複合動詞<xxきる>の例はいくらでもあると言っていい。すこし前に " <xx きる (切る) >の複合動詞 " というポストを書いているが、これは第二弾。前回のポストをあまり参考にしないで再検討してみる。
<切る>は<切る>由来で、物理的に<切る>では
打ち切る 打って切れないことはない。だが、慣用用法が主に使われる。
押し切る <押して切る>ことはまずないだろう。西洋の鋸 (のこぎり) は押して切るようだ。慣用用法が主。
たたき切る たたいて切れないことはない。慣用用法の<たたき切る>は一種の強調。
”
強い勢いで斬りつけること、斬り捨てることを意味する表現。一般的には「叩き切る」と表記する。
という解説がある。( 日本語表現辞典)
ち (千) 切る これは<ちりぢり、散り散りになるように)切る、切り散らす、で複合動詞とすれば<散り切る>の変形。
突っ切る <突いて切る>こともほとんどないだろう。<道路を急いで突っ切る>のような慣用用法が主。
ねじ切る、 ねじり切る ねじって切る
はさみ切る はさんで切る
引き切る 引いて切る、引っ張って切る。<ひっきりなし>の<ひっきり>は
<ひっきりなし>のネット辞典の解説で
絶え間のないこと。「引っ切り」は「切れ目」「区切り」の意 (デジタル大辞泉)
とある。<区切り>、<区切る>は後で述べるが<切る>の重要なコンセプト。
焼き切る 焼いて切る
また、<途中で切る>、中断の意があるが、これはむしろ少数派で
打ち切る、見切る、思い切る、割り切る
多数派は
1)強調
2)完了
1)強調は前回のポスト " 複合動詞<xxかえる> " で<xxかえる>と並行して並べてみた。
あきれかえる あきれきる
あふれかえる あふれきる
甘えかえる 甘えきる
いばりかえ(えばりかえる) いばりきる(いばりきる)
うかれかえる うかれきる
おごりかえる おごりきる
恐れかえる 恐れきる
おびえかえる おびえきる
悲しみかえる 悲しみきる
乾きかえる 乾ききる
狂いかえる 狂いきる
こごえかえる こごえきる
困 (こま) りかえる 困りきる
こわがりかえる こわがりきる
しょげかえる しょげきる
すねかえる すねきる
黙りかえる 黙りきる
だらけかえる だらけきる
ちぢみかえる 恐ろしさでちぢみかえる、 ちぢみきる
ちらかりかえる ちらかりきる
疲れかえる 疲れきる
泣きかえる 泣ききる
嘆きかえる 嘆ききる
怠 (なま) けかえる 怠けきる
冷 (ひ) えかえる 冷えきる
膨 (ふく) れかえる 膨れきる
ふさぎかえる ふさぎきる
震 (ふる) えかえる 寒さで震えかえる、震えきる
へたりかえる へたりきる
むくれかえる むくれきる
汚 (よご) れかえる 汚れきる
喜びかえる 喜びきる
弱りかえる 弱りきる
笑いかえる 笑いきる
強調といってもいろいろあり、<xxかえる>の方は
a) 極度の<恐れ、驚き、喜び、嘆き、悲しみ、乱れ、疲れ、寒暑>。
b) 絶望的な<どうしようもない>のニュアンスのものが少なくない。
あきれかえる、困りかえる、疲れかえる、赤ん坊が泣きかえる、乱れかえる、弱りかえる
c) 状況ににより批判的な言い方と言えるものがある。
あきれかえる、甘えかえる、いばりかえる、だらけかえる、ちらかりかえる、汚れかえる
一方上記の<xxきる>例の方はどちらかというと ” 一般的な ” な強調で、極度まではいかず
<すっかり、xxきる>程度。また<切る、to cut>の意味はないと言っていい。いくらでもあるが、上の例以外では
開けきる 戸を開けきる上がりきる
飢えきる
売りきる なくなる
押しきる
落ちきる 葉が落ちきる なくなる
買いきる
かたずけきる
枯れきる 木が枯れきる
乾ききる のどが乾ききる
探しきる
閉 (し) めきる 戸を閉め切る
湿りきる
知りきる
捨てきる なくなる
出しきる なくなる
楽しみきる
使いきる なくなる
勤めきる
跳びきる <とびっきり>とは?
