Saturday, July 31, 2021

<xx がる>についての考察 -6 <やがる>について

 

最近また<がる>を考える機会があり、参考に以前のポストを読み返してみたが、特に目新しいところはないのがわかった。進歩がない、ということだ。だが、調べているうちに<やがる>という奇妙な動詞、<語尾的>な "動詞" に出くわしたので、チェックしてみた。

手もとの辞書(三省堂新明解)では

xx やがる

<あがる>の変化か。

1)相手の言動や状態を許しがたいととらえる気持ちを表わす。
2)納得がいかない(ばかばかしい)ととらえられる様子だと判断することを表わす。

というようなことが書いてある。2)の解説はよくわからない。簡単に言うと<非難>口調を示す、と言えないか?

主に第三者のこと

やつめ、ばかなことを言いやがる、ばかなことばかり言いやがる。
またばかなことをしやがる、してやがる、しでかしやがる。
あのやろう、のぼせ上がりやがって。
あの佐藤め、あんなに偉(えら)がりやがって、けしからん。  <偉(えら)がりやがる>はダブル<がる>だ。
やつはおれのことをばかにしやがる、してやがる。

主に相手に

きさま、なにを言ってやがる。
おまえ、なんてことをしやがる。
さっさとかかかってきやがれ。  これは上の1)2)では説明がつかない。<なにをぐずぐずしてやがる>の気持ちがあるか。
さっさと消え失(う)せやがれ。 これも上の1)2)では説明がつかない。<まだここでうろうろしてやがるのか>のような気持ちがあるか。
こんな時に、にたにたしやがって。
こんな場所で、いちゃいちゃしやがって。

辞書では主に男性用と書いてあるが、

おまえさん、なんてことをしやがるんだい。

で女性用になるだろう。

上の例を見るかぎり<がる>とは関係なさそうだ。1)2)の意味内容と似ている嫌悪(けんお)を示す<いやがる>が関係ありそうだが、説明がつかない。<いやがる>は<いや>+<がる>だ。<いやがる>は<やがる>に短縮されて発音されることはある、というか i - ya は ya になりやすい。

いやだ - いやがる

<いやだ>は

いやでない (いやじゃない)
いやで
いやだ
いやな(やつ) 

で代表的な形容動詞<静かだ>の

静かでない (静かじゃない)
静かで
静かだ静か
静かな(やつ)

と同じ活用。 もっともこれは形容動詞の活用というよりは<形容動詞の語幹+<だ>の活用>と見た方がいい。<いやだ>の<いや>は<静かだ>の<静か>と同じく語幹の<いや>だけではあまり使われない。

<いやしい>は形容詞だ。したがって<いやしがる>はあまり聞かないが意味はある。 

<やがる>の非難口調

形容詞

寒い - 寒がる、 寒くもないのに寒がっている(非難口調)  寒がりや(やや非難口調)
痛い - 痛がる、  痛いくもないのに痛がっている(非難口調) 痛がりや(やや非難口調)
えらい - えらがる、  えらいくもないのにえらがっている (非難口調) えらがりや(やや非難口調)
こわい - こわがる   こわくもないのにこわがっている (非難口調)
おもしろい - おもしろがる   おもしろくもないのにおもしろがっている (非難口調) おもしろがりや(やや非難口調)
はずかしい - はずかしがる  はずかしいことはないのにはずかしがっている (非難口調)  はずかしがりや
おそろしい - おそろしがる   おそろしことはないのにおそろししがっている (非難口調)  おそろしろがりや(やや非難口調)

<がる>が非難口調になるのは、<xx がる>、<xx がっている>は言葉ではないが<態度、様子>が<うそをついている>と見えるからだ。この見えるは、<がる>の場合は、往々にして自然に<見える>というよりは<xx のように見せている>のを<見せられている> という不愉快な、さらには嫌悪をもよおす、嫌味(いやみ)を感じる、心理状態が関係しているのだろう。

<やがる>の接続をチェックしてみる。

言ってやがる  <言う>の連用形<言っ(言い)>+<て>+<や>+<がる>
これは
言いやがる  <言う>の連用形<言っ(言い)>+<や>+<がる>、変形と見ていい

しやがる   <する>の連用形<し>+<や>+<がる>
のぼせ上がりやがって  <のぼせ上がりる>の連用形<のぼせ上がり>+<や>+<がる>-><がりて>-><がって>
えらがりやがって  <えらがる>の連用形<えらがり>+<や>+<がる>-><がりて>-><がって>
きやがれ  <来る>の連用形<き>+<や>+<がる>
消え失(う)せやがれ  <失せる>のの連用形<失せ>+<や>+<がる>

