少し前のポスト "レトリック副詞について ー いわんや、まして、なおさら " でレトリック副詞の第代表とも言える<いわんや>。それに関連して<まして>、<なおさら>を検討した。今回は<やはり>を検討してみる。<やはり>は無意識で よく使う。よく使う語は多義語になっていて分析が難しい。<やはり>も例外ではない。手元のかなり古い辞典 (三省堂)にはかなり詳しい解説といくつかの例文がのっている。以下は長くなるが、おもしろいので三省堂辞典の解説をコピー / ペイストしておく。
”
やはり(副詞)
1.時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子。
1)今でもやはり米屋をやっている。2)前から変だとは思っていたが、やはりどこかおかしい。
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、結果として当初の予測 (期待) した通りのことが認められる。
1) 一縷の望み抱いていたが、やはり助からなかった。
2)やはり彼が犯人だった。
3)やはり言ったとおりになった。
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
1) なんといっても、やはり母は強い。
2)やはり名人のやることは違う。
3)りこうそでもやはり子供だ。
4)私たちもやはり反対だ。
5)皆が行くなら、やはり私も行こう。
”
まず注意したいのは、解説の
1.時間の経過にもかかわらず、
はいわゆる<譲歩>。
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、
3.他の可能性も考えられたものの、
は逆接でいいだろう。だが<やはり>自体は順接だ。順に解説と例文を少し詳しく見てみる。繰り返しになるが
1.時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子。
1)今でもやはり米屋をやっている。
2)前から変だとは思っていたが、やはりどこかおかしい。
1)今でもやはり米屋をやっている。
はこの解説でいいだろう。譲歩を強調すると
時間が経過する状況は変わるものだが、それにもかかわらず、今でもやはり米屋をやっている。
ここでは、これまで何度もとりあげた<でも>が使われていいることに注意したい。<でも>はややこしいのだが、ここは
今でもやはり米屋をやっている ー> 今もやはり米屋をやっている。
で問題ないので<それでも>のでも>ではないだろう。 問題は
2)前から変だとは思っていたが、やはりどこかおかしい。
で、これは<時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子>では説明でつきにくい。この<やはり>は
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、結果として当初の予測 (期待) した通りのことが認められる。
の説明の方がいい。この2.の例文は、これまた繰り返しになるが、
1) 一縷の望み抱いていたが、やはり助からなかった。
2)やはり彼が犯人だった。
3)やはり言ったとおりになった。
注意したいのは、簡単な<やはり>の中に<他の可能性も考えられないではなかったものの>の意が隠されていいることで、この<他の可能性>は普通発話に出てこない。
1)(助かるかもしれないという)一縷の望み抱いていたが、やはり助からなかった。
2)(犯人ではないかもしれないと思っていたが)やはり彼が犯人だった。
は<他の可能性>とは言ってもいろいろあるわけではなく、カッコ内のような実際の結果とは反対のことがおこる可能性のことだ。
3)やはり言ったとおりになった。
は、実際の結果<言ったとおり>の反対ことがおこる可能性とは、くどくなるが
言ったとおりにならない可能性もあったが、やはり言ったとおりになった。言ったとおりにならない可能性はあったが、やはり言ったとおりになった。
で、可能性が多くあるわけではない。 <も>と<は>の違いは<も>は他の可能性がある、この場合には<言ったとおりになる可能性もあった>とややこしいが、特定化されていない。一方<は>は<言ったとおりにならない可能性があった>で特定化されている。 この三例を見る限り
他の可能性も考えられないではなかったものの ー>当初予測 (期待) したこととは反対のことがおこる、反対のことになる可能性も考えられないではなかったものの
と言い換えられる。
問題は3.で、これまた繰り返しになるが
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
1)なんといっても、やはり母は強い。
2)やはり名人のやることは違う。
3)りこうそうでもやはり子供だ。
4)私たちもやはり反対だ。
5)皆が行くなら、やはり私も行こう。
この解説が何とか妥当なのは4) と5) だけで<同類の他のものと変わらな状態>は助詞の<も>が働いている。<も>がない1)、2)、3) は<同類の他のもの>が念頭に浮かんでこない。
1)なんといっても、やはり母は強い。
2)やはり名人のやることは違う。
3)りこうそでもやはり子供だ。
は
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、結果として当初の予測 (期待) した通りのことが認められる。
で何とか説明できる。
1)なんといっても、やはり母は強い。
女性は弱いと思われがちで、実際その可能性もあるが、母となると強いものだ。
これは一種のレトリック表現といえないか?
やはり母は強い。
だけの場合はこのレトリック性が強まり
<女性は弱いと思われがちで、実際その可能性もある>が念頭に浮かぶ、浮かばせるのだ。
2)やはり名人のやることは違う。
これもレトリック表現といえないか?
