Saturday, July 29, 2023

レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも> ー続篇ー2<さえ>

 

<さえ>については " レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも>" で検討したが、 その後<でも>と並行して<さえ>をもう少しよく検討してみた。前回のポストで煮えきらなかった<でも>との違いもチェックした。

<さえ>は手元のかなり古い辞典 (三省堂) では副助詞としての解説。ネット辞典の

デジタル大辞泉(小学館)(https://www.weblio.jp/content/%E3%81%95%E3%81%88)

の方も副助詞で、はじめに

[副助]動詞「そ(添)う」(下二)の連用形「そえ」から生じたという》名詞活用語連体形または連用形助詞など種々の語に付く。

というう解説があり、語源が推測されている。これは示唆するところは多い。また助詞分類としては

 [補説] 「さえ」は、古く格助詞の上にも下にも付き、「さへも」「さへこそ」のように係助詞にも先行するところから副助詞とする。

という解説がある。

今回はデジタル大辞泉 (小学館) の解説から始める。

 さえ〔さへ〕

すでにあるものの上に、さらに付け加える意を表す。…までも。「風が吹き出しただけでなく、降りだした」

ある事柄強調的に例示し、それによって、他の場合は当然であると類推させる意を表す。…だって。…すら。「かな文字読めない

仮定表現伴い)その条件満たされれば十分な結果生じる意を表す。せめて…だけでも。「これ—あれば鬼に金棒だ」「覚悟ができて—いれば、心配はない」→すら →だに →まで

解説の後に例文があるが、例がすくないので、解説では説明がつくような例文をのせているのだろう。

一方、手元の古い辞典 (三省堂) では

1.だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。

これはデジタル大辞泉 (小学館) の2に相当する。例文は

1)子供にさえわかる
2)専門家の彼さえ知らなかった
3)自分の名前さえ書けない

子供、専門家の彼、自分の名前が<だれにでもわかる例>になるのだが、やや変だ。デジタル大辞泉ではこの部分は<ある事柄強調的に例示>と苦心作となっている。

かな文字さえ読めない

<強調的に>は苦心の解説だが、その前の<ある事柄>も大事で、これは不特定のことがらで、<かな文字>は必ずしも<かな文字でなくてもいい>ニュアンスがある。しかし<強調的に>というと何か特定化されているような感じだ。

大切なのは後半で

デジタル大辞泉 (小学館) 

それによって、他の場合は当然であると類推させる意を表す。

手元の古い辞典 (三省堂) 

だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。

<当然であると類推させる意>は<言うでもなかろう、という意>に相当する。実際<さえ>にこのような意があるわけではなく、そういう働きがあると言った方が正しい。これは一種のレトリック作用とも言える。

例を作ってみた。

一万円さえない

の場合<一万円>が< ある事柄強調的に例示し>

<十万円>、<千円>が他の場合の例になるのだが、<当然である>とは何か。

 十万円はありそうにないが、千円はあるのかないのか? 九千円はどうか?

この場合話者が伝えたいのは<一万円さえない>ではなく

十万円(金額は2-3万円以上であればいい)はありそうにない

の方で、千円や九千円を類推させようとしているのではない。だが説明としては<他の場合は当然であると類推させる>はやや大雑把と言える。問題は<他の場合>の<他>で、まったく不特定の他>ではなく話者、聞き手が類推するある程度限定された<他>でないといけない。ここが肝心。この<一万円さえない>の場合は三省堂の辞書

だれにでもわかる例を示し、ましてそれ以上 (以下) の場合はどうであるか言うでもなかろう、という意を表す。

の方が適当だ。<一万円>が<だれにでもわかる例>は問題だが、一万円以上が類推対象となる。<だれにでもわかる例>は<話して、聞き手がわかる例>の方がいいだろう。あるいはもっと細かく言うと<話して、聞き手の類推を助ける例>としたらどうか。<子供>、<専門家の彼>、<自分の名前>、<かな文字>、<一万円>はこの簡単なレトリックに使われている いわば<だし>で、レトリックが働けばいい程度の例なのだ。前回のポストで取り上げた<でも>はもっと顕著で

1)子供にでもわかる
2)専門家の彼でも知らなかった
3)自分の名前でも書けない(これはおおかたダメ)自分の名前も書けない、ならいい

かな文字でも読めない(これもおおかたダメ)かな文字も書けない、ならいい
一万円でもない (これもおおかたダメ) 一万もない、ならいい

この<おおかたダメ>の理由はなにか。<も>+<ない>が関係しているだろう。

1)子供にでもわかる
2)専門家の彼でも知らなかった

に関しては<でも>は<すら>よりも不特定度が高く、<強調的に>は成り立ちにくい。これは<でも>と<さえ>の違いと言える。

<さえ>は英語では大体 even が相当するが、<でも>の方は場合によっては even xxx or someone、even xxx or something になる。

 

デジタル大辞泉 (小学館)  

仮定表現伴い)その条件満たされれば十分な結果生じる意を表す。せめて…だけでも。「これ—あれば鬼に金棒だ」「覚悟ができて—いれば、心配はない」→すら →だに →まで

これさえあれば鬼に金棒だ。
覚悟ができてさえいれば、心配はない。

手元の古い辞典 (三省堂) 

(さえXXXば、さえXXXたらの形で)その条件だけが満たされれば,他には問題がないことを表す。

練習しさえすれば、上手になるよ。
金さえあれば、なんだってできる。
汚くなければ、どれでもいい。

英語では大体 only if が相当する。

おもしろいのは<でも>との比較で

これさえあれば鬼に金棒だ。      
これでもあれば鬼に金棒だ。 

覚悟ができてさえいれば、心配はない。 
覚悟ができてでもいれば、心配はない。

練習しさえすれば、上手になるよ。   
練習でもすれば、上手になるよ。

金さえあれば、なんだってできる。   
金でもあれば、なんだってできる。

汚くさえなければ、どれでもいい。   
汚くでもなければ、どれでもいい。(おおかたダメ)

<汚くでもなければ、どれでもいい>以外は意味が大きく違ってくるが、意味は通る。

<でも>の方は only if ではダメ、if だけでいい場合もあるが、これは難しい。<でも>の方は他の条件でも<十分な結果が生じる、他には問題がないこと>が示唆されている。

英語では

if xxx, for instance

で何とかなるか。 


デジタル大辞泉 (小学館)  

  すでにあるものの上に、さらに付け加える意を表す。…までも。「風が吹き出しただけでなく、降りだした」

 風が吹き出しただけでなく、雨さえふりだした。

手元の古い辞典 (三省堂) 

添加を表す

雨が降ってきただけでなく、雷さえ鳴りだした。

英語ではおなじみの

not only xxxx,  but also yyyy

xxxx. In addition yyyy 

の but also、in addition 相当。

これは<でも>では置き換えられない。ということは<でも>にはこのような添加の意の働きがないということか。

 

sptt




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