<今からでも遅くない>は前々回のポスト ”レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも> ー続篇<でも> ”でかなりしつこく検討したが、結論がでず宿題となっている。おもしろいので、さらに検討することにした。<でも>の正体がわかるかもしれない。
手元のかなり古い辞典 (三省堂) では副助詞としての解説
1.許容される最低の場合を例示する。
簡単で。例として
2)忙しくて日曜日でも遊んでいられない。
3)今からでも遅くない。
4)これだけでも持って行きなさい。
<許容される最低の場合を例示する>は、少しチェックすればわかるが、間違いとも言える。
4)これだけでも持って行きなさい。
は<だけ>があるので<許容される最低の場合>といえそうだが<だけ>のない
これでも持って行きなさい。
の<これ>は <許容される最低の場合>にはならない。<子供の足>、<日曜日>もすぐには<許容される最低の場合>にならない。
<子供の足>は一例であって、<許容される最低の場合>とは言えない。長くはなるが
足が弱って杖をついた老人の足でも十分あれば行ける。
ハイヒールを履いた女の足でも十分あれば行ける。
でもいい。
<日曜日>はやや特殊で、この場合は、少しよく考えると、<許容される最低の場合>というよりは<許容される最善、最適の場合>だろう。普通一番遊べる時間のある、遊ぶのに最も都合のいいのは日曜日なのだ。<その日曜日でも . . . .>となる。
3)今からでも遅くない。
はややこしい。 <今からでも遅くない>からどうなのだ?
今からでも遅くない。だから今始めよう(行こう)。
この場合<今始めよう (行こう) >が、言う言わないは別として、言いたいことなのだ。 <今から>が<許容される最低の場合>とするにはかなりの条件が必要だ。たとえば
一時間前ならまったく遅くはなかったのだが、今からでも遅くはない。
が考えられ、これは変ではない。時間が違う< 遅くない>と<遅くない>を比較しているのだ。一方、<なら>を使った
一時間前ならまったく遅くはなかったのだが、今からなら遅くはない。
は変だ。
一時間前ならまったく遅くはなかったのだが、今からでも遅くはない。
で言葉に出てこない部分は
一時間前ならまったく遅くはなかった。今からではもう遅いようだが、今からでも遅くはない。
の下線部で、実際にはくどくなるので言わないが、文法的には逆接だ。さらには
<今から>が<許容される最低の場合>になるには<今からでないともう遅い>、<許容される最低の場合>と対比させると<遅くならない許容される最も遅い時間>でないといけない。
今からでも遅くない。
もう遅くなりかけているが、今からでも遅くはない。
にはこの差し迫った状況が感じられない。
もう遅くなりかけているが、今からなら遅くはない。
と<なら>を使うと 差し迫った状況が少し感じられる。
もう遅くなりかけているが、今からでさえ遅くはない。
と<でさえ>を使うと これまた差し迫った状況が少し感じられる。<なら>、<さえ>と違って、<でも>にはこの差し迫った状況が感じられない。 さらには
今からでも遅くはない。一時間後からでも遅くない。
とさえ言える。これでは<許容される最低の場合>とは言い難い。
これでも、あれでも、どれでもいい。
は<でも>がの許容度の高さを示している。
今からなら遅くはない。一時間後からなら遅くない。
はダメ。
今からでさえ遅くはない。一時間後からでさえ遅くない。
はいい。なぜいいかというと、<さえ> には添加の意があるのだ。
デジタル大辞泉 (小学館) では
「係助]《断定の助動詞「だ」の連用形+係助詞「も」から》名詞または名詞に準じる語、助詞に付く。4っつの解説があるが2番目は
2 特別のもののようにみえる事柄が、他の一般の場合と同じであるという意を表す。たとえ…であっても。「強いといわれている人—病気には勝てない」「今から—がんばろう」
で
今からでもがんばろう。
というのがある。だが、これまた<特別のもののようにみえる事柄が、他の一般の場合と同じであるという意を表す>は
では説明がつくが
今からでもがんばろう。
は説明がつかない。<今から>が<特別のもののようにみえる事柄>としても、<他の一般>とはどういうことか。
今からでもがんばろう。
の<今から>が特別のモノのように見える事柄で
午後からがんばろう。
明日からがんばろう。
の<午後から>、<明日から>が<他の一般の場合>では説明がつかない。また、<他の一般の場合>の<午後から>、<明日から>が<今から>の場合と同じとはどういうことだ。
さらに、同義語として<たとえ…であっても>があげられていて
はいいが
たとえ今からであってもがんばろう
となる。まずこんな言い方はしないが、たとえば
もう遅いかもしれないが
これまではがんばっていなかったが
といった背景では言いそうだ。しかし <今から>が特別のモノのように見える事柄で、しかも、他の一般の場合と同じであるという意を表す
とはどういうことか?
<たとえ…であっても>逆接 (譲歩) 仮定語法だ。
たとえ雨であっても、出かける。
だが
たとえ今からであっても、がんばろう
にはこの逆接 (譲歩)がすぐには成り立たない。
デジタル大辞泉 (小学館) の1番目は
1 物事の一部分を挙げて、他の場合はまして、ということを類推させる意を表す。…でさえ。「子供—できる」「昼前—気温が三〇度ある」
で、これがあてはまるか。
今からでもがんばろう。
は、<今からでもがんばろう>が< 物事の一部分を挙げて>になる。他の場合は、例えば
午後からがんばろう。明日からがんばろう。
来年からがんばろう。
だが、類推される<まして> にはならない。
すでに上で取り上げたが、手元の三省堂の辞典では
今からでも遅くない。
が<許容される最低の場合を例示する>の例になっている。似て非なるものようだが、これが適用されるかどうかチェックしてみる。
今からでもがんばろう。
の<今から>が すぐには<許容される最低の場合を例示する>にならない。そして、レトリック的にはデジタル大辞泉 (小学館)の解説 にあるように、<他はまして>が類推、連想されないといけない。この発話が考えられる状況としては
もう遅いかもしれないが (それでも) 譲歩これまではがんばっていなかった (だから) 順接
今からでもがんばろう。
だが
午後から、明日から、来年から
は<まして>にならない。
もう遅いかもしれないが 、それでも、今からでもがんばろう。
は<でも>が重複して具合がわるい。この短縮版が
もう遅いかもしれないが 、今からでもがんばろう。譲歩
逆説の場合は
もう遅いかもしれない。しかし、今からでもがんばろう。逆説、譲歩
これまではがんばっていなかった。しかし、今からでもがんばろう。逆説。やや変。脈略が薄い。<でも>をと取った
これまではがんばっていなかった。しかし、今からがんばろう。
は変ではない。
どうもこの辺に<今からでもがんばろう>の 正体がありそうだ。<でも>は譲歩がからんでくる。
ところで、<でも>と相性のいい副詞がある。
とりあえず
とりあえず、xxxとでも言っておけ。とりあえず、あやまりにでも行っておくか。
客が来るから、とりあえず、掃除でもしておくか。
かなり許容度の高い言い方だ。また
とりあえず、今からでも遅くない。
とりあえず、今からでもがんばろう。
とはいえる。
これまた、この辺に<でも>の正体がありそう。
sptt
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