Monday, July 17, 2023

レトリック副詞について ー いわんや、まして、なおさら

 

日本語のレトリック助詞について書いてきたので、つぎに日本語のレトリック副詞について調べてみる。

古い言い方だが<いわんやxxをや>というのがある。<いわんや>は ネット辞典 (https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%B3%81%E3%82%93%E3%82%84/) では


 副詞。 (動詞「いう(言)」の未然形に、推量助動詞「む」と反語の助詞「や」とが付いてできた語) 下文の文頭において、上文の叙述からすれば、下文で叙述することは、ことばでいう必要があろうか、いうまでもなく、自明のことであるという意味を表わす。なおさら。まして。

” 

とある。<いわんや>は副詞で、このレトリック的表現に使われる。

善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。

は<いわんや>レトリック表現の代表の一つだろう。逆説の疑問 / 反語とも言えるレトリックだ。

現代でも

いわんやxxをやだ

とか、簡素化して

いわんやxxだ

<だ>をつけて使いそうだ。

 ネット辞典の最後にある、同義語と思われる<なおさら>、<まして>もおもしろい言葉で、これらも副詞だ。<まして>は<ましてや>で

善人なおもて往生をとぐ、 ましてや悪人をや。

と言えそう。だが<なおさら>の方は

善人なおもて往生をとぐ、 なおさら悪人をや。

は具合がわるい。だが

善人なおもて往生をとぐ、 悪人ならなおさらなり。
善人なおもて往生をとぐ、 悪人はなおさらなり。

ならよさそう。

 <なおさら>はネット辞典 (https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%B0%9A%E6%9B%B4/) では

 [副詞]物事の程度が前よりいっそう進むさま。ますます。いちだんと。「風がないので、—暑く感じる」


と簡単な説明だ。 <なおさら>は<なお>+<さら>の合成語だ。

風がないので、なおさら暑く感じる。

はちょっと考えると、ちょっと変な感じがする。<前よりいっそう進むさま>の<前の程度>、比較対象がないのだ。

(少し前までは風があったが、今は)風がないので、なおさら暑く感じる。

でロジカルになる。

<なおさら>の<なお>は、<なお>だけで副詞で, ネット辞典 (https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%81%AA%E3%81%8A/) をコピー / ペイストすると


以前状態がそのまま続いているさま。相変わらず。やはり。まだ。「今も―健在だ」「昼―暗い」

状態程度がいちだんと進むさま。さらに。もっと。いっそう。「君が来てくれれば―都合がいい」「会えば別れが―つらい」

現にある物事に付け加えるべきものがあるさま。「―検討余地がある」「―10日の猶予がほしい」


と多用途語だ。大体言葉が短いと多用途語になる。2,3は似かよっていて、3の例は<さらに>で置き換えられる。<もっと>、<いっそう>で置き換えると、意味が違ってくる。

さらに検討の余地がある。さらに10日の猶予がほしい。

「なお10日の猶予がほしい」の方は<もっと>、<いっそう>では具合がわるい。

もっと検討の余地がある。もっと10日の猶予がほしい。
いっそう検討の余地がある。 いっそう10日の猶予がほしい。

<いっそう>は<なおいっそう>という強調表現があり語呂もいい。

なおいっそう検討の余地がある。

は問題ない。

上で<2,3は似かよっていて、3の例は<さらに>で置き換えられる>と書いたが、英語で置き換えてみると意外なことが出てくる。

  以前状態がそのまま続いているさま。相変わらず。やはり。まだ。「今も―健在だ」「昼―暗い」

の<なお>は英語では still が使われる。

今もなお健在だ。

は、状況によるが

Even now (he) is still active.

が一例。

昼なお暗い。

Even day time (it is) still dark (here).
Even day time the (that) place is still dark .

などで still は欠かせない。

状態程度がいちだんと進むさま。さらに。もっと。いっそう。「君が来てくれれば―都合がいい」「会えば別れが―つらい」

君が来てくれればなお都合がいい。

It would be even better if you come.