普通の人がやることはみな並みのレベルの可能性だが、名人のやることは違う。
で、前半が念頭に浮かぶことの一例で、<違い>を強調している。
3)りこうそうでもやはり子供だ。
ここでまた<でも>が出てくる。この<でも>は上の単純な<で+も>ではなく、やっかいな<でも>で、
デジタル大辞泉 (小学館) では、<でも>の解説として
「係助]《断定の助動詞「だ」の連用形+係助詞「も」から》名詞または名詞に準じる語、助詞に付く。4っつの解説があるが2番目の
2 特別のもののようにみえる事柄が、他の一般の場合と同じであるという意を表す。たとえ…であっても。「強いといわれている人—病気には勝てない」
これをあてはめると
たとえりこうそうであっても、やはり子供だ。
で問題ない。おもしろいのは<他の一般の場合と同じであるという意> で,これは上の (三省堂辞典)
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
に似ていることだ。上では
<同類の他のもの>が念頭に浮かんでこない。
と書いたが、よく考えると、話題の子供が特定の子供とすると、<同類の他のもの>はこの特定の子供以外の一般の子供でいいことになる。ところで、これは1)、2) にもあてはまり
1)なんといっても、やはり母は強い。
話題の母が特定の母とすると、<同類の他のもの>はこの特定の母以外の一般の母でいいことになる。
2)やはり名人のやることは違う。
話題の名人が特定の名人とすると、<同類の他のもの>はこの特定の名人以外の一般の名人でいいことになる。
混乱させるようだが、他の解釈も成り立つ・
1)なんといっても、やはり母は強い。
母は元来強いもので、とやかくいっても、母は強いのだ。2) の名人の例も同じで
2)やはり名人のやることは違う。
とやかくいっても、元来名人のやることは違うものだ。
母は強いのだ。違うものだ。
は一種の強調表現で、レトリックといえないことはない。<子どもの例>と<名人の例>は、後から出てくる "<やはり>の中国語' では
(3)毕竟还是,归根结底。〔けっきょく。〕
子どもはやはり子どもだ。/孩子终归是孩子。
(5)果然。〔案の定。〕
やはり名人のやることは違う。/果然是出自名人之手,与众不同。
となっており、状況によって違った解釈が成り立つということになる。あまり厳密に考えなくてもいい、あまり厳密に分析できないということだろう。
一般化の試み。分析は一つに方法だが、一般化も一つに方法だ。数学や物理では一般化の方が高度なものとみなされていいる。
三省堂辞典の解説
やはり(副詞)
1.時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子。
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、結果として当初の予測 (期待) した通りのことが認められる。
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
参考にデジタル大辞泉 (小学館) の<やはり>の解説を見てみると
三省堂辞典の解説に比べると簡単だ。
やはり【矢張り】[副]
1 以前と、また他と比べて違いがないさま。やっぱり。「あなたは今も—あの店へ行きますか」「父も—教師をしていた」
2 予測したとおりになるさま。案の定。やっぱり。「彼は—来なかった」
3 さまざまに考えてみても、結局は同じ結果になるさま。つまるところ。やっぱり。「随分迷ったが、—行くのはやめにした」「利口なようでも—子供は子供だ」
で 三省堂辞典の解説に比べると簡単だ。
1 は
1.時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子。
に似ているが
父もやはり教師をしていた。
は<他と比べて違いがない (同じ) > でないと説明がつかないが、これもいまいち。
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
もいまいちだ。
2 予測したとおりになるさま。
は
2.他の可能性も考えられないではなかったものの、結果として当初の予測 (期待) した通りのことが認められる。
彼はやはり来なかった。
は <予測したとおりになるさま>でもいだろう。
いずれも予測 (期待) との比較、対比となっているが、たとえば
彼は来ないと聞いていたが、やはり来なかった。
でもいいので、 一般化すると
ある状況 (状態) が、他の状況 (状態)に変わるか可能性はあったが、最終的には状況 (状態) に変わりがない、という意を伝える。
としたらどうか。これで
1.時間の経過にもかかわらず、以前のままの状態が認められる様子。
も兼ねる。
3.他の可能性も考えられたものの、最終的な結論としては、同類の他のものと変わらな状態が認められる。
随分迷ったが、やはり行くのはやめにした。
の場合<行くのはやめ (行かない) >は予定したことで、予定したことと同じ、ということだ。<結局は同じ結果になる>は説明不足。これは上の一般化した
ある状況 (状態) が、他の状況 (状態)に変わるか可能性があったが、最終的には状況 (状態) に変わりがない、という意を伝える。
でカバーできる。
利口なようでもやはり子供は子供だ。
は
3)りこうそうでもやはり子供だ。
とほぼ同じ。この場合、本当に、大人を上まわるりこうな子供もいるわけで、例としては問題がある。
体は大きいが、やはり子供は子供だ。力が足りないからこれは動かせない。
と変えてみる。この場合、背後にあるのは
体は大きいので、これが動かせると思ったが、やはり子供は子供だ。
<これが動かせる>が<他の状況 (状態)に変わる可能性があった>に相当する。さらに言い換えれば
元来子供なので、体は大きいからこれが動かせると思ったが、力が足りないのでこれが動かせない。やはり子供は子供だ。
この場合、上でも書いたが、<元来子供なので>の子は話題にしている子供。<子供は子供だ>の子供は一般化した子供だ。<同類の他のものと変わらない状態>の子供は一般化した(力が足りない) 子供だ。
<やはり>の英語(かなりの自由訳)
今でもやはり米屋をやっている。
He still runs his rice shop even now.
