Sunday, August 22, 2021

イタリア語の接頭辞 <s->とドイツ語接頭辞 <ver->の関係


イタリア語で接頭辞 <s->は大活躍する。

以前にドイツ語の接頭辞について相良独和大辞典の解説(漢語を多用した説明)を日本語でかなりしつこく検討したことがある。今回はイタリア語の接頭辞に挑戦する。手もとに伊和大辞典がないので主にインターネット辞典を利用しようとして探したが、相良独和大辞典の解説のような詳しいものはなかった。それで主に手元の字が大きめの辞書(Berlitz, Italian <-> English) と私がよく使っている Collins Reverso (伊<->英)などインターネット辞典も利用する。主な目的は

1)イタリア語の語彙を増やすこと。

2)ドイツ語の接頭辞の検討と同じくイタリア語の接頭辞と英語、日本語との関係を見つけること。

の二つ。1)はすでにイタリア語の基本語彙(主に動詞)を知っていれば語彙を増やすのにあまり努力がいらない安易で効率的な方法と考える。(実際はどうかわからない。)2) は sptt Notes On Grammar の本来の目的。英語、日本語との関係ではイタリア語と言うよりは英語、日本語の話になるだろう。副産物としてイタリア語を介して英語の語彙や日本語の理解を別の角度から深め、広げることになるかも知れない。(これまた実際はどうかわからない。)

最も使われているということは<s->をおぼえれば語彙は飛躍的に増える。<s->なしの語をすでに知っていればそれに<s->ありを加えるので数字上は倍(一倍か二倍)になる。<s->なしの語を知らなければ逆にこれも覚えることになるので何倍になるのか?参考までにドイツ語で一番頻度の高い接頭辞<ver->の相良独和大辞典の解説は次の通り。


ver->の語源で<不明>でないのは<four- (vor, für)>から発生したと見られる場合と<fra- (fort) >から発生したと見られる場合があり、<不明>なのは<rings, rings-herum(まわり)>となっている。

 
four- (vor, für)>から発生したと見られる場合は

代理 - 例  vertreten, verantworten
経過 - 例  verplaudern, verschalfen
通過 - 例  verlegen, verleben
阻止、遮断 - 例  versagen, versperren


念のため例にあるのドイツ語動詞を調べてみた。

代理 - 例  vertreten, verantworten

vertreten

a. (=jds Stelle, Dienst übernehmen) [Kollegen, Arzt etc] to replace, to stand in for, to deputize for
[Schauspieler] to replace, to stand in for (fig) (=Funktion einer Sache übernehmen) to replace, to take the place of

代替する

b. [jds Interessen, Firma, Land, Wahlkreis] to represent  代表する
[Sache] to look after, to attend to
[Rechtsanwalt] [Klienten] to represent, to appear for
[Fall] to plead

c. (Comm) (=Waren vertreiben für)
[Firma] to be the agent for  代理として働く
[Angestellter] to represent


verantworten ver•ant•wor•ten ( verantwortet ptp )

1. vt to accept (the) responsibility for   責任を取る
[die Folgen auch, sein Tun]  to answer for (vor +dat to)  責任を持って答える
(es) verantworten, dass jd etw tut   to accept the responsibility for sb doing sth
wie könnte ich es denn verantworten, ...?   it would be most irresponsible of me ...
ein weiterer Streik/eine solche Operation wäre nicht zu verantworten  another strike/such an operation would be irresponsible
eine nicht zu verantwortende Fahrlässigkeit/Schlamperei   inexcusable negligence/sloppiness  (否定)無責任
etw sich selbst gegenüber verantworten  to square sth with one's own conscience

2. vr
sich für or wegen etw verantworten   to justify sth (vor +dat to)  正しいと答える

 [für Missetaten etc]   to answer for sth (vor +dat before)   責任を持って答える
sich vor Gericht/Gott etc verantworten müssen  to have to answer to the courts/God etc (für, wegen for)

経過 - 例  verplaudern, verschalfen

verplaudern ver•plau•dern ( verplaudert ptp )

1. vt [Zeit] to talk or chat away

2. vr
inf to forget the time talking or chatting

おしゃべりをして時を過ごす。

といった意味だ。

verschalfen [1] ver•schla•fen ( verschlafen ptp ) irreg
1 vir to oversleep  - 寝過ごす

通過 - 例  verlegen, verleben

verlegen [1] ver•le•gen ( verlegt ptp )