会えば別れがなおつらい。

これは<状態程度がいちだんと進むさま>では説明しにくいが、それはこれまた<前より状態や程度のいっそう進むさま>の<前の状態や程度>、比較対象がないからだろう。

会えば別れは、会う前よりなおつらい。

とすればロジカルになりそうだが、どっこい<会う前に別れること>はできない。したがってこれは<会う前の、会いたいが会えないつらさ>と<あったの後の別れのつらさ>との比較だとロジカルになる。<会う前より>言わずもがなか。

It is more painful to depart from you after meeting you than before meeting you.

 いぜれも英語では比較級表現になる。

  現にある物事に付け加えるべきものがあるさま。「―検討余地がある」「―10日の猶予がほしい」

この<なお>は英語では と同じ still だ。これはおそらく<余地>、<猶予>に関連しているかもしれない。

なお検討の余地がある。

There is still some room for study (examination, checking, etc).
Some room still remains for further study.

英語では further、furthermore という語がある。

また上にもっどて、上で<2,3は似かよっていて、3の例は<さらに>で置き換えられる>と書いた。つまりは

なお検討余地がある。ー> さらに検討余地がある。
なお10日の猶予がほしい。ー> さらに10日の猶予がほしい。

なのだが、この<さらに>は further、furthermore だ。

さらによく検討してみると

なお検討の余地のがある。

は still で<まだ何か足りない>の意識がある。一方

さらに検討の余地のがある。

は further, furthermore で、<まだ何か足りない>の意識は薄く、足りていてもさらに検討しよう、の意味が濃い。<なお>と<さらに>は違うのだ。<もっと>、<いっそう>も<まだ何か足りない>の意識は薄い。

 

<なおさら>の<さら>は<さらに>が副詞でネット辞典 (https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%9B%B4%E3%81%AB/) では


  同じことが重なったり加わったりするさま。重ねて。加えて。その上に。「―一年の月日が過ぎた」「―こういう問題もある」

  今までよりも程度が増すさま。前にも増して。いっそう。ますます。「―きれいになった」「事態は―悪くなった」

  (あとに打消しの語を伴って)いっこうに。まったく。少しも。「―覚えがない」「反省するようすは―なく」


とこれまた多用途語だ。昔は<いうもさらなり>という込み入った言い方があった。<これ以上いうことはないだろう>という反語の意味か。

 善人なおもて往生をとぐ、 悪人はさらなり。 

で意味が通じるだろう。

  同じことが重なったり加わったりするさま。重ねて。加えて。その上に。「―一年の月日が過ぎた」「―こういう問題もある」

は少し問題がある。

さらにこういう問題もある。

は<同じことが重なったり加わったりするさま>ではない。同じ問題が重なったり加わったりするさま、ではない。別の、もう一つの問題が重なったり加わったりするさまだ。

 重ねて。加えて。その上に

は英語では in addition、in addition to this、additionally

があり、日本人はよく使うようだ。

さらに一年の月日が過ぎた。

Another one year has passed。

で<さらに一年> の意がつたわる。直訳に近い

Furthermore one year has passed。

はおかしい。

今までよりも程度が増すさま。前にも増して。いっそう。ますます。「―きれいになった」「事態は―悪くなった」

実際には

さらにきれいになった。いっそうきれいになった。

はややあらたまった言い方で、ふつうは

ますますきれいになった。

で、こちらの方が日本語らしい。というか、 個人的にはこれがいいと思う。<事態はさらに悪くなった>も同じで<事態はますます悪くなった>がいい。<ますます>は口調がいいし、<程度が増すさま>を生き生きと伝えている。この<ますます>は<増す>由来の語で、あてで出てくるが<まして>、<ましてや>も関連語だ。見方を変えて<増す>の派生語とみると、語の派生、発展の面白さがある。

おおげさだが

ますますよくなっている。
ますます悪くなっている。

動的 (ダイナミック) な表現と言える。

  (あとに打消しの語を伴って)いっこうに。まったく。少しも。「―覚えがない」「反省するようすは―なく」

打消し(否定) がつくと話はややこしくなる。

(同じことが)重なったり加わったりするさま

の否定とすると<重なったり加わったりす>がないことにない、<これ以上ない>の意になる。完全否定、余地のない否定と言える。したがって<まったくない>、<少しもない>。だが

