Wednesday, November 22, 2017

感覚動詞<聞く>、<聞こえる>の日本語、英語、イタリア語比較

感覚動詞の日本語、英語、イタリア語比較の第二弾。

聞く - 聞こえる

先ずは日本語から。<聞こえる>、古語の<聞こゆ>は<xxが聞こえる>で自動詞。<聞こゆ>は調べていないが、<xx が聞ゆ>より<が>のない<xx 聞ゆ>がよさそう。この表現は古代日本語が簡潔だったことをうかがわせる。助詞<が>は比較的新しい。おそらく古代日本語では特に主格を示す助詞はなかった。さらには<xx を手に持って>も古代は<xx 手に持ちて>で<を>がない表現が普通だった。目的格を示す<を>も比較的新しいようだ。そうすると、<xx 聞ゆ>はかなり微妙で、他動詞<(xxを)聞く>の意味があったかもしれない。

<聞こゆ>、<聞こえる>、<聞く>がどれが元で、どれが派生なのか?

日本語の動詞は<あいうえ(お)>で活用する五段活用(古くは四段活用)が基本と思われる。他動詞<聞く>は

聞かない (聞かず)
聞いて (聞きて)
聞く
聞けば (聞かば)
聞こう (聞かう、 聞かん、聞かむ) 

(聞かん>の<ん>は n ではなく ng だっただろう。昔の日本の ng は<う>に近かったと思われる。<聞かむ>の<む>も mu ではなく m、mg でこれまた<う>に近かったと思われる。私の母は大正生まれで、名前は正式には(戸籍上)<むめ>だが日常は<うめ>と言っていた。花の梅のことだと思うが梅は<むめ>と言っていた、あるいは書いていたのかも知れない。

<える>は<得る>でもともと動詞と思われるが、ひらがなの<える>は可能を示す助動詞ともとれる。接続は動詞の連用形につく。<聞くことができる>を動詞一語で表そうとすると、

聞き+える ->聞きえる -> 聞ける 

<える>は可能以外に微妙だが受身、自発がある。

受身は<聞く>の使役形<聞かす>の受身<聞かされる>が受身らしくxx を聞かされる>という構造。、<聞ける>は自発か?<自発>はその名が示すように自動詞で<xx が聞ける>という構造。だが<xx が聞ける>が受身ではなく自発とすると、<聞く>の自発<聞ける>はどういう意味か?

音楽を聞く
音楽が聞ける (自発、可能)
音楽を聞ける (<聞く>の受身)
音楽を聞かす (使役)
音楽を聞かされる (使役の受身)
音楽が聞こえる (<聞こえる>は自動詞)

<音楽が聞ける(自発、可能)>は上述のように曖昧なところがある。自発としての<音楽が聞ける>は<音楽が聞こえる>に限りなく近いようだ。<聞ける>はある時期に<聞こえる>にとって代わられたのではないか?

音楽を聞ける   <聞く>の受身、可能
<音楽を聞ける>という方は普通しない。間違いだろう。<音楽が聞ける>だ。<音楽を聞ける(<聞く>の可能)は翻訳調で純日本語ではないだろう。

<聞こえる>は<聞く>の可能の原形<聞きえる>は簡単に<聞こえる>になるだろうか?

上の<聞く>の五段活用をみると、最後は

 <聞かう、 聞かん>が<聞こう>と変化したことを示している。 江戸、明治時代は<聞かう>と書いても<聞こう>読み、発音したが、大昔は<聞かう>と発音したのは間違いない。したがって、昔は五段(あ、い、う、え、お)活用ではく、<お>がない四段活用。

聞きえる(ki-ki-e-ru)->聞こえる(ki-ko-e-ru)

の変化は

聞きえる(ki-ki-e-ru)->聞ける(ki-ke-ru)