きわめて規則的で、もっと調べても例外はないだろろう。すなわち

動詞の連用形+<や>+<がる>(<がって>=<がる>の連用形<がり>の音便(がっ)+<て>)

だ。


<形容詞>の場合

偉(えら)い - <偉(えら)やがる>はダメで<偉(えら)がりやがる>でダブル<がる>になる。
寒い - <寒やがる>はダメで<寒がりやがる>
こわい - <こわやがる>はダメで<こわがりやがる>
悲しい - <悲しやがる>はダメで<悲しがりやがる>
おそろしい - <おそろしやがる>はダメで<おそろしがりやがる>

これまた規則的で、もっと調べても例外はないだろろう。すなわち

形容詞の語幹+<や>+<がる>+<や>+<がる>(<がって>=<がる>の連用形<がり>の音便(がっ)+<て>)。これは特徴的なことと言えよう。特にダブル<がる>用法。

形容動詞はどうか。

静かだ

静かだ - <静かやがる>はダメで<静かがりやがる>

ダメではないが、人でないと具合が悪そう。

花子は、今日はなぜかめずらしく、静かがりやがる。
あの部屋は、今日はなぜかめずらしく、静かがりやがる。(ダメ)

<好きだ>、<嫌(きら)いだ>を形容動詞とすると

花子は、今日はなぜかめずらしく、好きがりやがる。 (好きやがる -ダメ)
花子は、今日はなぜかめずらしく、嫌いがりやがる。  (嫌いやがる -ダメ)

これまた規則的と言える。

形容詞、形容詞的動詞

悲しい(形用詞)-> (悲しやがる) 悲しがる -> 悲しがりやがる、 (こんな時に)悲しがりやがって
悲しむ(動詞)-> 悲しみがる、悲しみやがる、 -> 悲しみがりやがる、(こんな時に)悲しみがりやがって

たのしい(形用詞)-> (たのしやがる) たのしがる -> たのしがりやがる、 (こんな時に)たのしがりやがって

<たのしがる>はいいが、なぜか<たのしがりやがる>は聞かない。しかし、これまたなぜか<うれしがる>、<うえしがりやがる>ならいい。

たのしむ(動詞)-> (たのしみがる)、(たのしみやがる、やがって)、 -> たのしみがりやがる、(こんな時に)たのしみがりやがって、もあまり聞かないが間違いではないだろう。

<たのしみがる>は聞かない。普通は形容詞の<たのしがる>ですます。<たのしみやがる>もあまり聞かない。<たのしみがりやがる>はよさそうだが<<たのしがりやがる>が普通だろう。かなりこんらんしているが、これはつぎのような理由によるものだろう。

<うれしい>、<たのしい>はほぼ無意識の使い分けがあるだろう。 <たんしむ>よく使うが<うれしむ>、<うれしんでいる>はほとんど聞かない。言い換えると<うれし(い)>は形容詞的、<たのし(い)>は動詞的ともいえるが、これは<うれしい>は短期的な一時の心理状態、一方<たのしい>は持続的な心理状態。ここで、非難口調にもどると、非難口調がでてくるのはたいてい短期的な一時のけしからん言動に対してだ。

私は、それを聞いて、ずっと、長いことうれしかった。

はまいいが

私はずっと、長いことうれしい思いをした、していた。

はやや変で。

私はずっと、長いこと楽しい思いをした、していた。

ならいい。

<たのしみがる>は聞かない。普通は<たのしがる>ですます。なぜか<たのしみやがる>は聞かない。

惜(お)しい(形用詞) -> (惜(お)しやがる) 惜(お)しがる -> 惜(お)しがりやがる、 (こんな時に)惜(お)しがりやがって
惜(お)しむ」(動詞)-> 惜しみがる、惜しみやがる -> 惜しみがりやがる、(こんな時に)惜しみがりやがって

かなり複雑だ。形用詞語幹+<やがる>はダメだ。


<やがる>の非難口調はいいとして<やがる>の<や>は何か?

1)口調の<や> - これは特に説明がいらない、というか適当な説明がないのだ。

2)<よう>。これは多分中国語由来。<様子(ようす)>の<よう(様)>。やまとことばでは<さま(様)>がある。<がる>自体に<xxのようにふるまう>の意があるが、<xx(の)ようがる>で<xxのようにふるまう>がさらに強調される。<xxのようにふるまう>、<xxのように見えるようにふるまう>、さらには<(意図的に)xxのように見せてふるまう>は好ましくない、さらに強調すれは<非難すべき>言動だのだ。

 さっさとかかかってきやがれ <- きやがれ <-きやがる <- くる+よう+がる

<- くるように見せろ

 

2)はかなりのこじつけだが、まったくダメということはないだろう。

 

sptt

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