1. vt

a. (an anderen Ort)   to transfer, to move
[Patienten] to move
[Schauplatz]   to move, to shift

b. (=verschieben)   to postpone (auf +acc until)
(=vorverlegen)   to bring forward (auf +acc to)

c. (=an falschen Platz legen)  to mislay, to misplace

verleben ver•le•ben ( verlebt ptp) vt  to spend
eine schöne Zeit verleben  to have a nice time


阻止、遮断 - 例  versagen, versperren

versagen ver•sa•gen ( versagt ptp )

1. vt
jdm/sich etw versagen to deny sb/oneself sth (=verweigern)  to refuse sb/oneself sth
ich kann es mir nicht versagen, eine Bemerkung zu machen  I can't refrain from making a comment
sich jdm versagen geh  to refuse to give oneself to sb
etw bleibt or ist jdm versagt  sth is denied sb, sb is denied sth
→ Dienst → c

2. vi to fail
[Mensch] (im Leben auch) to be a failure
[Maschine] to break down
[Gewehr] to fail to function
die Beine/Nerven etc versagten ihm  his legs/nerves etc gave way
da versagt diese Methode  this method doesn't work there

versperren ver•sper•ren ( versperrt ptp) vt

a. [Weg, Durchgang]  to block
[Aussicht] to obstruct, to block

b. dial (=verschließen)   to lock or close up

理由はよくわからないが、以上の代理、経過、通過、阻止、遮断>は  イタリア語の接頭辞 <s->と目立った関係はない。<通過、阻止、遮断>はこじつければ関係は見つけ出せる程度だ。

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これまた理由はよくわからないが、以下は大いにイタリア語の接頭辞 <s->と関係がある。


<fra- (fort) >から発生したと見られる場合は

消滅、破壊、破損 - 例  (自)verschwinden, verfallen, (他) verarbeiten, verbrauchen (**)
金品及び時間の消費 - 例  vertrinken, verplaudern
反対の方向、錯誤 - 例  verdrehen, verwöhnen
除去 - 例  vertreiiben, verjargen (***)
場所の移動 - 例  versetzen, verpflanzen
基礎語の逆 - 例  verachten, verbitten

その他: ver- の複合語と基礎語との相違の主なもの。

基礎語の強調 - 例  vermehlen, verwickeln
基礎語のする動作の完了‐結果を示す - 例  verbleiben, verheilen
自動詞->他動詞変換 - 例  verfolgen, verlachen
詩的表現 - 例  verwanderln, verdüstern
基礎語の意味とかけ離れたか - 例  verstehen, vezeihen
基礎語が消滅したもの - 例  vergessen
形容詞->動詞 - 例  veralten, verarmen, vergrssen
名詞->動詞

1)xx になる - 例  verfeinden, vergöttern
2)xx にする - 例  verbauern, verkohlen
3)xx を持つ - 例  vergolden, versilbern
 

上で<参考までに>と書いたが、まさに参考になるのだ。イタリア語の接頭辞<s->とドイツ語接頭辞<ver->、特に<fra- (fort) >から発生したものはかなり似ており、その他も参考になる。接頭辞<s->の語彙を調べた結果としては、ドイツ語接頭辞<ver->を参考にすると、

1)<消滅、破壊、破損>。 大和言葉では<破(やぶ)る、破れる>に相当する動詞がいくつかある。
 
2)<金品及び時間の消費; 除去>
 
以下(3)-1、3)-w2)相良独和大辞典の解説にないが、 イタリア語の接頭辞 <s->としては相当多いので、ここで取り上げる。

3)-1<離脱>(英語の away, off, out)と見た場合、この離脱(away, off)はかなり多い。 <離脱>の大和言葉は<離す、離れる>(off というよりは away)、<脱がす、脱ぐ>以外に<はずす、はずれる>(away, off というよりは out)、<取り去る>(取る off 去る away)(これは上の除去とほぼ同義)、広義では<去らす、去る>。<取り除く>(取る off  除く out)。大げさに言うと、これはモノゴトの見方(認識)の大分類の一つ。反対は<付着>、大和言葉で<つける、つく>でこれまた日本語の大動詞だ。別のポスト ”<つく>(突く、着く、付く )について” 参照。
 
3)-2 英語の接頭辞<ex->はイタリア語では<es->
 
英語の接頭辞<ex->はイタリア語では90%以上<s->ではなく<es->になる。これはかなりある。英語の接頭辞<ex->自体ラテン語の接頭辞<ex->で本家なのだ。当然英語の<ex-xxxxx>はラテン語起源の語で多くはラテン語の直接の子孫であるイタリア語にも相当語がある。
 