ほど説得力はない。<聞ける>は<聞こえる>以上に可能の意が強い<聞くことができる>

ここでだいぶ前に書いた ”自動詞、他動詞-9 <xxえる>動詞、可能動詞” というポストを読み返してみた。これは引用なのだが、



これを調べているうちに日本語に関して同じような関係を探し当てた。

取(と)る - とらえる 捕らえる、と漢字を使うと見えなくなる)
掴(つか)む - つかまえる (捕まえる、と漢字を使うと見えなくなる)
押(お)す - 押さえる (抑える、と漢字を使うと見えなくなる)
踏(ふ)む - ふまえる(踏まえる、とはあまり書かない)
向(む)く - 向かえる (迎える、と書くと見えなくなる)


以上はいずれも五段活用の動詞で<動詞未然形+える>の形式。意味としては、

とらえる -  取って得る
つかまえる - つかんで得る
押さえる - 押さえて得る
ふまえる - ふんで得る
向かえる - 向かって得る

(<ふまえる>の辞書の解説に<すでに得たもの、現在直面するものや将来の成り行きをよく見た上で、何かをする>というがあったが、<ふまえる>に<何かをする>の意味はない。)

やや微妙だが
かかえる - か(掻)いて得る(持つ)
くわえる - 食(く)って得る(持つ)。ほとんど使わないが、銜える、と漢字を使うと見えなくなる。

も同類だろう。 

いづれも<xxて(して)得る>、<持つ> の意だ。



これを<聞く>に流用すると、

<聞か>+<得る>は<聞いて><得る>の意になる。発音は

聞か(kika) 得る(eru) - 聞かえる(kika- eru)となる。 

かえる(kika- eru)はやや発音しにく ki-ko-eru になる可能性がある可能性は何にでも、どこにでもあるので、可能性が高いとしておく。以上は日本語。

 
では英語の<聞く>、<聞こえる>はどうなっているのか? 

英語の<聞く>、<聞こえる>は<見る>、<見える>に似たところがある。

見る(他動詞) - to see (他動詞), to look (自動詞)at    

聞く(他動詞) - to hear (他動詞), to listen (自動詞)to

見える(自動詞) - to be seen, to seem (like), to look (like )  

聞こえる(自動詞) - to be heard, (to hear), to sound like 

となるが、日本語にした場合はそう簡単ではない。

to hear の用例

I hear a strange sound.  

変な音を聞く(聞いている)、ではなく、変な音が聞こえる。

I hear you.

君に言うことを聞く(聞いている)。
君に言うことは聞いている。
君に言うことは聞こえている。

I can hear you.

君に言うことは聞こえている。
君に言うことが聞こえている。 

I cannot hear you.

君に言うことは(よく)聞こえない。
君に言うことが(よく)聞こえない。。 

to hear は他動詞だが意味としては<(意識的に)xxを聞く>では<(xxが聞こうとしないで)聞こえる、聞こえてくる>になる。

意識的に聞く場合はなぜか自動詞の to listen に前置詞 to を漬けてto listen to xx となる。to listen はあくまで自動詞。<xx に聞く(耳をかたむける)>という言い方なのだ。

to sound は<xxが音を立てる>、<xx鳴る>で自動詞だが to sound a bell で他動詞。さらには a big sound で名詞だ。この融通性は英語の大きな特徴で sound が自動詞にも、他動詞にも名詞にもなる。これは sound にかぎらず相当ある。中国語も同じような融通性があるが、おもしろい現象で<良し悪し>がある。これは上の日本語、これからチェックするイタリア語がこの融通性が乏しいことと対比すればすぐにわかることだ。

また to sound (like)  to seem (like) の置き換えになるのもおもしろい。

What you said sounds like a dream.

まだある。

I want to hear your voice.

わたしはあなたの声が聞きたい。

<声が聞きたい>に<が>は、<xx が xx たい>の構文(水が飲みたい)で<xx が聞く>ではない。<聞きたい>は他動詞<聞く>の連用形<聞き>+<たい>、 」<xx を聞く> + <たい> の<たい>のない

わたしはあなたの声を聞く。

は変な日本語だが間違いではない。 

一方自動詞<聞こえる> + <たい> で

わたしはあなたの声が聞こえたい。 あるいあは英語の I want your voice to be heard.

は間違いか? これと似た英語は

I want your voice to be heard.

で、これは間違いか?さらには

I want your voice to hear.

はどうか?


