Wednesday, May 29, 2013

the は<その>か?


定冠詞にしろ不定冠詞にしろ冠詞は英語その他の欧州語でごく一般的にそれこそ無数に使われてている。一方日本語にはないので、訳す場合に頭をいためる。解決策はいくつかある。日本語に冠詞はないが、助詞<が>と<は>はかなりな程度<定>と<不定>の区別がある。この区別はほぼ無意識のうちにおこなわれるが、欧米人がほぼ無意識のうちに定冠詞と不定冠詞を区別して使うのと同じだ。ここでは無意識を意識化してみる。不定冠詞は別の機会に検討するとして、このポストでは定冠詞 the をとりあげる。

<が>と<は>の<定>と<不定> の区別

誰が行きますか?

<誰> は疑問詞だが、疑問であれば当然不定(不特定)である。

どこが痛いですか?
どちらがいいですか?
何時が都合ががいいですか?

以上は

行きますか?
どこ痛いですか?
どちらいいですか?
何時都合ががいいですか?

とは絶対にいわない。間違いなのだ。<は>は不定(不特定)の主語(主題)とは結びつかない。

the はたいてい<その>と訳されるが、忠実に the を<その>、<その>、<その>と訳していくと日本語らしくなくなる。

例 )
The content of the accident which the driver of the bus company reported was different from the fact.
そのバス会社のその運転手が報告したその事故のその内容はその事実と違っていた。
 

そもそも the = <その>だろうか。 the は定冠詞だが、<その>は指示詞、もっと具体的には形容詞的指示修飾語だが形容詞の活用はしない(ある文法書では<の>がつく連体詞となっている)。

日本語の指示詞はきわめて文法規則的に発達しており、世界に冠たるものがある。いわゆる<こそあど、ko-so-a-do>だ。<こそあ、ko-so-a>は指示語だが<ど、do>は疑問詞だ。

指示詞(限定語=determiner、修飾語)
この
その
あの
疑問詞(修飾語)
どの
--
指示詞(英文法からすると指示代名詞のようだ)
これ
それ
あれ
疑問詞
どれ、どちら、どこ、
--
場所指示詞
ここ
そこ
あそこ
場所疑問詞
どこ
--
方向指示詞
こちら
そちら
あちら
方向疑問詞
どちら
--
擬似人称指示詞-1
こちら(こちとら)、こちら(のかた)
そちら(のかた)
あちら(のかた)
疑問詞
どちら(のかた、さま)
-- 
擬似人称指示詞-2
こなた(相撲の行事が使う)
そなた (古語)
あなた
疑問詞
どなた(さま)
-- 
副詞的指示詞
こう(する)、このように(する)
そう(する)、そのように(する)
ああ(する)、あのように(する)
副詞的疑問詞
どう(する)、どのように(する)

基本的には<こ>は話し手に近いモノ、場所、<そ>は聞き手に近いモノ、場所、<あ>は話し手からも、聞き手からも離れているモノ、場所を指し示す(指示)。具体的なモノ、場所。コトに関しては、目に見えない観念的なコトなので様子が少し違ってくるようだが、それでもこの基本原則が働く。指示詞(語)なのだ。

このコト
そのコト
あのコト

この本はもう読んだ。
その本はもう読んだ。
あの本はもう読んだ。

この場合<本>は具体的、物理的に存在するモノとして話されているとも、読む対象としてコト化(心理上、観念上のモノ)して話されているともいえる。コト化されると心理上、観念上のコトなので、物理的、位置的、距離的な制約がゆるむと同時に時間の観念が入ってくる。

こんなコト  a thing like this
そんなコト     a thing like that  (such a thing という冠詞 a が such の後に来る表現もある)
あんなコト     a thing like that

話しは込み入ってくるが上記3例は不定的な指示用法だ。

さて本題の、そもそも the = <その>だろうか?  について考えてみる。

英語の指示代名詞には this と that があり、次のように対応させられている。

this - 指示形容詞として<この>、指示代名詞として<これ>

that -  指示形容詞として<その>、<あの>、指示代名詞として<それ>、<あれ>

指示詞に関しては日本語が<こ、そ、あ>と三つあるのに対して英語は this と that の二つしかなく、1対1の対応がむりなので、こうなったのだろうが、当然正確な対応ではない。this - <この>、<これ>は1対1の対応のようだが正しくない場合がでてくると思うが、大雑把にいえば、話し手に近いモノ、場所、コトを示すようだ。that は<聞き手に近いモノ、場所、コト>を示すとは限らない。むしろたいていは<話し手からも、聞き手からも離れているモノ、場所、コト>を示す。もっとも、元来英語には日本語の<こ、そ、あ>の区別、特に<聞き手に近いモノ、場所、コト>を指す語はない。以上にはコトを含めたが、上述のようにコト化されると物理的な制約はゆるむ。

 ところで、英語には it、とその所有格、形容詞形(修飾語)の its がある。 it は指示詞ではなく、純正、正真正銘の代名詞だ。 it は<それ>、 its は<その>と訳される。<それ>、<その>は上記の<聞き手に近いモノ、場所、コト>を指示詞だが、<それ>、<その>は代名詞的な働きもある。<これ>、<あれ>も代名詞的な働きはある。但し、<あれ>は<不定代名詞>的な側面もある。

例) あれ(あの話)はどうなっている?

