Saturday, July 29, 2023

今からでも遅くない。今からでもがんばろう。<でも>の正体

<今からでも遅くない>は前々回のポスト ”レトリック助詞についてー2 <さえ>、<でも> ー続篇<でも> ”でかなりしつこく検討したが、結論がでず宿題となっている。おもしろいので、さらに検討することにした。<でも>の正体がわかるかもしれない。

手元のかなり古い辞典 (三省堂) では副助詞としての解説

1.許容される最低の場合を例示する。

簡単で。例として

1)子供の足でも十分あれば行ける。
2)忙しくて日曜日でも遊んでいられない。
3)今からでも遅くない。
4)これだけでも持って行きなさい。

 <許容される最低の場合を例示する>は、少しチェックすればわかるが、間違いとも言える。

4)これだけでも持って行きなさい。

は<だけ>があるので<許容される最低の場合>といえそうだが<だけ>のない

これでも持って行きなさい。

の<これ>は <許容される最低の場合>にはならない。<子供の足>、<日曜日>もすぐには<許容される最低の場合>にならない。

 <子供の足>は一例であって、<許容される最低の場合>とは言えない。長くはなるが

足が弱って杖をついた老人の足でも十分あれば行ける。
ハイヒールを履いた女の足でも十分あれば行ける。

でもいい。 

<日曜日>はやや特殊で、この場合は、少しよく考えると、<許容される最低の場合>というよりは<許容される最善、最適の場合>だろう。普通一番遊べる時間のある、遊ぶのに最も都合のいいのは日曜日なのだ。<その日曜日でも . . . .>となる。

3)今からでも遅くない。

はややこしい。 <今からでも遅くない>からどうなのだ?

 今からでも遅くない。だから今始めよう(行こう)。

この場合<今始めよう (行こう) >が、言う言わないは別として、言いたいことなのだ。 <今から>が<許容される最低の場合>とするにはかなりの条件が必要だ。たとえば

一時間前ならまったく遅くはなかったのだ、今からでも遅くはない。

が考えられ、これは変ではない。時間が違う< 遅くない>と<遅くない>を比較しているのだ。一方、<なら>を使った

一時間前ならまったく遅くはなかったのだ、今からなら遅くはない。

は変だ。

一時間前ならまったく遅くはなかったのだ、今からでも遅くはない。

で言葉に出てこない部分は

 一時間前ならまったく遅くはなかった。今からではもう遅いようだが、今からでも遅くはない。

の下線部で、実際にはくどくなるので言わないが、文法的には逆接だ。さらには

<今から>が<許容される最低の場合>になるには<今からでないともう遅い>、<許容される最低の場合>と対比させると<遅くならない許容される最も遅い時間>でないといけない。

今からでも遅くない。

もう遅くなりかけているが、今からでも遅くはない。

にはこの差し迫った状況が感じられない。 

もう遅くなりかけているが、今からなら遅くはない。

と<なら>を使うと 差し迫った状況が少し感じられる。

もう遅くなりかけているが、今からでさえ遅くはない。

と<でさえ>を使うと これまた差し迫った状況が少し感じられる。<なら>、<さえ>と違って、<でも>にはこの差し迫った状況が感じられない。 さらには

今からでも遅くはない。一時間後からでも遅くない。

とさえ言える。これでは<許容される最低の場合>とは言い難い。

これでも、あれでも、どれでもいい。

は<でも>がの許容度の高さを示している。

今からなら遅くはない。一時間後からなら遅くない。

はダメ。

 今からでさえ遅くはない。一時間後からでさえ遅くない。

はいい。なぜいいかというと、<さえ> には添加の意があるのだ。

 

デジタル大辞泉 (小学館) では

係助]断定の助動詞「だ」の連用形係助詞「も」から》名詞または名詞準じる語、助詞に付く。4っつの解説があるが2番目は

別のもののようにみえる事柄が、他の一般場合と同じであるという意を表す。たとえ…であっても。「強いといわれている人—病気には勝てない」「今から—がんばろう

 で

今からでもがんばろう。

というのがある。だが、これまた<別のもののようにみえる事柄が、他の一般場合と同じであるという意を表す>は

「強いといわれている人でも病気には勝てない」

では説明がつくが

今からでもがんばろう。

は説明がつかない。<今から>が<別のもののようにみえる事柄>としても、<他の一般>とはどういうことか。

今からでもがんばろう。

の<今から>が特別のモノのように見える事柄で

午後からがんばろう。
明日からがんばろう。

の<午後から>、<明日から>が<他の一般の場合>では説明がつかない。また、<他の一般の場合>の<午後から>、<明日から>が<今から>の場合と同じとはどういうことだ。

さらに、同義語として<たとえ…であっても>があげられていて 

たとえ強いといわれている人であっても病気には勝てない

はいいが

たとえ今からであってもがんばろう

となる。まずこんな言い方はしないが、たとえば

もう遅いかもしれないが
これまではがんばっていなかったが

といった背景では言いそうだ。しかし <今から>が特別のモノのように見える事柄で、しかも、他の一般場合と同じであるという意を表す

とはどういうことか?

<たとえ…であっても>逆接 (譲歩) 仮定語法だ。

たとえ雨であっても、出かける。

だが

たとえ今からであっても、がんばろう

にはこの逆接 (譲歩)がすぐには成り立たない。

 

デジタル大辞泉 (小学館) の1番目は

物事一部分挙げて、他の場合はまして、ということ類推させる意を表す。…でさえ。「子供—できる」「昼前気温三〇度ある」

で、これがあてはまるか。

今からでもがんばろう。

は、<今からでもがんばろう>が< 物事一部分挙げて>になる。他の場合は、例えば

午後からがんばろう。
明日からがんばろう。
来年からがんばろう。

だが、類推される<まして> にはならない。

すでに上で取り上げたが、手元の三省堂の辞典では

 今からでも遅くない。 

が<許容される最低の場合を例示する>の例になっている。似て非なるものようだが、これが適用されるかどうかチェックしてみる。

今からでもがんばろう。

の<今から>が すぐには<許容される最低の場合を例示する>にならない。そして、レトリック的にはデジタル大辞泉 (小学館)の解説 にあるように、<他はまして>が類推、連想されないといけない。この発話が考えられる状況としては

もう遅いかもしれないが (それでも) 譲歩
これまではがんばっていなかった (だから) 順接

今からでもがんばろう。

だが

午後から、明日から、来年から

は<まして>にならない。

 もう遅いかもしれないが 、それでも、今からでもがんばろう。

は<でも>が重複して具合がわるい。この短縮版が

もう遅いかもしれないが 、今からでもがんばろう。譲歩

逆説の場合は

もう遅いかもしれない。しかし、今からでもがんばろう。逆説、譲歩
これまではがんばっていなかった。しかし、今からでもがんばろう。逆説。やや変。脈略が薄い。<でも>をと取った

これまではがんばっていなかった。しかし、今からがんばろう。

は変ではない。

どうもこの辺に<今からでもがんばろう>の 正体がありそうだ。<でも>は譲歩がからんでくる。

ところで、<でも>と相性のいい副詞がある。

とりあえず

とりあえず、xxxとでも言っておけ。
とりあえず、あやまりにでも行っておくか。
客が来るから、とりあえず、掃除でもしておくか。

かなり許容度の高い言い方だ。また

とりあえず、今からでも遅くない。
とりあえず、今からでもがんばろう。

とはいえる。 

これまた、この辺に<でも>の正体がありそう。

 

 sptt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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