<さえ>については " レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも>" で検討したが、 その後<でも>と並行して<さえ>をもう少しよく検討してみた。前回のポストで煮えきらなかった<でも>との違いもチェックした。
<さえ>は手元のかなり古い辞典 (三省堂) では副助詞としての解説。ネット辞典の
デジタル大辞泉(小学館)(https://www.weblio.jp/content/%E3%81%95%E3%81%88)
の方も副助詞で、はじめに
[副助]《動詞「そ(添)う」(下二)の連用形「そえ」から生じたという》名詞、活用語の連体形または連用形、助詞など種々の語に付く。
というう解説があり、語源が推測されている。これは示唆するところは多い。また助詞分類としては
[補説] 「さえ」は、古くは格助詞の上にも下にも付き、「さへも」「さへこそ」のように係助詞にも先行するところから副助詞とする。
という解説がある。
今回はデジタル大辞泉 (小学館) の解説から始める。
さえ〔さへ〕
1 すでにあるものの上に、さらに付け加える意を表す。…までも。「風が吹き出しただけでなく、雨—降りだした」
2 ある事柄を強調的に例示し、それによって、他の場合は当然であると類推させる意を表す。…だって。…すら。「かな文字—読めない」
3 (仮定表現を伴い)その条件が満たされれば十分な結果が生じる意を表す。せめて…だけでも。「これ—あれば鬼に金棒だ」「覚悟ができて—いれば、心配はない」→すら →だに →まで
解説の後に例文があるが、例がすくないので、解説では説明がつくような例文をのせているのだろう。
一方、手元の古い辞典 (三省堂) では
1.だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。
これはデジタル大辞泉 (小学館) の2に相当する。例文は
1)子供にさえわかる2)専門家の彼さえ知らなかった
3)自分の名前さえ書けない
子供、専門家の彼、自分の名前が<だれにでもわかる例>になるのだが、やや変だ。デジタル大辞泉ではこの部分は<ある事柄を強調的に例示>と苦心作となっている。
かな文字さえ読めない
<強調的に>は苦心の解説だが、その前の<ある事柄>も大事で、これは不特定のことがらで、<かな文字>は必ずしも<かな文字でなくてもいい>ニュアンスがある。しかし<強調的に>というと何か特定化されているような感じだ。
大切なのは後半で
デジタル大辞泉 (小学館)
手元の古い辞典 (三省堂)
だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。
<当然であると類推させる意>は<言うでもなかろう、という意>に相当する。実際<さえ>にこのような意があるわけではなく、そういう働きがあると言った方が正しい。これは一種のレトリック作用とも言える。
例を作ってみた。
一万円さえない
<十万円>、<千円>が他の場合の例になるのだが、<当然である>とは何か。
十万円はありそうにないが、千円はあるのかないのか? 九千円はどうか?
この場合話者が伝えたいのは<一万円さえない>ではなく
十万円(金額は2-3万円以上であればいい)はありそうにない
の方で、千円や九千円を類推させようとしているのではない。だが説明としては<他の場合は当然であると類推させる>はやや大雑把と言える。問題は<他の場合>の<他>で、まったく不特定の他>ではなく話者、聞き手が類推するある程度限定された<他>でないといけない。ここが肝心。この<一万円さえない>の場合は三省堂の辞書
だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。
の方が適当だ。<一万円>が<だれにでもわかる例>は問題だが、一万円以上が類推対象となる。<だれにでもわかる例>は<話して、聞き手がわかる例>の方がいいだろう。あるいはもっと細かく言うと<話して、聞き手の類推を助ける例>としたらどうか。<子供>、<専門家の彼>、<自分の名前>、<かな文字>、<一万円>はこの簡単なレトリックに使われている いわば<だし>で、レトリックが働けばいい程度の例なのだ。前回のポストで取り上げた<でも>はもっと顕著で
1)子供にでもわかる
2)専門家の彼でも知らなかった
3)自分の名前でも書けない(これはおおかたダメ)自分の名前も書けない、ならいい
一万円でもない (これもおおかたダメ) 一万もない、ならいい
この<おおかたダメ>の理由はなにか。<も>+<ない>が関係しているだろう。
1)子供にでもわかる
2)専門家の彼でも知らなかった
に関しては<でも>は<すら>よりも不特定度が高く、<強調的に>は成り立ちにくい。これは<でも>と<さえ>の違いと言える。
<さえ>は英語では大体 even が相当するが、<でも>の方は場合によっては even xxx or someone、even xxx or something になる。
デジタル大辞泉 (小学館)
3 (仮定表現を伴い)その条件が満たされれば十分な結果が生じる意を表す。せめて…だけでも。「これ—あれば鬼に金棒だ」「覚悟ができて—いれば、心配はない」→すら →だに →まで
覚悟ができてさえいれば、心配はない。
手元の古い辞典 (三省堂)
(さえXXXば、さえXXXたらの形で)その条件だけが満たされれば,他には問題がないことを表す。
練習しさえすれば、上手になるよ。
金さえあれば、なんだってできる。
汚くなければ、どれでもいい。
英語では大体 only if が相当する。
おもしろいのは<でも>との比較で
これさえあれば鬼に金棒だ。
これでもあれば鬼に金棒だ。
覚悟ができてさえいれば、心配はない。
覚悟ができてでもいれば、心配はない。
練習しさえすれば、上手になるよ。
練習でもすれば、上手になるよ。
金さえあれば、なんだってできる。
金でもあれば、なんだってできる。
汚くさえなければ、どれでもいい。
汚くでもなければ、どれでもいい。(おおかたダメ)
<汚くでもなければ、どれでもいい>以外は意味が大きく違ってくるが、意味は通る。
<でも>の方は only if ではダメ、if だけでいい場合もあるが、これは難しい。<でも>の方は他の条件でも<十分な結果が生じる、他には問題がないこと>が示唆されている。
英語では
if xxx, for instance
で何とかなるか。
デジタル大辞泉 (小学館)
1 すでにあるものの上に、さらに付け加える意を表す。…までも。「風が吹き出しただけでなく、雨—降りだした」
風が吹き出しただけでなく、雨さえふりだした。
手元の古い辞典 (三省堂)
添加を表す
雨が降ってきただけでなく、雷さえ鳴りだした。
英語ではおなじみの
not only xxxx, but also yyyy
xxxx. In addition yyyy
の but also、in addition 相当。
これは<でも>では置き換えられない。ということは<でも>にはこのような添加の意の働きがないということか。
sptt
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