<ex->は英語の<out of>にほぼ相当。<out of>は<xxから出る><xxから出す>で上の英語の <away, off, out>とは似て非なるものだが、混乱もある。
 
4)基礎語の逆
 
これと関連があるが(逆と反対は往々ににして同じ意味)
 
5)反対の方向、錯誤(錯誤は正しいコト、モノからの離脱 away, off で2)と大いに関係がある。
 
6)基礎語の強調(強調というのは文法的に曖昧なところがあるが、文字通り<強くxxする>が一例)。
 
7)形容詞->動詞

これは<s->の形態上の変化能力を示すが、意味が4)基礎語の逆など意味の変化をともなう場合が少なくない。基礎語(s- なしの元の語)が形容詞由来はかなり多いが、形容詞->動詞の形態上の変化のみの場合と意味の変化をともなう場合を明確に区別する必要がある。

8)名詞->動詞。

これも7)と同じで形態上の変化を示す。基礎語(s- なしの元の語)が名詞由来はかなり多いが、これも名詞->動詞の形態上の変化のみの場合と意味の変化をともなう場合を明確に区別する必要がある。
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大体以上でカバーできるのだ。<s->独自のものとしては

9)破損や錯誤と関係があるが具体的に<悪い、悪く>の意。私は言葉に表(あらわ)れた、あるいは隠(かく)された人間の<悪意>に興味がある。

10)突然xxする、突然xxになる。これは1)と関連があり、<破壊、破損>、<破(やぶ)れる>は突然に、 短時間に起こるのが普通だ。

11) <行き過ぎる>の<過ぎる>。見方を変えると<ある限度を超えて>行くことなので2)離脱とも、また5)強調とも関連する。後で見るがこの意味では s- もあるが stra- が多く、これは英語の extra- に相応する。
 
12) <ばらまく(to spatter, to spread, to scatter)>の意。これはs+p = sp->に多い。英語の to spread も<sp->だ。<ばらまく>は<疎(まばら)にする(to sparse = to thinly dispersed or scattered)>でこれまた<sp->の sparse がでてくる。他にも spraysplashsprinkle があるがあるが、こちらは瞬間的な動作、現象。
 
これらの英語は後で見るがもとはラテン語系のものがある。もちろんイタリア語はラテン語の直系の言葉と言える。

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13)派生。 これは<s->に限らず接頭辞全般に言えることだろう。<s->接頭辞では上記の<離脱>、<基礎語の逆>、<基礎語の強調>などが基本にあるが、意味にズレが生じているもの。<派生>として分類するのがいいかどうか問題があるが、言葉の変遷、変化の視点からはおもしろいので派生が顕著なものを取り上げた。
 
14)以上に加えて、歴史的な経緯は調べていないので多分に調べたりないためだが、基礎語がよくわからない語で多頻度使用(基本語)のものが少なくない。これはおもしろい現象だ。
 
個々に見てみる。
 
four- (vor, für)>から発生したと見られる場合は

代理 - 例  vertreten, verantworten
経過 - 例  verplaudern, verschalfen
通過 - 例  verlegen, verleben
阻止、遮断 - 例  versagen, versperren (*)

1)<消滅、破壊、破損>、大和言葉の<破(やぶ)る、破れる>に相当する動詞がいくつかある。

scatenare (reazione, rabbia)   to provoke , (rivolta) to spark off, (guai) to stir up
<- catena ()。 鎖を切る

scatenarsi (temporale) to break, (rivolta)   to break out, (persona) scatenarsi contro qn   to rage at sb

sfidare   to chalenge, to defy. fidare to trust, to reply on

sfidarsi
用法もあり複雑。sfidare は基本的には fidare の否定ではなく fiducia を破るというよな意味だが、実際はズレている。<あえて xx する>、<あえて xx  しない>という言い方に相当する用法もある。(おもしろいので、別途検討している。)

sformare (to put (knock) out of shape
、カタチをこわす、くずす) 英語は to deform、デフォルメはフランス語。 <- forma (form, shape) - formare (to shape) -- sformare (to put (knock) out of shape、カタチをこわす、くずす) 英語は to deform、デフォルメはフランス語。

sfracellare (to smash) francelleare
という動詞はない。

sfregiare (to slash, to disfigure, to deface, to scar
傷つける) <- fregiare (to adorn, to embellish 美化する)。もとの語はfregio で使用建築用語の frieze(フリーズ)。

 
長くなりそうなので、2)<金品及び時間の消費; 除去>以下はべつのポストで続ける。
 
 
sptt
 

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