さらに一年の月日が過ぎなかった。
さらにこういう問題はない。 

はナンセンスだ。

今までよりも程度が増すさま。前にも増して。いっそう。ますます。「―きれいになった」「事態は―悪くなった」

の否定とすると、<増すさまがない>ことで打ち止め的な否定。これまた<これ以上ない>の意になり、完全否定、余地のない否定と言える。だが

さらにきれいにならなかった。
事態はさらに悪くならなかった。 

もナンセンスとは言わないまでも、何か変で、<完全否定、余地のない否定>にはならない。<さらに>とすると

さらにはきれいにならなかった。
事態はさらには悪くならなかった。

 で<変さ>は減るが、<完全否定、余地のない否定>というほどのことはない

さらにはきれいになることはなかった。
事態がさらには悪くなることはなかった。 

とすると打ち止め的な否定になる。.

 では、どういう場合に

(あとに打消しの語を伴って)いっこうに。まったく。少しも。

 になるのか。

さらに覚えがない。
反省るようすはさらになく。

はナンセンスではない。他の例をさがしてみる。<さらにない>は<まったくない>の意のセットフレーズのようで

きれいになることはさらになかった。
事態が悪くなることはさらなかった。

で <完全否定、余地のない否定>に近づく。

さらに覚えがない。

<覚えはさらにない>がもとで、<覚え>は短いので、<さらに覚えがない>と言っても変ではない、と解釈する。

するつもり(言うつもり)はさらさらない。

は<するつもり (言うつもり) はさらにない>口語的言い方だ。

 

<まして (や) >は<増す>由来。 これまたネット辞典 (https://www.weblio.jp/content/%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%A6) では

前の場合でさえそうなのだから、この場合はもちろんそうだという気持ちを表す語。なおさらいわんや。「大人でも大変なのだから、—子供には無理だ

いっそう。さらに。もっと。

大人でも大変なのだから、まして (や)子供には無理だ。

に似た例文は、少し前のポスト ”レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも>" で出てきた。

例: 子どもでも知っています。/ 即使小孩子也知道。

これは<子どもさえ 知っています>と同じ。

さらに

子どもさえ知っています

だからおとなは知っていて当然だ。

が言外にある。だが、<だからおとなは知っていて当然だ>が特に強調されているわけではないのでレトリック度は弱い。

と書いた。

大人でも大変なのだから、まして (や) 子供には無理だ。

の<でも>自体に

前の場合でさえそうなのだから、この場合はもちろんそうだという気持ちを表す語。

言い換えると

前件の場合でさえそうなのだから、後件の場合はもちろんそうだという気持ちをあらわす語。(この場合<もちろんそうだ>は<子供には無理なのはもちろんだ>になる、<まして (や)>がない。)

の意がある。

大人でも大変なのだから、子供には無理だ。

は特に強調はないが 

大人でも大変なのだから、まして (や) 子供には無理だ。

では<子供には無理だ>が強調されている。だが、対比による強調としては弱い。それは<大変だ>=<無理だ>でないからだ。

大人でも無理なのだから、まして (や) 子供には無理だ。
大人でも大変なのだから、まして (や) 子供には (なおさら) 大変だ。

さらによく検討すると

前半は<でも>なので

大人でも無理なのだから、まして (や) 子供では無理だ。
大人でも大変なのだから、まして (や) 子供では (なおさら) 大変だ。 

とすると対比が強まる。<は>は対比の (格) 助詞。

で後半部がかなり強調される。 この副詞<まして (や)>の言い方は強調のレトリックと言えるか? これは " レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも> " でも書いたが、こう詳しく言ってしまうとレトリック度が薄れ、

大人でも大変なのだから、まして (や) 子供では。

とすると、結論、強調される部分を<言っていない>ー><言うまでももない>、<いわんや>でレトリック的になる。 

 

<おまけ>

当然はレトリック論議では重要な語なのだが

当然 ー> 当て字で<当前>。これが大和言葉の<あたりまえ>の語源という。

 

sptt


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