取りきる なくなる
伸ばしきる
伸びきる
乗りきる 皆船に乗りきる。残る人がいなくなる。<困難を乗りきる>と言うが<乗り越える(きる)>が適切だろう。
減りきる 腹が減りきる、体重が減りきる。限度があって<なくなる>ことはない。
増えきる
太りきる
振りきる <振って切る>こともあるが、普通は<追手、後続を振るようにして離す>。
広げきる 風呂敷を広げきる
曲げきる <曲げて切る>こともあるが、普通は<しっかり曲げる>、<可能な限り、できるだけ曲げる>。
混ぜきる
燃えきる 燃え尽きる なくなる
痩 (や) せきる
わかりきる
ーーーーー
漢語+しきる
これもいくらでもある
感動しきる絶望しきる
疲労しきる
燃焼しきる
2)完了
完了、完了形は文法用語であり、少し詳しく検討してみる。完了は文字通りでは<終わる、終わる>。文法用語の完了は英文法の解説用に作られた和製漢語だろう。中国の中国語文法解説で<完了>の字はあまり見ない。<了>は多義語だが過去、完了の意味がある。また<完了、wán le >というのはドラマなどでよく聞く。<ああ、これで終わりだ。もうダメだ。>という意味。
さて<切る>と完了だが、上で
<区切り>、<区切る>は後で述べるが<切る>の重要なコンセプト
と書いたが、<終わる>、<終える>は終了、完了を表す一般的な動詞で、自動詞<終わる>では主語(主題)、他動詞<終える>では対象の内容が関連してくる。この内容、意味内容はいろいろあるが、ここでは<区切り>を考えてみる。
<区切り>がある意味内容の場合は<完了>が可能だが (これが大多数)、<区切り>がはっきりしない意味内容の場合は<完了>表現になりにくい。
<区切り>がはっきりしない意味内容の場合
a)<終わり>が想定しにくい一種の過程
行く、来る、帰る、進む、動く、遊ぶ、さまよう、うろつく、生まれる (生まれて来る) 、生きる、死ぬ、風が吹く、雨が降る
太郎は学校に行ききる、行ききった。次郎は我が家に来きる、来きった
兵士は敵陣に進みきる、進みきった
花子は家に帰りきる、帰りきった。
美代子は一日中動ききる、動ききった。(一日中は一種の<区切り>だ。)
三郎は遊びきる、遊びきった
四郎はさまよいきる、さまよいきった
五郎はうろつききる、うろつききった
赤ん坊が生まれきる、生まれきった。
彼は、裕福に (貧しく) 生ききる、生ききった。
老人が死にきる、死にきった。
風が吹ききる
雨が降りきる
以上は完了表現は基本的に変だ。
b)通例、習慣の場合 これは動詞内容にあまり関係がない。
太郎の息子は毎日遊びきる、遊びきった。 (<毎日遊ぶ>は通例、習慣)次郎の息子は毎日勉強しきる、勉強しきった。
花子の娘は年に一度実家に戻りきる、戻りきった。
美代子の娘は毎日働ききる、働ききった。
佐藤は毎朝運動をしきる。
加藤は毎晩居酒屋で酒を飲みきる。
<区切り>がある意味内容の場合
歩ききる 特定の距離歌いきる 一曲、3曲も
泳ぎきる 特定の距離、場所
語りきる 一つの話、三つもの話
過ぎきる 列車は踏切りを過ぎきるまで待つ。
食べきる 特定の量の食べ物、食事
飲みきる 特定の量の飲み物
走りきる 特定の距離
やりきる ある特定のこと読みきる 一冊の本、10冊もの本
渡りきる ある特定の者、場所
以上は完了表現が可能。
<すっかり、xxきる>で強調で取り上げ、<なくなる>を付記したもの
売りきる なくなる落ちきる 葉が落ちきる なくなる
出しきる なくなる
使いきる なくなる
取りきる なくなる
燃えきる 燃え尽きる なくなる
は完了とも見做せる。
3)<途中で切る>、中断
打ち切る
思い切る
見切る
ーーーーー
終了、完了では<きる>以外に、一般的な<xx終わる>、<xx終える>を除き
xx果てる、xx果たす
xx尽きる、主に<なくなる>、 xx尽くす
上の例では
売りきる 売り尽くす。だが<売り尽きる>もOKで自動詞。
落ちきる 落ち尽きる。だが<落ち尽くす>もOKで自動詞。
出しきる 出し尽くす。だが<出し尽きる>もOKで自動詞。
使いきる 使い尽くす。だが<使い尽きる>もOKで自動詞。
取りきる 取り尽くす。だが<取り尽きる>もOKで自動詞。
燃えきる 燃え尽きる。<燃え尽くす>は変だ。
<言いきる>はややこしい。
はっきりと言いきる
(言いきる) ー 言い尽きる、言い尽きた、で自動詞 完了、もうない
すべてを(すっかり)言いきる ー 言い尽くす、で他動詞 完了、もうない
<尽きる>は<きる>があるが、昔は<つく>。今でも<底 (そこ) をつく> という言い方がある。
資金が底をつく。
で他動詞のようだが、昔は<資金尽く>で自動詞。今でも<資金が底を尽くす>とは言わない。<資金が底につく (着く) >ならいいがこうも言わない。
その他では
xxやむ、xxやめる 雨がやむ
がある。別途検討、再検討予定。
sptt
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