ドイツ語の副詞に hin、her という副詞がある。日本語のみならず英語にもこの二つの副詞に一対一で対応する副詞がない。英語やその他の欧州語の不定冠詞、定冠詞は一対一で対応する日 本語がないので、日本人にとって冠詞をよく理解することはもちろん間違いなく使いこなすには相当な時間の学習と訓練が必要だが、hin、her は同じことが言えるだろうか。相良独日大辞典は次のように解説している。
hin - 話し手から遠ざかる運動、方向を表わす。
her - 話し手の方へ向かう運動を示す。
また、Collins German-English Dictionary (Paper Book) は
静的なWo ist er?、Er ist nicht da. と対比させて、
hin - Movement away from the speaker is shown by the presence of hin. The following adverbs are therefore often used when movement away from the original position is concerned, even though a single adverb used in English.
dahin - to there
dorthin - there
hierhin - here
igrendwohin - to somewhere
überallhin - everywhere
whoin - where to (これは to where だろう)
her - Movement towards the speaker or central person is shown by the presence of her. The following adverbs are therefore often used to show movement towards a person.
daher - from there
hierher - here
igrendwoher - from somewhere
überallhher - from all over
whoher - where from (これは from where だろう)
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hierhin - here、hierher - here となっているが、解説はない。検討の価値あり。
使いこなしは別として、hin、her の理解に挑戦してみる。
一回目の挑戦結果
1. hin
典型的な例は
wo geht ihr hin? where are you going? 君たちはどこへ(に)行く ? 你们去哪里(哪儿) ?
wo = where = どこ = 哪里
gehen = to go = 行く = 去
ihr = you (plural) = 君たち = 你们
ドイツ語、日本語、中国語は現在形が英語の現在進行形も表すので(したがって英語が特殊)、英語もこれが可能として、
where are you going? ------> where (do) you go? とすれば where、go、you の三語。中国語も 哪里、去、你们 の三語なので英語と同じ。一方ドイツ語では hin が、日本語では<へ(に)>が余計にある。この違いの解釈はいくつか考えられる。
wo、where は場所関連の疑問副詞、哪里もほぼ where と同じような使い方。日本語の<どこ>は助詞が必要なので副詞とはいえない。一般化すれば疑問詞ということになる。
どこ + 助詞 へ、に、が、を、から、まで、の が付く。<どこ+は>という組み合わせはないが、これは<は>は疑問詞がとれないという特徴だ。
ドイツ語の wo geht ihr hin? は wo という副詞があるにもかかわらず、hin というもうひとつの副詞をとる。英語は where、中国語は<哪里>のひとつの副詞だけだ。日本語は疑問詞<どこ>だけではだめで、助詞<へ(に)>が必要。
日本語の
疑問詞<どこ>+助詞<へ(に)>
という構造は特殊にみえるが、必ずしもそうとはいえない。
ドイツ語の wo geht ihr hin? は hin のないwo geht ihr? (ドイツ語に相当なれないとこうなるだろう)はだめか?<文法上はいいが、あまりこうは言わない>というのがドイツ人の回答ではないか? hin が付くのは 疑問副詞の wo あるいは動詞 gehen に方向性の意味が弱いからといえる。
1) 疑問副詞の wo は日本語は疑問詞<どこ>に近い。
2) 動詞 gehen は laufen(走る)、 fahren(乗る)、scwimmen(泳ぐ)などの移動関連動詞のように(こちらからあちらへという)方向性がない、または弱い。ドイツ語の<歩く>は zu Fuß gehen だ。
疑問副詞や動詞(こちらからあちらへという)方向性がないほうが、言語としては一般化、抽象化が進んでいることになる。方向性は前置詞、日本語では助詞を使えばいいし、この方 が意味が明確に表せる。実際、英語でも、to where、 from where、 in where と普通にいう。中国語でも<从哪里>(どこから)という。但し<在哪里>はくせもので、<在>には存在を示す動詞とともに場所を示す副詞の働きがある(xxにある)。<我在>(私はいます)。
们坐在凉亭里,边喝茶边聊天。
They sat in the arbor and chatted over tea.
他住在一个舒适的小屋里。
He lives in a cosy little room.
中国語もそう簡単ではなく、ここでは中国語の係り結び<在xxxxx里>が使われている。したがって<在>と<里>を分けて考えることもできる。
例文
gehst du auch hin? are you going too? wo gehst du hin? where are you going? wo geht es hier hin? where does this go ? (hier hin が使われている)
2.her
典型的な例は
woher kommst du? where do you come from? 君はどこから来るのか? 你从哪里来? (最後になにかが付くようだ)
woher = where ..... from = どこから =从哪里
kommen = to come = 来る = 来
du = you = 君 = 你
her は hin の反義語とされているが、必ずしもそうはいえない。 go の場合と違って英語では from、中国語では<从>がある。上述のCollins German-English Dictionary の her の項も参照。一方ドイツ語では前置詞 from に相当する前置詞 von があるのだがこの例では使われていない。日本語は<行く>の場合と構造的には変化なく、助詞がfrom に相当する<から>に変わっただけだ。文法的には日本語が一番法則的だ。
ドイツ語の woher kommst du? (wo kommst du her ? でもよさそう)は her のない wo kommst du? とは間違わないだろう。 英語で from、中国語で<从>、日本語で<から>を使うからだ。 wo kommst du? では何かたりないのだ。 her が付くのは 疑問副詞の wo あるいは動詞 kommen に方向性の意味が弱いからといえるが、kommen は gehen 以上に方向性が弱い。英語でも to go に比べると to come は、中国語でも<去>に比べると<来>は方向性が弱いといえる。
いずれにしても、gehen、kommen、to go、 to come、行く、来る、去、来 は使用頻度が極めて高い重要動詞で、使われ方の分析は一筋縄ではいかない。上記の分析では、これらの動詞(運動、移動関連動詞)は元来方向性を備えているようだが、その程度はまちまちで、ドイツ語 gehen、kommen、日本語 行く、来る、 は方向性が弱いことになる。
英語では
The dream comes true. といって、The dream becomes true. とはあまり言わない。ドイツ語の kommen に to become の意はない(werden が相当)。The dream comes true. は夢が<来る>わけではない。すくなくとも物理的な方向性をもった<来る>ではない。一方 to become は to come 以上に方向性がない。
北京に春がくる。
東京に地震が来るかもしれない。
隣の寺にお化けが(出て)くる 。
以上の例文では<くる>の方向性はほとんどない。運動はもちろん、移動の感じもない。
hin、her は副詞なので、動詞その他の品詞との係わり具合を調べる必要があうようだ。
注)例文は主にドイツ語http://dictionary.reverso.net/german-english/、中国語http://dict.cn/en/search/から。
sptt
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