次にイタリア語。英語と対比して

udire = to hear  ,   ascoltare = to listen to 

udire は他動詞。ascoltare 他動詞でascoltare = to <listen to>だ。 

というのがあるが、udire はあまり聞かない、見ない。

よく見るのは sentireイタリア語の sentire の原意は<感じる>だが sentire で<聞こえる>と<聞く>の意もある。

Collins Reverso Dictionary

ここでの引用は<聞こえる><聞く>関連のみ。

sentire
 
(udire)    to hear  ,   (ascoltare)    to listen to
 
mi sentite?      can you hear me?

これはこのまま覚えて使えそう。英語は Do you hear me ? というのもよく聞く。

sento dei passi      I can hear footsteps

イタリア語を直訳すると I hear some footsteps. でこれも自然な英語だ。

mi piace sentire la musica      I like listening to music

ここで to listen to が出てきた。 to listen の<聞こうとして聞く>の意味というより、to listen to music のセットフレーズと見た方がいい。イタリア語は sentire で間に合わせている。

stare a sentire      to listen

stare = to stay

これは慣用表現。<止まって聞く>

hai sentito l'ultima?      have you heard the latest?  
senti, mi presti quel disco?      listen, will you lend me that record?  Senti !も命令。
ho sentito dire che...      I have heard that ...  <xxxxというのを聞いた。>という表現。英語では<というのを>が省かれる。sentire dire はあとで取り上げるが、基本的には<言うのを聞く>あるいは<いうのが聞こえる>だ。英語では to hear だけで済ませている。だが<to hear say>という表現はある。

stammi a sentire!      listen to me!    上で出てきた stare a sentire に mi (英語のme がついた形。
stammi bene a sentire!      just you listen to me!  さらに bene (よく)がついた形。
a sentir lui...      to hear him talk ...    英語でこういう表現が使われるか?
farsi sentire      to make o.s. heard   far は使役。si は再帰用法の自身の意の代名詞。o.s. はoneself  の略。ここでは heard となっているが hear でもよさそう。
fatti sentire      keep in touch  ti は再帰用法のあなた自身の意の代名詞。上の例にならうと
to make yourself heard となる。短いわりに込み入っているが、これは二人称の使役、再帰動詞の形。 Fai + ti -> Fatti. だがこれはもう少し調べる必要がある。
調べた結果: これは<君のことを聞かせてくれ>という意味のようだ。慣用表現。

non ci sente        (sordo)    he's deaf, he can't hear

ci
は<of it>に相当する代名詞。したがって to hear of it の意になる。sente sentire の三人称単数現在形。だがこれも慣用表現だろう。

non ci sente da quell'orecchio        (fig)   he always turns a deaf ear to things like that
senti quello che ti dice l'avvocato      go and ask your lawyer for advice
intendo sentire il mio legale/il parere di un medico      I'm going to consult my lawyer/a doctor
senti cosa vuole      see what he wants  
ma senti un po'!      just fancy that!  
senti questa!      just listen to this!
si sente che è straniero      you can tell he's a foreigner

以上も慣用表現で英語訳では< senti questa!      just listen to this!>を除き hear も listen も出てこない。
per sentito dire      by hearsay    <聞くところによると>だが私は聞いたことがない。

上にあるように<聞こえる>、<聞く>に特化した動詞では

(udire)    to hear  ,   (ascoltare)    to listen to
 
があるが、sentire の例文の英訳でも to hear to listen がある。命令形はどうも Listen (to) になるようだ。だが sentire の原意が<感じる>で、<感ぜよ>というのは何か変だ。日本語では<よく聞け!>で<聞く>の命令形。<聞こえる>の命令形は<きこえろ!><きこえよ!>だがまず使うことはないだろ。例文を見る限り<to hear>と<to listen to>は相半(あいなか)ばしている。<to see>やその他の訳もある。したがって<聞こうとして聞く>と<聞こえる>をはっきり分けて感じているわけではないことになる。いやむしろこれを機会に<聞こうとして聞く>と<聞こえる>の区別を見直した方がいい。

日本語、英語、イタリア語、いづれもとかくややこしい。音や声が
<聞こうとして聞かなくても><聞こえる>ためだろう。
 

 sptt

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