前から変だとは思っていたが、やはりどこかおかしい。
I thought that he was strange before and he is still strange.
一縷の望み抱いていたが、やはり助からなかった。
I had a little hope that he would be save but actually he was not saved.
やはり彼が犯人だった。
I thought that he was a criminal. Now he is actually proved to be a criminal.
やはり言ったとおりになった。
It actually turned to be what I said.
なんといっても、やはり母は強い。
A mother is strong, anyway.
やはり名人のやることは違う。
As expected, what a professional (an expert) does differs from what ordinary people do.
りこうそうでもやはり子供だ。
Although the boy looks smart, a child is a child.
私たちもやはり反対だ。
We are also against it.
皆が行くなら、やはり私も行こう。
If all the other people go, I will go too.
still = 相変わらずactually= 結局のところ
as expected, as I expected = 当初の予測 (期待) した通り
also, too = やはりxx<も>
<やはり>を無理に訳さなくてもいいだろう。以上の他に<それにもかかわらず>に相当する nonetheless, nevertheless というのがある。副詞扱いだ。今回調べてみたが、この二つは元来
none the less
never the less
で意味としては
https://www.vocabulary.com/dictionary/nonetheless
Break this word up to examine its meaning: None-the-less means
that the statement you've just made does not diminish or make less what
comes next.
We are not at all prepared to climb this mountain, nonetheless we are going to try.
この解説はなかなかいい。 nonetheless=<それにもかかわらず>と丸暗記するよりいい。
前件は、nonetheless に続く後件を妨げない、とういことだ。<それでも、やはり>の相当する。この場合は副詞というよりは接続詞だ。
-
- synonyms:all the same, even so, however, nevertheless, notwithstanding, still,
(普通は譲歩文、句に続き)反対の状況にもかかわらず、という意味
Note:
https://www.grammarly.com/blog/nonetheless-nevertheless/
Nonetheless and nevertheless appear to be similar words, but they have slightly different meanings. Nonetheless means “in contrast to something that happened or was said.” Nevertheless means “in spite of something happening.”
Nonetheless は実際おこったことや言われていたことにもかかわらず
Nevertheless は実際おこっていることにもかかわらず
したがって、 Nonetheless の方がが<やはり>に近い。
このサイト、さらに詳しい説明と例文がある。
さて、おもしろいのは中国語との比較だ。
相変わらず: 依然としての<依然>があるが、あまり聞かない、見ない
結局のところ: 少しニュアンスが違うが、<果然>というのがある。日本語でも、少し古臭いが
果たして、思っていた通りになった。
という言い方ある。さらには昔の紙芝居では
果たしてこの決闘の結末はいかに?
というような口上があった。
ネットで<やはり>の中国語を調べてみると(これはたくさんある)
やはり北京にお住まいですか。/你还是〔仍然,依然,照旧〕住在北京吗?
彼はいまでもやはり勉強家です。/他至今仍然是个用功的人。
父も学者だが息子もやはり学者だ。/父亲是个学者,儿子也是个学者。
われわれもやはり反対だ。/我们也同样反对。
わたしもやはりそうだと思う。/我也那么想。
暖かくてもやはり冬だ。/虽然暖和,毕竟还是冬天。
子どもはやはり子どもだ。/孩子终归是孩子。
彼に聞いてみたがやはりわからない。/虽然问了他,还是不懂。
(5)果然。〔案の定。〕 君だろうと思ったらやはりそうだった。/我料想是你,果然不错。
やはりあなただったのか。/果然是你啊。
やはり名人のやることは違う。/果然是出自名人之手,与众不同。
上記の 三省堂辞典とデジタル大辞泉 (小学館) 解説以外の解説がある。また例文には同じまたは似たようなのがあるが、解説が違ったりしていて、おもしろい。やはり<やはり>は一筋縄ではいかないのだ。
われわれもやはり反対だ。/我们也同样反对。我々もまた同じように反対する。
子どもはやはり子どもだ。/孩子终归是孩子。子供は結局のところ子供だ。
やはり名人のやることは違う。/果然是出自名人之手,与众不同。果たして (案の定) 、名人の手 (なみ) は並みの人とは違う。
彼に聞いてみたがやはりわからない。/虽然问了他,还是不懂。
は
彼に聞いてみたにもかかわらず、まだわからない。
<还是>は<やはり>のように多義語で、よく聞くおもしろい中国語だ。
sptt
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