早ければ早いほどいい。
酔うほどに(につれて)彼の雄弁は尽きるところがなっかった。
かなり複雑なプロセスの表現だ。1番目、2番目は<考える>、<早い>が繰りかえされているのが特徴で、これが
2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。
に関連しているだろう。
考えるほどわかなくなる。
早いほどいい。
では不十分だ。さらに<ほど>を除いてみると
考える(と)わかなくなる。
早い(と)いい。
でなんとか意味は通じるが
2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。
の意はでてこない。
この表現は英語では
the 比較級、the 比較級
という変テコな言い方をする。 <比較>の意識があるのだろう。
日本語の<ほど>の解説では1)も2)も<比較>の字が出てこない。
さて<身の程知らず>の<ほど>を考えて見る。
1)範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす。
身の<範囲、限度、基準についてのおおよその見当>知らず
とはどういうことか? <程度>という二字漢語がありよく使う。
<程度>は簡単な表現だがほぼ<範囲、限度、基準についてのおおよその見当を表わす>。したがって<身の程知らず>は<身の程度知らず>となるが、これでは説明にならない。
手もとの辞書(三省堂新辞解)の<だけ>の解説。
”
たけ(丈)の変化
1) その程度をもって限度とすることを示す。
いいだけ取りなさい。
やれるだけやろう。
2)その事柄が許される限度であることを表わす。
これだけは確かだ。
君にだけ話す。
二人だけでやろう。
3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。
わざわざ行っただけのことはあった。
がんばっただけあって成績があがった。
練習すればするだけ進歩する。
”
1) その程度をもって限度とすることを示す。
<その程度>では<どの程度>かわからない。ここは<ある特定の程度>の意だ。
やれるだけやろう。
は英語では
Please take as much as you like.
Let's try as much as we can do.
で<so xxx as>が出てきて only (だけ)はでてこない。上で<ほど>は<so xxx as>と書いたので<だけ>を<ほど>で置き換えてみる。
いいほど取りなさい。
やれるほどやろう。
でダメだ。<ほど>は<おおよその範囲、限度、基準>で<特定の限度>ではないのだ。ここで
身の程知らず=身の丈(たけ)知らず
を考えて見ると
<身の程知らず>は
身の範囲を知らず
身の限度を知らず
身の基準を知らず
と言い換えられそうだが、
<身の丈(たけ)知らず>のほうは
身の限度を知らず
での言い換えにとどまりそうだ。したがって、ごまかしになりそうだが、正確には
身の程知らず=身の丈(たけ)知らず
ではないのだ。 いいかえると<身の丈(たけ)知らず>の<たけ>は限度の意に近い。そして<限度>は濁音の<だけ>に通じる。
2)その事柄が許される限度であることを表わす。
これは only に近い
これだけは確かだ。 only this
君にだけ話す。 only to you
二人だけでやろう。 only two (of us)
3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。
これもやや複雑なプロセスだが、上の<ほど>の2)
2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす。
に似ている。<だけ>を<ほど>でおきかえてみる。
わざわざ行っただけのことはあった。 ‐> わざわざ行ったほどのことはあった。
まったくダメということはないが、限定度、<その結果が十分さ>が不十分のようだ。
がんばっただけあって成績があがった。->がんばったほどあって成績があがった。
これはダメだ。意味が通るように少し言い換えて
がんばったほどに成績があがった。
とすると
2) 前件に述べる範囲、限界の変化に応じて、後件が発生することを表わす
の意になるが、これにとどまり、やはり限定度、<その結果が十分さ>が不十分のようだ。
この<ダメ>の理由はなにか。少しよく考えてみると、
3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。
の説明はこれに続く2例文
わざわざ行っただけのことはあった。がんばっただけあって成績があがった。
の解説になっていて<だけ>の解説ではないのではないか?
わざわざ行っただけのことはあった。
がんばっただけあって成績があがった。
の下線部には意味がある。下線部を取り除いてみると(<だけ>は残る。)
わざわざ行っただけあった。
がんばっただけ成績があがった。
でなんとか意味が通じる。そしてそれでもなお
3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。
の意味をある程度たもっている。したがって<だけ>にはこのような複雑な意味があるのだ。一方<ほど>にはこれがない。
練習すればするだけ進歩する。
これは<ほど>で言い換えられる。
練習すればするほど進歩する。
<すればするだけ> <すればするほど> で<する>がくりかえされている特徴があり、これが置き換えられることに関係しているだろう。
さてこと(言葉)はそう簡単ではない。この辞書の<だけ>にはないが
行くだけ損言うだけ無駄
という言い方があり、よく使う。
3)やった(思った)事に応じて、その結果が十分になることを表わす。
で説明がつくか?
<行くだけ>、<言うだけ>は<やった(思った)事>ではなくやる(やろうとする)事>だ。そして損や無駄は、辞書の例文のような良い結果ではなく、むしろ悪い結果だ。例文の解釈としては
やる(やろうとする)事に応じて、その好ましくない結果が十分になる恐れがあることを表わす。
とでもなるか。だが、これでは<だけ>の解説になるか?<だけ>を除いてみる。
行くと損
言うと無駄
ではあきらかに意味が違う。ではこの場合<だけ>はどういう意味をになっているのか?限定が関与しているようだが、どう関与しているのか?
<行くだけ>は only going、 <言うだけ>は only saying ではない。こういう限定ではない。
行くだけ損
You will get only loss by going. (行っても損だけだ)
言うだけ無駄
It will be only waste (of time, energy) for you by saying this. (言っても無駄だけだ)
とでもなり<だけ(only)>の位置、<だけ(only)>が修飾する語が違ってくる。
この融通無碍な<だけ> (あるいはこの融通無碍な<only>)はどう解釈したらいいのか?英語版を参照すると
行くだけ損 -> 行っても損なだけだ。
言うだけ無駄 -> 言っても無駄なだけだ。
となり、こうも言えるが、
行くだけ損
言うだけ無駄
が簡潔でいい。 この<まぎらわしいが簡潔でいい>表現については最近新しい発見をした。名付けて<端折(はしょ)り表現>、<舌足らず表現>だ。別途解説予定。
<程度>の<程>と<度>をネット中国語辞書で調べてみた。
https://pedia.cloud.edu.tw/Entry/Detail?title=程
”
程 (chéng)
解釋:
”
で大体日本語(漢語)と同じで、しかも二字成語の例を使った説明になっている。このなかでは
程 = ほど
にならない。
程度の<度>はどうか?<度>の中国語発音はdù で<度(ど)>に近い。
https://pedia.cloud.edu.tw/Entry/Detail/?title=度
”
dù
解釋:
”
で、これも二字成語の例をつかった説明が主になっているが、度の方が<ほど>に近い。特に
丈(たけ)から<だけ>への変化
<身の丈(たけ)>の<丈(たけ)>は身長、<背の高さ>で、上の中国語ネット辞書では<程>ではなく<度>に関連してくる。<たけ>は程度、あるいは言い換えて<範囲、限度、基準>(てもとの辞書)と同じではなく中国語ネット辞書の<度>の解説のなかの
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