前回のポスト<日本語の自動詞、他動詞-4、自動詞の受身形>で日本語、日本人の被害感(迷惑感)の表現について書いた後で、かなり前のポスト ”Give and Take or <与える>と<取る>” を思い出した。 ”Give and Take ........” では<取る>を中心に調べたが、冒頭で次のように書いた。
”
<与える>が日常ほとんど用いられないのに比べて、後で見るように(興味と時間のある人だが)、<取る>は他の動詞や名詞と結びついて、一番よく使われる 日本語の動詞のひとつだ。日本人は<与える>よりもはるかに<取る>が好きなのだ。<与えよ、されば与えられん>は聖書の中だけにある。使われる言葉の頻 度を基準にすると、日本人全体はあきらかに利己主義者だ。とにかくよく<取る>、<取りまくる>のだ。
<与える>が日常あまり用いられないのは口語らしくないからだろう。<与える>に代わって比較的よく使われるのは<やる>、<あげる>だ。<くれる>も使わ れるが、<くれる>は相手の立場にたっての<与える>、すなわち<あたえてもらう>だ。丁寧語は<下さる>だ。謙譲語は<いただく>か? また<くれてや る>なら<与える>になるが、上の者が下の者へという感じだ。このように<やる><あげる><くれる>は丁寧語や謙譲語がからんでややこしいが、あまり問 題にならないのはあまり使わないからだろう。
”
最後の<あまり使わないからだろう>は間違い。実際には,<やる><あげる>、<くれる>、<下さる>、<いただく>、<くれてや る>は<取る>と同じく日常よく使う。今回は被害、迷惑(を与える)の反対の恩恵、利益(を与える)の表現について調べてみる。<与える>が日常ほとんど用いられないのは口語らしくないからだろう、と書いたが、もうひとつの理由は<あたえる>が被害、迷惑も恩恵、利益も与える、すなわち意味的には中立なのだ。一方日本語の方は、社会(会社、学校)上の上下関係、対等関係(友人)、家族構成員関係(親子、兄弟姉妹)、性別により、また話し手と聞き手の立場により、<与える>に相当するいろいろな言葉があるが、あまり間違えないで使いこなしている。
1)上下関係
Aが上、Bが下の場合
AがBに<与える>場合:
Aは - やる、くれる、くれてやる、あげる、を使う。
Bは - いただく、くださる、を使う。
BがAに<与える>場合:
Bは - あげる、さしあげる、を使う。
Aは - くれる、もらう(可能形<もらえる>を使うのが普通)
この場合<与えよ、されば与えられん>は<くれれば、あげよう>、<くだされば、さしあげましょう>となる。
2)対等関係
A(B)がB(A)に<与える>場合:
A(B)は - やる、くれる、あげる、を使う。
B(A)は - くれる、もらう(もらえる)、を使う。
この場合<与えよ、されば与えられん>は<くれれば、あげよう>となる。
3)家族構成員関係(親子、兄弟姉妹)
時代とともに大きく変わってきており、少なくともある社会的な規範が家族構成員関係にも及んでいた封建時代と現代では大きく違う。現在はほぼ上記の対等関係と同じになりつつあるのではないか。
4) 性別
これも時代とともに大きく変わってきており、総じてこれも対等関係になりつつあり、さらにこの傾向は続いていくだろうろう。
Aが男、Bが女の場合:
Aは - やる、くれる、あげる、あげます、を使う。
Bは - くれる、もらう(もらえる)、くださる、いただく、を使う。
この場合<与えよ、されば与えられん>は<くれれば、あげよう>となる。
Aが女、Bが男の場合: Aは - あげる、を主に使う。
Bは - くれる、もらう(もらえる)、を使う。
この場合<与えよ、されば与えられん>はいくつかの言い方があるが旧型女性版は<くだされば、(さし)あげます>か。
上記のうち、<やる>は<遣る>として<送る>の意がある。<あげる>は<上げる>、<くださる>(<くだす>の尊敬語)は<下さる>で、<上><下>と関連がある。また上記の語は下記の例のように<複合動詞>的な働きがある。
...... してやる
...... してくれる
...... してあげる
...... してさしあげる
...... してもらう
...... していただく
...... してくださる
これらの語群の発生は上下関係にからむ尊敬語、謙譲語(卑下語)、丁寧語の発達にも関係するが、恩恵、利益を得るための言い方の発展と見ることもできる。なにせ恩恵、利益のあるなしは生存にかかわってくる。
sptt
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