Friday, July 16, 2021

受ける - 受かる

前回のポスト<助ける -助かる >に続いて<受ける - 受かる>を検討してみる。 また前々回のポスト<あずける-あずかる、さずける-さずかる: 日本語の受身他動詞 >の最後に

 ”

<受ける-受かる>で <xx ける-xx かる>の形だが、<あずける-あずかる>の対応にはならないのだ。(これは後日再検討予定)

と書いたので検討してみた。 

<あずける-あずかる>は<xx をあずける><あずける-あずかる>(他動詞)-<xx をあずかる>(他動詞)。一方<受ける-受かる>は

受ける(他動詞) - 受かる(自動詞)

だ。さらに他の<xx ける>(他動詞) - <xx かる>(自動詞)コンビをチェックしてみる。

さずける(他動詞) - さずかる (自動詞)
助ける (他動詞) - 助かる (自動詞)  xx が助かる、 命が助かる。 yy に助かる(ダメ)
ぶつける (他動詞) - ぶつかる (自動詞) xx が yy にぶつかる  くるまが電柱にぶつかる。
もうける(他動詞) - もうかる (自動詞)  xx がもうかる、金がもうかる、今日はもうかった。yy にもうかる(ダメ)。<子をもうける>という言い方がある。<子をさずかる>と同じような意味だ。

<助ける - 助かる>

太郎が助かる。太郎は助かる。 

太郎は命が助かった。

<命の危機を逃れた>といった意味になる。

太郎は、花子がはやく(おそく)来てくれて、助かった。 (花子は太郎を助けにきたのではない)

この<太郎は助かった>の<助かる>はいかにも自動詞らしい自動詞だ。助かろうとして<助かった>のではない。 これは自動詞の一大特徴で、大げさに言えば<自動詞の世界>だ。

<受ける - 受かる>

太郎が受かる。 太郎は受かる。 <xx に>を想定しないとダメ(自動詞)

太郎は試験に受かった。

 これも自動詞らしい自動詞で、言葉上は受かろうとして<受かった>感じがない。

<もうける - もうかる>

太郎はもうかったが、花子は損した。

 この<もうかる>もまた自動詞らしい自動詞で、言葉上はもうけようとして、あるいはもうかろうとして<もうかった>感じがない。 

<もうける>は<も(接辞)+受ける>由来だろう。したがって<受ける>の意味が残っている。

以上の動詞の古語は

受ける <- 受く
助ける <- 助く
あずける <- あづける  <- あづく
さずける <- さづける  <- さづく

 さらに自動詞形は

受かる <- <受く>の受身
助ける <- <助く>の受身
あずかる <- あづかる  <- <あづく>の受身
さずかる <- さづかる  <- <さづく>の受身

 ではないか?

太郎が試験に受かる。

は 

くるまが電柱にぶつかる。

と同じ構造で<太郎が電柱にぶつかる>だが、どうも様子が違う。

 <受かる>、<試験に受かる>とは一体どういうことか?

<試験>は<試>の字がる。似たようなのに<試練(しれん)>がある。

試験を受ける。
試練を受ける。

<試>の字は<ためす>、<ここるみる>に使われ、コンピュータワープロでは<試す>、<試みる>と出てくる。試験、試練、テストは基本的に<人を試(ため)す>ものだ。そしてひとは<試(ため)される>のだ。<人を試(ため)す>はかなりシリアスな内容だ。

<受ける>についていえば、<試験を受ける>、<試練を受ける>はむしろ特別な用法で、よく使うのは

キャチボールでボールを受ける
恩恵を受ける。
表彰を受ける
損害を受ける  <損害をこうむる>ともいう。
パンチを受ける

という使い方で<もらう>で置き換えられる。他動詞だが、実際の意味は受身のようだ。

一方<試験をもらう>はまったくダメ。<試練をもらう>も半分くらいダメだ。したがって<試験を受ける>はかなり特殊な慣用的言い方なのだ。これに対応して<試験に受かる>も特殊な慣用的言い方なのだ。念のため手もとの辞書で調べてみたら


受かる:自五(自動詞五段活用)。<(試験に)合格する>の意の口語的表現。


とごく簡単な解説で、言い換えにすぎない。

<試験に受かる>の解釈は難しい。だが、見方によっては、隠された大きな意味がある、といっていい。

<試(ため)されて、受け入れられる>といった意味のようだ。<受ける>は<xx を受ける>で他動詞だが、<受け入れられる>は他動詞<受け入れる>の受身形。一方<受かる>は<xx に受かる>で自動詞。<xx が受かる>の形の自動詞とは違う。

<試験に受かる>は<試験にパスする>ともよく言う。この<パスする>は自動詞だ。たまに<試験をパスする>、<試験をパスした>というのも聞くが少数派だ。だが、まちがいとも思えない。

試験にパスする、試験をパスする

は<試験という門通り抜ける>感じがある。あるいは<試験という高い敷居通り越して中に入る>感じがある。

何のことはない、<パスする>には<通る>という日本語があり、

試験に通る

という言う。<通る>は自動詞で対応する他動詞は<通す>だ。聖書だかに

ラクダ針の穴通る。
ラクダ針の穴通す。

といった表現がある。 この<が><を><を><に>の使われ方はおもしろい。

 

sptt

 

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