話者が具体的に知らない(忘れた)か、あえて具体的に言いたくない場合に<あれ(あの)>が使われる。

さて定冠詞 the だが、これは語源的には定冠詞 the は that 由来のようだ。実際、定冠詞と指示詞はそれぞれ文法上の定義はあるが区別は必ずしも明確ではない、というよりは曖昧なところがけっこう残っている。 決定的な意味の違いなく the を that で置き換え可能な場合が多い。問題は日本語に文法上定冠詞がないとして<その>、<この>、<あの>に定冠詞的な働きがあるかどうかだ。

日本語には定冠詞がないが、指示詞性が弱まった指示詞、特にコト化した場合、定冠詞的な働きになるようだ。

1) この本を取ってくれ。
2) その本を取ってくれ。
3) あの本を取ってくれ。

上記3例では、現物の<本>が話題になっており、(指で示すような)指示詞的な用法だ。それぞれ

1) Please take this book.
2)   Please take that book.
3) Please take that book.

になるだろう。

1) これはもう読んだ。
2) それはもう読んだ。
3) あれはもう読んだ。 

はそれぞれ

1) I (have) already read this.
2) I (have) already read it.
3) I (have) already read that.

になりそうだが、2) I (have) already read it. の it は指示詞でなく代名詞だ。一方日本語の<2) それはもう読んだ>は曖昧なところがある。指示詞だか代名詞的用法だかは状況による。

1) この本はもう読んだ。 
2) その本はもう読んだ。 
3) あの本はもう読んだ。

上記3例では、

<この本はもう読んだ>の<この本>は現物の<本>の意味が強いが、現物の<本>でなくても、話題になっている本、特に話し手に心理的に近い<本>であれば、<この本はもう読んだ>といえる。<その本はもう読んだ>と<あの本はもう読んだ>の<その本>、<あの本>は現物の<本>の意味は弱く(ゼロではない)、心理上の<本>になっている。特に<その本>は<その>が<聞き手に近いモノ、場所、コト>を示す>ので、聞き手が話題にしている本をさすことになる。それぞれ

1) I (have) already read this book.
2) I (have) already read that book. (its book は明らかに間違い)
3) I (have) already read that book.

となるようだが、 2)と3)の英語は同じ意味になってしまう。

1)  I (will) tell you a story. The story is ....  きみに話をひとつしよう。この話.....

 この場合<その話.....>、<あの話.....>はおかしい。<話(というの)は.....>、<話こうだ。.....>ともいえる、が意味が微妙に違う。また、注意したいのは、<>を使えば、かならずしも<この>を使わなくて指示性が表せるということだ。
英語の場合、 I (will) tell you a story. This story is .... ともいえるが、むしろこの方が日本語の<この話は.....>の意に近くなる。

2) You told me a story. The story is ..... あなたははわたしに話をひとつした。(君は僕に話をひとつした(男版))。その話.....

この場合<この話.....>はあきらかにヘンだ。また、You told me a story. That story is ..... でもよく、むしろこの方が日本語の<その話>に近い。この場合も、<話(というの)は.....>、<話こうだ。.....>ともいえる。また<あの話.....>でも場合によってはよさそうだ。どういう場合か。時間がからんでくる。

You just told me a story. The story is .....

この場合<あの話.....>はヘンで<その話.....>でないとだめだ。

You told me a story yesterday. The story is .....

この場合<その話.....>はヘンで<あの話.....>でないとだめだ。

3) Taro told a story to Hanako. The story ......  太郎は花子に話をひとつした。あの話.....

この場合も<あの話.....>が普通のようだ。<この話.....>はかなりヘンだ。<その話.....>でもダメではない。この場合でも<話(というの)は.....>、<話こうだ。.....>ともいえる。<Taro told a story to Hanako. That story ......>は日本語の<太郎は花子に話をひとつした。あの話.....>に近くなる。<その話.....>でもダメではない、のダメではない場合はどういうばあいか。

話し手は太郎の話の内容を知っている(すくなくとも太郎が花子に話をしたことを知っている)。いわば関係者だ。この場合聞き手は関係者ではない。

太郎は花子に話をひとつした。この話..... 

の場合、 <この話..... >は<太郎の話>ではなく<話し手が今話している話>の意味になりかねない。

太郎は花子に話をひとつした。その話..... 

<その>の指示詞としての意味<聞き手に近いモノ、場所、コト>からすると、<その話.....>はおかしい。<その話の内容は.....>とすると、おかしくなくなる。むしろ<<あの話の内容は.....>よりも自然だ。ここで、<その話..... >の<その>は冠詞的は働きをしているようだ。

注1) 下線付きの<> は<は>が指示的な働きにしろ、冠詞的は働きにしろ<定>性のある語につき、<>は基本的には(意味を変えることなく、あるいは<が>が要請されるよな使い方以外)<が>で置き換えられない-文法法則。
注2) <ひとつの話>は英語の不定冠詞用法の訳で、日本語では<xxxがひとつ、ふたつ .....、たくさん>となる


かなり込み入った解説なので整理してみる。

日本語には冠詞がないので、英語の定冠詞 the は日本語の指示詞の代名詞的用法で対応されている。 日本語の指示詞には<こそあ、ko-so-a>があり、これらの形容詞的指示修飾語(連体詞)のなっている)。 <この、その、あの、kono-sono-ano>が対応できるが、これでは1対3の対応に
なってしまう。<この、その、あの>のうち一番一般化が進んでいる-個別的な指示性から離れて一般的な<定>性の度合いが高い-のが<その>で、したがって the は<その>となりがちだ。一方日本語には<定>性を示す助詞<は>があり、これを意識的に使えば、<その>ばかりにたよることなく<定>性は表せる。

sptt










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